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第二十四話

大変お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。

(連日20時間ぐらい労働してるんですけど、あと少しで成仏できそう。)


また次回、少し時間がかかるかもしれませんが、今後とも続けますので

よろしくお願いいたします。


よ、よう元気?と声をかける雰囲気でもなかったので、俺と猿のバケモンはお見合い状態になっていた。相変わらずギ……ギ……と言っている。三郎とオークも唖然としていた。


だが、猿のバケモンはゆっくりと目玉のない眼孔をオークに向ける。片膝をついたままのオークは、ブモと力なく鳴いた。


猿のバケモンはゆっくりとオークへと近寄っていく。オークはその体勢のまま動かなかった。バケモンはやがて目の前に立つと。ガバと口を開けてオークを頭から飲み込む。なかなかの大きさの巨体を、異様なほど大きな口を開けて齧り付くように、吸い込むようにその体に収めていく。


「「……」」


俺と三郎は、その光景を口を開けて見ていることしかできなかった。バケモンはオークを飲み込み終えると、こちらを振り返る。


俺はそれで我に帰った。固まっている三郎の手を引き、「逃げるぞ!」と叱咤する。バケモンと逆方向に走り出そうとした俺たちだったが、気づけば俺の服をバケモンが掴んでいた。そして開く大きな口。どこまでも吸い込まれそうなほど真っ黒だった。


俺たちはそのまま、飲み込まれた。




 

「マタカ……違ウ」


俺の真横で誰かか喋っている。俺はうっすらと目を開ける。景色から見て、森ではないらしい。どこだここ。


俺の真横に神職が着ていそうな服の裾が見える。白袴だろうか。反対側にはうつ伏せになっている三郎もいる。


どうやら死に戻りしたわけじゃないらしい。三郎も呼吸をしているようだし。俺がどう動こうと思案していると、頭の上から声が降ってくる。


「ム?……コノ男、目覚メテイル」


得体の知れないヤツにバレたらしい。俺は意を決して起き上がった。横に立っていたのは


「……ガイコツ?」


神職の服を着てるガイコツがしゃべっている。ガイコツがカラカラと笑う。まるで他にも言うことがあっただろうと。でも、それ以外言えることがない。


辺りを見回すと、荒れた神社の境内のようだ。ガイコツ神職は、小刻みに揺れる骨で俺のツラを指差す。


「……オヌシ……プレイヤーダナ?」

「……あぁ」


ガイコツ神職は、思案する様に首を振ると「ドウシタモノカ」と天を仰いだ。俺はソイツの素振りを気にせず問いかける。


「悩むのはいいが、説明してもらいてえな」

「……セツメイ?」

「あぁ、まずここはどこだ?」


ガイコツ神職は顎の骨をガタガタと揺らしながら、ここは白猿ビャクエン神社だと告げた。そして、ここの「元神主」が自分であると、首の骨をガクガクさせながら言った。


「アノ……猿タチハ……私ノ配下ダ……」

「猿っていうと俺たちが飲み込まれたバケモンか?」

「ソウダ……」


ガイコツさん曰く、猿のバケモンは使役している妖怪らしい。詳しく言えば妖怪でもないらしいが、ガイコツさんは、そこを濁した。


使役した猿たちを使い、何をしていたのかと聞くと、この神社の御神体である「白猿」を鎮める為らしい。


「鎮めるってのは?」

「ココニ祀ラレテイル白猿様ハ、元々ハ格ノタカイ妖怪デアッタ……白猿様ヲ鎮メル為、ココニ祀リ神トシタノダ」


古来、この山域を根城に暴れ回っていた大妖怪であった白猿を、神として祀ることで神社に鎮めたのは良かったものの、由緒ある神職が神社を守ってきたことにより、後継者が不在となってしまったらしい。


最後の神職となってしまったガイコツさんは、死してなお留まり、この神社を守ってきたが。


その力も段々と弱まり、後継者を探す為に猿のバケモンを使役して、泣く泣く村人を招集し、後継者足る者を探していたらしい。


強制召集した村人たちは、現在、安全な場所で隔離されているらしいが、温泉郷に戻そうにも、この神社を鎮める為の結界を解くことになり、白猿が暴れ回るのを止められないらしい。


めちゃくちゃ迷惑かけてるやん。


「最初から後継者探せよ……」

「知己ノ者ナドイナイシ……ボッチダシ……」

「コミュ障かよ……」


いつのまにか起きていた三郎が、しきりにガイコツ神職に怯えている。でも、コイツ、ガチコミュ障だぞ。


俺は要点をまとめた。


「つまり、後継者を探すことと、村人たちを村に戻すために白猿を足止めすればいいんだな」

「ウム……」

「後継者ってのはどういうのが後継者なんだよ」


と聞くと、なんでも「神職適正があり、応用性が高い、神力に満ち溢れた人物」なら良いらしい。なんだその企業の中途採用の応募内容みたいなのは。アットホームな職場ですとか書いてくるタイプの企業だぞ。


「誰カ知己ニオランカ……」


そんなんいるわけねぇ……と言いかけて、俺は「いや、いたわ」と漏らす。俺はボロ屋台を引く親父を思い浮かべる。あの親父なら、そこら辺の神主より凄腕だろう。多分。


「後継者を連れてきたとして、ソイツに危険が及ぶことがあるのか?」

「イヤ、ナイ。外側カラ結界ヲ補強シテモライ白猿様ヲ鎮メテ引キ継グ。」

「……危険がねぇなら、呼ぶしかねぇな。ソイツが引き継ぎしたあと、すぐ他の後継者を呼んでも良いんだろ?」

「ウム」


蕎麦屋の親父を呼んできて、引き継ぎが成功した後、改めて人を探せばいいし。ピンチヒッターだな。ここでガイコツが、「コノ結界モ、アト二日ガ限界」とか言い出したので、そろそろぶん殴ろうかと思った。


チンタラしてる暇はねぇな。親父には悪いが、少しの期間、ここを引き継いで貰おうと俺が考えた時、話を黙って聞いていた三郎が俺の裾を引く。


「あ、兄貴。その神様を足止めするのは誰がやるの?」


そんなのもちろん。


「俺しかいないだろ」





兄貴が人柱になるのはおかしい!!と叫ぶ三郎を説得して、村人を引き連れて温泉郷に戻ってもらうことになった。


「いいか、三郎。おさらいだぞ。」

「グス……グス……うん」


まず、村人を連れて温泉郷に戻る。その後馬を借りて、江戸エリアまで走り、関所の番兵の与兵衛さんに俺の冒険者カードを見せ、通してもらう。(多分通してくれる)そのまま、板橋の卍先生のところに行き、ニャン助を借りて人形町の長屋で親父を拾い、ニャン助に走ってもらう。


我ながらガバガバの作戦だが、ニャン助の足なら1日かからないと思う。ダランドが言っていたが、あの猫人間は1000キロを軽く走れるらしい。……どんなクリーチャーだよ。


そもそもこの作戦、親父が来てくれるのか不安だけど。


「ガイコツさんや、準備はいいか!」

「私ノ名ハ梧桐ダ」

「今言うことかそれ?……いいか、ゴドウさんや」

「ウム」


神社の端の空間が徐々に歪み始める。やがて少し大きめの穴が開くと、向こう側に飛騨温泉郷の通りが見える。村人たちと共に穴の前に立つ三郎は、未だぐずっていた。俺はグズる三郎に英五郎の手ぬぐいを預ける。とりあえず困ったらこれを見せろ。


「頼んだぞ」

「うううすぐに帰ってきやすから!!!」


手拭いを握りしめ、走り込むように三郎たちは温泉郷へと戻って行く。そして、すぐさま穴は閉じたが、俺と梧桐の後ろにある神社からは、ゴゴゴと地鳴りが響き始めていた。


「オ目覚メダ……」

「……そうか。んじゃ」

「手筈ドオリニ」


俺は結界の修復に取り掛かる梧桐を尻目に、不穏な空気しかしない神社の境内へと向かった。




朽ち果てた神社の中へ入ると、より一層、地鳴りが大きくなる。ガイコツ神職の梧桐から事前に聞いていた通り、俺は神社の最も奥にある「秘殿」と言われる部屋の前にいた。


祀られるとは良い言い方で、本当はこの部屋で白猿は「封印」されているだけ。かの白猿を封印した折、全国津々浦々から有力者が集まり、数多の犠牲を払いつつ、ようやっと封印できたらしい。


だが、その封印は解かれかけ、梧桐が結界を一時解いたことにより、白猿は目覚めたと思われる。


「……」


俺のレベルでは、何秒持つだろうか。


だが、梧桐の見立てでは、まだ本来の力を取り戻していない白猿は、少し暴れただけでも一休みを入れねばならないらしい。


それが大体2時間の一休み。そう、俺が死んだあと復活するまで、白猿は休みを入れねばならない。つまり三郎が来るまで、ここでどれだけ白猿を消耗させられるかが問題だ。


完全に人身御供だなこれ。死ぬために部屋に入るだけじゃねぇか。……ゆるさねぇぞアリサァ、俺は薬草取りに行きたかっただけなのにヨォ。


俺は渋々、部屋の扉を開き足を踏み入れた。

その時アナウンスが響く。


『ボスクエスト:奥飛騨の祀ろわぬ白猿神を始めます。

 推奨レベルはA級パーティークラスです。24時間のうち対処できなかった場合、白猿神は奥飛騨へと解放されます。』


いや、全然レベル足りてねぇじゃねぇか。それに時間制限もあんのかよ。


俺の後ろで扉がガタンと閉まる。大きな堂の中に、何本かの柱が立ち、それらはしめ縄で繋がれていた。何かしらの術式だろうか。堂の板間にはみっしりと文字が書かれている。だが、ところどころ朽ち果て、木片や石が落ちていた。


その中心には、ひときわ大きなしめ縄を腰に巻いた大きな白い猿が座っている。寝起きだからだろう。半眼のまま、じっと俺の方を見てくる。寝ぼけなまこのソイツに、努めて明るく手を挙げた。


「よ、よう元気?」

「……なんだお前は」


そういうと、白猿が投げたそこら辺の石に、俺は頭を撃ち抜かれて死んだ。……嘘じゃん。





死に戻りをすると、目の前には未だフニャフニャとしている白猿が座っていた。僅かに驚き「なんだお前は……頭吹き飛ばしただろ?」と混乱していた。


そうか、コイツが封印されたのは遥か昔の設定だから、俺たちプレイヤーの存在を知らねえのか。


「……奇怪なやつだな……儂を封じやがった陰陽師の式神か?」


白猿は頭を振りつつ俺に聞いてくる。俺はとりあえず会話でもして時間稼ぎをしようとした。


「式神じゃねぇ、冒険者だ」

「ボウケンシャ……?知らないな……だが、お前」

「なんだ」

「臭いな」


え、嘘、俺臭い?昨日ちゃんと温泉入ったけど?体もしっかり洗ったけど。もしかして、三郎とお手手繋いで寝たから変な汗かいた?


「あぁ臭え。憎たらしい、大酒呑みのバカの匂いがしやがる……お前、酒呑の手先か?」

「酒呑って、酒呑童子のことか?」


白猿の毛が逆立ち始めた。まだ座ったままだが、部屋の圧が増す。柱を繋いでいるしめ縄が震え始める。


「あの野郎、事あるごとに儂のことを馬鹿にしてきやがって……なんだ、さてはここに閉じ込められた儂を、笑いにきやがったか?」

「いや、あの全然ちげぇ」

「うるせぇ」


白猿がまた石を投げる。なんで俺が酒呑童子の手先になってんだよムカつくな。


石は恐ろしいほど早いが、さっきぶち抜かれたことで警戒していた俺は、手元の瓢箪でそれを弾いた。よし、体はしっかりと気張ってる。


さっきのオークの時も体は気張っていたから、自分よりレベルの高いもんを前にしたら、体が動くようだな。


石を弾いた俺を、白猿が指差す。幾分か圧が減る。

 

「なんだお前……それはなんだ」

「なんだって、瓢箪のことか?」

「その瓢箪……見覚えがある……待て、その裏になんか書いてあるか?」


えぇ?と俺が瓢箪の底を見る。そういえばしっかり見たことなかったが文字が書いてある。


「”役”……?」


掠れていてしっかりとは書かれていないが、「役」の文字が入っていた。白猿はそれを聞くやいなや、しめ縄を引きちぎる。おいマジかよ。


「酒呑め!!!大峰山の瓢箪まで持っていきやがったか!!!!」

「ちょ、ちょっと待て!!!」

「なんだぁ!!!」

「俺は酒呑童子の野郎にボコられた上に、勝手に渡されただけだぞ!!」

「え、そうなの?」

「びっくりしすぎて口調変わってんじゃねぇよ」


白猿は再び座り直す。ちょっと居心地が悪そう。俺はスルスルと移動すると、勢いが削がれた白猿の前に座る。


「じゃあ、お前は酒呑の手先じゃないのか?」


白猿はそう俺に繰り返した。だから、そうだって言ってんだろ。俺は切々と酒呑童子に何されたかを語る。


「ウム、わかるぞ。あいつ問答無用でぶん殴ってくるところある。」

「あるよなぁ!傲慢さが滲み出てんだよ」


ひとしきり人(?)の悪口で白猿と盛り上がったところで、俺は瓢箪について聞いた。トンデモ鑑定団では、何も言われなかったが。白猿は真剣な面持ちで答えた。


「それはニンゲン如きが持つような代物ではないんだがな……」

「というと?」

「エンノオヅヌを知っているな?」

「エン……なんだって?」

「まさか知らないだと!?……ちょっと待て、儂が封印されてから何年が経つ……?」


それはさっきゴドウから聞いた。

確か、1000年だったかな。千年前に封印された大妖怪と知り合いの酒呑童子は幾つなんだろ、と思った。


「んな……ならば知らぬのも無理はないか。」


白猿は嘆息しながら、「エンノオヅヌ」の話を始めた。

奈良の大峰山にかつていたエンノオヅヌは、呪法を用い、修験の祖を開いた人物であると言う。時の朝廷より行者とも謳われたエンノオヅヌは、その呪法と力により鬼神をも使役した。


「その時の鬼神が持っていた瓢箪、それこそがお前が持っている『不壊一義』と名のつく瓢箪だ」

「えぇ〜……」

「儂らのやうな者にとってもそれは宝物。飲兵衛ともなれば、その瓢箪に入った酒を見るだけでも昇天するとまで言われた物だぞ?」


そんなすごい物なの?下戸の俺は瓢箪を眺める。これに安酒ぶち込んだり、人を殴ったり、火を打ち返したりしちゃったけど。俺は少し青ざめる。


大体、そんな御大層なものなんでアイツが持ってんだよ。


「酒呑のやつと儂で、エンノオヅヌが鬼神である前鬼殿と賭けをした。都に喧嘩を売り、どちらがヤマトの国1番の大妖怪であるかを決め、決まった方にそれを渡すとな。だが、都で暴れた儂はここに封じられ、酒呑も頼光とかいう若武者らに討たれたと聞いておったが……」


白猿はほくそ笑んだ。


「小童。お前がノコノコと儂のところに来たのが運の尽き。それを寄越してもらおう。それを片手に都まで、凱旋と洒落込もうではないか」


ちょうど、封じられる力も弱まってきたしな、と俺の前で仁王立ちをする。


「この堂の封も、あと一日あれば解けそうだ。」


白猿はそう言うと、しめ縄で括られた柱をへし折り、俺の前にズンと立つ。そして俺に振りかぶるようにして拳をかざした。だから俺は一言だけ、白猿に向けて言い放つ。


「ボジソワカ」


「んな!?」と白猿は叫ぶ。ズンと、振り上げた拳ごと白猿は倒れ込むように片膝をつく。俺はその隙に堂の外に向かって声を張り上げる。


「ゴドウ!!!!」

「……承知シタァ!」


外から梧桐の祝詞のような言葉が響き始める。朽ちた堂がさらに軋み、白猿は苦しそうな声をあげ始めた。


「グゥ……貴様らぁ……儂はこんな物で封じられはしないぞ……」

「だろうな」


白猿は再び体を起こす。ゆっくりとだが。

俺は腰を落とし、足に力を込めた。踵は少しだけ浮かせて、すぐに体を移動できるように。


「潰れろ小童ぁ!」


白猿はそのまま突っ込んでくる。俺は、右足を踏み込み右腕を突き出す。長い体毛に手が触れた瞬間にその肌をにじり掴む。腰を下げつつ左手で掴んだ白猿の腕をとった。


「どぉりゃあ!!!!」

「ンヌぅ!!!」


俺は気張った体を捻りながら白猿をぶん投げる。だが、手を離さずにそのまま地面に突き刺した。


一本背負いに叩きつけ。俺は半身が埋まった白猿に向けて言った。


「わりぃが、あと千年は寝てもらうぜ、あんさん」


よろしくお願いいたします。

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