14 ジャンジャックと常連さん
「アニタ嬢! 遅くなってしまったが、ようやく君に会いに来れたよ」
扉を開ける音と同時に、聞こえてくる声。
「ジャンジャックさん?!」
「そう、君のジャンジャックだ」
「私のものにした覚えはないですし、そもそも他のお客様にご迷惑なので、声を小さくしてください」
私の言葉にシュンとした顔をすると、すぐにカウンターに座る。
「金を貯めてきた。これで、ここで食事をしても良いだろう?」
「ええ、もちろんです。お客様なら、歓迎ですよ」
「俺は決めたんだ。毎日ここに通い、アニタ嬢を口説くと」
「お嬢はお前のものではない」
「アニタちゃんは、お前のものじゃねえぞ」
「アニタさんは、君のものではない」
あああ、ジャンジャックの言葉を否定をしてくれるのはありがたいけど、いや本当にありがたいんだけど、一触即発の雰囲気は出さないで欲しい。
このあと、お客さんが入って来づらくなるから……。
「さ、三人ともありがと。とにかく、ジャンジャックさん、飲み物どうしますか?」
「えぇと……。あのインテリっぽい彼が飲んでいるやつと同じのを」
インテリ、という言葉に吹き出しそうになる。
確かに、アザキニア商店の番頭をしているオドライさんは、メガネをかけてインテリ風だ。
もしもここの領地が乙女ゲームの舞台なら、彼はインテリメガネ枠になるのかな。
――貴族じゃないから商人枠だろうか。
「これはゴルゴ酒と言う。君は飲んだことがないか?」
オドライさんはメガネのブリッジに手を掛けて、コップを傾けた。
これ絶対、ジャンジャックが言ったインテリって単語を意識してるわよね。
「あぁ。酒はワインしか、飲んだことがなくて」
「ほほう。だったら是非これを飲めるようにしておくといい。ここの領地の定番の酒だ」
「なるほど! アニタ嬢、よろしく頼む」
木のコップにたっぷりとゴルゴ酒を淹れ、彼に渡す。三人はそれぞれの酒を持って乾杯をした。この調子では、料理のことも良くわからないだろ。お任せメニューをオドライさんと同じように出していくことにする。
「これは美味しい酒だ! んんっ? この食べ物はなんだろうか。とても香り高い」
「仰々しい言い方ね。燻製ポテトサラダよ。ポテトを燻製してから、マッシュしているの」
「なんと! とても美味しい。こんな料理を作れるとは、アニタ嬢は素晴らしいお嬢さんだな」
料理を褒められるのは正直、とても嬉しい。
前世の貧乏ライフのおかげで、仕入れ値の高くない食材を、そこそこ美味しく料理できている自信はあるのだ。
「お前、軽いなぁ。名前なんて言うんだ?」
「俺はジャンジャック。ジャンって呼んでくれ。ランディオ殿とディアス殿には、先日世話になった」
私の横で洗い物をしているディアスに、ジャンジャックは目を配る。
ディアスは無言で軽く頷くだけだ。
「おいおい、殿はやめてくれよ。ランディオで構わねぇ」
「俺はオドライ。アニタちゃんに、しつこく絡むんじゃねぇぞ」
「しつこく? わかった。しつこくしたことは、俺の人生で一度もないが、気を付けるとしよう」
嘘でしょ?!
この人のしつこいって、どれだけハードルが高いのよ。
二人もそう思ったのか、苦笑いをしている。
ただ、男同士で気があったのか、楽しそうに話をしてくれているので良かった。ジャンジャックも、これからは平民として生きていくのだから、新しい仲間を作っていけると良いと思う。
三人が盛り上がっている間に、私は他のお客様の注文を取りにテーブル席へ行ったり、後片付けをしたりと、バタバタしながら過ごしていく。
ディアスが三人と少し会話している。
笑い合ったりしているから、ジャンジャックとも仲良くなったのかもしれない。
週末になると家族で来てくれるレンディ家族や、たまに女子会! と言ってやってくるマミリアさん、ルーレンさん、カルアリエさんたち。
小さなお店なので、数組が入ると一杯になってしまうけれど、それでもお客さんが来てくれているのが本当に幸せ。
「そう言えば、アニタ聞いた? 今度聖女が、グルレンの森に来るらしいよ」




