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廃墟に咲く決意の花

【お知らせ】

この作品は生成aiを用いて執筆を行なっています

あらかじめご了承の上、お楽しみください

深夜のヴァイスブルク公爵邸。大広間には数十本の燭台が灯され、揺れる炎が壁に不穏な影を落としていた。


リーゼロッテは椅子の背もたれに指先を添え、静かに立っていた。淡い銀灰色の髪が燭火を受けて淡く輝き、薄紫水晶の瞳には一切の動揺が見られない。その傍らには、緊迫した面持ちで報告書を手にしたエルザと、腕を組んで壁際に立つレオンハルトの姿があった。


庭園での告白が中断されてから、まだ一刻も経っていない。三人は急ぎ大広間に移り、情報の整理に取りかかっていた。


「お嬢様、王宮からの急使の情報をさらに詳細に確認いたしました」


エルザの声は平静を装っていたが、わずかな震えが隠しきれていない。


「続けて」


リーゼロッテの短い命令に、エルザは即座に応じた。


「看守三名の衰弱状態は、当初の報告より深刻でございます。いずれも数年分の寿命を奪われた状態かと。また、マリアベルの逃走経路ですが……王都の裏路地を彷徨う女の目撃情報が複数寄せられております」


室内に重苦しい沈黙が落ちる。


「……やはり、殺すことへの躊躇いを完全に捨てたか」


レオンハルトが低く呟いた。その声には、隠しきれない怒りが滲んでいる。


リーゼロッテは静かに目を閉じた。予想していたとはいえ、現実となった今、その重さは胸に冷たく沈む。


「目撃者の証言に、他に何か?」


「はい。いずれの目撃者も、彼女が『リーゼロッテ』という名を繰り返し呟いていたと……先程の報告の通りでございます」


レオンハルトが壁から身を起こした。紺碧の瞳が鋭く細められる。


「間違いなくお前を探している、ということだな」


「そのようですわね」


リーゼロッテは薄く微笑んだ。その笑みは、かつて社交界で見せていた儚げな令嬢のものではない。冷徹な策略家の——氷のような静謐さを湛えた微笑みだった。


「私を道連れにするおつもりなのでしょう」




レオンハルトが一歩踏み出した。普段は感情を表に出さない彼の声に、隠しきれない焦りが滲んでいる。


「リーゼロッテ。すぐに安全な場所へ移る。ヴァイスブルク領の奥地に別邸がある。そこなら——」


「お断りいたしますわ」


リーゼロッテは静かに、しかしはっきりと遮った。


「何を言っている。あいつは禁術使いだ。人の命を奪うことに躊躇いがない」


「逃げても解決いたしません。マリアベル様は、私を見つけるまで止まらないでしょう。その間に何人の無辜の民が犠牲になるかわかりません」


「だからといって、お前が危険に身を晒す必要はない」


リーゼロッテは彼の方へ向き直った。月の光を映したような薄紫の瞳が、真っ直ぐに紺碧の瞳を見つめる。


「レオンハルト様。私は五年間、復讐のために生きてまいりました。母を殺した者たちに報いを与えるために。そして今、その最後の一人が——私を探して彷徨っている」


レオンハルトは言葉を失った。彼女の瞳に宿る光は、誰にも止められない決意の炎だった。


「ここで決着をつけますわ。これは私とマリアベル様の問題です」


「問題、だと? そんな相手と一人で——」


「だからこそ、私なのです。私は毒物学を修め、魔道具を操り、情報網を駆使してまいりました。彼女を止められるのは——彼女の手口を知り尽くした私だけですわ」


エルザが静かに一歩前へ出た。


「お嬢様。私もお供いたします」


「ええ、エルザ。貴女の力が必要ですわ」


レオンハルトは拳を握りしめた。しかしリーゼロッテの瞳に宿る光を見て、彼は悟った。この女性を止めることは誰にもできない。




リーゼロッテの私室。机の上には王都の地図が広げられ、その傍らには様々な魔道具が並べられている。


「決戦の地は、ここにいたしましょう」


リーゼロッテの白い指が、地図の一点を指し示した。


「シュヴァルツェン伯爵邸……お嬢様の、ご生家ですね」


「ええ。父の逮捕後、使用人たちも去り、完全に閉鎖されている場所です。あの屋敷には、母が生前に施した結界術式が今も残っていますわ」


エルザの目が見開かれた。


「結界術式……まさか」


「魔力を封じる結界よ。母は毒物学だけでなく、対禁術の研究もなさっていたの。マリアベル様を誘い込み、結界を発動させれば——彼女の禁術は無効化されます」


エルザは地図を見つめながら、計画の輪郭を掴んでいった。


「餌は、お嬢様ご自身ということですか」


「私の居場所を、あえて漏らしますわ。今夜、私が一人でかつての生家を訪れるという情報を。マリアベル様の耳に届くよう——裏路地に」


「承知いたしました。手配いたします」


リーゼロッテは小さな水晶球を取り出した。淡い青みを帯びた球体が、燭火を受けて幽かに輝く。


「結界の起動には、この魔道具を使います。母の形見ですわ。エルザ、貴女にはこれを託します。私の合図で——結界を発動させてちょうだい」


「必ず。……お嬢様、最後の共犯、光栄でございます」


「あら、最後だなんて。これからも貴女には働いてもらいますわよ」


「もちろんでございます。お嬢様のお傍以外に、私の居場所などありませんもの」


二人は静かに微笑みを交わした。長年の共犯者として培われた絆が、そこにあった。




公爵邸の正面玄関。月が雲間から姿を現し、白亜の柱廊を青白く照らしている。


リーゼロッテが馬車へ向かおうとした瞬間、背後からレオンハルトの声が響いた。


「待て」


振り返ると、彼が大股で近づいてくる。


「やはり一人で行かせるわけにはいかない」


「お気持ちは嬉しゅうございます。ですが——」


「分かっている。お前の戦いだということは。だが、俺にも譲れないものがある」


彼はリーゼロッテの前で足を止めた。


「お前に何かあったら……」


言葉が途切れる。その沈黙が、何よりも雄弁に彼の想いを伝えていた。


「……分かりましたわ。伯爵邸の外で待機なさってください。結界の中には入らないで。もし私が合図を送ったら——その時は、助けに来てくださいまし」


「約束する」


レオンハルトは即座に頷いた。そして——彼はリーゼロッテの手を取った。


「必ず戻って来い。俺は……まだ、お前の答えを聞いていない」


リーゼロッテの心臓が跳ねた。先日の庭園での告白。あの返事をまだ——


「……必ず、戻りますわ。貴方にお伝えしたいことが、ございますもの」




馬車を降りたリーゼロッテの前に、かつてのシュヴァルツェン伯爵邸が聳えていた。


月光が照らし出すその姿は、わずか数日で驚くほど荒涼とした空気を纏っていた。主と使用人たちが去って完全に人の気が絶え、不気味な静寂が屋敷を包み込んでいる。元より手入れの行き届かなくなっていた庭園は、今や完全に打ち捨てられ、夜風に揺れる草木だけが音を立てていた。


——ここで、母と一緒に花を摘んだ。


荒れた庭を歩きながら、幼い日の記憶が蘇る。まだ世界が優しかった頃。母の温かな手に導かれ、薔薇の棘で指を刺しては泣いていた、あの頃。


——そして、ここで。母は、殺された。


大広間の中央に立ち、リーゼロッテは静かに目を開いた。


「さあ、いらっしゃいませ、マリアベル様。この廃墟で——全てを終わらせましょう」




「見つけた……」


声は、闇の中から響いた。


大広間の入口に一人の女が立っていた。かつての聖女マリアベル。しかし今、その姿には清楚な面影は微塵もない。蜂蜜色の巻き毛は乱れ、翡翠の瞳は血走り、白かったはずのドレスは泥と血で汚れている。


「やっと……やっと見つけたわ、リーゼロッテ」


「ようこそ、マリアベル様。お待ちしておりましたわ」


リーゼロッテは穏やかに微笑んだ。マリアベルの体から禍々しい紫の光が立ち昇り始める。


「全てあなたのせい……あなたさえいなければ! 私は聖女だった! 王太子の花嫁になるはずだった!」


「随分と……変わられましたわね」


「黙りなさい! あなたが! あなたが全てを奪った!」


「いいえ、マリアベル様。貴女は何も分かっていらっしゃらない」


リーゼロッテは一歩も退かなかった。


「ええ、確かに私は貴女の過去を調べましたわ。でもね、マリアベル様。私が暴いたのは——貴女が自ら隠した真実ですわ」


「黙りなさい!」


「孤児院で七人の子供の命を奪ったのは、私ではありません」


マリアベルが息を呑んだ。


「王太子を籠絡し、聖女の地位を利用して這い上がろうとしたのも。禁術と知りながら人の命を吸い続けたのも。全て——貴女ご自身の選択ですわ」


「違う……! 私は、私は仕方なく……!」


「貴女を破滅させたのは、私ではありません」


リーゼロッテの声には、蜜のような甘さと、毒のような冷たさが同居していた。


「——貴女自身の、欲望ですわ」


「嘘よ……嘘よ嘘よ嘘よ! あなたを殺す! 殺して、私は——!」


マリアベルが飛びかかろうとした、その瞬間。


「今ですわ、エルザ」


次の瞬間、廃墟全体が青白い光に包まれた。床に、壁に、天井に——隠されていた術式が一斉に起動する。


「な、何……!? これは……魔力が……!」


「母の遺品ですわ。この結界の中では——貴女の力は使えません」


マリアベルの膝が崩れた。禁術を失った彼女は、ただの一人の女に過ぎない。


物陰からエルザが現れ、手際よくマリアベルを拘束する。


「お嬢様、任務完了です」


「ご苦労様、エルザ」


「離しなさい! 私は聖女よ! こんな所で終わるはずが……!」


「聖女様、お静かに。看守の方々の命を奪った罪、王宮で存分にお話しくださいませ」


その時、廃墟の外から足音が響いた。


「リーゼロッテ!」


レオンハルトが駆け込んできた。


「無事か」


「ええ、お約束通りに」


リーゼロッテが微笑んだ瞬間——彼女の足がよろめいた。張り詰めていた緊張が、ようやく解けたのだ。


レオンハルトが即座に彼女を支える。温かな腕が、彼女の細い体を包み込んだ。


「……馬鹿が。無理をしすぎだ」


「……申し訳ございません」


「謝るな」


「覚えてなさい、リーゼロッテ……! あなたもいつか……必ず……!」


連行されるマリアベルの叫びが遠ざかっていく。リーゼロッテは静かに見送った。


「さようなら、マリアベル様。貴女の欲望が、貴女を滅ぼしたのですわ」




その時、エルザが何かを拾い上げた。


「お嬢様。これを」


「……これは?」


「マリアベルの懐から落ちたものです」


リーゼロッテは手紙を受け取り、封蝋を確認した瞬間——息を呑んだ。


「これは……王家の紋章」


震える手で封を切り、中身を確認する。


「……何が書いてある」


レオンハルトの問いに、リーゼロッテの声が震えた。


「王妃様からの、手紙ですわ。マリアベル様を王太子の傍に送り込んだ経緯、禁術の存在を知りながら黙認していたこと、そして——私を排除せよという指示」


レオンハルトの表情が険しくなる。


「……王妃が黒幕だったのか」


「やはり……全ての黒幕は、王妃様だったのですわね」


夜空に浮かぶ月が、廃墟を青白く照らしている。聖女との決着はついた。しかし——復讐の最後の標的が、新たに姿を現した。


「お嬢様……いかがなさいますか」


エルザの問いに、リーゼロッテは静かに答えた。


「王宮に戻りましょう。全てを、終わらせるために」


「……一人で抱え込むな。俺も共に行く」


レオンハルトの言葉に、リーゼロッテは小さく頷いた。


「……ありがとうございます、レオンハルト様」


廃墟を後にしながら、リーゼロッテは夜空を見上げた。母の遺した結界が、娘を守り、悪を断罪した。まるで天から見守っているかのように。


「……母上。もう少しだけ、待っていてくださいませ。貴女の無念、必ず晴らしてみせますわ」


馬車が王都へ向けて走り出す。その中で、リーゼロッテは王妃からの手紙を握りしめていた。


全ての糸が、王妃へと繋がっていた。聖女を送り込んだ黒幕。母の死に——本当に関わっていたのか。


物語は、最終局面へと向かう。

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