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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
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108/143

墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜45

 南海艦隊に組み込まれた艦艇が、人民共和国・海南省の軍港から次から次へと出港し続ける。


 二時間強で、最後の艦艇が港の管制圏から離れ(・・)終えた。


 この艦隊は、共産主義者の共産主義者による共産主義者のための解放(・・)軍の精鋭である(※0)。


 人民解放軍・海軍が体現する絶対の正義の前では、ありふれた卑しい(夷狄戎蛮の)価値観は身の程を心得て、無条件で平伏さねばなさない。


 そう言う種類の、いわゆるカレラのイデオロギーが生み出す純粋な暴力装置である。


 暴力装置でありながら、合法的な活動のみを行うとしていた。


 何故か? それは共産主義的価値観による決断は、完全な無謬性を勝ち取っているからである。


 だから、何をしても合法であり、合理的な行動となりえた。


 勿論、主観的な話である。カレラがそう信じているのだ。当然、客観的には、ワレワレはそんな主張は認めない(ボウ・シット)。


 しかし、カレラは、何故に、カレラが合理的且つ合法的であると断言出来るのか? その根拠は何なのだろうか?


 それは、カレラが、カレラの上澄みである支配層=偉大なる党が、この究極の政治的正しさを汚すありふれた卑しい(夷狄戎蛮の)価値観の存在を、地球上に存在する事を許可しないからである。


 偉大なる党の許可無くして、この世界には何一つ存在してはならないし、する筈がないからである(そんな簡単な事が分からないワレワレを、カレラは同情の視線で見下している訳であって・・・。目覚めた者(Woke)特有の鼻持ちならない感じでね)。


 ーーー偉大なる党が常に正しいのは、人民共和国で正しい(・・・)教育を正しく(・・・)受けて育った者達にとっては常識中の常識である。


 明日も、明後日も、太陽が東から昇って来ると言う予想(・・)とは、別レベルの普遍性が人民社会では共有されているのである(※1)。


 ーーー善であっても悪であっても、共に(一律に)偉大なる党の許可なくして地球上ではありえないのだ。


 これが、人民共和国領内に存在する社会における「道徳(習慣)」であった。


 我々とは価値観とは相当に異なり、本音では違和感がきっついなと思う。それから、本気でそう考えているのかと突っ込みを入れたくもある。しかし、脊髄反射で突っ込んでしまうと、差別主義者と責められるので要注意だ。


 ともかく、その(・・)道徳的社会秩序を体現する艦艇の全てが、港や桟橋から見て、水平線の向こう側へと姿を消した。


 なお、姿を水平線に沈めたのではない。縁起でも無い。不敬である。ぷんぷん(※2)。もちろん、沈むのにも偉大なる党からの許可が不可欠である。


 岸壁や桟橋からは見えない=十分に人目に付かない海域まで移動し終えた事を確認してから、南海艦隊の全艦艇が深度が精々200m位しかない浅い海の上で改めて集結を行った。


 ここまでは見栄え重視の(艦数が多く見える)、空母を先頭に置く「縦一列」で艦艇が並んで航行していた。ここからは効率重視の配置で、空母を中心に置く艦艇を並び替えるのだ。公海方向へとゆっくりと進みながら、多数の艦艇が事前に決められていた通り、空母の前後左右を取り囲む艦隊陣形へと移動する。


 艦隊の体(てい)を成(な)した後は、全艦が一個の艦隊となって、ゆっくりと(主観的には堂々と)領海の外(公海)を目指す。


 しばらくすると、人民共和国と南ヴェトナム共和国との古戦場として、一部で広く知られる(・・・・・・・・・・)、ダンカン島(広金島)(ヴェトナム名もダンカン島)の東側の水道へと入る。


 そこではかつて、両国が島未満の「礁」を命懸けで奪い合った。歴史では「西沙諸島の戦い」と名付けられているイベントだ。


 人民解放軍による占拠が達成されてから、ダンカン島(広金島)には、リーフを利用して三方を波消し堤防で囲む大きな軍港が建設された。近海で不意に台風や嵐に襲われても、ここへ逃げ込めさえすればかなり安全に過ごせるんじゃないか、と言う贅沢な作りになっている。


 だが、21世紀の後半に入った頃から。、そこに碇泊する灰色や白色の艦船の姿は見られなくなった。また、同島のヘリコプター基地の方でも同様に活気が感じられなった。今では、飛べるのかどうかも怪しい、サビだらけのヘリコプターが一機駐機しているだけである。


 島を取り囲む海面で動いている人工物は、軍用とは思えない小舟が一艘だけ。駐留中の人民解放軍の兵士が、今晩のオカズを一品増やす目的で舟を浮かべていると思われた。


 南海艦隊が近付くと、珍獣と出会したかの様にぼーっと眺め続けている。すぐに、波で海面がハデに揺れる事に気付いて、釣り竿と網を引き上げてから急いで海軍駐屯基地へと帰投した。


 南海艦隊は、続けて、西沙諸島では最大の島であるウッディー島(永興島)(ヴェトナム名はフーラム島)を掠める。古びた民間空港の様に見える建屋が見える。ジェット旅客機も離着陸可能な滑走路があるらしいが、最後に使用されたのが一体何時であるの分からない寂れっぷりだった。


 喫水の深い艦艇が多い南海艦隊が、敢えて水深の浅いこの水路を取ったのは、違法占拠中の島々に地対空兵器がびっちりと備え付けられているからだ(なお、稼働率は不明)。そして、浅い水深を進めば、敵対勢力の潜水艦、特に周辺水域の海水温度を上昇させてしまう原子力潜水艦と、不意にかち合う可能性が限りなくゼロに近いからだ。


 西沙諸島の軍事施設には、海南島へ近付く民主主義勢力の艦艇や、南シナ海を潜行して情報収集を試みる合衆国、日本国、台湾民国などの潜水艦を監視する対潜基地としての役割が与えられている。筈なのだが、その活動振りは、近年では低調となって久しいと言う印象がある。


 だが、そんな筈はない。低調と感じられるのは、活動がより巧妙化して、周辺国の諜報活動でも捉えられなくなっただけである。おそらく、彼等の作戦行動は押し並べて、極めてステルス性が高いのだろう。


 そのせいで、この海域でも人民解放軍・海軍の存在感のステルス化が著しいだけである。そうに決まっている。そうでないのならば、周辺国家を軍事力で威圧しない為の配慮なのだろう。間違いない。


 偉大なる党の活動方針は極めて巧妙だ。それを証明する歴史的実は多数存在する。


 ーーー例えば。


 人民解放軍が西沙諸島へ進出したのは、待ちに待った周辺水域に於ける「力の空白」の到来を十二分に確認した上での所業だった。


 偉大なる党は賢い。自分よりも強いモノが居座っている間は、布団をかぶってひたすら大人しくしている。出来る限りちょっかいを出さない。そして、強いモノが消えた途端に態度を急変させる。いや、それまでに準備していた計画を、水面下から水面へと浮上させて、力業で実行し、電光石火で既成事実化させる。


 人民共和国が建国した頃は、まだ海へと出て行く機運は熟していなかった。あくまでも、陸軍国家として、周辺の地域を次から次へと強制併合していた。


 だが、1950年代に最初のチャンスは訪れる。フランスが植民地化していたインドシナ半島から撤退した。その直後、南ヴェトナムの海上進出とほぼ同時期に、人民解放軍が西沙諸島の約半分を占拠した。


 人民解放軍は、その後はしばらく大人しくしていた。南ヴェトナム国内に恐い恐い合衆国軍に駐留していたからだ。しかし、1973年に、目の上のたんこぶが南ヴェトナム領土から撤退した。そこで彼等の我慢の時は終わった。翌年の1974年、人民解放軍が南ヴェトナムの意向を無視して(との海戦を通じて)、西沙諸島の残りの半分を占領した。


 人民解放軍の南進はまだ続く。その後は西沙諸島を因縁の足掛かりとして、南沙諸島への進出を激化し始める。1988年に南沙諸島のファイアリー・クロス礁に小さな基地の建設を開始。ジョンソン南礁では統一ヴェトナムとも激しい海戦が起こる。この時期の一連の逸話は、心寒々とするエピソードでいっぱいだ。わざわざ文章にすると、筆者のテンションが覿面(てきめん)に下がるので割愛。マジ、ブルー入る。


 人民解放軍の南進はまだまだ続く。1992年に合衆国がフィリピン(スービック湾)から撤退すると、転生した訳でもないのに、遠慮なしで同海域でチート無双を始める。周辺国の沿岸警備隊や漁民を蹴散らす。


 周辺国の全てに満遍なく喧嘩を売り終える。占領した礁で次々と埋め立て工事を行い、周辺国へ睨みを効かせる為に人工島を作りだし、続けて海軍基地網を完成させる。


 主立った周辺海域の軍事用埋め立て地(戦略的人工島)だけでも下記の通り。


 ジョンソン南礁。


 ヒューズ礁。


 クアテロン礁。


 ガベン礁。


 ファイアリークロス礁。


 スビ礁。


 ミスチーフ礁。


 工法は、船舶による掘削と積み上げ。ほとんどの素材は周辺の珊瑚礁をドリルで掘削して、バキューム・ポンプで回収して、目的地に積み上げている。珊瑚礁大好き☆環境テロリストも真っ青な所業である。


 また、周辺国が領有する島嶼部から砂なども拝借している模様。南シナ海周辺では、一夜の中に砂浜のビーチが消失したりする怪事件が度々起こっている。おまわりさん。犯人はこの人です!! え? 推定無罪?


 余りに遠慮なく、国際法的な無茶をしまくっていた。


 当時の合衆国太平洋艦隊司令官に、「砂の万里の長城」と言う懸念発言をされる始末であった。


 そして、現在に至る。その後に目立って増えていないのは、資金繰りの問題と思われる。


 正に、虎視眈々の歴史とも言える。しかし、歴史には始まりがある様に終わりも必ず存在する。興隆期と衰退期は、決して二枚下ろしには出来ない、表裏一体の物語なのである。


 人民共和国・海南省・海南島と出航し、西沙諸島を抜けるとすぐに大陸棚が終わり、南海艦隊の目前には唐突に深海へ繋がる"本物の海"の入り口へと到達する。


 ここでブラウンウォーター・ネイビーのエリアが終わり、ここからブルーウォーター・ネイビーのエリアが始まる。


 南海艦隊の原子力潜水艦は、大急ぎで深海を目指す。ここまでの進路は、上空を飛ぶ情報衛星によって確実に把握されている。だから、いち早く姿を眩まし、覗いている者達にとって、どこにいるのか分からなくしなければならない。しかし、今回は単独航行作戦ではない。南海艦隊の防衛が任されているので、完全に離れてしまう訳にもいかない。


 実に悩ましい。平時や、自軍が圧倒的に優勢な海域であれば、敵勢力に自艦の位置を示す海域を拡げる必要はないかも知れない。しかし、国連が自国に対し、「集団的自衛権」に基づいて、「国連軍」による即時の「武力行使」を許可している状態である事は把握出来ている。そして、「新・敵国条項」の対象の筆頭にあげられている事も、VPNで串を刺して読んだニュースサイトを(・・・・・・・・)通じて知っている。


「国連軍」が成立した段階で、実質的には宣戦布告がなされているも同然。つまり、何時どこから、全くの警告なしで自軍へ対する攻撃が行われるか分からない状態と考えておいた方が良い。もちろん、国連軍の行動なので、礼儀正しく事前に警告を行った上で攻撃を仕掛けて来るかも知れない。


 当然、その場合は、人民解放軍は警告への回答として、出来る限りの善意を込めた先制攻撃を仕掛けるつもりであった。しかし、人民解放軍・海軍の手の内は、国連軍の親玉である合衆国も承知の上である筈だから、仮に彼等の側が先制攻撃に成功しても大した効果は見込めないだろう。


 もちろん、「国連軍」からの警告に従うと言う選択もあるかも知れない。しかし、偉大なる党はそんな軟弱な態度を許す筈がない。また、南海艦隊にはそんな甘えた考えの持ち主は、政治的には一切存在していなかった。


 南海艦隊は浅瀬を出切った所で、ゆっくりと左折する(取り舵をとる)。つまり、北上して、台湾環境と上海沖を目指す。


 つもりだった。


 だが、予定は未定。何事も思い通りに進まない。それでも良い。男の価値は事態の急変を前にして臨機応変に対応出来るかどうかに掛かってる。女性誌のアンケートによれば、この項目が必ず男性に求める資質トップ3に入っているので、まず間違いないなさそうだ。女性は人類の半数を占め・・・。ま、そんな感じ。


 台湾民国の領土である東沙島とフィリピンのルソン島の間、海底では沢山の海稜が突き出している南シナ海まで差し掛かった所で、南海艦隊は突然にフィリピン沿岸警備隊と出会した。


 全体を白地塗装に覆われ、そこに粋な青と朱の線をあしらわれた多目的対応船(MRRV)「MELCHORA(メルチョラ) AQUINO(・アキノ)」の船長は、大艦隊がフィリピンの排他的経済水域への侵入済みであると警告し、勇敢な事に、臨検への協力を要請した。


 南海艦隊は、警告と協力をガン無視して、巡航速度をそのまま維持して北上を継続。右翼先頭に組み込まれていた駆逐艦が「MELCHORA(メルチョラ) AQUINO(・アキノ)」の船体へ、艦首脇で強くぶつけた。明らかに意図的な接触だった。


「MELCHORA(メルチョラ) AQUINO(・アキノ)」は、船体を激しく揺らし、真っ白な船体側面に大きな傷を負った。


 南海艦隊は、通常航行が困難になった「MELCHORA(メルチョラ) AQUINO(・アキノ)」を救助する事もなく、むしろ予定よりもずっと深く、フィリピンの接続水域まで迫る水域を通過しようと東へと進路を取った。当てつけだ。自らの覇道の前に立ち塞がった、小国の愚者とその為政者に対して聖なる教育を施してあげる(・・・)つもりだった。


 そこで、哨戒活動の為に先行していた長距離レーダー搭載ヘリコプターが、アイアウー島とフガ島の海峡を抜けて南シナ海(自国内海)へと侵入して来る不埒な大艦隊の存在を発見した。


 その大艦隊は、明らかに南海艦隊の進路を横切る気配を見せた。


 不適当である。不敬罪も適応されるべきだ。


 南海艦隊は、急いで偵察用ドローンを離陸させて、不明の艦隊の正体の特定を急いだ。


 南海艦隊の望みはすぐに叶った。


 南海艦隊の指令官は、表情を固くした。


 ジェラルド・R・フォード級原子力空母(CVN)のシルエットが見て取れる。つまり、それは合衆国の空母打撃群。


 一瞥しただけで、一カ月以上前から所在不明になっていた、合衆国第七艦隊である事が理解出来た。つまり、まだシルエットしか見えない空母の正体は、バージニア州ニューポートで建築されたUSS ミッドウェイ(CVN-83)であるに違いないのだ。


 ついさっきまで、フィリピン領土のダルビリ島の裏側に隠れていたのだろう。


 そして、フィリピン沿岸警備隊の挑発に応えて、南海艦隊が敢えてフィリピン領海へ近付くと読んで待ち構えていたに違いない。


 補助艦艇群(非武装の軍艦)が一隻も混じっていない。人民解放軍の手が及ばない後方海域(聖域)に、既に配置してあると言う事だ。おそらく、更にその後方には遠征海上基地(遠征移送ドック)(=ESB艦)が控えているのだろう。


 つまり、合衆国と飼い犬達は、とことんマジの「やる気」なのだ。しかも、短期決戦で雌雄を決するつもりであるが、最悪長期戦になったとしてもやり遂げると言う最終命令を受けている事は明白だ。


 そこまでで情報を収集し終えると、まるで待っていたかの様なタイミングで情報収集ドローンがおかしな挙動を見せた。オペレーターは、戦術人工知能がドローンとの通信を緊急切断したと事後報告を受けた。独断でシャットダウンした理由は、ドローン経由でのハッキングを逆探知したからだと追加報告も受けた。


 戦術人工知能は、シャットダウンに成功しながらも、艦隊ネットワーク内へ侵入済みで、既に有益な情報をダウンロードされるか、ウイルスの類いをアップロードされるか、重要情報を書き換えられてしまった可能性まで提示して来た。


 それでも、人民解放軍・海軍の精鋭は、自分達の進路上で待ち構えている者が何者あるかを知る事が出来た。おそらく第七艦隊が艦隊の姿だけは拝ませてくれたのは、名乗り上げだったに違いない。


 これは、第七艦隊が彼等の規模を人民解放軍側へ「掛かってくるなら来い」と意メッセージを伝えたかったからと人民解放軍・海軍の精鋭は受け止めた。


 第七艦隊が自らの艦隊構成を見せたくなければ、近付いて来るドローンを完全に捕捉していたのだから、情報を撮られる前に撃墜する事も出来たのだ。しかし、敢えてしなかった。勝負下着と同じで、それは見せる相手がいて初めて意義が見出せると言う理(ことわり)を十分に理解している故だ。


 そして、これまでのお遊びのじゃれ合いではなく、今となっては本気の交際を切望し、相手を籠絡(ろうらく)させるに足りる状況セッティングを完了し、例えば前の晩に入念にセレクトしてLPレコードからダビングし終えたオリジナルのカセット・テープをカーステに呑み込ませた上で、自分達は初めてのデートに臨んでいると言う意気込みを伝えたいのだろう。


 きっと、デート・カーはホンダ製のプレリュード(二代目)だ。あれの助手席を倒すレバーは・・・。興味があればこの先はググってください。


 あー。つまり、昭和の感覚では準備は万端。後方に憂いなし。ラッパの号音が耳に届くと同時に突撃開始が可能な状態。


 経験豊富な太平洋艦隊 vs 数の上では互角の南海艦隊。


 ここで逃げれば南海艦隊の司令部は、寄港後は確実に親族もろとも「下方」されてしまうだろう。そして、逃げたとしても逃げ切れる筈もないだろう。知らぬ間に「前門のレーニン、後門のスターリン、右門のウラジーミル、左門のヨシフ」と言う四面楚歌に落とし込まれていた。


 ーーーどうやら填められたらしい。


 賢い南海艦隊の指令官は、眉を顰めた。斜め後ろに控えている政治士官の表情は、指令官のそれとはとても対象的だった。頬を赤らめ、瞳孔と口を大きく開き、この厄介な事態を前にして、自身が幸運の極みにあると確信している様だった。


 ーーーその自信を半分でも良いから分けて欲しい。


 指令官は、本気でそう願った。願って止まなかった。しかし、そんなヒマは彼にはない。一分一秒が貴重だ。


 偵察用ドローンから送られて来た映像を分析すると、まず最初に、艦艇群に合衆国の軍籍以外の戦力が目に付いた。少なくとも、日本国・海上自衛軍の「いずも級航空輸送艦(LHA)("いずも"であると推測された)」とオーストラリア連邦の「キャンベラ級強襲揚陸艦(LHD)("メルボルンII"であると推測された)」、フィリピン共和国の「マエストラーレ級フリゲート艦("ラジャ・フマボンII"であると推測された)」が含まれていた。


 少なくとも、四カ国の海軍の艦艇が集められている事が確認出来た。そして、国連の青い旗を掲揚している事も判明した。


 つまり、「国連軍」なのだ。単純な合衆国・海軍の艦隊ではない。「多国籍軍」ではなく「国連軍」なのだ。


 誰もが、「国連軍」はラオス紛争へ参加する為に、タイランド湾へ雪崩れ込むと信じ込んでいた。だが、それが「集団的自衛権」に基づく即時の「武力行使」を許可した直後に、南シナ海で軍事的なプレゼンスを示している。


 南海艦隊の指令官は、すべてがはるか以前から仕組まれていたと新たに確信した。


 ラオス紛争が始まった直後から、不安定化した人民共和国が台湾民国を攻撃したり、上海の反革命分子達が騒ぎ出す事を見抜き、南海艦隊が北上すると読んでいたのだ。誰が? 合衆国の帝国主義者と小日本の腰巾着共がだ。


 上海の反革命分子達に限っては、合衆国の帝国主義者と以下略) が火を着けたに違いないとも憤慨した。


 もっとも。南海艦隊にも、幸運がなかった訳ではない。艦隊を二部して、台湾海峡と上海沖を目指す前だった為に、現時点では空母を中心とする艦隊としての正規戦力を保持していた事だ。下賜された命に素直に従って戦力を台湾民国向けのグループAと上海討伐向けのグループBへと二分した後であったらなば、数の上で圧倒的に不利になっていた。


 もし、そんな状態で合戦を開始してしまえば、勝敗は極短時間で決してしまう。圧倒的な量(戦力)の差によって、南海艦隊グループA或いはグループBは押擦りつぶされてしまうだろう。そして、両グループ共に各個撃破され、海の藻屑と成り果てていただろう。


 ここに、近代化された正規空母を中心に組まれた艦隊同士が正面からぶつかりあう「会戦」の条件が、史上初めて整った。


 ーーー近代化された海軍は、国同士の戦いであっても基本的に非対称戦に徹すると言う基本戦略を持ってる。


 両交戦者間の軍事力を掻き集めて総力戦と言う概念のは、太平洋戦争で過去のものとなっている。戦いにおいて相手より優位に立つため、自軍より敵軍の総数或いは総線量が低いと見積もられた時にだけ悪阻掛かるのだ。それも、相手に気付かれない様に、後ろから、不意打ちで。


 しかし、近代化された海軍の戦いは勝敗が今ひとつハッキリしない。日露戦争の対馬沖海戦の様に一目で分かるほど単純ではない。


 一方、今回の会戦は、現代の戦いでありながら、勝敗が明らかになり易い、極めて古典的な作法に則る戦いとしてぶつかり合いが始まった。


 これは、優秀な軍人であれば、絶対に避けるべき種類の戦いであるとしか言い様がない。


 突然に、南海艦隊の駆逐艦のいずれかの艦橋で、"Ride of the Valkyries"が流れ始めた。


 果たして、指揮者がヘルベルト・フォン・カラヤンのヴァージョンか? それとも?

※0= なお、人民の人民による人民のための軍隊ではない。資産管理的に。養鶏場のブタを飼育・管理する人間をブタは所有してはいない。


※1= 少なくとも表向きには。それ以上の突っ込みはマナー違反である。


※2= 共産主義者による主観的なイメージでは、この「ぷんぷん」は里長(さとおさ)ちゃん的なモノである。当然、脳内再生時のCVは小原好美である。それと、道徳、道徳と度々書いているが、対象が人民関連である場合が、どちらかと言うと儒教っぽいニュアンスの方が強い。自らが支配する人民に対しては、現世での幸福の追求は無視させて、社会秩序のみを追求させている感じ。詳細はイナゾーに尋ねてみる、ヨロシ。


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