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蜜色の真実と毒の標的

【お知らせ】

この作品は生成aiを用いて執筆を行なっています

あらかじめご了承の上、お楽しみください

ヴァイスブルク公爵邸の離れ——淡い朝陽が差し込む書斎で、リーゼロッテは机上に広げられた羊皮紙の束を眺めていた。窓際に置かれた白磁の花瓶には、控えめな薄紫のスミレが活けられている。まるで主人の瞳の色に寄り添うかのように。


「お嬢様、こちらが昨夜届いた残りの報告書でございます」


エルザが恭しく新たな書類の束を差し出す。彼女の栗色の髪は今日も一糸の乱れもなく結い上げられ、侍女服の白いエプロンには皺ひとつない。しかしその茶色の瞳には、徹夜明けの疲労を覆い隠しきれない翳りがあった。


「ご苦労様、エルザ。少し休んでもよくてよ?」


リーゼロッテは労いの言葉をかけながらも、その視線は既に新しい書類へと向けられていた。淡い銀灰色の髪が、ページを捲る動作に合わせてさらりと肩を滑る。


「いいえ、お嬢様のお傍を離れるわけには参りません。……それに、この調査はあまりに興味深うございますから」


エルザの言葉には、情報収集者としての好奇心が滲んでいた。リーゼロッテは薄く微笑む。この侍女もまた、真実を暴くことに一種の愉悦を見出しているのだ。


「では、昨日までの調査結果を整理しましょう。マリアベル・エーデルシュタインが男爵家に引き取られたのは八年前。当時十歳。その後、男爵領内の孤児院を度々慰問していた記録がございます」


リーゼロッテは羊皮紙に書かれた年表を指でなぞりながら、事実を確認していく。その声は穏やかだが、薄紫水晶の瞳の奥には冷徹な光が宿っていた。


「はい。そして昨日の密書にございました通り、彼女が慰問を始めた時期から、その孤児院で不審な病が発生しているのでございます」


「慰問という名目で子供たちに近づいていた……面白いですわね」


リーゼロッテは紅茶のカップを手に取り、琥珀色の液体を一口含んだ。温かな香りが鼻腔をくすぐる。


「お嬢様、孤児院への注目は正解でございました。昨日の密書の内容についてですが……『原因不明の病で衰弱した子供が七名』、この一文が全ての鍵かと」


エルザの報告に、リーゼロッテの指が止まった。


「エルザ、男爵領の孤児院についての詳細な報告を」


「男爵領の聖ローレンツ孤児院でございます。マリアベル様が慰問を始めた頃から、入所児童の間で原因不明の衰弱が相次ぎました。孤児院側は疫病として処理しておりますが……」


「実態は違う、ということね」


「はい。当時の記録を入手いたしました」


エルザが差し出した羊皮紙には、几帳面な筆跡で子供たちの健康記録が綴られていた。リーゼロッテは一枚一枚、丁寧に目を通していく。


「アンナ、六歳。マリアベル様の慰問三日後に原因不明の衰弱、一週間後に死亡。トーマス、八歳。慰問の翌日から突然の体力低下、二週間の苦しみの末に死亡……」


「続けて」


「エミリア、七歳。元気だった少女がマリアベル様に抱きしめられた翌日、立てなくなる。七人の子供たちが、いずれも同じような症状で命を落としております。そして——」


「マリアベルが慰問した直後に、必ず犠牲者が出ているのですわね」


「ご明察でございます。さらに興味深いことがございます。マリアベルの『奇跡の治癒能力』が初めて記録されたのは、三人目の子供が死亡した直後でございます」


沈黙が書斎を満たした。窓の外では小鳥が囀っているが、その明るい声が皮肉なほどに場違いに感じられた。


「治癒能力発現時期との一致……偶然にしては、出来すぎですわね」


リーゼロッテは紅茶のカップを置いた。その動作は優雅だったが、瞳の奥には氷のような確信が宿っていた。


「お嬢様、確証は……」


「状況証拠としては十分ですわ。子供たちが衰弱する時期と、マリアベルの力が増す時期が完全に一致している。生命力の搾取……禁術の一種ね」


「禁術……では、聖女と呼ばれる方の奇跡とは」


「他者の命を吸い取って得た偽りの力。聖女と呼ばれる方が、実は他者の生命を吸い取る禁術師……皮肉なものですわね」


リーゼロッテは窓の外を見つめた。春の陽光が庭園を照らし、薔薇の蕾が膨らみ始めている。美しい景色だった。しかし彼女の心には、幼い命を奪われた子供たちへの冷たい怒りが渦巻いていた。


「では、この情報をどのように——」


「まだ早いわ、エルザ。禁術の証拠だけでは足りません。彼女を支援している人物、そして王太子派閥との繋がり……全てを暴いてから、一網打尽にするのですわ」



同じ頃、王宮では全く異なる空気が流れていた。


エドワルド・ローゼンクランツの私室は、燦々と降り注ぐ陽光に満ちていた。金糸で刺繍された深紅のカーテン、贅を尽くした調度品、そして部屋の主人にふさわしい豪奢な装飾。全てが、この国の未来の王にふさわしいものだった。


「殿下……リーゼロッテ様には、本当に申し訳ないことをしてしまいました」


マリアベル・エーデルシュタインは、エドワルドの前で両手を組み、涙に濡れた翡翠色の瞳を向けていた。蜂蜜色の巻き毛が、嗚咽に合わせて揺れる。


「やめてくれ、マリアベル」


エドワルドが彼女の手を取った。金髪碧眼の王太子は、目の前の少女を見つめる目に、完全な魅了の色を浮かべていた。


「私のせいで、お二人の婚約が……私さえいなければ——」


「君は何も悪くない。僕がリーゼロッテとの婚約を解消したのは、僕自身の意志だ。君を責める権利は誰にもない」


「でも、殿下……」


「それに——リーゼロッテは分かってくれる。彼女は聡明な女性だからね。僕たちの幸せを祝福してくれるはずさ」


マリアベルは涙を拭いながら、小さく頷いた。


「殿下がそうおっしゃるなら……」


「ああ。だから泣かないでくれ。君の涙は、見るに堪えない。僕が君を守る。何があっても」


エドワルドはマリアベルを抱きしめた。彼女の華奢な体を腕の中に収めながら、王太子は自らの判断の正しさを確信していた。


——彼は気づいていなかった。五年間、献身的に仕えてくれた婚約者の真価を。そして今、自分がどれほど巧みに操られているかを。


エドワルドが執務のために部屋を後にすると、マリアベルの表情は一変した。


涙の跡は既に乾き、その翡翠色の瞳には、先ほどまでの無垢さとは全く異なる光が宿っていた。冷たく、計算高く、そして傲慢に。


「……あの地味な令嬢は消えた」


独り言が、静かな室内に響いた。窓辺に歩み寄り、王都の街並みを見下ろす。


「これで王太子は私のもの」


マリアベルは自らの手を見つめた。白く細い指先——この手で、どれほど多くのものを掴んできたことか。


「リーゼロッテ・フォン・シュヴァルツェン……色素の薄い、病弱そうな外見。常に控えめで、自己主張することを知らない。脅威にならない地味な女」


その名を口にする時、明らかな侮蔑が浮かんだ。五年間も王太子に仕えておきながら、一度も彼の心を掴むことができなかった無能な女。あの令嬢が自分の敵になるなど、考えられなかった。


「さて、次は正式な婚約発表ね。王太子妃、そしていずれは王妃……全て私の手の中に」


マリアベルは鏡の前に立ち、自らの姿を確認した。完璧だった。


——彼女は知らなかった。自分が「脅威にならない」と見下した相手が、既に何年も前から牙を研いでいたことを。



午後の柔らかな陽射しの中、ヴァイスブルク公爵邸の庭園では、優雅なティータイムが催されていた。


白い藤棚の下に設えられたテーブルには、銀の茶器と繊細な焼き菓子が並んでいる。薄紫の藤の花房が風に揺れ、甘い香りを運んでくる。


リーゼロッテは淡いラベンダー色のドレスに身を包み、優雅に紅茶を注いでいた。その向かいには、漆黒の髪を持つ青年——レオンハルト・フォン・ヴァイスブルクが座していた。


「体調はどうだ」


レオンハルトの声は相変わらず無愛想だったが、その深い紺碧の瞳は、リーゼロッテを見る時だけ微かに柔らかくなる。


「おかげさまで。公爵邸での療養は快適でございますわ」


「社交界の動向を伝えに来た」


「あら、わざわざありがとうございます」


「聖女と王太子の婚約が近いと噂されている。正式発表は来月の月初めになるだろう」


その言葉に、リーゼロッテの表情は微塵も変わらなかった。


「そう……もうそんなに」


「気にならないのか」


「丁度良いですわ」


「……丁度良い?」


「蜜は十分に甘くなってから毒を仕込むものですもの」


レオンハルトは黙ってリーゼロッテを見つめた。


「お前は——」


「私は何もいたしませんわ。ただ、真実が明らかになる手助けをするだけですもの」


リーゼロッテは無邪気に首を傾げた。その仕草は愛らしく、しかし言葉の意味は氷のように冷たい。


「……何か手伝えることがあれば言え」


「まあ、優しいお方」


ティータイムが終わり、リーゼロッテとレオンハルトは離れの書斎へと戻った。春の陽光が窓から差し込み、執務机の上に淡い影を落としている。


リーゼロッテが椅子に腰を下ろした時、慌ただしい足音が近づいてきた。


「お嬢様!」


エルザが書斎に駆け込んできた。普段は冷静沈着な彼女が、珍しく興奮した様子を見せている。


「どうしたの、エルザ。そんなに慌てて」


「新しい情報が入りました。至急ご報告したく——」


エルザはレオンハルトの存在に気づき、一瞬躊躇した。


「構いません、続けて。この場には味方しかおりませんわ」


「王太子派閥の中心人物、アウグスト・フォン・ゲルトナー様についてでございます」


その名前に、リーゼロッテの瞳が微かに輝いた。


「アウグスト……」


「彼が近々、大規模な賭博場を開くとの情報が入りました。場所は王都西区の古い貴族邸を改装した建物。参加者は王太子派閥の貴族を中心に、相当な人数になる見込みです」


「続けて」


「あの魔道具の記録にございました『賭博場への資金流入』——あれは、この計画のことだったのでございますね」


「ええ、そうでしょうね。記録の資金の流れと照らし合わせれば、確たる証拠になりますわ」


リーゼロッテは紅茶のカップを置いた。窓から差し込む光が、彼女の銀灰色の髪を淡く照らしている。


「最初の獲物が決まりましたわね」


レオンハルトが低く呟いた。「……獲物、か」


「レオンハルト様」リーゼロッテは彼を見つめた。「私、踊り子を手配しようと思いますの。賭博場には、美しい女性が必要でしょう?」


「俺の伝手を使うか?」


「いいえ、私の情報網で十分ですわ。ただ——後日、貴方のお力をお借りすることになるかもしれません。王家の資金流用となれば、正式な監査が必要になりますもの」


「……分かった」


エルザは恭しく一礼した。「では、踊り子の手配を進めます。三日以内には準備が整うかと」


「お願いするわ、エルザ」


リーゼロッテは立ち上がり、窓辺に歩み寄った。窓の外では、庭園の薔薇が夕暮れの陽光を受けて血のように輝いている。


「アウグスト・フォン・ゲルトナー……貴方は私を『地味な女』と嘲笑いましたわね。ええ、覚えておりますわ。一言一句」


レオンハルトは黙って彼女を見つめていた。


「お嬢様、またお優しい笑顔で誰かを破滅させるのですね」


エルザの言葉に、リーゼロッテは微笑んだ。


「あら、エルザ。破滅させるのではなくてよ?真実を明らかにするだけ……結果として破滅するのは、彼ら自身の罪ゆえですわ」


「リーゼロッテ」


レオンハルトが名を呼んだ。


「はい?」


「……無茶はするな」


「ご心配には及びませんわ、レオンハルト様。私は常に、最も安全な場所から蜜を注ぐだけですもの」


振り返った彼女の顔には、蜜のように甘い笑みが浮かんでいた。しかしその瞳は、氷よりも冷たく、毒よりも致死的だった。


「序曲はまだ終わっておりませんの。これからが本番ですわ」


春の風が吹き、窓の外で藤の花びらが舞った。そしてリーゼロッテは、エルザに向かって静かに告げた。


「アウグスト卿には、可愛い踊り子から素敵な贈り物を届けさせましょう」


その言葉には、裏社会との深い繋がりが滲んでいた。復讐の第一楽章が、静かに幕を開けようとしていた。

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