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間話休題

ちょっと一息入れまして。

区切りの良いところで、ちょくちょくこういうパートを挟むかもしれません。


更新が遅くて申し訳ないです。

グロウズオブパンゲア、サーバ管理会議室。

そこでは数人の男女が頭を寄せ集めて方針や問題会議を行なっていた。ホワイトボードには大きな問題点と書かれた文字が躍る。


「ドラゴン討伐シナリオの難易度が高く、クエスト受注率が良くないですね。これだと竜の谷への新ルートが一向に開通しませんよ。」

「調整の先読みが動きすぎたか、パワーバランスに対する過度な警戒がありそうだな。」

「調整可能ですかね?」

「マザー……高高度AI様との交渉次第だな」


あのエリアは死ぬほど徹夜したのにな〜と、責任者らしき眼鏡の青年が机に突っ伏した。パンゲア企画室主担当の青木は、高高度AIマザーの生み出すプレイヤーごとのシナリオと調整に、包括的な指示を出すことでこのゲーム自体への企画を増やすことを仕事としていた。


さすがにプレイヤー1人1人のシナリオを確認することは現実的ではないので、ある程度大まかな部分を監督していたが、青木の生み出すメインシナリオ編成は、奇想天外で面白いものが多かった。


だが、それによってバグや不具合等が発生しやすくなるデメリットもあり


「それまたバグ案件じゃないですか」


と、バグ対応のSEリーダー、白田が泣きそうな顔になってる原因でもあった。青木は白田に聞いた。


「今月のイレギュラーあった?」

「ありましたよ、各エリアに数件ですね。まぁ大部分は調整済みですけど。……あ、そうそう、ヤマト国、江戸エリアで「侠客」が一年ぶりに就職しました」

「おー、それは本当に久しぶりだね」

「えぇ、こっちも不憫になるぐらいのハード職ですからね……でも、これがイレギュラーなんですよ」

「……?」

「ゲーム開始から1週間で、侠客プレイヤーの一家同士の手打ち式を仲裁人として行いました。」

「「「え?」」」

「北町奉行所の中で手打ち式したみたいですね」

「「「は?」」」

「北町奉行遠山景元ですから、まぁ……でもなんで獄門にならなかったのか……マザーのお目溢し……?」

 


会議室にいた全員が驚愕の顔をする。

青木が慌てて「そいつ、アカウントを作り直した経験者だろ?」というが白田は首を振り

 

「正真正銘の、新規プレイヤーです」

「え……」


と思わず青木が聞いてしまうほどだった。

本来であれば、どれほどうまく立ち回っても数日打首にならずに生き残るのも至難の技である侠客が、一家同士の手打ち式を行うこと。しかも、名のある一家が、仲裁として両家を仕切るのならまだしも、初めたてのプレイヤーが一人で仕切ることなど、基本的にはあり得ないのだ。しかもその手打ち式を、本来であれば捕まれば獄門まっしぐらコースの奉行所で。


「その人、普通の会社員ですね……それでいま、「冒険者」になってフィールドでスライムと戦ってます……あー、フンドシ一枚で」

「なにしてんの……侠客って確か、冒険者資格が無い職業だったよね」

「……そこですよ。手違いで冒険者試験を受けさせられて、合格しちゃったんですよ」

「どんな手違いだよ」

「たまたまじゃないだろそれ」


白田は暫くカタカタとPCを操作していたが、やがて諦めたように天井を見上げた。


「うわぁ……この人、レジェンダリー級のアイテム、エンノオヅヌの瓢箪まで持ってますよ……」

「え、あれってレイドボスに持たせて、A級パーティーレイド戦用の景品にしてなかった?」

「酒呑童子がそのプレイヤーさん気に入ったらしくて、祟り付きで渡してますね……青木さんのシナリオめちゃくちゃにされてますけど」


あーあ、よく見たら瓢箪で炎弾打ち返してるよ、と白田は自嘲気味に呟く。青木が張り巡らせた伏線のうちで重要なアイテムになるはずだった瓢箪は、初心者プレイヤーの手に渡りバットの代わりとして扱われていたことに、悲しみを通り越して現実逃避を始めていた。


「どうするこれ」

「とりあえず様子見じゃないですか……祟りがどこまでデバフになるか分からないですけど」

「いざとなれば介入打首だな」

「そうですね、このプレイヤーには申し訳ないですけどね」


会議室は、そのまま何事もなかったかなように別の議題へと移行していった。だが、後々、早めに手を打っておけばよかったと彼らは後悔することになる。






 



冒険者組合本部組合長室。

熊かと見紛うような体躯に、ぴっしりとスーツを着込み、その上から陣羽織を羽織った組合長のサリバンは、傍らにいた秘書レスティアが入れたお茶をズルズルと啜った。


「ふぅ……」


ヤマトの国には各地域ごとに冒険者組合の支部が存在し、それらの下に相談窓口として、支所がある。それら国内の冒険者組合を統括する立場として、ヤマトの国冒険者組合長サリバンは多忙な日々を過ごしていた。


ここ最近も常に人手不足に悩まされており、各現場にプレイヤーたちを差配することも大変な状況で、次から次へとモンスターや妖怪の出没情報や被害情報が出ていた。


サリバンは、数日ぶりに両国にある本部の自室に座り、久しぶりの大きな事件を腕力で解決出来たことに安堵していた。十年前まで現役として一線を走っていたサリバンは、プレイヤーではない。


ヤマトの国ではない国で、豪族として生まれ、その能力と腕力でのしあがってきた、叩き上げの漢。


死しても戻ると言われるプレイヤーたちに混ざり、その一つしかない命を賭け、数多のモンスターを倒してきた。サリバンと同じような者は、この世には十人とおらず、そのどれもが特級冒険者として名を馳せている。


サリバンは、溜まりに溜まった書類を嫌々そうに眺めると、秘書レスティアに「これどうすれば良い」と指示を仰ぐ。


彼は「修羅のサリバン」の二つ名を持つ男だが、細かい文字を読むことは苦手だった。つまり、書類仕事がまるでダメ。判子を押すマシーンにしかならない。


しばらく。ポンポンと景気良くハンコを押していたサリバンが、ふと留守を任せていたレスティアに「俺の留守の間、問題は起きなかったか?」と聞いた。


いつもであれば「特にありません」と返事があるはずだが、レスティアは珍しく「まぁ……」と言い淀んだ。


「どうした、何かあったか?」

「そうですね……あったといえば。」

「聞かせろ」

「事務職員アリサの手違いにより、職業適正検査を受けないまま、侠客に冒険者ライセンスを発行する事態になりました」


サリバンはポンポンとハンコを押す。ポンポンポン……


「は?」


レスティアさん、いまなんて?


「ですから、職業「侠客」の雷門というプレイヤーに冒険者ライセンスを発行しまし」

「ダメに決まってんだろ」


サリバンは手を止め、レスティアの顔を見る。能面のように無表情だが優秀な秘書は何を考えているか分からないが。


「奉行所にバレたら冒険者組合の立場が無くなるんだぞ!?!!?」


そう、このヤマトの国では侠客という職業に就いているプレイヤーは、冒険者組合に所属することができず、もし所属させたことが発覚すると、この国の幕府から処罰が下ることになっている。


「普通は職業適正検査で引っかかるはずだが……!!さっさとソイツのライセンスを停止しろ!」


サリバンは机をバン!と叩く。修羅と呼ばれた男の一撃で、愛用の机にはヒビが入った。だが、その剣幕には動じず、レスティアはエルフ特有の長い耳をピクピクとさせる。彼女は、このサリバンが冒険者組合評議会という六カ国の冒険者組合を統括する上席に入りたがっていることを知っていた。だから、名誉と出世欲の強いサリバンに、レスティアはこう囁く。


「しかし、かのプレイヤーは奉行所の中で侠客の一家同士の手打ち式を行なっています」

「……は?」


この地に赴任して長いサリバンには、それがいかに異様なことかを知っている。本来であれば奉行所は、侠客どもを取り締まる立場。そのど真ん中で、手打ち式を行うことは自殺に等しく、そもそも許されることではない。


「奉行所にも侠客どもにも顔が効くってことか……?待て、ソイツの後ろには誰がついている……?」


サリバンは書類仕事が苦手だが、察しはよかった。レスティアは微笑むと、「天下の和合人です」と返す。それだけでサリバンは


「大前田……英五郎……!!」


と驚愕する。侠客界で知らぬ者はいない、天下の和合人。その配下は数千人と呼ばれ、侠客の大御所として幕府からも一目置かれていた存在。一度だけ、会ったことはあったが、今まで出会ったどんなモンスターよりも恐ろしさを感じたことを覚えている。


レスティアは押し黙ってしまったサリバンになおも言葉を重ねる。


「先日の岐阜支部からの白猿の依頼、解決しましたよね?」

「……あぁ。一報は受け取っている」


千年の封印が解きかけた大妖怪を、冒険者たちが鎮めることに成功したらしい。さっき、岐阜支部から御礼の連絡が来ていたが。


「まさか」

「えぇ、そのプレイヤーです」


倒したわけではありませんがね、とレスティアは付け加えた。しかし被害を抑え、再封印したことに変わりはない。


「冒険者としての初依頼で、A級パーティー推奨の依頼をこなしてしまうほどの有能さ。まだF級なのが不思議な人です」


レスティアは微笑みを深く湛える。そして、サリバンの言葉を待った。きっと、彼の中では葛藤が渦巻いているだろう。彼女はその葛藤に差しあたりの見当をつけた。


「……そのプレイヤーの職業は、冒険者ライセンスの上では「虚無僧」ですよ」

「……ほう」


虚無僧という職業は存在しない。適正検査も受けていない、偽の職業。つまり、そのプレイヤーは「都合が悪くなればいつでも切れる存在」なのだ。


万年人手不足の冒険者組合としては、仕事が(依頼が)こなせる人材は一人でも多く欲しい所。まったく、レスティア女史もこうなることを見越して俺に、この件を報告したな。


サリバンはほくそ笑みながら、この国の伝統的な言葉を口にする。


「お主も、悪よのう」


レスティアも静かに微笑みながら


「サリバン様こそ」


2人はニタニタと笑う。そしてサリバンはまたハンコをポンポンと押し始めた。ところで、とサリバンはレスティアに問う。そいつの名前はなんだ、と。


その時、組合長室の扉がバン!と勢いよく開いた。

紫の色合いに黒を重ねた小袖と羽織を身に纏ったプレイヤーが、後ろに「休みを寄越せ」「労働者にも権利を」と書かれたハチマキをつけた組合職員たちを引き連れて部屋にズカズカと入ってきた。


「な、なんだ貴様ら!」


とサリバンはハンコを抱えたまま、慌てる。隣にいるレスティアが少し目を見開いて、小声でサリバンに「こ、この人です」と告げた。男は、サリバンの前まで進み出ると、仁王立ちになる。

 

「おう、アンタがここの親分さんか?」

「……そうだが、急になんだ」

「こいつらに休みを取らせろ。俺はぁひでぇ目にあってんだよ」


サリバンは目を白黒させる。男の後ろにいたアリサが「まずいですよ~」と、男の袖を引っ張るが、男はサリバンを睨み付け、言った。


「この雷門。アンタらの子分に代わって、色々と言わせてもらうぜ、親分さんよ」

「……お前かぁ……」


ヤマトの国、冒険者組合本部組合長、サリバン。

この男とだけは仲良くなれない予感がした

よろしくお願いします。

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