破壊工作、その者規格外につき【6話】
そうと決まれば早速近くの兵を使って目的を遂行するまでだ。
――目的は、橋の破壊。
ノクシスはリーニュ地方へと再び足を延ばした。
「いくぞ、エルディーン。目指すはボトム島だ」
飛竜エルディーンから見る大地はとても広大で、冷たい空気が肌を刺した。
ノクシスとして生きた記憶が積み重なるほど、前世の記憶よりもこの世界の方が"現実"に置き換わっていく。
ふたつの記憶――その不思議な感覚が、思考の奥に広がる。
「ふっ」
後に主人公が向かうであろう6章のボトム島は、一本の橋で渋滞を起こす非常に面倒なマップだ。
しかもエンパイア・レガシーの仕様では島に繋がる橋はひとつしかない。
この橋を落としてしまえば、主人公達の進軍は間違いなく止まる。
それも一週間や二週間ではない。
長距離の橋はそう簡単には架けられないからだ。
これをプレイヤーがどう突破するのかが見物だ。
「しかし……」
これを行うと通常の攻略ルートは完全に消える。
同時に、プレイヤーに対して、転生者がいるという情報を与えてしまう可能性がある。
だが、まったく問題はない。
ノクシスはそれだけエンパイア・レガシーに対しての知識量では負けない自信があった。
ただし。
「ヤツがいた場合は話が別だ」
投稿者名・コーンカルパス。
界隈では有名だったやりこみ実況者だ。
あらゆる場面の隙を突き、抜け道、裏技、バグ技、ソフトを破壊する技まで、なんでもこなすプレイヤーである。
特に、別のソフトを起動して行うデバッグモードへの侵入は、さすがのノクシスも戦慄したものだ。
仕様をハックするという点においては、ノクシスと比肩する可能性がある唯一の人物だった。
「あのやりこみプレイヤーとはやりたくないな……」
とはいえ、最悪のパターンを想定しておくのは当然のことだ。
再びエルディーンの背から大地を見渡す。
6章の舞台となるボトム島はもうすぐだ。
「6章……そうだ、外伝はどうなる?」
条件を満たせば出現する外伝マップ。
その初登場となるのが5章外伝である。
現在主人公達は5章を攻略中のはず。
外伝に進むのかどうか、あとで確認しておく必要がありそうだ。
「ご苦労、エルディーン」
ノクシスのねぎらいに「クワァッ」と一鳴きして返す飛竜。
「こ、これはノクシス様」
着陸したノクシスを見たのか、慌てたように兵士が現れる。
肩につけた勲章を見るに、隊長のようである。
「マリエル殿はいるか?」
「は、はい。天幕におられますが、今は……あ、ノクシス様――!」
隊長の制止を無視して天幕へと押し入る。
だが、そこで見たものは――。
「あ?」
白く美しいラインをなぞる、女性の、背中。
「なっ、ノ、ノクシス様!?」
マリエルが慌てて慌ててローブを羽織る。
「……。ふん、もう少し鑑賞してやってもよかったものを」
「お戯れは、ほどほどになさってください」
心持ち頬を染めながらマリエルが問う。
「して、今日は何用ですか」
「前回の働きは見事だったな。そこでもう一度お前の力を使ってやろう」
ノクシスの言葉に対し、マリエルがぴくりと眉を動かす。
「何、大したことではない。このボトム島の入口である橋を、破壊してもらおうと思っているだけだ」
「……何の為ですか。そんなことをすれば、島の民の生活がどうなるか……」
さすがは帝国の良心、軍師マリエル。
当然、疑われるであろう反応の類は想定していた。
「そう怒るな。橋が劣化しているとの情報を受けたのでな。ひとつ修繕してやろうというわけだ」
「……」
マリエルがぐっと拳を握る。
「なんだ、俺の命令が聞けないのか」
「……いえ、失礼いたしました。工作部隊を派遣し、橋を解体させます」
その返事に、ノクシスは傲慢な笑みを浮かべ、厳しい目を向ける。
「俺がいないからと手を抜くなよ。すぐに派遣しろ」
「はっ……」
天幕から出ていくマリエルを見送り、ノクシスはにやりと笑う。
――これで6章の正規ルートは破壊した。
主人公サイドにいるプレイヤーも慌てふためくことだろう。
……6章。
「そういえばマリエルのやつ、なぜリーニュ地方にいた……?」
エンパイア・レガシーではそのような描写はない。
マリエルと主人公達が邂逅するのは6章、すなわちここ、ボトム島である。
「シナリオから外れた動きをしている……?」
もしや、原作の流れに影響を与えてしまったせいか。
それとも、原作の改変がシステムに影響を与えたか、あるいは――。
むくむくと湧き上がる疑念。
それがノクシスの中でひとつの結論へと収束する。
「まさか、マリエルが転生者――?」




