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最強ギルドごと異世界に転移した最強種たち、暇なので世界を滅ぼしてみた  作者: 朝雨 さめ
第二章

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第二十四話 ネタバレになるから言わないで? う~ん、それじゃあこれだけ! 大・変・形ぇえええいっ!!!!!




猫バイトは、猫が好きだ。


自由気ままに動く様子や、気まぐれにすり寄る愛着。

そのすべてに魅了された彼は―――――しかし、極度の猫アレルギーだった。


医学は昔より進歩していたが、アレルギーを完全に根絶することは数十年前に不可能と断定されている。

そのため猫バイトは、何よりも大好きな存在に、たったの一度も触れられない人生を送っていた。


ただ、どうしても猫を愛する気持ちは抑えきれない彼はふと、猫の絵を描くことにした。

絵ならばアレルギー反応は出ないし、触れることもできるからだ。


――だが、足りなかった。

当然である。

動かないし、声も発しない。

ただの絵なのだから。


だから今度は、“もの”を作ることにした。

猫の模型にフィギュア、ぬいぐるみからガラス細工、果ては精巧な人工ロボットまで手掛けた。


――だが、それでもまだ足りなかった。

“もの”は動くが感情がない。

温もりも、命の鼓動もないそれは、"猫"と呼ぶには程遠いものだった。


実物に触れることは一生叶わない。

それでも、完全な猫を脳内で補完し、想像力を研ぎ澄まし続けた彼の理想は――――いつしか、思いがけない形で世界へと届くことになっていた。


天才発明家。

誰がそう呼んだか、猫に関してのあらゆる創作物において、誰も横に並ぶものがいないほどの執着を見せ続けた頃。

ある日、彼の元へ、一人の男が訪れた。


男は静かに告げた。


「私なら、君に猫を触らせることが出来る」と。


その言葉は猫バイトにとって、これまでの人生で聞いたどの賛辞よりも、魅力的な言葉だった。


そうして彼は、目の前の男―――"しがない開発者"を名乗る人物の指示のもと、"創造種"としてゲームの世界へと入り――ついに、猫に触ることが――――――できなかった。


創造種とは、想像力によってソレが現実になる種族。

長年に渡るアレルギーへの恐怖心と固まった常識は、いかに天才と称された少年でも、中々消すことは出来なかったのだ。


だが、それでも開発者は言った。


「想像とは、願いや夢を形にするもの。……しかして君は、物事において躓いたときは、どう対応する?」と。


男の言葉に、猫バイトはハッとする。

確かに、これまでも様々な状況で上手くいかないことはあった。

そうだ。それなら――――。


そうして、猫バイトが思い至った思考。

それは―――。



あぁ、自身の体で無理ならば、違う体にすればいいのでは?



そう考えるが早く。

彼は、自身の体をあるものに変え――――そして、ついにその時がやってくる。


「……っ!」


"岩の体"にした彼の大きな手に、小さな猫が静かに寄り添う。

アレルギー反応は……ない。


……ただ、同時に猫の感覚も無かった。

岩に触覚はないのだから当然だ。


……でも、それでも彼にとってこの景色は、経験は、これまでの何よりも幸せな時間だった。



―――それから彼は、その記憶を忘れぬよう、自身の体を岩のまま一度も変えず。

そのまま似合わない猫耳を生やし、開発者がわざわざ作ってくれたチョーカーと尻尾の装備品を着用し続けた。

一年、二年、そしていつしか創造種の頂点にまでなる日でさえ、その装備は一切外すことはなかった。


世間は、彼のことを"消えた天才"と呼んだ。


だが、彼にとってはどうでもよかった。


ただ……大好きな猫に触れられるのであれば、ここで死んでもいいと思っていたほどに――――。





◇◆◇





二頭のアグニスタウロス――オキイチとオキニは、同時に大地を割った。

音を置き去りにするほどの超神速で行う超質量の一撃―――【断頭牛葬(タウ・ロース)】が、動けない猫バイトの岩胸に直撃する。

捉えられた巨岩は、絶大な圧力を受け止める限界を迎え――彼らが腕を振りぬいた次の瞬間、幾千の破片となって四散した。


「ハッ、呆気ねェなァ……!! 岩の塊だかなんだか知らねェが、粉々になっちまえば終わりだろうッ!」

「あハハッ!!!  砕けた砕けター! お砂になっちゃっタ~!!」


土煙の中、黒毛と赤毛の凶獣たちが愉悦の表情に顔を歪ませながら息を吐き捨てる。

地には岩の欠片が無残にも散らばり、そこには、猫のチョーカーと、尻尾だけが、形を成して残されていた。


圧倒的な破壊の余韻の中、砂煙が熱気に舞い上がる。

オキイチは、結果からみればあまりにも呆気ない結末にフンと鼻を鳴らしながらも、今は亡き主への思いを馳せ、一方のオキニは、砂と化した岩の粉末を楽しそうに踏み荒らしていた。


「あぁ~ア、モウ終わっちゃっタ! もっと楽しみたかったナァ~!」

「……気にすんな、オキニ。まだこの下に、本当の仇がいるからよォ」

「えっ! そうなノ!? じゃあ早く行こいコ~!」


そうして彼らは次なる目的――イーディスを殺した骸骨への復讐のために地を踏みしめ、自身が飛ばされてきた地下へと続く穴へと歩き出す。


兄貴の仇を討つ。

ただ、その揺るぎない殺意と狂気だけが、彼らの太い脚を前へ前へと推し進めていた。











――だが。











「……あァ……?」


――――歩き始めて数歩、先頭を行くオキイチの脚がピタリと止まり、その後、すぐに片膝をついた。


「どうしたノ!? 兄ちゃン!?」


後ろを歩くオキニがそう問いかけるも、しかしオキイチは答えない。

……いや、答えることが出来ないでいた。


「な……んだ……こりゃァ!?」


彼を襲ったのは、激しい痛みではなかった。

頭を揺らす衝撃でも、どこかから攻撃を受けた感触すらなかった。


それでもなお。

まるで、世界そのものが歪曲し、平衡感覚だけが根こそぎ失われていくような、強烈で異常な眩暈だけが、自身を襲い続ける。


己の肉体を支えるだけの足腰に力が入らない。


「グ……ヌォォオ……!」


立とう立とうとは思うものの、しかし体が思うように上手く動かずそのまま崩れ落ち、オキイチは地面に太い手を突き立てる。

徐々に呼吸が荒くなり、視界の焦点を合わせようと黄金色の瞳を幾度も開閉させるが、眼前に広がる光景はぐるぐ々と回転を繰り返すばかり。


「……え? 兄ちゃン……!? どうしタの……!? 大丈夫!?」


余りにも不可思議な状況を不審に思ったオキニが、膝をつく兄の背中に声をかけた。

その脳天気な声に答えようと、オキイチは口を開こうとした矢先。

しかし不意に、オキニの視界もまた、真っ逆さまに傾いた。


「っえ……? あ……レ……?」


両者の間に言葉が途切れる。

まるで脚の感覚がない。

いや……それどころか、己の体でさえどこに存在するのかすら捉えきれない。


立っているのか?

それとも倒れているのか?


して、その答えを示すように、オキニの巨大な肉体が地に伏せ、ドォン……ッ!!という音とともに、地に落ちる砂埃が宙へ舞う。


「え……ッ……!? なに……コレ……? あ、頭が……嫌なカンジ……!」


二頭のアグニスタウロス――山々をも破砕する圧倒的な怪力を誇る灼炎の最高峰だけが、何もない空間でひれ伏し、苦しみ出すという異様な光景。


しかしそんな苦しみの最中。

彼らの耳に、不気味な音が鳴り響いた。


―――――チリンッ。


冷ややかな金属音。

その音の出所を見るように、最大限の力を振り絞ったオキイチは、すぐに驚くべき光景に目を見張った。


自らが崩した砂埃が宙を舞い、やがて幾千の砂塵が一瞬にして純白の濃霧へと姿を変え、炎のようにゆらゆらと立ち上り始めたのだ。

そしてなにより彼を驚かせたのは、つい先ほど塵芥へと変えた岩の巨人にもつけていたチョーカーと尾が、濃霧にくっついていたことである。


なんで、どうして。

奴は確実に葬ったはず。


そんな思考を限界まで巡らせるも、しかし次に言葉を発したのは―――その濃霧だった。


「んやぁ~! 危なかった~! まぁ~じで死ぬ"かと思った"よね~! いやはや、油断はするもんじゃないね~」


空間全体を漂う白煙の中から、へらへらとした口調の声―――死んだはずの猫バイトの声が立体音響のように全方位から響き渡る。


「な……ンだその姿は……ァ! て、めェ……砕、け散った……はず、じゃ……ッ!?」


あまりの現実離れした光景に、オキイチは苦しむ体も忘れ、思わず問いを投げかける。

だが、白煙と化した猫バイトは、あっけらかんとした態度で……長々と言い放った。


「え? いや、見てわからない? 普通に生きてますケド??? てかさ~、いい加減、【断頭牛葬】? だっけ? に頼るの辞めたら~?笑 それが来るとわかってたら、そりゃこっちは殴ることも潰すことも不可能な"煙になればいいだけ"だし笑。 あ、その顔もしかして、勝利宣言とかして気持ちよくなっちゃってたカナ? ぷぷぷ~~~! は~~~い残念でした~~! 第二ラウンド、スタートで~~~~す!笑 ま、スタートも切れないと思いますケド~~~笑笑」


ゆらゆらと漂う白煙の猫耳を揺らしながら、猫バイトは実体を持たない不気味かつ軽薄な存在感で、二頭の巨牛をあざ笑うように空中を舞う。


―――そう。

猫バイトが行ったことは……いつも、単純である。


彼が二体のアグニスタウロスに殴られる直前に考えたのは、あくまで、死ぬ"かも"である。

自らの思考と想像をそのまま現実の具現へと変えてしまう創造種の特性上、ネガティブな想像すらも形を成すリスクはあるものの、しかし、ただの想定では世界を歪めない。


次いで彼が考えたのは、「あ、煙なら物理攻撃効かないじゃん!」である。

そうして思考に至った彼は、これまで頑なに維持し続け、彼のトレードマークでもあった岩の肉体を、迷いなく放棄し、形なき気体――白煙へと姿を変えた。


結果。

アグニスタウロスらの全力の一撃は確かに直撃した。

だが、すでに形を持たない白煙と化していた猫バイトにとって、それはただの空気をかき混ぜたに過ぎず、一切のダメージすら与えることはできなかったのだ。


さらに、白煙の本質は、微粒子が空気中の水分と結びついて初めて成り得る気体であるということ。


……が、まぁそれを猫バイトは正確には認識しておらず。

現在の彼の勝手な認識において、今の自身の状態とは、実質的に"液体"でありながら"気体"でもあるという、既存の物理法則を完全に無視したご都合主義のトンデモ状態となっていた。


故に。

自分が液体であり気体なんだから、この空間に存在する液体や気体はすべて自分の体の一部として自在に操ることができるよね~?"になった彼が、まず最初に行ったこと。

それは極めてシンプルでありながら、生物にとって致命的な環境改変だった。


それが――この場から、"酸素だけを奪う"こと。


空間内の酸素が急激に量を減らしたとき、彼らの身に何が起きるのか?


それは、あまりにも現実的な理――――酸素欠乏症である。

本来、体を正常に動かすために必要な酸素が空気中に不足していることによって、頭痛や眩暈が引き起こされる現象。


勝利を確信した彼らは、しかし大気中の酸素を猫バイトに減らされたことに気が付けず、空気中の酸素が減少した空気を吸ってしまう。

これにより、通常よりも大きな体ゆえに、大量の酸素を必要とする彼らの体内に酸素が廻らず、やがて倒れることとなり――――――。


「いや~、しっかしあれだねぇ~? どれだけ強い敵も、息が吸えなきゃ死ぬだなんて……。もはや進化の過程として、無呼吸が出来てもいいとは思わない~? 今の僕みたいにさ~?」


そう問いかける彼の声はしかし、誰一人として答える者のいない静寂の中、ただ白煙の霧の中に空しく溶けていく。


「……って、アレ? もう死んじゃった……? あや~~~~、酸欠ってこんなに早く死ぬんだ~……。はぁ~あ、折角赤毛と出会えたから記念写真撮って、ハナちゃんに送って自慢しようと思ったのに~~~~……って、そっか、もう出来ないのか……残念、残念……! 仕方ない!」


目の前に転がる、二頭の凶獣の成れの果て。

彼らは紛うことなく強者であり、かつて運営のお気に入りとして猛威を振るっていたほどの魔獣である。


だが、此度は相手が悪かったといえよう。


猫バイトは、サクラノヴァほどに努力を好む性格ではない。

事実、彼がゲームの中で、アグニスタウロスと相対したのは僅か一度きりであり、赤毛と相対したのは此度が初めてでさえあった。


彼は努力をしない。

しかしてそれは決して彼が怠惰であるわけではない。


彼にはそもそも、努力をする必要がないのだ。


現実世界においてさえ『消えた天才』と称されるほどの存在。


たった一度。

初見で相対した、あのアグニスタウロスでさえ、その天才の足元にも及ばなかったほどに。


そんな彼がゲームの中でつけられた最初の二つ名は―――『現れた人外』。


周囲の想像を遥かに超えるほどの想像力。

理不尽極まる常識改変能力。

そして、不死に近い肉体。


そのとんでもないほどの能力は、かつて、あのサクラノヴァにさえ一度勝利を収めているのだから。


……尤も、この一件についてはサクラノヴァの恐るべき口封じによって、口が緩いことで知られる猫バイトでさえ周囲に漏らすことはなく、真実を知る者は当事者のふたりだけであるが……。

とはいえ、マスターが台頭する以前の時代において、彼こそがまさに"最強のプレイヤー"であったことは疑いようのない事実。


灼炎種の頂点に君臨する灼炎主を一方的に制した不死の王。

しかしその底知れぬ実力をして、それを遥かに凌駕する圧倒的な理不尽の前においては―――最凶の獣ももはや、そこらにいるただの獣でしかない。


加えて。

彼が今までの自身の大切な思い出である岩の体をいとも簡単に変容させるほどの、新しく得た、より大切な仲間(おもいで)を守ろうと生きる力の前では……いずれにせよ、彼らに勝ち目などはなかったのである。





……とはいえ。





再び静まり返った大気の中。

白煙の霧を漂わせる猫バイトは、しかしどこか不満げに呟いた。


「う~ん……。初めて気体になってみたけど……な~んか動きにくいな~?」


そう呟きながら、自身の白煙の体を器用にうねらせながらもうんうんと唸り続けた彼は、ふと、何かを思い立つと、自身の体を好みの輪郭へと強引に再構築していく。


「え~っと、これを、こうして……うんっ、やっぱこれが落ち着くよな~!」


直後、彼の白煙にかたどられた体は、瞬く間に見慣れた硬質な「岩の体」へと完全に変異する。

もはや何度目かと思える非常識に……しかし、突っ込む者は誰一人いない。

僅かばかりにスリムになった体にさえ……しかし、突っ込む者は誰一人いなかった。


「さ~ってと、僕もぐずぐずしてないで、早くマスターたちのところに行かないとね!」


――かくして。

蓋を開けてみれば、圧勝という結末を残した猫バイトは軽やかな足取りで次の目的地へと歩き出――――。


「うぉおおおおりゃあああああああ!!!!!!!」


……さず。

彼はいきなり自身の両腕ではなく、なぜか下半身だけをドリル形状へと変形させると、そのまま直下の地面を猛烈な勢いで掘り進めていくのだった―――――。



しかし、突っ込む者は誰一人いなかった……。


































―――そう、突っ込む者だけは。



生き物すら住めぬ空間と化した火山内部の一部屋。

しかしその部屋に、巨大な影が歩み寄る。

一歩、また一歩と進んだその先にある、二体の亡骸の前で立ちどまった影は、ゆっくりと屈み、その亡骸に手を添える。


巨大な影は、その巨体を小さく揺らしながらも首を振り、彼らに向かって両手を合わせた。


そして、彼……いや、彼女は小さく呟いた。


「……オキイチお兄ちゃん……オキニ……。ゆっくり、休んでね……」


微かに遠くから聞こえる機械的な掘削音を背後に、彼女はただ、手を合わせ続けていた―――――。



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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

 

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何卒よろしくお願いいたします!

 

次回更新は申し訳ありませんが、来週の土曜になります!

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