情報錯綜、見えない伝令の罠【13話】
まずは、情報だ。
情報が足りない。
これまでの経験から、ゲーム知識による未来は、あくまで可能性のひとつでしかないことを理解した。
一方で朗報もある。
ヒース達がゲームの進行通り進んでいること、プレイヤーが原作をなぞることに執着していること。
これらは、むしろ歓迎する条件だ。
ノクシスが大きく未来を変えなければ、知識が通用しなくなるほど世界は逸脱しないということを示しているからだ。
「とにかく情報を集めねばな」
「何の情報ですか?」
「一々独り言に反応するなと言っただろう」
「えへへぇ、ノクシス様ってそのへんちょっと面白いですよね」
「なに?」
こいつは急に何を言い出すのか。
「だってノクシス様っていつも独り言しゃべってますよ。
いっぱい考えてるんだなって思います」
考え込んでいるのは見ての通りだが……。
「わかっているなら、静かにしていろ」
「でも、誰かと一緒に話した方が考えがまとまることもあると思いますよ」
わかった気になって語られるのは、少々気に食わない点である。
「少なくとも、それはお前の役目ではない」
「またそんなこと言う~」
「やることは決まっているんだ。
ただ、それが本当に効果のあることかどうかを検討している。
それをお前と検討しても仕方がない」
「でも……」
「お前に情報はやらんと言っているんだ。わかったら静かにしていろ」
「んーー……」
そこまで言うとノクシスは手元の紙に文字を書き始めた。
その姿を見たエリカは、喉元まで出かかった言葉を飲み込み、ノクシスを見つめる。
さすがのエリカも、ノクシスが集中している時に話しかけるのは憚られるのであった。
――必要な情報は……。
マリエルの最近の動き。
ナーシャの行動も気になる。
それと……。
視線を、彼女に向ける。
「! 何かお言いつけですか!?」
「見ただけだ」
にへら、と無害そうな顔で、はにかむエリカ。
こいつのことも洗い直す必要がある。
例えば、エリカ自身がプレイヤーでなくとも、プレイヤーの命令で送られた間者である可能性は十分にあるからだ。
――ならば、こっちから仕掛けるか。
ヒースとマリエルが直接対決するのは、13章が初めてだ。
そしてその場にはノクシスも居合わせることになる。
卑怯者であるノクシスは、軍事責任者であるマリエルの命令に背き、不利になった途端に逃げ出すことになっている。
だが13章では、ノクシスは明確にマリエルの指揮下に入っている。
マリエルが何か仕掛けてくるならここだ。
例えば、監視をつけてノクシスが戦場から離脱することを防いだり、原作のような遊撃隊ではなく、直属の指揮下に置くかもしれない。
しかしマリエル側にも枷がある。
それは、マリエルも"突然の呼び出しにより戦場を離脱する"点だ。
ここだ、ここに介入余地がある。
どんなメッセージだったか、思い出せ。
あの兵士は、何と伝えてマリエルを戦場から退かせたか。
『マリエル様。
――帝都より召還命令です』
そうだ。詳細不明の召還命令。
マリエルがプレイヤーだった場合に最も困るのは、この召還命令が来ないことのはず。
「召還命令……帝都から急ぎの公用文か……」
「急ぎの連絡ですか?」
またもエリカが口をはさむ。
何度も思考を吐いてしまう己の口が一番の原因なのだが。
ノクシスは深いため息をひとつつくと、エリカに向き直った。
「……急ぎの用事がある時、お前ならどうする?」
その質問に、エリカは目を輝かせる。
「走ります!」
「……相手が遠い場所だったら?」
「伝書便さんを使います!」
伝書便、か。
「急ぎのお手紙がある時は、赤い伝書便さんに頼むんです。
そしたらすぐ届けてくれるので!
……ってノクシス様なら知ってることですよね、ごめんなさい」
「いや、一般の配達を使うことはないから、知らなかった」
「そうなんですか!? じゃあ、ちょっとはお役に立てましたかね、えへへ」
伝書便……配達……速達……赤……蜜蝋……?
もう少しで何かが繋がりそうだ。
「エリカ、もっと色々聞かせろ」
「えっえっ、えと、じゃあ隣村の子と文通してた時のお話ししますね」
「最初は手紙のやり取りが多かったんですけど、段々減ってきてですね。
なんで減ってきてるのかと思ったら、治安が悪いせいらしくて。
伝書便さんが襲われて、お手紙がなくなることも多かったんです」
手紙がなくなる……?
「それで、それからしばらくした後に知ったんですけど……。
隣村は山賊に襲われちゃってたんだそうです。
その山賊が、ベルト山脈のベルト山賊団です」
珍しくエリカが拳を握っている。
「……そうか。つまらない話をさせた」
「い、いえっ」
エリカは気丈にふるまっているような、泣きそうな、複雑な表情をしていた。
だが、おかげでマリエルへの罠は思い付いた。
必ず尻尾をつかんでやるぞマリエル――。




