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第二十六話

栄養ドリンクを飲みながらタバコを吸ったら、プラマイゼロになる気がしている今日この頃です。

「技名をさ、叫ばないと技が出せないっていうのは、俺はダサいと思うんだよ」

「急にどうした」

「スキルの発動条件なのはしょうがないけどさ、でもダサいじゃん?」

「でもお前スキルもなんもないじゃん」

「……いくら先輩でも言っていいことと悪いことがある。今回は悪い方だ」



ぁあ!お前!!!と叫ぶDスラ先輩の皿に入っていた肉を、一つ箸で取り上げた。うむ、美味い。やはり人の金で食う焼肉は美味いな。


Dスラ先輩は、「大体、スキル名を叫ぶのは全男子の憧れだろ?」とボヤいている。その気持ちもわからなくはないけど。


基本的戦術がぶん殴るか喧嘩キックしかない俺は、スキル名を叫ぶ必要性がないし。実際、スキル名叫んでる間ってスキになるからね。スキルだけに。


「別にうまくもなんともねえよ、ドヤ顔しやがって」


先輩はぐちぐちと言いながら、俺の隣を歩く。

さっき、行く当てのない三郎をお蝶のところに預け(すごく文句を言われた)トンデモ鑑定団に顔を出したあと、偶然にも先輩と会った。


リアルで失恋したらしく、ウダウダ泣いていたので話を聞きがてら飯を奢ってもらったが。モテない俺に聞いたって意味ねえだろうがよ。当てつけかよ。


結局、先輩は吹っ切れたのか知らないが、「そうだな、俺ほど良い男は他にいない!」と開き直っていた。


楽しそうでなによりである。俺はオラオラとチンピラじみている先輩を尻目に瓢箪を撫でた。


トンデモ鑑定団と愉快な占易組合の皆さんの鑑定結果、俺のステータス等は、この前言われた「殺意や敵意のない魔物には本来の力の100分の1しか出ない」以外、一切が「不明」であったと言われた。祟りの影響が酷いらしく、改めて鑑定してもわからなかったそう。


京都エリアの偉いお坊さんに一人、鑑定スキルの上位スキルを持っている人がいるらしいので、機会があれば尋ねてみてほしいと、トンデモ鑑定団のセイさんに悔しそうに言われた。鑑定できなかったのが悔しかったんだろうなぁ。


俺はついでに瓢箪についても聞こうと思ったが、白猿が言っていた「人間如きが持っていいものではない」のセリフから、特に瓢箪についても聞かないままにした。その京都の偉い坊さんに聞けばいいか。


そんで、肩透かしを食らいながら占易組合から出る時、番台に座っていた占易の組合長から「穴には気をつけな」とぼそっと言われたのが怖い。そういや、こないだは「動物の難に気をつけろ」って言われたの、あれ白猿のことだろ……あのボソッと言ってくる予言みたいなのは当たるのか?


俺が金を払って自分のクソ使えない祟りしか知らされていないことに悩んでいると、吹っ切れた先輩が、「よし、ここらでいっちょ遊びにでも行くか」と言い始めた。


「何すんだい、先輩」

「なーに、ついてくりゃわかる」


先輩はそういうとズカズカと進む。品川方面へと足を伸ばし、鮫洲を越えた。長屋と船屋が立ち並んでいた通りを抜けると、開けた場所に出る。


そこは熱気に包まれていた。


「ほら、着いたぜ」

「先輩、ここは?」

「みりゃ、わかんだろう。大井競馬よ」


沢山のプレイヤーやNPCが、柵で囲まれたレース場に向かって、木札を片手に叫んでいる。その先には、勢いよく走り去っていく馬のようなのが見えた。だが、いや、あれ馬なのか……?なんか、炎を纏っていたり、骸骨馬みたいなのが走ってるんだが……。


「ここで走る馬はよ、職業がモンスターテイマーのプレイヤーとかが使役してる奴らでよ。本当は訓練所って名目なんだが、まあ、場外で勝手に賭け事をしてるって建前よ。」


いいのかそれは。

聞けば、幕府は黙認しているらしいけど。


「ここの賭場は、魔物使い組合の持ち場だから、侠客が縄張りにすることもねえ、一種の公営ギャンブルよ」


先輩はそういうといそいそと懐から小銭を取り出す。俺が黙ってそれをみていると「あ、おまえさん、文無しだったか」と、幾許かの小銭を渡してきた。


「勝ったら渡した分返してもらうぜ」

「ありがてぇ」


少し気が引けるが、これもまた先輩の漢気だろうとありがたく受け取る。先輩は俺を伴って、胴元のところに木札を買いに行った。


「よぅ、1番人気は?」

「今は、組合が誇るA級プレイヤー、佐伯ックスってやつんとこのドラゴニコだな。内枠の2番のやつ」

「固えか?」

「ま、出たら絶対ってとこだな」


オッズは低そうだが、ソイツと適当に合わせて買うか……と先輩は算段を始める。俺は競馬はよくわからないが、買い方にも色々と種類があると言われて更に混乱しそうになっていた。


「なら……適当に」


見た感じで馬を買うか。どれどれと目を凝らすと、ゲートに並んでいる馬は八頭。さっき1番人気と言っていた黒龍馬は……あれだな。全身からドス黒いオーラが出ているし、顔つきももうドラゴンやん。あれ馬じゃないだろ。他には……お、あいつなんてどうだ。


俺は胴元にちょっと聞いて、気になった馬を一頭見繕って買った。単勝って買い方らしい。わちゃわちゃと木札を買い漁っていた先輩が、俺のところに戻ってくる。


「まぁ一頭軸で三連係を流して、と。他は高配当狙いだな。雷門、お前さんは何買ったんだ。」

「俺はぁ、あの、5番。」

「あ?5番ンン????…………おいおい、あのドピンクのやつか?足の短さが尋常じゃねぇけど……もうカバじゃねぇのかアイツは」


胴元も買った時びっくりしてたな。「これでいいのか本当に?」と何度も聞かれた。


「まぁ来ないとは思うが、見るだけ楽しめるしな。それに俺が渡した金はまだ残ってるだろ?」

「いや全部アイツに買った」

「バカか????????」


俺が無視していると、「あれ、マル森君」とイケメンな外国人プレイヤーが先輩に話しかけた。


「ん?おぉ、トムさんか」

「こんなところで会うなんてね」


トムと呼ばれた男は、素人目にも上質な羽織を纏い、白く光る帯を締めていた。象牙だろうか、洒落た大黒天の根付を揺らしながら、近寄ってくる。


「仕事はどうしたよ、若旦那」

「番頭さんに任せてきたよ、ハルちゃんもいるし」


トムは、俺の方に顔を向けると「こちらは?」と先輩に尋ねた。


「こいつは、雷門って最近パンゲアに入ってきたばかりの新参プレイヤーだ……何年ぶりかのやっこさんだぜ」

「え、先輩、それ言っちゃまずいんじゃ」


俺は職業をバラされて慌てたが、杞憂だったようだ。

 

「本当!?それはすごい!!新参の侠客は本当に久しぶりだね!」


トムは陽気に「渡りガラスの横で呉服屋をしてるトムだ。生産職さ」と挨拶してきた。あぁ、ハルさんのご近所さんか。あのお茶屋は、あそこらへんの人ならよく知ってるお茶屋らしいからな。俺たち侠客組もよく知ってるわけか。


先輩が、そっと俺に「トムさんは、ハルちゃんの彼氏さんよ」と告げてくる。


……あ?なんやこいつリア充かよ。イケメン呉服屋め。仕事しろやカス。と喉まで出かかった言葉を抑え


「男の敵か貴様」

「出てるよ!雷門!心の声漏れてるよ!」

「止めるな先輩、此奴は敵じゃ」


わちゃわちゃとしているとトムさんはゲラゲラと笑う。

朗らかに笑われると、俺の心が矮小だってのがよくわかってなお腹立つ。

クソが、心まで広いとか欠点ねぇじゃねぇかコラ。俺が歯を見せて威嚇していると


「君はなかなか、骨があるね!面白い、僕の所に来たら、服の一つでも作るよ」

「懐柔しようたってそうはいかねぇからな!」

「ちなみにサブスクで、月定額貰えれば何着でも服を作ってあげるキャンペーンもしてるよ」

「ふぅ。トムさん。アンタとは仲良くできそうだ」

「おい雷門!手のひら返しが早過ぎる!」


止めてくれるな先輩。フンドシ特攻はしんどいものがあるんだ。そんな便利なキャンペーンがあるなら俺は迷わず尻尾を振るぞ。


そうこうしているうちに、馬(?)たちが発走の時刻が来た。号令と共に、係員がゲートから離れる。そして、あっという間にゲートが開いた。


一斉に走り出すほぼクリーチャーたち。

まっすぐにストレートコースを走る。このコースは楕円形となっており、外周2000メートルもある。

まだ、レースは始まったばかりだ。


と思ったが、外枠の8番が急に炎に巻かれて転がっていった。一部で悲鳴が巻き起こる。


「な、なにが起きたんだ」


と俺が慌てて先輩に聞くと、「この競馬は妨害ありだからな」と衝撃発言。

 

いまのは、一番人気のドラゴニコが、逃げを選んで先頭を走っていた8番に炎を吹いたらしい。


なんでもありじゃん。あと、馬は炎を吐かないよ。


レースも第3コーナー手前まで進む。さっきの8番の惨状もあり、トップは一番人気のドラゴニコ。他の馬は追随する形で仕掛けどころを探っている感じだ。


ちなみに俺の選んだ5番。最後方でチンタラと走っていた。それを見て先輩は「あいつは来ねぇな……雷門、金返せ」とレース中に言ってくる。

うるせぇ、まだ勝負はついてねぇ。


第4コーナーを曲がって、ドラゴニコも本気で走り出した。他の馬たちも仕掛けをはじめ

最後のストレートコースに入りこむ。すると、大外から2番人気のスケルトン馬が、外差しを決めようとドラゴニコに肉薄する。すげえ足だ。ドラゴニコは横目にそれを見ると、走りながら大きくいななく。


そして、周囲に炎をまき散らした。ドラゴニコの後ろを走っていた数頭はそれで吹き飛ぶ。

スケルトン馬も火がついている。……なんだあれ、反則だろ。


だが、スケルトン馬も負けてはいない。背中の骨が一気に伸びて、ドラゴニコの脇腹に突き刺さった。


「「ぐるぅおおおおお!」」


2頭とも雄たけびを上げる。ドラゴニコはスケルトン馬にとどめを刺そうと、かみつくように首をもたげる。

スケルトン馬も突き刺した骨をさらに深く突き刺そうと詰め寄り、そして。


俺たちの目の前の柵に、バランスを崩した2頭は激突した。柵の最前で眺めていたプレイヤーたちが、手に持った木札とともに儚くエフェクトと化す。そして、飛んできた柵に頭をぶち抜かれて先輩もエフェクトの塵と化した。


茫然とする俺とトムさんの目の前を、ヨタヨタと5番のゼッケンをつけたカバが走っていく。

 

場内の実況は一瞬言葉をのんだが、すぐに「5番!先頭は5番!ゴーゴーカバスケが1着でゴールイン!」

と叫ぶ。


それに合わせて、場内は阿鼻叫喚となった。






「いやー、とんでもないものを見たね。ライくん、センスあるね?」

「いやいやトムさん、こいつぁビギナーズラックだよ」


俺とトムさんは、木札の換金を終え場外へ出ようと連れ立って歩いてた。Dスラ先輩は死に戻りからしばらく戻らないだろう。結構な金賭けてたし。


俺は急にあったかくなった懐を撫でる。単勝オッズ121倍。これに3千バールをぶち込んでいたので払い戻しは36万バールを越えた。やったぜ、これで武器とかも買える!

 

それに、さっきトムさんが言っていた着物のサブスクも使えるなぁ!


俺はホクホク顔で、トムさんと飯にでも行こうかと話していると、目の前で、男の子プレイヤーが、若いチンピラみたいなのに囲まれて絡まれていた。


「なぁ、ガキ、金の使い方しらねぇだろう??」

「大人しく俺たちに渡せよ、な?痛いようにはしねぇからよ」

「ちょっと半分ぐらいでもいいんだぜ?」

「さっきの大荒れレースで随分美味しい思いしたろ?」

「嫌だ!」


男の子は大層金の詰まっていそうな袋を大事そうに抱え、囲んでいるチンピラどもに涙目で嫌だと言い張っている。周りを見渡せば、誰も関わり合いたくないのか、遠巻きに眺め、足早に去って行っていた。


「なぁ、トムさん」

「なに?……この大井競馬、お上黙認ってことで、多少の喧嘩沙汰じゃ同心さんも来ないよ」


俺ら侠客組の性分をよくご存知で。

俺は袖まくりをしながら、取り囲むチンピラどもの後ろに立った。


「……?なんだぁテメェ」

「テメェたぁ何様だテメェ」


その場で回転すると、後ろ回し蹴りをチンピラの顔面にぶち当てる。人中にクリーンヒット。

チンピラはその場で昏倒した。


「「なんだテメェ!」」とチンピラどもがわっと寄ってきた。おう、元気が合っていいこった。俺のストレス発散に付き合えや。




俺はさらにあったかくなった懐を撫でまわしながら、件の男の子とトムさんと大森の牛鍋屋にいた。大井競馬から歩いてさほど距離はなかった。


牛鍋を頼むと、男の子が「さっきはありがと」と口火を切った。


「礼はいらねぇが……まだ、お前さんは子どものプレイヤーだろ。なんで競馬なんざやってんだ、まだ早えだろ」


年齢制限はないけどね、僕も気になるよとトムさんは後を引き継ぐ。男の子はしばらく悩んでいたが


「……沢山のお金が必要なんだ」


と言い出した。俺とトムさんは思わず顔を見合わせる。男の子は牛鍋が来るまで、ボソボソと話し始めた。


自分で言うのもなんだけど、うちはお金持ちで、まだ小学生の自分に、共働きであまり家にいない両親が、VRゲームをプレゼントしてくれたこと。年齢制限は10歳以上なので、(一部遊郭は禁止エリア)ほぼ自由に遊べていたが。


ある日、高級老人ホームにいる大好きな祖父が、ホームごとパンゲアにいることを知った。


最近、体の自由が効かない老人たちが、VRゲームで心身のリフレッシュをしているらしい。俺は全然知らなかったけど。


ついでだから、彼も祖父に会いにその老人ホームを訪ねて、ホームも暖かく歓迎してくれたらしい。あまり遊べなかった祖父とも沢山遊ぶことができたと。


「いい話じゃねぇか」

「ハートフルだね」


だけど、ガラの悪い人たちが老人ホームの敷地に出入りし始めたらしい。ホームは江戸エリアの目黒にあるらしいが、そのガラの悪いのが出入りし始めてから、ホームの壁に「立ち退け」や「老害」といった張り紙が増えてきたらしい。運悪く、祖父も段々とボケてきて、日によって孫のことを忘れてしまうこともあったが。それでも通っていた。


そして、ある日、ホームの職員たちの部屋の前を通ったら「あの地上げ屋ども……金がない、パンゲアも辞めないとな」と職員の声が聞こえてきたと。


地上げ屋の意味を調べて、彼はこの祖父との遊び場をなくしちゃいけない、お金を集めないと思い立って、競馬場にきたらしい。


「目黒の地上げ屋ぁ……?どうも神祇組の一派が絡んでそうだな」


そう言いながら、Dスラ先輩が席に座ってくる。さっき、トムさんがメッセをどこかへ送っていたから、この場所がわかったんだろう。


俺は借りてた三千バールを渡しつつ「神祇……なんだって?」と聞き返す。先輩はちょうどきた牛鍋をつつきながら、神祇組よ、と少し声を荒げる。


「ガキがいる手前、あんまりこう言う話はするもんじゃねぇが、おいガキ。ここでの話は黙ってろよ。SNSとかに上げんじゃねぇぞ……まず、江戸にゃ侠客どもが徒党を組んでるってのは知ってるよな」

「おう」

「侠客、つまり奴ってのは大きく分けて二つある。一つは俺たちみてぇな町奴。庶民の奴よ。そんでもう一つが、旗本奴ってんだ」

「旗本奴?」

「そうだ、こいつらはNPCしかいねぇ。なぜかってーと、こいつらは「お武家様」だからな」


俺たちは黙って聞いてる。


「神祇組、大小神祇組ってのは、江戸エリアじゃ最も頭数が多い旗本奴の組でな。他にも色々と組はあるが、中野や目黒あたりなら、神祇組の根城だから、そこの傘下の地上げ屋の可能性がある」


先輩は続けて、「厄介ごとでしかないぞ」と牛鍋を啜った。だが、男の子は「……でも、なくなるのはやだ」と被りを振るう。


先輩はそれを聞くとため息をつく。しばらく思案していたが、長ネギを頬張ると面倒そうに言った。


「しゃあねえ、うちの親分……新場の親分に聞いてみっか」

 

引き続き、よろしくお願いします。

ご意見等ございましたら、お手数ですがご連絡ください。

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