表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/43

15 試作品チェック

 ズズズズ、ゴリゴリ、と大きな音が店内に響く。

 今日は天気が良いので、店の窓や扉を開けているから、外にまで音が漏れ、道行く人がのぞき込んでいた。


「うん。良い感じで、挽けたかな」


 何をしているかというと、石臼の魔法で粉を挽いていたのだ。

 水車があれば、それを使って小麦だのを挽くことはできる。ただ、私の店にはそんな設備はないので、魔法で挽いているというわけ。

 で、なんの粉かというと……。


「へぇ。良い匂いがしますね」

「ディアス」

「前を通りかかったら、もの凄い音がしたからのぞいてみたんです」

「あ。やっぱり音、すごかった?」


 のぞき込む人が多いから、それなりに音が漏れていることはわかっていたけど、改めて言われるとちょっと心配になる。


「まぁ、石臼の音だってのはすぐにわかるから、皆そこまで気にしてないですけどね。ただ、良い香りがしているから、どちらかというと、皆さんそっちを気にしてました」

「なるほど。そうなると、この香りはウリになるわよね」


 私の言葉に、ディアスがうなずく。


「この香り、何の粉ですか? 小麦じゃない……とはわかるけど」

「バソバソの実よ」

「えっ」


 バソバソの実、とはまぁ、予想通りに蕎麦の実みたいなやつ。こっちの世界では、蕎麦は存在していなくて、この実は動物とかの餌扱いされている。もちろん、食べる人もいるけど、実のままでは美味しくないので、好まれてはいない。こう、美味しくない健康食品みたいな扱いだったりする。


 なので、仕入れコストが、大変に大変に非情に大変に、お安いのだ。


 挽いて粉にしたところで、私の前世は職人でもなければ脱サラ経験もないので、蕎麦は作れない。

 というわけで、蕎麦打ち方面ではなくて、もっと簡単に作れそうな料理を選んだ。


「せっかくだから、試しに作る料理、食べていかない?」

「! 良いのですか? ぜひ」


 お腹すいていたのね。

 ディアスの嬉しそうな顔を見ると、俄然やる気がわく。


 そば粉と塩、そこに少しずつ水を加えて混ぜていく。粉っぽさがなくなったら。もう少し水と、割りほぐした卵を混ぜて、少し寝かせておく。

 その間に、中の具材。


 チーズ、ほうれん草、何種類かのキノコ、タブタブ魔獣の切れ端ベーコンを適当にカット。

 あとはリンゴを、ちょっと甘く煮込んでおく。デザート的なのも作ってみたいのだ。


 適度に寝かせた生地を薄く焼き広げ、表面が固まってきたら、まずはおかず用の具材をのせる。真ん中に受け口ができるように、土手を作っていくのがポイントね。


「もんじゃ焼き作るときみたい」

「もんじゃ?」

「ああ、気にしないで」


 うっかり口にしてしまった。あ、そうか。お好み焼きとかもんじゃ焼きも、商品としては悪くないわね。あ、モダン焼きとかも良いかも。うんうん。お好み焼き系はこの世界にないから、売れそうな気がするわ。


 真ん中の空間に卵を落とす。

 皮の端がパリパリしてきたら、折りたたみ、蓋をしてじっくり焼く。


 その間に、となりのコンロではデザート用。

 同じように皮を焼くけど、こっちは手で持って食べられるように、クレープ屋さんみたいに作ろうかな。


「はい、おかずのガレット完成! ナイフとフォークで食べてね」


 カウンターに置くと、ディアスの瞳がきらりと光った。


「これは美味しい!」


 ものすごい勢いで、ばくばくと食べていく。あっという間になくなってしまった。


「早いわね」

「いや、本当に美味しいです。こんなの食べたことがない」

「それは嬉しいわ。ねぇ、ナイフとフォークで食べるこの形か、それとも」


 そう言って、今度はデザートのガレットを用意する。こちらは最後に、バターを一かけのせてからくるりと丸めた。


「こういう風にかぶりつけるの、どっちが良いかな」


 手渡すと、大きな口でがぶりと一口。三分の一くらい、一気になくなったぞ。すごいな大口。


「こっちはデザートなんですね。甘くて美味しい。不思議だ。同じ生地なのに、全然違うモノのように感じる」

「万能の生地よねぇ。しかも栄養価も高いのよ」


 こちらも、気づけばすぐに食べ終えていた。


「最初に食べたやつも、こういう形にできるんですか?」

「そうね。具材に卵じゃなくて、ホワイトソース的なモノを使えばいけると思う」

「だったら、こういうのはどうでしょう」


 ディアスの提案を、私はすぐに採用とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ