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改変開始、民家を死守しろ【4話】


 ノマディアの戦いから数日。

 静かな部屋に、紙をめくる音だけが響いていた。


 机の上には、いくつもの報告書が並べられている。その全てがノマディアの戦いの報告書だ。

 そして、すべて同じ内容――死者12名。


「……ありえない、とは言い切れないか」


 ノクシスは小さく呟き、指先で報告書を整えた。


 門番2名、斥候2名、所属不明の帝国兵8名。

 内訳まで一致している以上、単なる誤報や記録ミスの線は薄い。


 では何か。


「配置が甘かった……いや、それだけじゃないな」


 カレシプ将軍を生存させることには成功した。

 成功はしたが、敵前逃亡を指揮したという罪をノクシスに着せられた彼は、将軍の地位を剥奪され、現在独房の中だ。


「これは計算通りだ……しかし」


 さらに思考を巡らせる。


 自分は確かに介入した。

 だが、それは"完全"ではなかった。


「最適化が足りなかった、か」


 考え抜いた末、ノクシスはこう結論づけた。


 一瞬、その結論に薄ら寒いものを感じる。

 だが、それはすぐに思考の外へ落ちた。


 原作のシナリオに介入することは可能だった。

ならば次こそはもっと上手くやってみせよう。


 そうと決まればノクシスの行動は早い。

 主人公達の次の戦いはベルト山脈の麓で行われる。


 ――ならば……あの謎の民家を救ってみよう。


 ベルト山脈の麓には、ゲームシステムの説明のためか、即座に破壊される民家がある。

 主人公達が動き出すよりも早く該当の民家を破壊する山賊を、予め倒しておくという作戦だ。


 恐らく、この程度なら結末に影響は出ない。

 変わったとしても誤差だ。民家ひとつ程度、ゲーム的には瑣末に過ぎない。


 ノクシスは報告書を机に置き、自室を出て厩舎へと向かう。


「出るぞ、エルディーンを出せ」

「ど、どちらまで行かれるのですか」


「貴様が知る必要はない」

「はっ! 失礼いたしました!」


 ノクシスは自分の愛竜──エルディーンの背にまたがる。


 行き先はベルト山脈に程近い第五章の舞台、リーニュ地方。


 エルディーンを飛ばして行けるのであれば、諜報部隊を使うよりも手っ取り早い。


 しばらく飛んでいると、目的のリーニュ地方が見えてきた。

 ノクシスは素早く降り立ち、指揮官を呼び出す。



「これはノクシス様、こんなところに一体何用ですか?」


 肩口まで切りそろえた金髪が揺れる。


 仕立ての良い軍師用ローブは、一切の乱れなく身体に沿っていた。

 無駄な装飾を排したその佇まいは、実用性の中に均衡した美を成立させている。


 そして、全てを見通すような瞳が、深い碧色の輝きを宿してノクシスを射すくめた。



 ――軍師マリエル? なぜ、こんなところに……。



 原作5章ではリーニュ地方にマリエルがいたという記憶はない。


 ではなぜここにいる。

 この戦いは裏で彼女が糸を引いていたということなのか、あるいはシナリオが変わった影響なのか──。


 深入りしそうになる思考を抑え、要件を告げる。


「野暮用でな、マリエル殿に一騎お借りしたい駒がいる」

「駒、ですか。目的をお聞きしても?」


「いやいや、マリエル殿に話すほどの目的があるわけではないのだがね」

「それでは、おいそれとお貸し出しすることはいたしかねますね」


 さすがに帝国有数の軍師。軽々に権力には屈してくれない。

 ここは素直に話してしまった方が話が早そうだと考える。


「では話すが、ある民家が山賊に狙われているという情報を耳にしてな。その民家は俺が実験に使いたいので、守ってもらいたい」

「これは珍しい。ノクシス様ともあろうお方が民家を守ろうなどとおっしゃるとは。よほど大切な実験のようだ」


「偽りなき発言だ。協力してくれるな?」


 


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