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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
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墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜46

 南シナ海の北東海域で、二つの大艦隊が向かい合っている。


 片方は複数国の軍隊の寄せ集めである「国連軍」であり、もう片方は地域大国の「解放軍」である。


 前者は国際的に(国際法/国連)認められた(決議で承認された)「国連軍」であり、もう片方は単に自称するだけの「解放軍」である。


 前者である北側から南下する艦隊にとっては、望んだ上での出会い。「邂逅」であった。


 ーーーつまり、すべては想定内。


 後者である南側から北上する艦隊にとっては、予想外の出会い。「遭遇」であった。


 ーーーつまり、すべては想定外。


 後者にとっては、北狄、東夷、南蛮、西戎と言う非文化的民族が、一度にまとめて万里の長城を越えて自分達に襲い掛かって来たかの様な有り得ない事態。


 ーーーさらに「慮外千万」であり過ぎたのだ。


 華夷思想の都合の良い部分だけしか知らずに、全てを知っていると誤解したまま、世界の(・・・)統治を行うのが偉大なる党だった。だから、晋の殷浩でなくとも「咄咄怪事」と文句を言わずにいられない。


 ただし、その様な考えは「怪誕不経」と考えるのは、国際的に(国際法/国連)認められた(決議で承認された)「国連軍」の方であった。


 単に自称するだけの「解放軍」を自由に(自在ではない)使いこなす偉大なる党は、柔軟性を維持する上で不可欠な、四夷八蛮の民の徳化の先に生じ得る「転移」と言う原則を完全に忘れてしまっている。その様は客観的にはとても嘆かわしい。


 南下しつつある艦隊(四夷八蛮の民)の方は、これから起こす(・・・)イベントに対して準備万端であった。臨戦準備済み。合戦準備の号令が下り、小口径砲、機砲、発射管のカバー取り外しを含めた点検を終え、弾薬の装填まで済ませていた。


 対象的に、北上する艦隊(文明文化大国の人民)の方は、青天の霹靂であった。南下しつつある艦隊(四夷八蛮の民)が強制的に参加を要求するイベントに対応する為に、大急ぎで対空・対艦を到底した乗組員の全配置を始めていた。


 休憩中だった哨戒人員は急いで配置場所へ移動した後にヘルメットの紐を顎に通すのがやっとで、身に待とうべきそれ以外の防弾装備、フラッシュ・ギア、防音ギアを持参する余裕すらなかった。


 更に、発電量を多数の電子機器を併用可能な戦闘レベルへと上昇させ、艦内通路や上下移動用階段などの整理まで行う余裕はなかった。艦内倉庫の整理もまったく出来なかったので、もし運良く戦闘後を迎えられれば、備蓄用品の散乱具合を見た乗員達が確実に絶望出切る未来が保証されていた。


 水線防護部内に移動・格納させるべき、水線下に装備されている兵器類の防御は手付かずだった。短艇(カッター)などの収納や固定具の強化も行えなかったので、キツい操船を行えば、魚雷発射の様にそのまま海上へ放り出す羽目に陥りそうだった。


 トドメに、出港時は艦隊戦を一切想定せず、台湾海峡上で一方的な蹂躙を楽しむだけの予定であった為、艦隊戦には全く不要な上陸装備などを満載する艦船が多かった。本来なら、艦隊戦をすると分かっているなら、事前の臨戦準備として不要な装備を港で下ろしておくべきだった(戦時不要物件の陸揚げである)。つまり、


 これから起こる戦闘を通して、"死重"を抱えたまま艦隊運動や待避運動を行わなければならないと言う事だ。


 港へ寄れないなら、艦隊戦前に時間的な余裕があるなら、装輪車や自走砲などの高価な装備であっても、海に投げ捨ててしまいたかった。だが、既にお互いを認識出切る間合いにあり、合戦必死であるならば、敵がそれを許してくれる道理はない。


 実際、日露戦争の日本海海戦直前に大日本帝国の連合艦隊は、砲雷戦を前にして"死重"となる今後必要になるかも知れなかったが為に積んであった「装備」である良質な無煙石炭を丸ごと海中へと投棄した。


(その頃は戦闘艦の全てが蒸気ピストン(レシプロ)艦であり、その後に登場する蒸気タービン艦やガスタービン艦と比べて速度が圧倒的に遅かった。日露戦争の時代は、索敵用ピケット艦などを通じて互いの位置が判明しても、海戦を始める相対距離へは直ちに詰められないと言う、とても牧歌的な文化が残されていた。死重の海上放棄は、だからこそ可能であった戦闘直前の儀式だったのかも知れない。)


 万年金欠がアイデンティティーであった大日本帝国として、断腸の思いで私有財産を破棄した筈だ。経済的には痛いと言う本音は隠しようもなく、ダダ漏れであったに違いない。しかし、それでも破棄を実行した。それは、万が一にも海戦に敗北すれば母国と家族が纏めて滅びるわけであるから、経済的な理由で悪戯に勝率最前線に立つ将兵達は自分達の生存の確率へは大した興味は無かった。社会の、国体の維持の為には自分達の命を犠牲にする事も承知していた)を低下させて良いわけがなかった。


 一方、ロシア帝国のバルチック艦隊の抱えていた事情は、大日本帝国の連合艦隊よりももっと複雑だった。日本海での戦闘終了後に、すんなりとウラジオストック軍港へ入れないケースも想定していたかも知れない。だから、不利になるのを分かっていながら、"死重"を捨てきれなかった様な気がしてならない。


 陸戦でも空戦でも海戦でも、機動において軽さは常に正義である。


 双方共にそれを理解していた。しかし、共に理解のままに行動出来た訳ではなかったと言う話である。


 結局、主導権の取り合いに負けると悲惨であると言う事だ。


 主導権を握れた方は理解した最適解のままに行動出来た。主導権を失った方は理解した最適解のままに行動出来なかった。


 北側から南下する艦隊の方は、合衆国・海軍が誇る新世代構造の空母の三番艦、ジェラルド・R・フォード級原子力空母(CVN)である"USS ジョージ・W・ブッシュ(CVN-83)"を中心に組まれた、史上初の「国連軍」による空母打撃群。


 空母打撃群には、複数の同盟国が派遣した戦闘艦が含まれている。「国連軍」である為には、豊富な戦力を擁する合衆国一国でも何の問題もない。しかし、合衆国は戦闘において「ボッチ」の状態を偏執的なまでに嫌っている。だから、事を起こすときは必ず「お友達」を巻き込む。


 ヨーロッパ、中東アジア、アフリカでは、ほとんどの場合は英国が第一のパートナー国となっている。


 極東アジアから南アジアとオセアニアでは、カナダやオーストラリア、最近になって日本国もサポート国となっている。それ以外の同盟国の場合、長距離・長期間の作戦航海への対応が難しいので、作 戦実行海域が近い国が代わる代わるで参加している。


 北上する艦隊の方は、人民解放軍・海軍が誇る新世代構造の空母の一番艦、003型級航空母艦である"福建"を中心に組まれた、中国人民解放軍・海軍の二大空母打撃群の片割れ。001/002型級航空母艦と違って、同級をアドミラル・クズネツォフ級航空母艦と分類する者はいない。


"福建"そのモノは、中国人民解放軍・海軍初の統合電気推進方式(IFEP)と電磁式カタパルトを採用した空母として進水した。しかし、その後の改装で艦首形状がSTOBAR方式からスキージャンプ式へと変更された。


 冷戦が始まると同時に登場した初期のスーパー・キャリア(超大型空母)」である、合衆国のフォレスタル級空母やキティーホーク級空母と並べても見劣りしない巨体を誇る。だが、一回り小さい英国のクイーン・エリザベス級航空母艦や強襲揚陸艦と同様に、固定翼の早期警戒機は未だに配備出来ていない。


 また、アドミラル・クズネツォフ級航空母艦やひゅうが級ヘリコプター空母のオリジナル仕様用と違って、垂直発射ミサイル(VSL)などの男のロマン兵器の類いは一切搭載せず、航空機の搭載数に全振りした内部構造で仕立てられている。


 外観は「スーパー・キャリア(超大型空母)」であるが、実際には太平洋戦争当時の「艦隊空母」的な運用が行われている(ただし、艦隊司令部は"福建"に設置されている。おそらく、合衆国海軍を見習っての事だ)。


 戦いの先端を開いたのは人民解放軍・海軍の方だった。


 相対距離が200kmを切る辺りで、何の警告や通告も発することなく、「国連軍」へ向けて対艦ミサイルによる飽和攻撃を仕掛けて来た。


 完全な不意打ちだった。会戦の条件設定、時と場所と言う主導権を握られてしまった事に憤慨したせいではない。会戦の時と場所を限定されてしまったせいで、とにかく相手の不意を出切るだけ突く努力、つまりせいぜいタイミングくらいしか自主性を表現する為選択肢が残されていなかったからだ。


 せめて、第一撃で可能な限り敵対戦力を削っておかないと、後から辛くなるからだ。数の比較ではほぼ互角。しかし、質の比較でもそうであるかは断言は不能だ。


 正直、互角の勝負であっても、海戦であれば好んで戦うべきではない。敵の数が少ない。つまり、自軍が圧倒的に有利な場合のみ戦いを仕掛けるべきなのだ。少なくとも、21世紀の戦い方と言うのはそうなっている。


 日露戦争時の様な正面切っての総力戦とは、戦の華ではある。ロマンもある。しかし、21世紀では前世紀のロマン主義は愚策とされている。むしろ、敵の補給船を継続的にいびって、補給不足と言う間接的な攻撃で主戦力を疲弊させて、戦闘意欲を奪って撤退させる方が、ずっと高く評価される戦術とされている。


 理由は、そうすれは自軍の消耗を可能な限り避けられるからだ。戦いたいならば、相対的に弱い敵を狙いべきでもあった。圧倒的に小さな戦力しか持たない敵とだけ戦うならば、「百戦殆からず」が実現可能である。また、自軍の消耗が少なければ、何時でも躊躇なく再戦に応じられる。戦いの主導権を握れると言うことになる。そこまで戦況を持ち込めれば、戦後に行われる終戦交渉の場に、とても有利な立場で参加出来る。


 しかし、今の人民解放軍・海軍にそう言う賢い選択は許されなかった。弱い者虐めに関しては誰にも負けない練度を誇り、また、それを最も得意とする軍隊であったに関わらずだ。


 これには事情があった。台湾民国が実効支配中の領土を、政治的な事情で早急に何が何でも取り戻さなければならなくなったからだ。そうやって、偉大なる党の支配の正当性を分かりやすい形で人民に見せ付けてやらなければならなくなったせいである。


 今まで、人民共和国は、周辺国と統治下にある人民を軍事的な恐怖で支配して来た。しかし、その恐怖が揺らぐような出来事が最近では続いていた。だから、ここでビシッと人民解放軍の顕在ぶりを示さなければならなかった。実力を見せ付ける必要がある所まで追い込まれていたのだ。


 進路上に現れた「国連軍」を軍事力で下せば、台湾や上海を文明化(解放)してみせるよりもずっと大きな統治権の正当性を示せると考えられた。少なくとも、現場ではなく後方におわす偉大なる党としては。自分の命を懸けて戦う者のよりも他人の命を懸けて戦う者の方が、大胆な戦闘に対して圧倒的に前向きであるらしい。


 から、南海艦隊は、避けるべき筈の互角の勝負を回避する訳にいかず、敢えて、正面から受け止めざる得ないのだ。


 全ては、ラオス侵略作戦での躓きが原因であった。故に、国連から「新・敵国条項」の筆頭国家として明記されてしまった。そして、「国連軍」が不意に南シナ海に姿を表すに至った。


 ここで「国連軍」を完全に撃退しなければ、偉大なる党が人民共和国を支配する根拠を示す事が出来なくなってしまう。そうなると、事実上は多数の軍閥支配国家を無理矢理に束ねた「連邦」である人民共和国が、一気に分裂、或いは軍閥同士が争いを気が遠くなるほど繰り返す戦国時代へ突入するなんていう、人類の危機に直面する事になってしまう(全軍閥がABC兵器を遠慮なく使い合う(・・)ので、地球全体がそのとばっちりを食らうと言う意味)。


 この時の人民解放軍・海軍・南海艦隊は、日露戦争当時の連合艦隊が背負っていたに等しい、国家の存亡と言う重責を不意に背負わされてしまっていた。


「国連軍」を撃退出来なければ全てを失うかも知れないのだ。もし、海戦に負ければ、今まで自由に振る舞い過ぎていた母国が国際社会での関係の清算を求められかねないのだ。偉大なる党に籍を置く一部の識者には、自国の振る舞いが国際圧力を、加圧水型原子炉の第一次冷却水のパイプ内より高めていると言う自覚くらいならばあった。


 もし、過熱状態(※)で閉じ込めてある国際圧力が、パイプに切れ目を作って、漏れ出し始めてしまったら、もう誰にも止められないだろう。それは、母国に大惨事を招くどころでは済まなくなるかも知れない。


 ーーーどんな手段を使っても、「国連軍」に勝たなければならない。


 勝てば官軍。と言うキーワードは世界共通。だいたい、歴史は勝者によってのみ新しいページを書き加える事が許されているのだから。勝者になれれば、だいたい全部の問題は解決出来ないかも知れないが、おおよそ全部の問題の解決期限の先延ばしくらいならば出来る様になる。この先延ばしを、永遠に繰り返す覚悟で生きれば良いのだ。


 ーーー借金を多数の金貸し屋を駆使して、永遠に借り換え(付け替え)を続ける覚悟が求められているのだ(なお、時効は消費者金融の場合「5年」。でも債務者に対する裁判が受理されると、時効は裁判の確定から10年間延長です。ご利用は計画的に)。


 多数の、対艦ミサイルのYJ-18系の一種と思われる艦上発射型ミサイル(SSM)が、駆逐艦や巡洋艦の垂直発射装置(VSL)から次から次へと打ち上げられた。神盾システムによって、ミサイルが目指すべき敵艦=標的は既に割り振られている。


 対艦ミサイルは、最初は亜音速で飛行し、終末ターンでは人民共和国版GPSである「北斗衛星導航系統」と艦載レーダー・シーカーとヘリコプター搭載レーダーによる統合情報を頼りに、音速の3倍まで加速して敵艦へ突撃する。


「国連軍」の全艦艇は、一艦辺り平均で25発の対艦ミサイルへの同時対処を求められるに至った。

※= 加熱状態ではない。過熱である。高圧力化にある水は、転移点がねじ曲げられて100度Cを越えても沸騰しない。液体から固体へ転移せずに水温が上がる。逆に、低圧力化にある水は100度Cを越える遙か手前で沸騰する。エヴェレスト周辺に住むシェルパさんやライさんが、米を炊く時には必ず圧力鍋を使うのはそれが理由。80度C以下で炊かれた米なんて、芯が残って食えたもんじゃない。エヴェレスト街道だと、パンボチェ(標高約4千,000m。富士山の頂上より高い)くらいまでなら圧力鍋用の汎用パッキンがそこら辺で気軽に入手可能。なんで、パッキン?

 インド製はすぐに逝かれるからだよ。頻繁に交換するんだ。

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