第10話
―コールドウェル辺境伯領 北の森 ハーマル山 中腹―
諸々の準備や用事も終わったし、出発しよう…そういう流れになった時、ふと森の奥から斧を持った少女が飛び出してきた。
大きな翼と尻尾を生やしているのが目視できる。
「ッ?!」
戦斧を大きく振りかぶりながらこちらに迫ってくる。
この距離では回避は間に合わない。
ガードして様子見を…。
「〈焔槌〉!」
斧がこちらに振り下ろされる瞬間、斧全体を炎が覆い、そのままこちらに振り下ろされた。
俺はそれを剣を地面と水平に構え、正面から受ける。
ギンッ!
甲高い金属音と共に全身に衝撃が響く。
「正面から受けた…!?」
どうやら相手は驚いた様子だ。
この隙にカウンターを叩き込む!
「…!」
「〈虚空一閃〉ッ!」
素早く一撃を叩き込むが、勘付かれたのか後一歩のところで飛んで避けられる。
逃がすものか!
「イリアさん!対空魔法を!」
「えぇ!〈氷柱落下〉!」
上空に無数の氷の槍が召喚され、ドラゴン目がけて一気に降り注ぐ。
だが、人化状態で小回りが効くからか、簡単に避けられて禄に当たらない。
あの機動力と小回り性能では攻撃を当てるのは至難の業だ。
どうにかして人化を解く必要がある。
なんとか本気を出させれば…
「クレア!光魔法であいつを貫けるか?」
「わかりました!〈神光穿槍〉!」
いくらドラゴンといえど、流石に光魔法の直撃は痛いだろう。
さぁ、|本気を見せてみろ《化けの皮を剥がしてやる》!
「くっ…!〈人化解除〉!」
流石に避けられないと感じたのか、ようやく人化を解いた。
周囲が光に包まれる。
光が収まった瞬間、そこに現れたのは紫の鱗に白色の分厚い皮膚を持った巨大なドラゴンであった。
「壮観だな…」
直接邂逅して感じるが、やはり上位種とは強大だ。
だが、なぜだろう。
こいつからは先程から殺意を感じない。
狙いもどうやら俺と親衛隊隊長だけのようだし、なにかおかしい。
「まぁ、考えても仕方ない。倒してから考えよう」
と言ってもどうしたものか。
親衛隊らは伯爵家護衛のために防戦一方のようだし…。
『来ないならこっちから行くっすよ?〈火炎爪〉!』
「…ッ?!まずい!」
親衛隊らのバリアが割られた!
このままあいつに魔法を放たれたら、クレア達ごと消し炭になりかねない…!
どうにかして止めなければ…!
『〈神雷滅火〉!』
風が吹き荒れる。
ドラゴンの口に魔力が集中し、光がチラつく。
この隙に仕留めるしかない!
「危険だがやるしかない…!」
俺は剣をやり投げの要領でドラゴンの遥か上空に向かって投げる。
その後俺は魔道具に魔力を込め、発動させる。
そして次の瞬間、視界が変わる。
「〈天墜〉!」
空中で真下に剣を突き立て、剣に全身の体重を乗せる。
数秒の間の後、俺は落下の勢いのままドラゴンの首元に深々と剣を突き刺した。
『嘘?!』
地面が揺れる。
ドラゴンの巨体が地面へと崩れ落ちる。
「終わった…か」
俺はドラゴンから剣を引き抜き、クレアの元へと駆け寄る。
元妹とはいえ、あいつだけはいい奴ではあるので流石に心配くらいはする。
「大丈夫か?」
腰が抜けたのか、座り込んでいるクレアに手を差し伸べる。
少し顔が赤いが大丈夫だろうか?
「え、えぇ…。お陰様で」
「それは良かった。立てるか?」
「はい」
クレアを引っ張りあげる。
「ギルバート!」
クレアと話していると、イリアさんが駆け寄ってきた。
「イリアさん!大丈夫ですか?」
「私は大丈夫よ。あなたの方こそ大丈夫なの?」
「えぇ、少し手足が痺れてますが、五体満足ですよ」
「それは良かったです」
「ギルバート殿、ご無事ですか?」
親衛隊隊長も話しかけてきた。
どうやら無事なようだ。
「はい。そちらにお怪我は?」
「軽い傷はありますが、重症の者はいません。あなたのお陰です」
「いえいえ、あなた方親衛隊が優秀だからですよ」
良かった良かった。
皆無事だ。
「あのー…」
全員が生還できたという喜びに浸っていると、クレアが声をかけてくる。
「何?」
「ドラゴンの死骸が消えてる気がするんですが気の所為ですか?」
「「「?!」」」
全員に衝撃が走る。
振り返ってみると、確かにあるはずの死骸が消滅し、中央には俺達を奇襲してきた少女が倒れている。
「…ギルバート殿、死んでいると思いますか?」
「死んでいるならば人化魔法は解除されるはずです。
ですので、気絶しているだけかと」
武器を構え、最大限の警戒をしたまま近寄る。
近くで見てみると、ロングヘアーのツインテールに、白と紫のツートンカラーの髪。
白と紫のオッドアイに、抜群のプロポーションを誇る体型。
年齢は俺と同じくらいに見える。
「…戦斧を持っていない?」
「魔法で作り出した武器やもしれませぬ。ギルバート殿。気をつけて」
「わかっています。どうにかして拘束しないと。
クレア、こっちに来てくれるか?」
「……わかりました」
そのまま監視を続けていると、ふと少女の目が開いた。
「ッ!まずい!」
咄嗟に剣を構えようとするが、一手遅く、そのまま少女に押し倒される。
この距離ではどうしようもないだろう。
「…やっと見つけた旦那様を殺すわけないじゃないですか」
空気感か、はたまた表情から察したか、少女は自身に敵意が無いことを示した。
「は…?何を言って……」
「あなたより強い人は見たことないっすよ!
だから、あたしはあなたの伴侶になることに決めたってわけっす!」
「………」
そういえば、『ピラティス・オンライン』にはこういう設定があった。
“一部のドラゴンは、伴侶に自分より強い他種族の者を選ぶ風習がある”
「……完っ全に忘れてた…」




