原作干渉、見えざる転生者を追え【5話】
何度読み返しても、そう書かれていた。
──特別観察報告。
件の民家は発見できず。
同地点に建物の焼失跡を確認。
原因及び詳細は不明、不審火によるもの。
「……くそっ」
またしても"結果"が変わらなかった。
軍師マリエルからの報告では、騎士ナーシャが確かに山賊から民家を守ったと記載されていた。
真っ先に思い浮かぶのは虚偽の文字。
嘘をついた? いや、マリエルにメリットがない。
では虚偽の報告が上がってきたのだろうか?
それこそ、誰が、何のために、である。
諜報部の情報を改竄することは帝国法に基づき厳罰に処されるからだ。
やはりどちらも正しい報告として扱うべきだろう。
ナーシャは民家を守ったあと、主人公達と接触する前に撤退。
ノクシスが諜報部を飛ばした時は、既に戦闘が終了した後だった。
……その僅かな間に、民家が燃やされた……?
状況的に可能な人物はいる。だが、それはありえない。
民家から送られたという押花を見やる。
主人公……彼らは義勇の徒だ。
原作では民家を破壊する描写など一切ない。
仮に民家を焼くような非道を行ったとすれば、彼らに正義はなくなり、今後のイベントの全てが狂うだろう。
よって、彼ら──主人公達が犯人の線はない。
今回守ったはずの民家は、原作と同様に、破壊された結果だけが残った。
結果──?
『死者12名』
『焼失した民家』
同じだ──。
「修正力……?」
世界には"結果を固定する修正力"があるとしたら。
そして、それを利用している"何者か"がいるとしたら。
「何者かが意図的に原作と同じ状況を作っている……?」
ノクシスの頭の中で何かが繋がっていく。そして立てられる仮説。
「……いるな、俺以外の"プレイヤー"が」
なるほど、考えてみれば確かに自分だけとは限らないのだ。
未来を知っている者、そう、ゲーム転生を果たしている人物が。
破壊されていない民家という、見過ごしそうなファクターを見抜いていることから、その人物も相当やり込んでいることが推察できる。
目的は単純に、正常なゲームクリアの為といったところだろう。
原作通りに話を進めるために、帳尻を合わせてきている可能性が高い。
「……さて」
一度は容疑者から外した主人公達から考え直す。
改めて考えると、主人公達は容疑者として最も怪しい位置にいる。
しかし倫理的な問題で主人公自身が行った説は最も薄い。
主人公サイドのユニット──ヒロイン、騎士、世話役。
彼らなら行動は可能だが、原作4話時点で単独行動をとる描写はない。
原作の仕様的にありえない。
だが、それでも、ありえるとすれば……。
「……あいつしかいない」
盗賊ファルク。
条件だけを見れば、最も説明がつきやすい位置にいる男。
合流タイミングが、原作4章終わり。
それまで何をしていたのか謎のバックボーン。
彼自身の反乱軍への参戦理由……。
原作通りに進むようイベントフラグを整えるのも、盗賊という単独行動の多いクラスなら容易だ。
……だが、ひとつだけ説明がつかない。
(そうだ、新兵8人はどこから引っ張ってきた……?)
報告書だけに存在し、記録には存在しない部隊。
ファルクであれば帝国に反乱軍の情報を売ったとしても不思議はない。
あるいは、自らを囮に引き連れてきた可能性も考えられる。
(いや、あまりに手際がよすぎる、か……)
自らの仮説にある程度の納得感はあるものの、現時点でははっきりと絞り込めそうもない。
「ふぅ……」
しかし、今後はそういった人物が主人公サイドにいる可能性を考慮して動いた方がいいだろう。
「いいだろう、あくまで原作の流れにこだわるというなら──」
ノクシスは机の上の押花を指でなぞる。
「次は、壊してみるか」
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