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アビシャルシャフト  作者: ハック
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7/10

墜ちる人間

暗く長い廊下。

通路の両側には、天井を支える巨大な柱が並んでいた。

静寂の中を、一体のクマ型アンドロイドと、一人の少女が歩いていく。


「ようやく着いたな」


前を歩いていたテディが、肩に巨大なチェストを担ぎながら口を開いた。


「ええ」


後ろを歩くリゼは、短く答える。その瞬間、柱の影から一人の男が姿を現した。

黒いロングコート。映画の探偵のような帽子。右目にはモノクル。

そして帽子の隙間から、鮮やかな緑色の髪が覗いている。


「帰ってきたか、リゼ……テディ」


低く静かな声。

テディはその男を見ると、小さく笑った。


「おお、迎えに来てくれたのか?」


「本当は歓迎したかった。だが……」


男――ミギメはそこで言葉を止めた。その表情を見た瞬間、テディは何かを察する。


「ボスから任務か?」


「ああ」


テディはゆっくり顔を伏せる。


「……それで、何を命じられた?」


ミギメは感情のない声で答えた。


「どうやら、あの人が撒いた餌にボスは完全に食いついたらしい」


静かな空気が流れる。


「だから今度は――噛みつけ、だそうだ」


その言葉を聞いた瞬間、テディの口元が不気味に歪む。


「つまり……“あの男”か」


だがミギメは微動だにしなかった。恐怖も、驚きもない。

まるで感情そのものを失った人間のようだった。


「ああ。あの男だ」


##########


夜道を、一人の少年が歩いていた。街灯だけが道を照らす静かな住宅街。

背中には、一人の少女――イリヤを背負っている。

フューズ・ヒョウカ。

今日一日で、彼の人生は完全に変わってしまった。


アニメやゲームの中だけだと思っていた出来事が、現実として自分の前に現れたのだ。

フューズは眠るイリヤを起こさないよう、静かに歩き続ける。

脳裏に浮かぶのは、SIRIUS CLANでの会話だった。


【数十分前】


「つまり……セントが仮想ドラッグを使っていたってことか?」


フューズの声は低かった。


「そういうことになるな」


桐早が静かに答える。次の瞬間、

フューズは拳を強く握り締めた。


「ふざけるな……!」


重い声が部屋に響く。


「アイツがそんなものに手を出すわけないだろ!」


カフアは落ち着いた声で言った。


「落ち着け、フューズ」


「どうやって落ち着けって言うんだよ!!」


フューズはテーブルを叩いた。


「もし本当にセントがそんなものを使ってたなら……俺は……友達として失格だ……!」


部屋が静まり返る。カフアも桐早も、

表情を曇らせていた。


彼らもまた、仲間が仮想ドラッグに手を染めていた事実に動揺していた。

やがてフューズが低い声で尋ねる。


「……誰が売った?」


その目には怒りが宿っていた。答えたのはカフアだった。


「この街で……いや、この国で仮想ドラッグを流せる人間は一人しかいない」


「その男の名は――」


カフアは静かに告げる。


「ゴロウ。“蛇の男”だ」


【現在】


フューズは暗い道を歩きながら、その名前を何度も頭の中で反芻していた。

ゴロウ。セントを壊した男。その怒りは、

静かに胸の奥で燃え続けていた。


##########


警察本部・捜査課。そこには朝の爽やかさなど存在しなかった。

鳴り続ける電話。

飛び交う怒鳴り声。

疲弊した警官たち。


「なんなんだよこれは……!」


若い警官が頭を抱える。


「十分おきに倒れる人間が増えてるぞ!」


すると上司が怒鳴った。


「馬鹿野郎!! 俺たちは警察だ!! 文句を言う前に電話を取れ!!」


「は、はい!!」


怒号が飛び交う中、捜査課長室の前に、一人の少年が現れる。高校の制服。

無邪気な笑顔。

まるで遊びに来た子供のようだった。

少年は勢いよく扉を開ける。


「おはようございまーーーす!!」


部屋中の警官が一斉に顔をしかめた。


「みんな元気!? 大丈夫!? まあ俺が来たからには全部解決だけど!」


一人の警官が呆れながら言う。


「課長なら中だ。待ってるぞ」


「ありがとー!」


少年が去った後、新人警官が呟いた。


「……誰なんですか、あいつ」


先輩警官はため息をつく。


「天才未来。高校生探偵だ」


「高校生探偵!?」


「IQ200の化け物だよ」


その頃、天才未来はノックもせずに課長室へ入っていた。


「おはようございまーす、課長!」


「うるさい!!」


課長の怒鳴り声が響く。だが天才は笑っていた。


「そんな怒らないでくださいよ〜。泣いちゃいますよ?」


「泣く前に黙れ!!」


しかし次の瞬間、天才の表情が変わる。

笑みが消えた。


「で? 仕事ですよね」


課長は真剣な顔になる。


「ああ。例の昏睡事件だ」


「やっぱり」


まるで全て分かっていたかのように天才は頷く。


「政府はANTIを動かしてる。でも俺は気に入らない」


課長は机を叩いた。


「だからお前に頼む。この事件を政府より先に解決しろ」


「了解」


天才はあっさり答える。だが部屋を出る直前、

彼は立ち止まった。


「そうだ、課長」


「なんだ?」


天才の顔から笑みが完全に消える。


「倒れた人間たち、全員に共通点があります」


課長は眉をひそめた。


「……共通点?」


天才は静かに告げる。


「全員、“Virtual Narcotics”使用者です」


課長の顔色が変わる。


「なっ……!」


天才は低い声で続けた。


「今、この街では――」

「数百人規模で、仮想ドラッグ中毒者が倒れ始めています」


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