学校屋上の戦い
天才の戦いが繰り広げられていたその頃――別の場所でも、人智を超えた激突が始まっていた。
ネットワーク高校の屋上。
そこでは主人公・布瀬氷華と、彼に仕えるアンドロイドメイド、イリヤ・トゥエルブによる死闘が始まろうとしていた。少し時間を戻そう。
中央病院の屋上で天才と下川が戦うより少し前――
布瀬はロークラス棟の入口から、一つの影が階段を駆け上がり、屋上へ向かう姿を目撃していた。
「おい!! 待て!!」
布瀬は、その影こそがリズキ委員長を倒した犯人だと思い込み、迷わず追いかけた。
イリヤもその後ろを走り、二人は勢いよく屋上の扉を開け放つ。
しかし――
「がっ……!?」
扉を開けた瞬間、鋭い何かが布瀬の腹部を貫いた。布瀬は驚きながら後ろへよろめき、自分の腹を見る。
そこには、屋上の床から突き出したような鋭い棘が刺さっていた。
「マスター!!」
イリヤが叫ぶ。
だが次の瞬間、その棘は床へと溶け込むように消えた。腹には穴は開いていない。
しかし、焼け付くような激痛だけが残っていた。
前方から声が響く。
「安心して。死にはしないわ。」
そこに立っていたのは、フード付きのコートで顔を隠した人物だった。
布瀬は腹を押さえながら膝をつく。イリヤはすぐに彼へ駆け寄った。
「マスター、大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……なんとか……。」
痛みは異常だった。
致命傷ではない。だが、本物の傷と変わらない苦痛。
それは以前、霧隼から聞かされた“データ攻撃”と同じだった。実体の傷はなくとも、脳へ直接痛覚を与える攻撃。耐え切れなければ、ショック死すらあり得る。
イリヤに支えられながら、布瀬はゆっくり立ち上がり、フードの人物を睨んだ。
「お前は誰だ!? ここで何をしてる!? 委員長を倒したのもお前か!?」
女は静かに答える。
「いいえ。あの男は勝手に倒れただけ。」
そう言って、彼女はフードを外した。
そこに現れたのは、オフィスレディのような服装をした若い女性だった。
編み込まれた髪が後ろで綺麗にまとめられている。
そして彼女の手には、不気味な球体装置が握られていた。
「本当は仕事が終わったら帰るつもりだったんだけど――」
彼女は肩をすくめながら笑う。
「少し興味が湧いちゃってね。見てたら、見つかっちゃった。」
彼女は球体装置をコートの中へしまい込み、不敵に笑った。
「でもまぁ、あなたを連れて帰れば、ボスも怒らないかもね。」
「つ、連れて帰る……!?」
その瞬間、イリヤが飛び出した。鋭い蹴りを放ちながら、女へ一直線に突撃する。
しかし女は冷静だった。
彼女はローブの中から鞭を取り出し、空中でイリヤの脚へ巻き付ける。
そのまま強引に振り下ろした。
「っ!!」
イリヤの身体が屋上へ叩きつけられる。
「イリヤ!!」
布瀬は助けようとする。だが、先程のダメージで身体がうまく動かない。
それでも布瀬は諦めなかった。霧隼から聞いた“データ能力”の存在を思い出し、右手を突き出す。
「グリーンレーザーデータアクセス!!」
両手から緑色のコードが溢れ出し、レーザーとなって女へ放たれる。
女は床を強く踏み込んだ。
「チェンジアクセス:ディフェンス。」
屋上の床が盛り上がり、巨大な壁となってレーザーを防ぐ。
さらに彼女は叫ぶ。
「アタック。」
壁が生き物のように変形し、布瀬へ襲い掛かった。
「なっ!?」
布瀬は右へ飛び退きながらイリヤの元へ走る。
「追いかけなさい。」
壁から枝のようなものが伸び、布瀬を追跡する。布瀬は必死に走るが、イリヤへ辿り着く寸前で吹き飛ばされた。土煙が舞う。女が笑みを浮かべた、その時――
ドドドドッ!!
高速の足音が響いた。
「!?」
怒りに満ちたイリヤが、横から突撃してきた。
「マスターを二度も傷付けた……絶対に許しません!!」
イリヤの蹴りが女の顔面へ炸裂する。女は吹き飛ばされ、血を吐いた。
だが彼女は口元を拭い、冷たく笑う。
「安心して。二回どころじゃ済まないわ。」
戦いはさらに激しさを増した。イリヤは地面攻撃を避けるため空へ跳ぶ。
だが女の鞭が再び伸び、鋭い金属棘がイリヤの脚へ突き刺さる。
火花が散った。さらに床から巨大な棘が突き上がり、イリヤを叩き落とす。
轟音が屋上へ響く。
それでもイリヤは叫んだ。
「あなた……“ビーストマスター・ヘッジホッグ”セレナですね!?」
女――セレナは驚く。
「まだ喋れるの?」
「何をしているんですか!?」
セレナは再び球体装置を取り出した。
「ボス――ゴロウ・ザ・スネークマンの命令よ。」
彼女は笑う。
「これは“視覚型ドラッグ”。人を夢へ閉じ込め、“失われた楽園”を見せるための装置。」
“ゴロウ”という名前を聞いた瞬間、布瀬の表情が変わった。
怒りが胸の奥から込み上げる。
「おい……お前。」
セレナは布瀬の殺気に一瞬たじろいだ。
「街で人が倒れてるのは……お前達のせいなのか!?」
「あぁ。今頃、街の半分は夢の中よ。」
「ふざけるなァァァァ!!!」
布瀬の怒号が屋上へ轟く。
「そんなふざけた夢、俺が全部ぶっ壊してやる!!お前のボスごとな!!」
布瀬はイリヤを見る。
「イリヤ、まだ戦えるか!?」
「はい、マスター!!」
傷だらけのイリヤは、それでも立ち上がった。
「行くぞ!!」
「了解です、マスター!!」
二人は同時に駆け出す。イリヤが空中へ飛び上がり、布瀬は再びレーザーを放つ。
セレナは鞭で防ごうとするが、防ぎ切れない。
その隙を突き、布瀬が前へ飛び込んだ。
棘が手に刺さるのも構わず、鞭を両手で掴む。
「隙だらけだ!!」
上空からイリヤが叫ぶ。
「エレメンタルアクセス:ウォータードリル!!」
イリヤの脚から渦巻く水流が放たれる。それはセレナの防御を貫き、胸部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
「がはっ……!!」
セレナは血を吐き、そのまま意識を失う。布瀬はすぐに球体装置を踏み潰した。
視覚型ドラッグの発信源は完全に破壊された。拳を握り締めながら、布瀬は前を見据える。
まだ終わっていない。
次に戦う相手は――
ゴロウ・ザ・スネークマン。
そして今度こそ、必ず勝つ。




