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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
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110/143

墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜47

 SPY-7レーダー搭載イージス艦。


 この特殊なレーダー・システムを日本国が導入を決めた時、国内の謎の勢力からそれ(・・)は「使い物にならない(開発失敗兵器)」とか「ゴミを高く買わされた(ボラれた/騙された)」みたい酷評された。


 誰も欲しくない粗品(無用の長物)を買うなんて愚かだ(だから、与党は下野しろ!!)。とか言う謎の主張で政府や自衛軍は強烈な批判に曝された。


 報道貴族様(オールド・メディア)は、選り抜きの(操り人形になる)有識者様(奴隷様)に自身の(演出家の)都合だか広告代理店(スポンサー)の意向だか分からない奇妙な論評(台詞)を代弁させて(で「角度」を付けて)、わざとらしく間接(モリカケ!モリカケ!)的(的)に政府や自衛軍を揶揄する事で、高い視聴率を稼ぐビジネスを継続的に展開した。結果、自国をいたずらに貶(おとし)めた。


 マスコミのそれは、掛け値なしの金の亡者的な行動であり、徹頭徹尾で日本国とその政府に対する印象の悪化と、影響力の矮小化最優先の行動を続けていた。そんな彼等の不思議な点は、は自らを進歩的であると自負し、海の向こうでユートピアを築き終えた(らしい)同志達を熱烈に応援し続けていた。


 ーーーガリガリの資本主義者が、バリバリの共産主義者に連帯する。


 その奇妙な、いや倒錯としか言いようのない光景を目の当たりにした、変な方向に(ベクトルで)意識の高いアマチュアな軍事評価勢は確信した。


 ーーーSPY-7レーダーは必ず導入すべき道具(敵にとってアカン奴)である。と。


 それまでは、その件に意見を持っている日本人の大半が、従来型のレーダー・システムでも十分だと思っていた。有っても無くても良いと考えていた。調達スケジュールが厄介だとも思っていた。電気を大食いすると言うデメリットもしっかりと理解していた。緩くしか応援していなかったのだ。それが、短期間で、圧倒的な導入支持層へと変身した。


 しかし、よくよく考えてみよう。


 たかがレーダー・システムである。そこから(3万度の熱線の)光子力怪力線(ブレストファイアー)が照射可能で、海の向こうからやって来る侵略者を消滅させられる様な代物ではない。せいぜい、海の向こうの悪者が送り付けて来る究極の悪意の有無の判別と、空輸中のそれらの現在位置を正確に突き止めるだけの情報収集機に過ぎない。


 ーーー神盾を構成する一部(イージス)には成り得ても、破邪の聖剣(エクスカリバー)には決して成り得ないのだ。


 SPY-7レーダーは逆立ちしても、何者も傷付ける事が出来ない。まあ、SPY-7レーダーに心が傷付けられたと被害を主張するエキセントリックな人物が必ず現れるだろうが、その辺りは無視(ノーカン)で。


 SPY-7レーダーを地上に備え付けたら、その周辺が地対地ミサイルや艦対地ミサイルの攻撃対象になると言う話は正に本末転倒だ。海の向こうの悪者など存在しないと一部の有識者様は語られた。だったら、SPY-7レーダーがあろうがなかろうが、被害を誘発する心配など最初から有り得ないだろうに。そして、あろうがなかろうか、攻撃対象となっている"要害の地"なのである。


 味方が欲しい地政学的要因を持つ土地は、敵だって絶対に欲しい。味方を有利にする要素は、必ず敵をも有利にする要素となりえる。それが嫌なら、その土地を大規模土木工事を敢行して抹消=海にしてしまう以外に解決方法はない。美男美女と同じで、そこにいるだけで争いや妬み(或いは癒やし)の種となるのだからさっさと取り除いてしまうのが手っ取り早い(なお、美男美女の方は土地と違って、社会資本の一部と見做して、強制的に芸能界(敏腕スカウトを送って)などに隔離(アイドル化)してしまうと言う第二の選択も有り得る)。


 まあ、そんな質の悪い喜劇が立て続けに演じられた後、SPY-7レーダーは地上ではなく艦上へ設置させる事となった。そうやって「はるな級護衛艦」は誕生した。そして、それは海上自衛軍では最多のミサイル・セル数を誇る大型艦(ASEV)として、その存在感を東アジアで示し続けていた。


 巡洋艦級にしか見えない巨大な船体、はるな級護衛艦の六番艦である三菱重工業製の"はるな(三代目)"が艦隊の中で一番最初に目立つ動きを見せた。


 自前の、冷却性が極めて高い窒化ガリウム(GaN)を採用したレーダーシステムだけではなく、「国連軍」の艦隊、全艦艇、航空機、無人機(ドローン)全体を通じて収集される情報を統合して、最初の一手を撃つ。


 広範囲をカバーする必要がある固定監視作業を通じて取得した情報に沿って、敵艦隊の詳細な位置関係を把握し終える。


 直ちに、補給艦と共に、やや後方のフィリピン領海内に残したアーセナル・コンテナ艦群の火器システムを起動させる。すると、アーセナル・コンテナ艦の甲板に設置された二段に積まれたコンテナ上段の上面部ハッチが開放される。それと同時に、大量のSM-6系の標準ミサイルが、次から次へとホット・ラウンチで撃ち上げられる。


 すべての打ち上げが終わると、コンテナ上段が海上へ破棄され、コンテナ下段の上面が大気に向けて開放される。これで、次の指示があり次第、新たに迎撃ミサイルや対艦ミサイルなどを撃ち出す準備は整えられた。


 アーセナル・コンテナ艦から、人民解放軍・海軍が「国連軍」に向けて打ち上げたYJ-18系対艦ミサイルの本数の二倍に相当するミサイル迎撃(アンチ・ミサイル)ミサイルが、見事な射撃指揮下で南シナ海を南下し始めた。


 驚いた事に、「国連軍」は初戦での、対艦ミサイル合戦には応じなかった。あくまでも、防衛行動に徹してミサイル迎撃(アンチ・ミサイル)ミサイルを撃つに留めた。


 形の上では防衛行動のトップを取る護衛艦「はるな」、それとネットワークで繋がっているコンテナ・ミサイル艦から撃ち上げられたアンチ対艦ミサイルが、想定している空域で最接近を果たした。


 真正面から捉える直接攻撃、近接信管や経路を予想したスマート信管による近接攻撃などの手段で、「国連軍」へ襲い掛かって来た全てのYJ-18系対艦ミサイルの撃墜に成功した。


「国連軍」が大人しくしていたのは、ここまでだった。護衛艦「はるな」が、戦術ネットワークの第一使用権を合衆国海軍へと返納すると同時に、合衆国は新たに行動を開始した。他人の家でピンポンダッシュを仕掛けた直後に全力で逃走する悪ガキを捕まえてしばく為に、自宅玄関からクラウチング・スタートで猛ダッシュで追い掛けるクソオヤジへと化した。


 問答無用の先制攻撃を、互いの存在を認知可能な程の至近距離から受けたのだ。しかも、宣戦布告や警告を受ける事もなく。この状況さえ成立させれば、どれほどに進歩的な(・・・・)裁判官であっても、「国連軍」がこれから起こす活動が防衛目的であったと認めざる得なくなる(・・・・・・・・・)(大変に不本意ではあろうが)。


 ゴールポストの上下左右前後斜めへの移動と隠蔽と無効化は、進歩主義者秘伝☆伝家の宝刀であるが、最初からその必殺技を封じる為の戦術を採っていたと言う事である。


 こう言う流れは、合衆国軍にとっては極めて珍しい。おそらく、「専守防衛」とか言う箸にも棒にもかからないイデオロギーに恋い焦がれる日本国民向けの配慮だったのだろう。きっと、それこそが鎮痛解熱の「バファリン」が含有するとされる「優しさ」とか言う、謎だけれど暖かみのある成分と同一の物質(同位体)であろう。


 それが為に、最初の防衛行動を大金を投じて日本国・海上自衛軍が担当した。高価なミサイルを敢えて乱発した。高い代償であった。しかし、国内の一部勢力に鎮痛解熱処置を施す為には避けられない出費だった(可能であれば節約すべき経費であった。真に"MOTTAINAI"である)。


 日本国・財務省の官僚チームとしては、ここで消費した大量のSM-6系標準ミサイルが、総額でいくらになったか考えると頭が痛くなる。しかし、首相官邸の見込みでは、ここまでやれば優柔不断と揶揄される外務省であっても、日本国のポジションを世界に向けて訴え易くなるだろうとされていた。


 更に、直ちに金儲けに使える優良コンテンツを無料で手に入れ放題になる、マスメディア様達も内心ではホクホクであるに違いない(口では、進歩的な文句をマシンガン乱射してみせるだろうが)。


 さて、報復の時間の始まりである。ここからは、前座である日本国は幕内へと下がって、真打ちである合衆国が舞台へと上がる。


 合衆国・海軍の最新フライトのアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦群が、一斉にホットラウンチのミサイルを撃ち上げる。だが、どう言う訳か撃ち上げたミサイルの数を見ると、飽和攻撃を狙ってはいない事が分かった。


 しかも、意図的に、第一波と第二波と言う時間差を付けて撃ち上げた。


 それらは、艦対艦ミサイルのRGM-84「ハープーン」である様に見えた。


 報復の拳骨である艦対艦ミサイルが、南海艦隊の大型艦艇へと迫る。だが、第一波は全てが人民解放軍型イージス・システム「346D型」の誘導によって撃墜される。南海艦隊は、ミサイルの数が少ない事を不思議に思ったが、第二波の到来に備えて四面固定式のアクティブ・フェーズド(AESA)アレイを中心に、電磁波を最大出力で周辺海域に向けて有らん限りの力で絞り出し続けた。


 もちろん、合衆国・海軍はこれだけで、何の捻りも無い反撃行動で報復行動を終えるつもりは毛頭なかった。予(かね)てから研究を続けていた新戦術を、実戦で初めて披露すると決めていたからである。


 第一波から約20秒のタイムラグを付けて、突然、南海艦隊の大型艦艇に向けて上空から大量の矢が降って来た。南海艦隊は面食らう。本当に至近距離まで詰められて、ステルス・ミサイルが終末誘導用の翼を完全に展開した所で初めて気付いたのだ。


 ステルス・ミサイルは、密かに南シナ海上空を飛んでいたノースロップ・グラマン社製のステルス爆撃機(第6世代航空機)が、慣れ親しんだ統合空対地スタンドオフ(JASSM)・ミサイルの代わりに運んで来た、長距離対艦ミサイルだった。


 大量のRGM-84「ハープーン」を全力で迎撃中である事から、レーダー波の放出を止める事が出来ない。電子情報収集用ドローン、電子専用航空機、「ハープーン」そのものが搭載するセンサーなどを通じて収集した情報の収集・分析が進む。評価・統合化が終わる。


 南海艦隊の艦艇のレーダーの配備状況の詳細が判明し、それに基づく最終的な攻撃対象のオーダーとロックが終わる。後は、やりたい事、いや、やるべき事を実行するだけだ。


 長距離対艦ミサイルのステルス版、AGM-158E 「LRASM」が、「国連軍」にとって完全に解析済みとなった艦載レーダーの位置(+画像情報)を目掛けて、まるでワイルド・ヴィーゼル用の対レーダーミサイルの様に、通常の対艦ミサイルとは違って船体ではなく、電波を発信していたレーダー周辺目掛けて突撃して来る。


 南海艦隊の迎撃ミサイルや主砲による対応は間に合わなかった。もう、それらを動かして何とかなる距離にステルス・ミサイルはいなかった。ここから先は機械任せの自動防衛に頼るしかない。人民解放軍型CIWS(対ミサイル近接防御兵器)が、人間の指示を受ける事もなく勝手に起動して迎撃を試みる。


 人民解放軍型CIWSは、朧気にしか見えない脅威に向かって、円形に並べられた11本の砲身から惜しげも無く弾丸を速射でばらまく。ある程度の効果は認められた。しかし、それから約3秒後に、約3割の「LRASM」が迎撃をかいくぐる。そして、艦載レーダーと人民解放軍型CIWSレーダー部へと直撃したり、至近に激突した。


 不幸は続く。その直後、激しい赤外線放射を捉えたRGM-84「ハープーン」の第二波が到達。レーダーの効率(距離・方位分解能共)がガタ落ちていた為に、艦隊がまるごと、高頻度で直撃弾と至近弾を喰らってしまう。


 これによって、南海艦隊の対艦ミサイルに対する防御力がかなり削ぎ落とされた。だが、まだまだ終わらない。速射砲や後部甲板などの機能をごっそりと奪われた艦艇が多かった。だが、何故か船体の側面にまで及ぶ大きな損傷を負った艦艇は見当たらない。


 そして、どう言う訳か、狙う気があれば狙えたであろう、誘爆を狙える垂直発射装置(VLS)などの艦載ミサイルを積極的に狙う攻撃がまだ行われていないからだ。


 実際、被害が比較的に深刻な艦艇であっても、現段階ではダメージ・コントロールがは極めて有効に効果を発揮していた。つまり、今の所沈められた艦は南海艦隊には一隻もなかった。


 第二波を自らの力で切り抜けたと確信して、人民解放軍・海軍は艦隊の要である空母「福建」を面舵一杯。舵取りを終えてからルソン島へ向けて機関全速。東から吹いてくる風と正対することで、理論値最大の合成風力を作る都合が生じたからだ。


 約半分の、055型駆逐艦の全艦が空母「福建」の動きに付き従う(をフォローアップする)が、残りの052D駆逐艦の全艦は攻撃で傷付けられた補助艦艇の近く留まっている。


 これによって南海艦隊は二部された。


 残された方は、今後の攻撃(興味)を二分させる為のオトリとなる指示を受けた可能性があった。


 空母「福建」から最初の艦載戦闘機群の発艦が始まる。日本国や合衆国の空母より一回り高くなったスキージャンプ式滑走路から飛び出した瞬間、無茶な重武装を施しているらしく戦闘機は海に向かってストンと落下する。しかし、海面ギリギリで揚力が重力に打ち勝ってまるで川鵜(かわう)であるかの様にノタノタと上昇を始める。


 発艦後も、艦載戦闘機と空母「福建」の相対距離の開くペースがあまりに悠長なので、その様子を密かに見守る部外者をハラハラとさせる。特に、水平な空母甲板とカタパルトを使用する発艦風景を見慣れた者であれば、敵であろうがなかろうがヒヤヒヤとさせられて堪らない。まるで、本格的なホラー映画の衝撃シーンの連続を見せられている様な気分になってしまう。だから、ついつい、固唾を呑んで見守ってしまう。


 駆逐艦の後部格納庫からはミサイルの標的とされる危険を承知の上で、ヘリコプターと無人機(ドローン)が立て続けに発艦を始める。多くのレーダーを失った事で生じた索敵能力の低下を補う為の処置である。


D ≒ 2.2(√H1 + √H2)

D → レーダーによる見通し距離(Mile)

H1 → 艦上のレーダーアンテナの設置高(Meter)

H2 → 他船等の物標高(Meter)


 レーダー機器を広く販売してる、フルノのWebサイトによれば、「例えば、自船のアンテナの高さが16mであり、物標の高さが9mであったとすれば、レーダー見通し距離は大体15マイルとなります。」となっている。


 レーダーの見通し距離は、目で見える水平線よりも少し下方まで見渡せる。だから、目視による対空監視よりも有効だ。「2.2」と言う数値(定数)はレーダーの見通し距離である。そして、肉眼による見通し距離は「約2.1」だ。つまり、「0.1」ほど確実に勝っている。


 レーダーの見通し距離を少しでも上げたい。その為には「自船のアンテナの高さ」=「艦上のレーダーアンテナの設置高」である「H1」を上げれば良い。しかし、マストの高さなどには自(おの)ずと限界がある。そこで、艦載ヘリコプターなどの航空機にレーダーを搭載して、艦の上空で滞空させるて、より遠くを見通すのだ。


 一部の駆逐艦では、日本から密輸されたFURUNO社製のレーダーを持ち出していた(※1)。


 空母「福建」を取り囲む南海艦隊の分隊は、間もなく周囲を索敵可能なレーダー・ネットワークを再確立して見せた。当初と比べれば、レーダーのビーム幅(パルス波の幅)が広くなったせいで、広くなった分だけ距離も方位も分解能が低下している。


 アンテナ直径が小さなものしか残されていないので仕方がない。良い点は、レーダーの取り付け位置が低くなった事で最低探知距離が縮まった事くらいだ。


 STC/FTC機能に問題がある様で、ゴースト(偽像)の処理も甘い。死角も大きいし不意に生じる。


 しかし、何も見えないよりはずっと良い。


 5機目の艦載戦闘機が発艦を終えた時だった。空母「福建」は、南海艦隊の分隊を目指して、真正面から接近する多数の影を捉えた。


 戦闘機や爆撃機や巡航ミサイルにしては飛行速度が速過ぎる。音速を突破している。


 数も多すぎる。ドローンと考えれば数の問題は片付く。しかし、飛行速度の疑問はまだ解決出来ない。


 砲弾であるとすれば、大量と言える数と弾道軌道を描いて接近中である二つの事実の説明は付く。しかし、並みでではない大規模な砲でない限り、海岸線から100km以上離れている海上を航行中の南海艦隊まで届く筈がない。簡単に移動・設置が可能な、一般的な自走砲や牽引砲の射程距離は最大でも40kmが限界だ。


 どうやら、レーダーに写る多数の影は、ルソン島北端の内陸部の、おそらくは、フィリピン政府直轄州であるカガヤン特別州の山岳地帯の稜線を越えるコースで発射されたのだ。一度空を上がってから、放物線を描いて高速で海面へと降りて来ている。


 この条件で評価すれば、巡航ミサイルによる攻撃と言う線は除外出来た。正確な砲弾数は数得られなかったが、数にして最低でも40個を越える。


 南海艦隊の分隊は、AGM-158E 「LRASM」とRGM-84「ハープーン」の攻撃を免れた短距離艦対地誘導弾と主砲(連射砲)で、その不明の脅威へ対処する。


 見えない脅威は、南海艦隊の分隊の迎撃活動によって確実に勢力を減衰している。しかし、残念な事に減衰具合は十分とは言い難かった。


 迎撃活動をすり抜けた見えない脅威は、まるで砲弾であるかの様な弾道軌道(放物線)を描きながら、それでも飛距離的でも軽く100km以上は宙を進んでいるので、砲弾にして飛距離が長過ぎた。また、描いている放物線そのものは砲弾を考えても不自然はなかった。


 だが、自由落下が主体の砲弾ではありえない速度で下降して来る。音速超えで一気に距離を詰める。これは明らかにおかしい。


 南海艦隊の分隊の艦は、取り敢えずはそれら(・・・)が全て砲弾であると見込んで各艦の判断で回避行動を取る。進路を大きく曲げたり、増速したり、巡航ミサイルであると言う万が一の事態に備えてチャフやフレアーを撒いて欺瞞するなどの努力を個別で発揮した。しかし、それらの努力は大した効果を発揮してくれなかった。


 見えない脅威は砲弾ではないと言う疑惑を醸し出した。少なくとも一般的な砲弾ではない事を証明して見せた。まるで終末誘導が行われているかの様に、標的としたそれぞれの艦の運動に従って落下軌道を修正して(ねじ曲げて)見せたのだ。


 単に、大量に砲弾をばらまかれただけだと楽観していた南海艦隊の期待は裏切られた。砲弾であればいくら撃たれても、そうやたらに当たるものではない。また、回避行動さえ取れば、完璧に未来位置を予測して発射して居ない限りは簡単に直撃を避けられる筈であった。


 ーーー着弾!!


 砲弾が次から次へと落ちて来る。そして、南海艦隊の戦闘艦を一隻、また一隻と破壊し続ける。


 例えば、砲弾の一つが空母「福建」を発艦中だった6機目の艦載戦闘機を砕き、更に甲板に大きな穴を開ける。


 囲んでいる駆逐艦群にも次々と命中する。


 例えば、3隻の駆逐艦が巨大な炎と爆風を伴う大ダメージを受け、その中の一隻が喫水の下まで届く大穴を開けられ、早々にバランスを崩して激しく横転した。


 南海艦隊は致命的な損傷を受けた。


 とんでもないことに、偉大なる党が全く許可していないに拘わらず、道徳的正義を体現する(べき(・・)ではない。する(・・)のだ)解放軍の多数の戦闘艦が沈み始めてしまった。


 これこそ、真に、深刻な反革命行為である。恥を知るべき!! 神、いや偉大なる党をも怖れぬ、目を覆いたくなるほどに大胆且つ不敵で不適な現象である。おそらく、森羅万象は偉大なる党より、致命的な罰を与えられる事になるだろう!! 嘆かわしい!!


 あれ、宇宙に存在するすべての事物や現象って・・・全て偉大なる党の管理下に置かれていた筈では? それこそが紅い皇帝が背負う権威の根拠(ドグマ)であったのでは? ま、いいか。


 空母「福建」は、空母としての機能は失っていたが、まだ沈没の危機には瀕していなかった。だが、周辺海上は、早くも傷付けられた艦艇から漏れ出した油が虹色に広がり、引火して、文学的ではない方向での「火の海」を形成し終えている。


 音速で南海艦隊へと迫った影の正体は、ラムジェット搭載超長射程誘導榴弾だった。福祉先進国で、難民天国で、エコで、重大犯罪者への極刑も廃止されている、武器輸出に厳しい制限を掛けている東洋の小国とは違って、超絶先進文明国家(※2)である北欧国家の一企業が開発した殺傷兵器だった。


 何と、その兵器は、民主主義国家群や人民共和国であれば、まったく珍しくもないフランスに起源を持つ軍用規格で製造された兵器=155mm榴弾砲(牽引式も含む)から発射可能!! 射程約160Kmを誇る。撃ち出した後、初速でラムジェットを起動して、飛翔距離と飛翔速度を飛躍的に上げる類いの、便宜上の榴弾だった。実際、扱っているのも砲兵だった。


 その、見習うべき北欧が開発に成功した殺傷兵器は、複数の発射モード搭載と言う施術面での高柔軟性まで持ち合わせ、GPS+誘導(通信による外部からの指示に基づいた座標修正=限定的な終末誘導)によって戦闘艦程度の比較的低速な移動目標であれば追尾可能と言う優れものだ。


 ーーーやはり、日本国は憧れの北欧を見習うべきだ。


 見習って、積極的に学んで、彼等に負けない程に文明的且つ高効率な兵器を開発すべきだ。


 フィリピン共和国・陸軍は、「国連軍」の本隊に誘導されてルソン島へ近付いた南海艦隊の分隊の艦が、射程圏内に入ったところで山岳部の稜線の裏に隠れていた砲兵隊が、備蓄していた全てのラムジェット搭載超長射程誘導榴弾を撃ち尽くした。


 長年の怨み辛みを十二分に乗せて、南海艦隊の分隊の艦へ向けてありったけ思いを込めて一斉射撃を行ったのだ。


 また、補助艦艇を取り囲んで海上を漂いながら復旧作業を手伝っている、もう一つの方の南海艦隊の分隊の艦の状況も安泰とは言えなかった。


 ついさっきまで艦隊後方に位置していた、フィリピン共和国・海軍のマエストラーレ級フリゲート艦"ラジャ・フマボン II"が、ジェラルド・R・フォード級原子力空母(CVN)である"USS ジョージ・W・ブッシュ(CVN-83)"を追い越してやや前方へと移動する。


"ラジャ・フマボン II"には、元々は地上移動式発射台だったブツを改造して取り付けたと覚しき、1基8セルで構成される巨大な艦載発射台のカバーが開放される。そして、その中身であるミサイルの固体燃料ブースターが点火されて勢い良く撃ち出される。高さを目標に向けて、音速の三倍を目指して加速し、海面スレスレを飛んで行く。機動を蛇行させるには、まだ早過ぎる。


 これらは、インドとロシアと共同開発した対艦超音速巡航ミサイル。年代物の(レガシー)PJ-10「ブラモス」だ(インドのメーカーが定期整備業務を請け負っているので、古くても完動状態だ)。固体燃料ブースターのステージが終わると次は液体燃料式のラムジェットエンジンが点火される。最高速度は音速の3倍まで加速され、約300kgの半徹甲弾をもう一つの南海艦隊の分隊の全ての艦艇へ間違いなく配達して見せた。


 全長約8mの対艦超音速巡航ミサイルは、勢い余って構造が商船構造の為に脆い補助艦艇を甲板から艦底まで貫いた。フィリピン共和国・海軍の追加の攻撃によって、もう一つの南海艦隊の分隊の方も艦艇の三割を失った。残りの艦艇も決して無傷ではなく、今は辛うじて浮いている損傷艦であっても、運良く港へ辿り着けたとしても、その後に修理や回収を施してもう一度海上へ戻そうとは思えない程にや(・)れていた。


 これで、偉大なる党が人民解放軍・海軍を通じて南海艦隊へ下賜した使命、台湾海峡と上海沖まで出向くピクニック(長征)の実行は物理的に不可能となった。


 フィリピン共和国・陸軍とフィリピン共和国・海軍は、創設以来最大の戦果を獲得した。フィリピン共和国が、人民共和国が誇る南海艦隊の進路をねじ曲げた。いや、転進せしめた。


 もちろん、合衆国によるお膳立てがあっての事であろうが、戦果は戦果だ。事実は事実であり、誰であっても後からいい加減な理由を仕立て上げて(民族的鋭気を理由に)事実無根と主張する事は許されない。


 直接的には、フィリピン共和国のフィリピン共和国の領土や排他的勢在水域(EEZ)から発射された兵器が、同国の接続水域まで侵入し、無害通行権から大きく逸脱する行為を繰り返したと見做した南海艦隊に対して、最終的に大被害を与えたのだ。


 ーーー国連海洋法条約をガン無視するDQNに、小国が明確な形で「No.」を突き付けた。


 この出来事は折り返し地点を越えた21世紀の国際政治の舞台における、極めて象徴的な、いわゆる特異点となるだろう。被害を受けた勢力以外は、誰もが何処もが、納得の行く顛末になったと言う一点において。


 想定外の試練に曝された南海艦隊は、航行可能な艦艇だけを集めて、来た道をそのまま帰る以外に選択は残されていなかった。帰還した後に解放軍上層部からはキツく叱られる事になるだろう。責任を取らされて下方されてしまうかも知れない。しかし、殺されるよりは良い。生きていればこそ浮かぶ瀬もある。自らを知らぬ者の為に、身を捨ててなどいられない。


 航行不能な艦艇や沈没した艦艇から逃れた乗員達を放置して、南海艦隊は南進を始めた。


南海艦隊の上空には、お粗末(少数)ながらも離陸に成功した迎撃戦闘機が艦隊防空が実行している。現場としては出来る限りの対策を採っている。おそらく、問題は現場にあるのではなく、戦線(前線)から遠く離れた所で指示を下している後方(安全地帯)の本陣の方にある違いない。


 ーーー言うは易く行なうは難しな命令ばかり下す。下される。


 そして、事が上手く収まれば命令者の手柄。上手く収まらなければ奴隷の責任による失敗。


「国連軍」もまた、そんな南海艦隊の苦闘の具合を見守りながら、また何か実現不可能(荒唐無稽)な、無茶な命令が新たに下されるのではないかと心配しながら、先ほどまでと(即かず離れずの)変わらぬ(距離を保って)船速で南進を続けた。


 粛々と。



※1= 参考。FURUNO。古野電気。フルノ製品情報サイト。こんなに分かり易いサイトがある。 https://www.furuno.com/jp/


※2= マスコミと一部の有識者によれば。

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