現実直面、これはゲームではない【8話】
ノクシスは焦っていた。
自分の作戦は完璧だったはずだ、と。
「どういうことだ、マリエル殿……!」
「は、はい。ボトム島が反乱軍の襲撃を受けました。
ですが、ご安心ください。反乱軍の鎮圧には部下が――」
「そこじゃない!」
バン、と机を叩くノクシス。
「橋がないのに反乱軍はどうやって上陸してきた!?」
「……? 船ですが」
「船……だと……」
そこで初めて、ノクシスは自らの思考の欠落に気付いた。
「橋がありませんから、至極当然だと思います。そんなに不思議ですか?」
「……いや」
「反乱軍の鎮圧はボトム島に残してきた部下に任せてありますから、ご安心ください」
「……そうか」
「それで、橋の工事代についてですが」
「……その件は俺から父上に言っておく。
用が済んだなら去れ。マリエル殿は多忙の身であろうが」
「……それでは失礼いたします」
マリエルが退室したのを見届け、ノクシスは頭を抱える。
橋がなければ渡れない?
だから船で渡ってきた?
「――当然ではないか……!」
視座が一段下へ降りたような感覚。
よく言えば地に足がついたとでも表現しようか。
橋がなければ、船を使う、筏を組む、浅瀬を探す……最悪、泳いで渡ってもいい。
なぜこんな当たり前のことを見逃していたのだろうか。
画面の向こうに広がっていた海は、ただの通行不可オブジェクトではない。
この世界はゲームではないのだから。
――コンコンコン。
「今度はなんだ……!」
「し、失礼します……」
と入ってきたのはメイド長。
「ノクシス様、新しいメイドのご紹介に参りました」
「新しいメイド? 興味がない、戻れ」
「も、申し訳ございません! 新人が、どうしてもノクシス様にご挨拶をさせていただきたいと……」
「二度も言わせるな」
怒気をはらんだ言葉に、メイド長は萎縮する。
その時、メイド長の後ろから少女が前に歩み出た。
「ノクシス様! やっとお会いできました……!」
有無を言わさず、ずかずかと歩み寄ってくる緑髪の少女。
「こ、こらエリカ! ノクシス様、申し訳ございません……!」
萎縮を続けるメイド長とは裏腹に、青い目をキラキラと輝かせながら近づいてくる少女。
「お会いできて嬉しいです! あたし、エリカって言います!
ベルト山の麓でノクシス様に救ってもらいました!」
ベルト山脈?
そういえば、民家を守らせたような気がする。
だが――。
ノクシスは報告書の置いてある棚を見た。
──特別観察報告。
件の民家は発見できず。
同地点に家屋の焼失跡を確認──。
「……あの民家は焼失していたはずだ」
「そうなんです!
家は燃えちゃったけど、ノクシス様のおかげで家族みんな無事だったんです!」
それ自体は喜ばしいことだ。
因果は理解できる。
ノクシスが介入した結果だ。
しかし――。
「ノクシス様の為なら何でもします!
ですから、よろしくお願いいたします!」
いない。
知らない。
ありえない。
原作のイベントに、こんなキャラは存在しない。
設定資料集にも、ファンブックにもいない、記憶に、ない。
ノクシスが考えを巡らせるほど、顔には驚愕の色が浮かぶ。
やがて、ノクシスの口がその言葉を絞り出す。
「――誰だ、お前は……」
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次回更新は7月3日の18:00です。




