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AIに依存しきった世界でAIをなくした私が、それでも生きていく方法  作者: 朝陽 春輝


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第008話 橋の向こう

行先を明確にして道を歩くのは、私にとって初めてのことだった。

自分のことを恨んだのは歩き始めてすぐのことだった。

道があるのだから行けるはずだと甘く考えていたのだ。

橋までの道のりは、想像以上に長かった。


自分で言うのもなんだが、裕福な家庭で育ったほうだった。

六歳の時点で自分専用の自動運転車を買ってもらっていて、移動はずっと車任せだった。


 私は街のいたるところに設置されている、公共端末の地図を何度も確認しながら進んでいた。

 個人AIがなくても、公共地図の誘導機能も利用できるのだが、今日は使わないで行こうと思ったのだ。

 自分で現在地を確認し、道を選ぶことにした。

 三度、道を間違えたとき、再び地図を開いた私は思わず呟いた。

「ロクなら一発なのに」

 当然、返事はなかった。

 もう、腹も立たなくなってきていた。

 橋に着いたころには、もうお昼を過ぎていた。

 私は欄干に手をつき、川を眺めた。

 水面はゆっくりと流れている。

 川の向こうには、形も高さもばらばらな低い建物がいくつも並んでいた。

 屋根の色も統一されていないので、何かの工事現場のようにも見えた。

 橋を渡ると舗装された道は途中で終わり、砂利道に変わった。

 靴の裏から小石の感触が伝わる。

 足元を見ながら進んでいると、突然声がした。

「止まって!」

 私は顔を上げた。

 十歳くらいの女の子が、道の向こうから走ってきた。

「そこ、踏まないで!」

「え?」

「そこ!」

 女の子は私の足元を指さした。

 地面に細い溝が掘られている。

 慌てて足を引いた。

「何、これ?」

「水の道」

「水?」

「畑に流すの」

 女の子はしゃがみ込み、崩れた土を手で直し始めた。

 その女の子の手首には、個人AIの端末がついていなかった。

「個人AIは?」

「持ってないの」

「なんで?」

「わかんない。生まれた時からずっと持ってないもん」

「土を直すのも、機械でやればいいじゃん」

 女の子は顔を上げた。

「機械?」

「土を掘る機械とかあるだろ」

「あるよ」

「じゃあ使えば」

「壊れてる」

「直せばいいだろ」

「直すための部品がないの」

 言葉が出なかった。

 女の子は再び土を寄せ始めた。

 その手は泥だらけだった。

「……手伝おうか?」

 何となく言ってみた。

 女の子は顔を上げた。

「できるの?」

「それくらいできるよ」

「じゃあ、ここ押さえて」

 しゃがみ込んで、女の子に言われた場所を手で押さえると土が崩れてしまった。

「あー!」

「ごめん!」

「強く押しすぎ!」

「そんなの分かんないよ!」

 女の子は呆れたように私を見た。

「もう大人なのに?」

 返事に困ったその一瞬に、女の子はため息をついた。

「もういい。私がやる」

 私は立ち上がった。

 手には泥がついていた。

 どうすればいいのか分からず、ズボンで拭いた。

「あっ!」

 女の子が声を上げた。

「何なの!」

「服、汚れるよ」

 ズボンを見ると、泥が広がっていた。

「……先に言ってくれよ」

「もう大人なのに?」

 女の子は同じ言葉を繰り返した。

「何度も言わなくていいから」

「それと靴……」

自分の靴を見ると、左右が逆だった……

「これは……」

「もう大人なのに!」

女の子は笑った。

「お姉ちゃん、どこ行くの?」

「古い水門の近くに、人がいるって聞いたんだけど」

「じゃあ、こっちだよ」

言われるがまま、女の子についていった。

     

入口らしき場所には、木製の看板が立っていた。

《第六共同生活区》

 その下に、小さく「六番」と書かれている。

 私は看板を見上げた。

「六番?」

「そうだよ」

 女の子が答えた。

「お姉ちゃん、ここに何しに来たの?」

「昨日、知らないおじいさんに教えてもらって」

「どんな人?」

「小柄で、白髪で……」

「それだけじゃ分かんないよ。おじいちゃん、いっぱいいるもん」

 私は苦笑した。

「ここには何人くらいいるの?」

「うーん、お父さんと、お母さんと、おじちゃんと」

「わかった、わかった。もういいよ」

「赤ちゃんもいるんだよ」

「赤ちゃん?」

「うん。去年生まれたの」

 少し驚いた。

 この時代、赤ん坊を見ることは珍しかった。

 出生数は年々減り、子ども向けの施設も減少している。

「その赤ちゃんも、AIがいないの?」

「いないよ」

「大丈夫なの?」

 女の子は首をかしげた。

「何が?」

「だって、健康管理とか、食事とか」

「みんなでやってるよ」

 言葉を失った。

 みんなでやっている。

 たったそれだけの答えが、理解できなかった。



第008話登場人物


有馬 灯里 (ありま あかり) ・・・本作の主人公


女の子  (おんなのこ)  ・・・六番の住人!?

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