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最強ギルドごと異世界に転移した最強種たち、暇なので世界を滅ぼしてみた  作者: 朝雨 さめ
第二章

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第二十一話 不死王 VS 灼炎主 ②



だが――――。


「―――ハァ、ハァ……なぜだッ!? ……なぜ何も起こらねェ!?」


……ただ熱気が虚しく霧散するだけの光景に、イーディスは目の前の骸骨に向かって堪らず叫んだ。

どれだけ力を入れようが、熱気を高めようが、魔力を練ろうが……しかし何も変わることがない。

そして……遅れながらに気付く。


「いや、まさか……この液体のせいか!?」


足元に広がる、悍ましくも静謐な液体。

自身の姿をも映さぬ漆黒の液体こそが自身の変化を拒んでいると理解したイーディスは、即座に液体を弾き飛ばそうとする。

藻掻き、足掻き、暴れ……そしてそんな光景を前に、黒きローブに身を包んだ骸骨――サクラノヴァは、ただ一層。

……心底つまらなそうに、乾いた骨のような音を響かせた。


『……あぁ、今頃気が付いたのか? 全く……未知と無知の区別のつかないところはやはり獣だな……』


侮蔑を隠そうともしない冷徹な声に、イーディスはある思考を巡らせては消し、なおも叫んだ。


「……!? どういう……いや、まさか、そんなこと出来る訳がねェだろう!?」

「ふん、出来るからこうなっているのだろう?」


取り乱すイーディスの言葉に対する冷徹なその一言は、一瞬で彼の理性を消し飛ばした。


「ふざけるなァッ!! そんなこと出来るわけがねェッ!! ハァアアアアアアアッ――――!!」


まるで、底知れない恐怖を払拭するかのように咆哮をあげながらも再度試みるが……しかし一向に何も変わらない。







――サクラノヴァという男は、種族王の中でも特に効率厨という、極めて合理的な思考の枠組みに身を置きながらも、同時に狂気的なまでの完璧主義を併せ持つ、特殊なプレイヤーだった。


ゲームにおいて、どれほど経験値効率の優れた狩場が存在しようとも、そこに数パーセントの不確定要素――例えば、クリティカルを出さなければ倒せない敵や、湧き周期のズレなどのどうしようもない要素――があれば、彼はその場所を一切利用しない。


彼が求めるのは、ただ一つ―――100%の再現性のみである。


ただ、それでも彼がこの広大なゲームの世界において、常に最もレベルが高いプレイヤーとして君臨し続けたのは、偏に彼が、圧倒的なまでの努力家であったからだろう。


たった一度でも自身の想定外の事態が起きれば、それがたとえ雑魚中の雑魚魔獣相手であったとしても、自身の思い描いた通りの結果になるまで何度でも状況を再現し、検証し、不確定要素が無くなるまでを何度も繰り返す。

些細なことでも異常を嫌い、常に万全を期す。

故にこそ、彼はこのゲーム随一の課金厨でもあるわけだが……。


しかしそれはそれとして。


そんな性格ゆえに、サクラノヴァとかつて相対した強者は口を揃えてこう話す。


―――「彼に勝てるとすれば情報が揃っていない初戦のみ。二戦目以降に勝つ可能性は一切ない」と。


灼炎主である猛虎焔獣の戦績データは、あくまで公式に記録されるデータのみが表示されるだけのものである。

運営が、周囲にどれだけこのレイドボスが強いのかを知らしめるためだけに設定した表向きのデータ。


……故に、運営はおろか、彼と相対したことのない他のプレイヤーは、データに隠された彼の異常性に気付かない。


【《ユグ:ドライアス》における、猛虎焔獣(ブレイズ・ビースト)の戦績】


■総合データ


改め。


■総合データ(非公式)


最多挑戦者――サクラノヴァ/ 15,232回

最多総ダメージ――サクラノヴァ/ 752兆5,332億8366万2240ダメージ

最多総生存時間――サクラノヴァ/ 182h32m55s


そして。


第二形態最速移行者―――サクラノヴァ/ 30s


尤も、上記の非公式データを含めても、彼が単体でレイドボスである灼炎主を討伐した実績はない。

これは、ゲーム内における灼炎主は第一形態の体力が無くなると、強制的に第二形態へと移行するようにプログラムされていることで、どれだけ早く第一形態を突破しようとも訪れる圧倒的な体力差やデバフ無効、割合ダメージ軽減など、様々なギミックをして彼を苦しめていたからである。


……しかし、彼らが今立っているのは、ゲームと似て非なる現実の世界。


もし、ここがゲームの世界のままだったなら―――。

サクラノヴァの放った魔法――【時の墓標(セメント・モーリー)】による、"あらゆる変化を拒絶し、魔法発生時の状態を固定"する効果を無視して第二形態に移行できていたかもしれない。


もし、ここがゲームの世界のままだったなら―――。

判断力という重要な力が失われなかったかもしれない。


もし、ここがゲームの世界のままだったなら―――。






……そんな可能性の話は……しかし残酷なまでの現実の前には無意味である。


『言っただろう? 貴様のようなモブに時間をかけている暇はない、と……』


無慈悲にも告げられる死刑宣告に、イーディスは信じられないというように目を見開き、先までの威厳ある姿は消え、ガチガチと牙を鳴らしながら絶叫をあげる。


「……オ、イ……おいおいおいおい!!! ふざけるなァ! そんな、そんなの、ありかァ……!?」


第二形態という、自身に残されていたはずの最強の切り札があるがゆえの余裕は、いつしか消え……。

そして、その胸中に生じた一瞬の動揺と、"死ぬかもしれない"という"一欠片の恐怖"を見逃すほど……不死の王が纏う【死臭】は優しくない。


「―――っあ? この寒気ァ一体……っ、オイ待て! や、やめ……やめてくれ……!」


決戦場を満たす"死の気配"が、イーディスの心に芽生えた極小の恐怖を瞬時に数千、数万倍へと強制的に増幅させる。

かつて数多のプレイヤーの戦意を根こそぎ奪い去った理不尽なパッシブスキルが、今、種族の主の精神ですら内側から完全に噛み砕いていた。


「い……嫌だ……! し、しに、し、死にたく……ま、待て……おい、待てって!」


そこにはもはやかつての種族の主としての威厳はおろか、反撃の意志など湧くはずもなく。


「お、お前らの仲間の種族の主だぞ!? お、俺ァ!!!!!!!」


あまつさえ無様なまでの命乞いを行うその姿を、サクラノヴァはただゴミを見るような冷たい双眸で見つめ返す。


『ふん……負け犬の遠吠えは見苦しいぞ?』


完璧主義者が、全ての不確定要素を排除し終えた時にだけ見せる、絶対的な勝者の余裕。

そしてその後、はたと何かに気付いたかのように首をかしげると、彼は憐れむように、その二つ名を弄んだ。


『……あぁいや……貴様は"虎"だから、"負け猫"、だったな』

「や……め……それは……それだけは――――――」


尊厳を、過去のすべてを否定する言葉。

武を極め、悉くを灼き尽くしてきた暴威の化身たる猛虎焔獣。

あらゆる存在を"力"で捻じ伏せ、平伏させるその最強の獣は今や、見る影もないほどにみっともなく首を横に振り続けるだけのただの動物と化していた。


誇りを保ったまま死なせてくれと、そのプライドだけは汚さないでくれと。せめて全力を尽くしてから殺してくれと。


だが、完璧主義の効率厨の前には、敵の情に流されるような無駄な思考は存在しない。

サクラノヴァはこれ以上の会話を時間の無駄だと切り捨てるように、静かに、絶対の死を告げる呪文を口にした。


『―――【抗えぬ死の運命(コーズ・オブ・デス)】』


―――刹那、この決闘場から"音"と"色"が失われた。

この空間だけが、まるで別世界に切り取られたかのように無機質なモノクロームへと反転してからものの数秒後。

世界にドサリ、と重苦しい音だけが響くと、次第に空間が色づき始め、周囲の音も、熱も、ゆっくりと決闘場に戻ってくる。


世界はただ一つを除いて何も変わってはいない。


……唯一変わっていたこと。

それは、サクラノヴァの目の前にいた存在が世界を脅かす猛虎ではなく――ただの、物言わぬ灰色の亡骸になっていたことだけである。


『……ふん……本気で対峙してみれば種族主ですらこんなものか……』


――灼炎の主、猛虎焔獣。

その肩書が示すように、彼は灼炎主の中で最も優れた存在であった。

最大火力は当然プレイヤーである灼炎種の王、ゴラクZを遥かに凌ぎ、膂力、速度、それら全てにおいてもなお上回る程の存在。


……ただそれはあくまで、彼が第二形態に移行した場合での話。


尤も、第二形態に移行させないなんていうトンデモ芸当が可能なのは、あまつもの課金装備を身に着け、魔法発動速度や発動間隔を大幅に短縮し、魔法効力を最大限まで引き上げた最強の死の魔法使い――サクラノヴァだけであるが、イーディスにとってはそんなことは当然知る由もなく……。


結果として、最悪の魔の手を引いてしまったというべきであろう……。


『……猫バイトは……いや、アイツなら問題ないな……。それよりも―――』


そして今や生物の存在しない空間で、当のサクラノヴァは目の前の肉塊から興味を無くしたように視線を外し、その後方にある大きなマグマ溜まりへと鋭い眼光を向けた。


『種族主よりも上位の存在なんている、のか……?』


彼の冷徹な独白は、すでにまだ見ぬ未知の存在への、静かな宣戦布告のように暗い空間へと溶けていった―――――。
































































◇◆◇


―――おや?


……これは、これは。

灼炎の主ともあろうオヌシが、なぜこのような場所に……?


なに? 魂が……ほぉ、これはまた酷く困ったのぉ……。


これではまたあの方(・・・)にどやされてしまうわい……。


ついこの間も"面倒な魂"が同時にやってきたせいで世界の天秤が大きくズレてしまったというに……ってそれはどうでもよいと?


ふぅむ……しかし、オヌシほどの力ともなると、どこかに楔となり得る、強き魂が必要なんじゃが……。


……おや?


オヌシの居た場所に、相応しそうな魂がおるではないか?


くっふっふ……これならあの方もお喜びになるじゃろう……!



……。



……。



……しっかし、困った者じゃ……。


抗わずに身を任せてしまえば良いものを……。


既に耐えうるには限界じゃろうに、まったく恐ろしいまでの精神力……いや、執念とも言うべきじゃろうか……?


はてさて、しかしそれもまた一興、というモノなんじゃろうな……。


とはいえ――――――――そう、長くは持たぬじゃろう――――――。



【応援お願いします!】


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

 

ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします!

 

次回更新は……今のところ未定にしています。

できるだけ早くに上げたくはありますが、とりあえずは一度ここまでということで……。


いつも応援ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

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