因果応報、その思考を阻む者【10話】
「……」
しゅん、という擬音が聞こえてきそうなほど落ち込むエリカ。
少し言い過ぎたか、という僅かな罪悪感と、やっと静かになったという思いが交錯する。
だが、これでようやく考えをまとめられる。
幸か不幸か、エリカが暴れまわった影響で、いくつかのヒントを得た。
――7章は諦める。
既にヒース達はボトム島に到着。
翌日には神殿へ到着するだろう。
今から神殿に何かを仕込むには、時間が足りない。
それならば8章で何かできないだろうか。
思い出せ……8章のオープニングシーン……。
『ボトム神殿で"呪われたゾディオン"を手に入れたヒース達一行は、一路、港町リクルスを目指していた』
いや、もっとだ、もっと考えろ。頭を働かせろ。
この世界は現実的な一面を持っている。
ボトム島から港町リクルスまで、どのぐらいかかる?
飛竜、馬車、徒歩……。
「そうだ、先に"処分"しておけば……」
橋を落とすのは時間稼ぎにならなかったが、この方法なら確実に時間が稼げる。
ならば早速――。
と、考え出したノクシスの耳に届く、衣擦れの音。
間髪をいれず、視界が不審な肌色をとらえる。
「……何を、している……」
ノクシスの眼前に広がる肌色。
豊かな双丘を隠す左腕。
紅潮した頬。
「ノクシス様……どうか、どうか、見捨てないでください!
何でも……しますから……」
エリカは目に涙を浮かべながらも、視線はノクシスから逸らしている。
「バカか貴様は!」
拳を机に打ち付ける。
「えっ、えっ。でも、処分って……」
「お前のことではない、さっさと服を着ろ!」
どかっ、と椅子に座りなおし、大きなため息をひとつ。
そういえばこいつは、燃え尽きた民家から現れたキャラクターだったな……。
「おい、お前。どうやって燃える家屋から逃げ出した?」
「どうしてそのことを……!」
目を輝かせて驚く、半裸のエリカ。
「答えろ。お前がどうやって助かったのか」
「はい、ノクシス様。
実はあの日、家族で外出しました」
「外出だと……?」
それも当然だ。この世界はゲームではない。
NPCだったこいつらも、ずっと民家に引きこもっているわけがなかった。
「はい。それで帰ってきたら家がなくなってました」
「聞くが、なぜ外出した?」
「お母さんが、夕飯作るのめんどぉーって言いだして。
親戚の家が近くにあるので、そこにお邪魔してご飯食べてました」
沈黙するノクシス。
エリカは嘘をついている?
だが、嘘にしてはあまりにも行き当たりばったりだ。
「でもノクシス様、助けてくださっただけでなく、家がなくなってたことまで知ってくれてたんですね!」
「ん……まあ、な。
手を出した以上、俺には見届ける義務があっただけだ」
「それでも嬉しいです! だからお仕事をくださったんですね!」
「何? それは違う、お前が勝手にうちに来たんだろう」
「えへへー、押しかけちゃいました」
「なぜヴァルメリア家に来た」
「はい! ヴァルメリア家のノクシス様が山賊から守ってくれたって、騎士の方から聞いたんです!」
「騎士……? ナーシャか……!」
「そうです、ナーシャさんです! ぜひいつか改めて、お礼させてください!」
「機会があればな。
それで? お前は……」
「はい、エリカです!」
「ええい、うるさい。お前の名前など知っている」
「そうなんですか? お前お前って呼ばれるので、名前を憶えてもらっていないのかなって思ってました」
「面倒な奴だな……。
それで? エリカはなぜヴァルメリア家で働こうと思った?」
「ノクシス様にご恩をお返ししたかったんです!!」
「あくまでそのスタンスを崩さないつもりか」
「えと、ごめんなさい。
実は、家も家財も燃えちゃったので、働き口を探してました。
ノクシス様なら助けてくれるかなってちょっと考えたのもあります」
えへへ、と目を細めて頬をかくエリカ。
「……本当にそれだけか?」
「ほ、本当です!
あっ、もちろんノクシス様にご恩をお返しするつもりで来たのも本当です!」
「今のところ邪魔しかしていないが?」
「ご、ごめんなさい……」
……現時点では、尻尾を掴むことは難しそうだ。
天然でやっているのか、あえてそう振る舞っているのか、判別がつかない。
現時点ではエリカがプレイヤーの可能性は中程度。
一応筋は通っていたが、話の内容があまりにも雑すぎる。
さらにリカバーオーブの破壊、あれは意図的か?
平民がその存在を知っているとは考えにくい。
しかも初めて入った部屋なのに、真っ先にリカバーオーブへと向かって行った。
この辺りがどうにも引っ掛かる。
「……まあ、いい」
今は保留だ。
手元に置いておけば、プレイヤーだったとしても勝手な行動はできまい。
それより、さっさと処分を済ませてしまおう。
「いくぞエリカ。目指すは――再びボトム島だ」




