改変開始、民家を死守しろ【2話】
ノマディアの戦いから数日。
静かな部屋に、紙をめくる音だけが響いていた。
机の上には、いくつもの報告書が並べられている。その全てがノマディアの戦いの報告書だ。
そして、すべて同じ内容――死者12名。
「……ありえない、とは言い切れないか」
ノクシスは小さく呟き、指先で報告書を整えた。
門番2名、斥候2名、所属不明の帝国兵8名。
内訳まで一致している以上、単なる誤報や記録ミスの線は薄い。
では何か。
「配置が甘かった……いや、それだけじゃないな」
カレシプ将軍を生存させることには成功した。
成功はしたが、敵前逃亡を指揮したという罪をノクシスに着せられた彼は、将軍の地位を剥奪され、現在独房の中だ。
「これは計算通りだ……しかし」
さらに思考を巡らせる。
自分は確かに介入した。
だが、それは"完全"ではなかった。
「最適化が足りなかった、か」
考え抜いた末、ノクシスはこう結論づけた。
一瞬、その結論に薄ら寒いものを感じる。
だが、それはすぐに思考の外へ落ちた。
原作のシナリオに介入することは可能だった。
ならば次こそはもっと上手くやってみせよう。
そうと決まればノクシスの行動は早い。
主人公達の次の戦いはベルト山脈の麓で行われる。
――ならば……あの謎の民家を救ってみよう。
ベルト山脈の麓には、ゲームシステムの説明のためか、即座に破壊される民家がある。
主人公達が動き出すよりも早く該当の民家を破壊する山賊を、予め倒しておくという作戦だ。
恐らく、この程度なら結末に影響は出ない。
変わったとしても誤差だ。民家ひとつ程度、ゲーム的には瑣末に過ぎない。
ノクシスは報告書を机に置き、自室を出て厩舎へと向かう。
「出るぞ、エルディーンを出せ」
「ど、どちらまで行かれるのですか」
「貴様が知る必要はない」
「はっ! 失礼いたしました!」
ノクシスは自分の愛竜──エルディーンの背にまたがる。
行き先はベルト山脈に程近い第五章の舞台、リーニュ地方。
エルディーンを飛ばして行けるのであれば、諜報部隊を使うよりも手っ取り早い。
しばらく飛んでいると、目的のリーニュ地方が見えてきた。
ノクシスは素早く降り立ち、指揮官を呼び出す。
「これはノクシス様、こんなところに一体何用ですか?」
肩口まで切りそろえた金髪が揺れる。
仕立ての良い軍師用ローブは、一切の乱れなく身体に沿っていた。
無駄な装飾を排したその佇まいは、実用性の中に均衡した美を成立させている。
そして、全てを見通すような瞳が、深い碧色の輝きを宿してノクシスを射すくめた。
――軍師マリエル? なぜ、こんなところに……。
原作5章ではリーニュ地方にマリエルがいたという記憶はない。
ではなぜここにいる。
この戦いは裏で彼女が糸を引いていたということなのか、あるいはシナリオが変わった影響なのか──。
深入りしそうになる思考を抑え、要件を告げる。
「野暮用でな、マリエル殿に一騎お借りしたい駒がいる」
「駒、ですか。目的をお聞きしても?」
「いやいや、マリエル殿に話すほどの目的があるわけではないのだがね」
「それでは、おいそれとお貸し出しすることはいたしかねますね」
さすがに帝国有数の軍師。軽々に権力には屈してくれない。
ここは素直に話してしまった方が話が早そうだと考える。
「では話すが、ある民家が山賊に狙われているという情報を耳にしてな。その民家は俺が実験に使いたいので、守ってもらいたい」
「これは珍しい。ノクシス様ともあろうお方が民家を守ろうなどとおっしゃるとは。よほど大切な実験のようだ」
「偽りなき発言だ。協力してくれるな?」




