順風万端、時間はたっぷりある【7話】
これまでプレイヤーは主人公サイドにいるものと考えていた。
理由は単純、その方が"圧倒的に効率がいい"からだ。
しかしイベントを完遂させること自体は、比較的自由に動ける者なら帝国サイドでも十分に可能。
現にノクシスはノマディアの戦いを除き、ゲームに描写されない範囲で自由に行動している。
だが。
「俺が自由に行動できるのは悪役貴族だからだ。
軍師という立場のあるマリエルに同じ事ができるとは考えにくい」
それにノクシスには飛竜エルディーンがいるが、マリエルにはない。
「……現時点では断定する証拠が足りないな」
少なくとも無視していい相手ではなくなった。
マリエルは要監視対象だ。
* * *
――翌日。
橋の解体が始まるというので、ノクシスはエルディーンと共に橋梁前に降り立った。
「マリエル殿、進捗はどうだ」
「……ノクシス様。つつがなく進んでおります」
見ればすでに橋の解体は始まっており、その進捗にノクシスは満足気にほくそ笑んだ。
「さすがマリエル殿。見事な手腕であられる」
「それはどうも。ノクシス様こそ熱心でいらっしゃる。
橋の解体など見ても面白いものではありませんでしょうに」
二人はどちらともなく笑いだす。
「ははは」
「ふふふ」
笑い声とは裏腹に、二人の視線は一歩も譲らない。
「ところでノクシス様、橋の工事費用ですが……」
「んん? 俺は修繕を提案しただけだぞ。
実際に工事を先導されているのはマリエル殿ではないか」
「なっ! ご命令という話ではありませんでしたか」
「そうだったか?
まあ、どうしてもというのであれば、ヴァルメリア家に請求されるがよろしい」
「くっ……!」
「では用がある故、失礼する」
ノクシスはひらりとエルディーンの背にまたがり、その場を飛び去っていく。
「次は……」
主人公達が外伝に進んでいるかの確認だ。
5章外伝はボトム島からそう遠くない場所にある。
深い森の広場にて行われる戦いである為、エルディーンに乗ったままでも見つけやすい。
「おお……」
ノクシスは感嘆の声を上げた。
「あの赤髪の男がヒース。エンパイア・レガシーの主人公だ。
おっ、ミディアもいるな。
今更ながら動いている姿を見ると感動を覚えるな」
外伝にヒースたちが進んでいることを確認したノクシス。
「想定通りに進んでいるようだな。
戦闘に巻き込まれる前に帰還するとしよう」
* * *
ヴァルメリア領に帰還したノクシスは、自室にてボトム島の報告を待つことにした。
「橋がなければヒースたちはボトム島に渡れまい。
それでも突破してくるなら、その手段を見てみたいものだ」
ノクシスは椅子の背もたれに体重をかけると、次の一手を考えだす。
「先に7章のことでも考えておくか」
7章はボトム島内にある神殿にて行われる盗賊との戦いだ。
ヒースたちが神殿に安置してある呪いの剣"ゾディオン"を借り受けようとしたところ、盗賊に奪われてしまうという話だ。
ゾディオンを使って何かできないだろうか。
盗賊を懐柔する手は?
「……どちらにしても時間はたっぷりある」
橋の修繕には最短でも一ヶ月以上かかる。
並のプレイヤーであれば十分すぎるほどの時間、いや贅沢すぎるほどの猶予だ。
ノクシスは紅茶に口をつける。
――少なくとも6章について考える心配はなくなった。
そう判断した彼は、ゆっくりと椅子に背を預けた。
思考の海に沈もうとしたところ、不意に部屋をノックされる。
「ノクシス様」
「なんだ」
少しだけ不機嫌そうな声で返事をするノクシス。
「も、申し訳ございません。軍師マリエル様がお越しです」
「マリエル殿が? 通せ」
やけに早い。
ワープの魔法でも使ってきたか――?
「ノクシス様、失礼します」
「マリエル殿、ようこそ我が邸宅へ。
橋の件か?」
「それもありますが、ボトム島が反乱軍の襲撃を受けました。
その報告に――ノクシス様?」
「ボトム島に……反乱軍が襲撃?」
「は、はい。それが何か……」
「ありえない、早すぎる――」




