病院屋上の戦い
天才はセントラル東京病院の屋上へ向かって全力で駆け上がっていた。
最上階へ到着した瞬間、彼は勢いよく扉を蹴り開けた。
激しい音が屋上全体に響き渡る。
屋上はそれほど広くはない。
しかし、そこには大量の白い毛布が干され、風に揺れていた。
その奥には、球体のような奇妙な機械が空中に浮かんでいる。
そして、その機械を調整している男が一人。
天才は大声で叫んだ。
「おい!! そこで何してる!!」
男は驚き、ゆっくりと振り返る。
「チッ……見つかったか。」
天才は球体の機械を指差した。
「質問に答えろ!! それは何だ!!」
「説明しても、お前には理解できねぇよ。
本当は逃げたかったんだが……ボスからこれを設置しろって命令されててな。」
その瞬間、男は地面を蹴り、一気に天才へ突っ込んできた。
「お、おい待て!! 俺は戦いに――」
言い終わる前に、男の拳が天才の顔面へ叩き込まれた。
「ぐっ!!」
天才の身体は吹き飛ばされ、屋上のフェンス近くまで滑っていく。
男はゆっくり近づきながら言った。
「俺だって別に戦いたいわけじゃねぇ。」
「だったら――」
「だがお前は見ちまった。
もしボスに“誰かに見られた”って知られたら、俺は殺される。」
男は再び突進し、天才を蹴り飛ばした。天才は柱の近くまで転がる。
「ったく……俺は探偵であって、格闘家じゃないんだけど。」
「へぇ? 探偵か?」
「そうだ。
名探偵――天才未来だ。」
殴られているにも関わらず、天才は不敵に笑う。
「相手の名前を聞いたなら、自分も名乗るのが礼儀ってもんだろ?」
男は笑った。
「下川だ。よろしくな、探偵さん。」
「だから言ってるだろ。俺は戦いに来たんじゃない。事件を解決しに来たんだ。」
「ほぉ?」
下川は口元を歪めた。
「だったら推理してみろよ。俺がここで何をしてるのか。」
天才の目がキラキラと輝く。
「面白い!!その挑戦、受けて立つ!!」
下川は一瞬で距離を詰めた。拳が真っ直ぐ天才の頬へ飛ぶ。
しかし天才は動かない。まるで拳の軌道を分析しているかのように、その動きを見つめていた。
拳が直撃する。鼻から血を流しながらも、天才は倒れなかった。
「へぇ……今ので倒れねぇのか。案外タフなんだな。」
下川は笑う。
「もっと本気を見せてみろよ。」
「うるさい。」
その瞬間――
「《スキャンアクセス・コンプリート》」
青いコードが天才の瞳に流れ込む。次の瞬間、天才は身体を横へずらし、下川の拳を回避した。
「なっ――!?」
そして同時に、天才の拳が下川の頬へ叩き込まれる。
「がはっ!!」
下川の身体は吹き飛び、屋上入口へ激突した。口元から血を流しながら、下川はゆっくり立ち上がる。
「……今の言葉……
お前、“ハッカー”か?」
「さぁな。」
天才は挑発するように指を動かした。下川の表情が歪む。
「《スキャンアクセス・インビジブル》!!」
その瞬間、下川の姿が消えた。天才は目を見開く。
次の瞬間――
見えない拳が腹へ突き刺さる。
「ぐはっ!!」
天才は地面へ叩きつけられ、口から血を吐いた。下川は見下ろしながら笑う。
「どうやら俺たちは同じタイプらしいな。スキャン系”だ。」
そして大声で笑った。
「どうだ名探偵?もう謎は解けたか?」
天才はゆっくり立ち上がる。
「……黙れ。」
彼は黒い警棒を取り出した。下川は再び消える。
天才は目を細めた。
「《スキャンアクセス・下川》」
青いコードが視界に広がる。下川の声が屋上全体へ響いた。
「お前の能力は名前通りだな。分析と解析。だが――時間が必要だ。」
次の瞬間、下川が現れ、天才の顔面を蹴り飛ばした。
だが天才もすぐ警棒を振るう。しかし空を切る。
再び腹へ蹴りが突き刺さる。血を吐きながら、天才はフェンスへ叩きつけられた。
それでも彼は立ち上がる。
そして――
「《スキャンアクセス・コンプリート》……見つけた。」
天才は笑った。彼は下川の能力の弱点を完全に理解したのだ。
天才は干されていた毛布を掴み、一気に空へ投げる。
「何してやがる!?」
「お前の弱点が分かったんだよ、バカ。」
毛布が屋上へ舞い落ちる。その中の一枚だけが不自然に膨らんだ。
「そこだ!!」
天才は飛び込み、警棒を振り下ろす。
「がぁっ!!」
下川が姿を現した。額から血が流れる。
彼は再び消えようとする。
しかし、その瞬間。天才はある物を下川のポケットへ滑り込ませていた。
それでも下川は消える。
だが天才は迷わず追撃した。
「なんでだ!!
なんでまだ俺が見える!!」
天才は笑った。
「自分で考えろ。」
下川は必死に考える。しかし天才の攻撃は止まらない。
強烈な一撃が肋骨へ叩き込まれる。
ゴキッ。
下川は血を吐きながら倒れた。それでも立ち上がり、再び消える。
天才は静かに構えた。
「これで終わりだ、探偵!!」
下川の拳が迫る。だがその瞬間。
天才は身体をずらし、警棒を振り上げた。
そして――振り下ろす。
ゴッ!!
鈍い音が屋上へ響く。下川はその場に倒れ込んだ。
息を荒げながら、天才は球体の機械へ向かう。
だが背後から声が聞こえる。
「……どうしてだ……なんで俺が見える……?」
「ん? あぁ、“透明化”のことか?」
下川は困惑した。
「どういう意味だ……!?」
「お前、自分の能力を勘違いしてる。」
天才は笑った。
「お前の能力は“透明化”じゃない。“相手の認識をぼやけさせる能力”だ。」
下川の目が見開かれる。
「そして、お前が自分以外の物に触れた瞬間――能力は弱くなる。」
天才は続けた。
「毛布はただのおとりだ。お前に“毛布が原因”だと思わせるためのな。」
下川は震える手でポケットを探る。
そこに入っていたのは――
天才の偽警察手帳だった。
「これ……!」
「毛布の中で殴った時に入れといた。」
下川は呆然とする。
「なら……なんで最初から反撃しなかった……?」
天才は警棒を肩へ乗せた。
「油断させるためだ。」
下川は大笑いした。
「ハハハハ!!本当に変な探偵だなお前は!!」
「お前は最低な犯罪者だけどな。」
下川は静かに目を閉じる。
「……で、探偵さん。何を知りたい?」
天才は球体の機械へ歩いていく。
「何も。」
「……は?」
「全部もう分かってる。」
下川は目を細めた。
「なら言ってみろ。」
「お前は“カメレオンの獣使い”。ボスは“蛇男”ゴロ。
そしてこの装置は、改造型バーチャルドラッグを拡散してる。」
下川は苦笑した。
「……とんでもない探偵だな。」
「当然だろ。」
天才は警棒を振り上げ――
球体装置を破壊した。




