15 試作品チェック
ズズズズ、ゴリゴリ、と大きな音が店内に響く。
今日は天気が良いので、店の窓や扉を開けているから、外にまで音が漏れ、道行く人がのぞき込んでいた。
「うん。良い感じで、挽けたかな」
何をしているかというと、石臼の魔法で粉を挽いていたのだ。
水車があれば、それを使って小麦だのを挽くことはできる。ただ、私の店にはそんな設備はないので、魔法で挽いているというわけ。
で、なんの粉かというと……。
「へぇ。良い匂いがしますね」
「ディアス」
「前を通りかかったら、もの凄い音がしたからのぞいてみたんです」
「あ。やっぱり音、すごかった?」
のぞき込む人が多いから、それなりに音が漏れていることはわかっていたけど、改めて言われるとちょっと心配になる。
「まぁ、石臼の音だってのはすぐにわかるから、皆そこまで気にしてないですけどね。ただ、良い香りがしているから、どちらかというと、皆さんそっちを気にしてました」
「なるほど。そうなると、この香りはウリになるわよね」
私の言葉に、ディアスがうなずく。
「この香り、何の粉ですか? 小麦じゃない……とはわかるけど」
「バソバソの実よ」
「えっ」
バソバソの実、とはまぁ、予想通りに蕎麦の実みたいなやつ。こっちの世界では、蕎麦は存在していなくて、この実は動物とかの餌扱いされている。もちろん、食べる人もいるけど、実のままでは美味しくないので、好まれてはいない。こう、美味しくない健康食品みたいな扱いだったりする。
なので、仕入れコストが、大変に大変に非情に大変に、お安いのだ。
挽いて粉にしたところで、私の前世は職人でもなければ脱サラ経験もないので、蕎麦は作れない。
というわけで、蕎麦打ち方面ではなくて、もっと簡単に作れそうな料理を選んだ。
「せっかくだから、試しに作る料理、食べていかない?」
「! 良いのですか? ぜひ」
お腹すいていたのね。
ディアスの嬉しそうな顔を見ると、俄然やる気がわく。
そば粉と塩、そこに少しずつ水を加えて混ぜていく。粉っぽさがなくなったら。もう少し水と、割りほぐした卵を混ぜて、少し寝かせておく。
その間に、中の具材。
チーズ、ほうれん草、何種類かのキノコ、タブタブ魔獣の切れ端ベーコンを適当にカット。
あとはリンゴを、ちょっと甘く煮込んでおく。デザート的なのも作ってみたいのだ。
適度に寝かせた生地を薄く焼き広げ、表面が固まってきたら、まずはおかず用の具材をのせる。真ん中に受け口ができるように、土手を作っていくのがポイントね。
「もんじゃ焼き作るときみたい」
「もんじゃ?」
「ああ、気にしないで」
うっかり口にしてしまった。あ、そうか。お好み焼きとかもんじゃ焼きも、商品としては悪くないわね。あ、モダン焼きとかも良いかも。うんうん。お好み焼き系はこの世界にないから、売れそうな気がするわ。
真ん中の空間に卵を落とす。
皮の端がパリパリしてきたら、折りたたみ、蓋をしてじっくり焼く。
その間に、となりのコンロではデザート用。
同じように皮を焼くけど、こっちは手で持って食べられるように、クレープ屋さんみたいに作ろうかな。
「はい、おかずのガレット完成! ナイフとフォークで食べてね」
カウンターに置くと、ディアスの瞳がきらりと光った。
「これは美味しい!」
ものすごい勢いで、ばくばくと食べていく。あっという間になくなってしまった。
「早いわね」
「いや、本当に美味しいです。こんなの食べたことがない」
「それは嬉しいわ。ねぇ、ナイフとフォークで食べるこの形か、それとも」
そう言って、今度はデザートのガレットを用意する。こちらは最後に、バターを一かけのせてからくるりと丸めた。
「こういう風にかぶりつけるの、どっちが良いかな」
手渡すと、大きな口でがぶりと一口。三分の一くらい、一気になくなったぞ。すごいな大口。
「こっちはデザートなんですね。甘くて美味しい。不思議だ。同じ生地なのに、全然違うモノのように感じる」
「万能の生地よねぇ。しかも栄養価も高いのよ」
こちらも、気づけばすぐに食べ終えていた。
「最初に食べたやつも、こういう形にできるんですか?」
「そうね。具材に卵じゃなくて、ホワイトソース的なモノを使えばいけると思う」
「だったら、こういうのはどうでしょう」
ディアスの提案を、私はすぐに採用とした。




