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観測開始、ノクシスの異常行動【3話】


 そう問われた軍師マリエルは困惑していた。


(なぜこんなところに?)


 突然現れたのは、黒い軍服に身を包んだ男。

 不遜な態度のまま、金で装飾された肩口の階級章をチラつかせている。


 整ってはいるが、どこか胡散臭い容貌。

 見る者を圧倒させる漆黒の髪に、威圧的な視線を向けてくる茶色の双眸。

 そして傲慢さの滲み出る立ち居振る舞い。


 彼が噂に聞く傍若無人の徒、ノクシス=ディアス=ヴァルメリアだとすぐに理解した。


 噂によればノマディアの戦いの指揮官であった彼は、その敗戦の責をカレシプ将軍に着せたという。


 そんな悪辣で名を馳せる彼が、今度は民家などを守ろうというのだ。


 実験のためと言っていたが、民家で何を――?

 どうも真実かは疑わしい。


 伝令を通さずに直接自分から出向いてきたという点も妙だ。

 これまでのノクシスの行動を考えても一貫性がなく、酔狂で動き回っているとしか考えられない。


 しかし万が一、彼が噂とは違う人物であったなら──。


「お断りします、と言ったら?」

「命が惜しくないようだな」


 ……ダメだ、噂通りの人物である。


 ならばせめてもと、私兵を出すことにする。


「わかりました。ナーシャという優秀な兵士がおります。その者に民家を守らせましょう」


「ナーシャ……?」


 とノクシスがわずかに目を細めた。


「いやいや、()()()()殿()()()()煩わせるほどのことではない」


 次いで飛んでくる軽口。


 おかしい……。

 ナーシャとノクシスに面識などないはずだ。


 いや、ナーシャなどという名前は珍しくもない。

 恐らく誰かと勘違いしたのだろう。


 それよりもだ。


『マリエル殿の手を煩わせるほどのことではない』


 この鋭い一言。


 ナーシャが私兵、あるいは私に近しい何かであることに勘づき、情報を隠匿しようとした。


 噂で聞いているよりも頭が切れるようだ。

 となると、やはり民家には何かしらの秘密があると見て間違いない。


 ならば――。


「しかしながら、ナーシャ以外の兵士は作戦行動中です。

ノクシス様にとっても優秀な兵士が民家を守ることは喜ばしいのでは?」


「そこまで優秀であるなら尚のこと、適当な指揮官を見繕ってくる故、ナーシャと交代させるがいい」


「いいえ、それにはおよびません。

部隊は既に作戦行動中、今から指揮官を変えれば余計な混乱が発生します」


「ちっ……」


 隠そうともしない舌打ち。

 よほど周囲にバレたくない何かがあるのだろう。

 これは厳密な監視が必要そうだ……。


 やがて、観念したようにノクシスが折れる。


「では、ナーシャとやらを向かわせてくれ。場所は──」


 立ち去る彼の背中を見送りながら、私は小さく息を吐き出す。


 ノクシス=ディアス=ヴァルメリア。


 あの傲慢な男が、そこまでして隠そうとする"実験"とは一体何なのか。


 ──徹底的に、 監視させてもらう。


 


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