15 誰が好きなの?
女子会のルーレンさんに小鉢のお代わりを持っていくと、声をかけられる。
「聖女?」
聖女はこの国には何人もいる。
数百人に一人という割合とはいえ、この国の国民の数を考えれば、そこまで珍しいわけではない。なので、私の知っている聖女であるはずはないのだ。
大体、あの聖女は今、王国教会預かりなわけだし。
「なんでも、平民だけど学園にまで通いたがった、勤勉な聖女なんだってさ。王国教会から来るとか」
平民。学園。王国教会。
私、そのキーワードに当てはまる聖女、一人だけ知っているわ。
思わず、ジャンジャックの方をちらりと見る。彼はこちらの話が聞こえていないようで、三人でお酒を飲みながら、大盛りあがりだ。良かった。
「ねえルーレンさん。その情報、どこで聞いたの?」
「私のイイ人が、隣のグルレン領に住んでるって言ったっけ」
「えっ、そうなんだ。知らなかった。というより、恋人いたんだ……」
うらやましい。
正直めっちゃうらやましい。
私も早く結婚相手見つけたい。
「そうなのよ~。つい最近出会ってね!」
「どこで出会ったの?!」
「王都に行くときの乗合馬車で、隣だったのよ。何時間も乗ってるじゃない? それで話をしてたら、意気投合してさぁ」
えっ。私は王都からの乗合馬車で一緒に乗っていたのは、全員女性だったけど……。そんな出会い方もあるのね。
「ハイハイ、ルーレンの話はそのくらいで!」
「ンもう。マミリアは私の話、全然聞いてくれない」
「ノロケなんて、誰が聞きたいもんですか」
「もう! カルアリエまで」
「えぇと、それでルーレンさんの恋人さんが、グルレン領に住んでいて、そこから?」
私が聞いたせいで、脱線してしまったのよね。申し訳ないわ。
「そうそう。グルレン領では、かなり話題になってるみたい。グルレンの森辺りに出てた馬車追いの一味が、魔獣に食われたらしくて」
「ふぅん。馬車追いの奴らなんて、それで十分だわ。報いでしょ」
「カルアリエの言う通りではあるけど、でもその魔獣が人の味を覚えて、人里に出てきたら困るでしょ。それで王都から、魔獣退治の騎士団が来るらしいの」
「それに聖女も、同行してくるのね」
「その通りよアニタ。聖女って、どんな美人なのかしらねぇ」
「聖女だからって、美人とは限らないわよ」
「なによマミリア。見たことあるの?」
「ないけどね。でも、癒やしの力の使い手が、顔も良いとか性格も良いなんて、そんなの聖女みたいじゃない」
「だから聖女でしょ」
「……あ」
漫才みたいなやり取りに、思わず笑ってしまう。
ちなみに私の知っている聖女は、美人というよりかわいい系だけど、人の男をとる性格の悪い女でしたよ。
馬車追い、とはジャンジャックがあった野盗のことで、馬車ごと追い剥ぎをするからそう呼ばれている。
って言うより、まさにジャンジャックを襲った奴らの一味なんじゃないかな。王都からうちの領地に来るときの森なんて、グルレンの森しかないし。
「ねえルーレンさん。その聖女がどんな方だったか、恋人さんから聞いたら、教えてくれないかしら。興味あるわ」
「オッケー。任せておいて」
指先を丸めてOKのポーズをとってくれる。
こういうところ、日本と同じなんだ。さすが乙女ゲームの世界。
「ねぇねぇ、ところでアニタはあの三人の中で、誰がタイプなの?」
「は? マミリアさん、何を」
「あ、それ私も聞きたかった。ルーレンは誰だと思う? 私はねぇ、オドライさんだと思うんだけど」
「甘いわね。ランディオさんでしょう。二人は仲が良いじゃない」
「マミリアこそ甘いわ。絶対、あのチャラ男でしょ」
「ない! それだけはないわよ、ルーレンさん」
ジャンジャック。あれだけはないわ。
まぁ、ここに来るためにお金を貯められたのは、評価しても良いけど。
ただ、彼に対する私の信用ポイントは、マイナス五百くらいあるのだ。何といっても、堂々と不貞をした男なのだから。
「えぇ~。アニタみたいなタイプには、あのくらいチャラい男の方があってると思うけどなぁ」
「私は真面目な人の方が、好きですよ。あとは一緒に仕事をして、背中を預けられるくらい、信用できる人が良いな」
何せ、子爵家に婿養子に入ってもらわないといけない。
領地の仕事のメインは私がやるとしても、それなりに一緒に領を見て、共同経営できる人じゃないと、領民を幸せにしてあげられないものね。
「それって、いつも手伝ってるあのイケメンじゃない」
ルーレンさんがポンと手を叩く。
「あ、本当だ。めちゃくちゃ自然に手伝ってるから、見落としてたわ。ねぇカルアリエ、どう思う」
「そう言われれば、あの人すごい格好いいよね、私の好みだわ」
「カルアリエの好みは聞いてませーん。で、どうなのアニタ」
「あ、あのマミリアさん……」
ずずい、とこちらに身を寄せてくるマミリアさんを、ルーレンさんとカルアリエさんが「いけいけ」なんて言ってくる。
「ま! アニタが一緒にいて幸せになれそうな人を、きちんと選べると良いと願ってるわよ、私たちは」
私が困り切っているのを見て諦めたのか、笑いながらそう言うマミリアさんに、二人も頷いてくれる。
ふと、お母さまの言葉を思い出す。
――アニタのことを、大切にしてくれる人よ。これは絶対だからね。
ついつい領民のことばかり考えてしまうけれど、ちゃんと私のことも大切にしないと。
「皆、ありがとう」
テーブルにある空いたグラスを纏めながら、お礼を言う。三人は、ご機嫌な笑顔で「あと、ゴルゴ酒三つね」そう笑った。




