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第二十二話

三日置きぐらいになってしまい申し訳ないです。

冒険者組合本部は今日も多くの冒険者プレイヤーが詰めかけていた。そういえば、NPCは冒険者にならないって聞いたなと他愛もないことを考えながら、フラフラと依頼が貼られている壁を眺める。


「薬草……薬草……簡単なやつ……」


コスパの良い依頼は、昼ごろ張り出された瞬間に、すぐに他のプレイヤーに持って行かれてしまうので、遅い時間に来るとあまり良いものは残っていないとDスラ先輩が言っていた。


もう夜遅い。無気力症候群に陥った幽鬼のように彷徨ったせいでこんな時間になってしまった。


組合の端っこで「ヒャッハー!ヒール!はヒールをかける前に魔物をタコ殴りにするんですよ!この杖でね!!あまり苦しませずに逝かせてやる!それこそが救い、ヒールですよね!」と回復職っぽい女の子が熱弁を振るっていた。殺人鬼理論だよそれ。


俺は依頼掲示板から離れて、受付にアリサがいないか探した。なんだかんだで困ったら聞けば良いと思って。優しいしな、あの子(問題児)


アリサは寝ていないのだろう。隈取りかな?というぐらいに目の周りが真っ黒になっていた。だからお前ら仕事休めって。


「あれ、……えぇと、ガイモンさん」

「ライモンだよ」

「ぁあ、すいません、ライモンさん。どうしたんですか?」


アリサがおぼつかない手をワサワサとしていた。何してるんだ。「あれ、私、何してるんでしたっけ?」と言っていてちょっと怖くなってきた。


「あの、ちゃんと休んだ方がいいんじゃない?」

「人いないのに休むなんてできるわけないでしょ!何言ってるんですかバラモンさん!」

「俺は僧じゃねぇよ」

「え?コムソウって僧じゃないんですか?」

「……そうだけど……そうじゃない……」


俺はアリサに薬草採取クエスト(簡単なやつ)がないかどうかを聞いた。


「薬草クエスト……ありましたっけねぇ……うーん、あ、これ、薬草クエストでは!?」

「これか?」


俺はアリサに渡された紙を眺める。そこには「奥飛騨温泉郷の依頼」と記載されている。薬草?薬草の文字がないし、詳細な部分が書いてないが……そう思い、アリサを見ると既にいなかった。


アリサは上司らしき人に「だからコレやっとけって言ったでしょ!!!」と引きずられて行っている。あぁ。可哀想な社畜だ。俺は静かに合掌しつつ、手持ち無沙汰なのでクエストを受けることにした。


『特定シナリオ:奥飛騨温泉郷を始めます』


ハイハイ。始めますよ。





依頼のあった奥飛騨へは、冒険者組合名物のポータルを使用して飛騨支部?へと行こうとしたんだが、組合の係員に「F級冒険者は使えませんよ。これ。E級からですよ」と言われ、「うそぉ」と言いながら、スゴスゴと退散した。


……じゃあどうするか。決まってんだろ。

金欠F級冒険者は「歩き」だよ。


関所の番兵、与兵衛さん曰く飛騨までは歩いて1日半ぐらいの距離らしい。近いね。ヤマトの国は、そこまで広くはないのか。地図買ってみようと今度。


そういえば初めての旅(?)になるか。俺は金がないのでのんびり気ままに行くことにした。お腹が空いたらログアウトすれば良いし、道中でくたばってもデスペナの心配は、衣服しかない。


んじゃ行くか。歩き出そうとすると与兵衛さんが、火打ち石を取り出し、カッカッと打ち付けた。「験担ぎだよ」と、笑顔だ。俺もお礼を言い、片手を上げた。



いつもフルボッコにされるスライムくんたちの森とは離れて、甲州街道を進む。道筋的には、甲州街道から中山道に入り、岐阜から奥飛騨へ向かおうとしていた。地図はなくても、一本道だから問題ないと与兵衛さんも言っていたので、俺は安心して進む。


魔物を見かけたらダッシュで逃げた。スライムに勝てない俺が他の魔物と戦えるわけないでしょ?何回か山中でゴブリンに追いつかれてぶち殺されたが服がボロボロになるだけで復活できるし、お得だよね!


街道は魔除けの術式が埋め込まれているらしく、それを感知できない弱い魔物しか出てこないらしいけど。魔物に弱い強いもなく皆殺しにされる俺にとっては、特に有り難くはなかった。


何回かデスペナを食らったおかげで、俺が岐阜入りしたのは関所を出てから二日ほど経った後。


俺は道中で襲ってきた追い剥ぎをボコしてかっぱらった衣服を身にまとい、意気揚々と関所を抜ける。追い剥ぎは魔物じゃないもんな。


「兄貴ィ……本当に奥飛騨まで案内したら許してくれるんですかぃ?」

「あぁ、もちろん!」

「番所に突き出したりしませんよね兄貴」

「あぁ、もちろん!」


そして俺は追い剥ぎを道案内につけていた。名を伊那の三郎。夜の甲州街道で、集団で旅人に追い剥ぎを仕掛けていたらしいが、集団ごとボコした。こないだの押し込み強盗ぐらいの強さだったからね。強盗NPCぶん殴るたびに、こいつらがスライムだったらいいのにって言う感覚に襲われて末期だった。


一人だけ離れた場所にいて、逃げ遅れた三郎だけとっ捕まえて、街道筋あたりに詳しいと言うから案内をさせている。まだ少年という感じだったし、殴ってはないぞ。


「兄貴、あともう少しで奥飛騨ですぜ!」

「おう、そうか。あ、団子食べるか?」

「兄貴、それあっしが買ったやつ……」

「あ?」

「すいませんすいません!」


岐阜を経由しようとしたが、三郎が近道を知っていると言うから、俺らはとりあえず奥飛騨温泉郷を目指していた。なぁ、三郎。ずっと思ってるけど、なんでこんな人気のない道通るの?街道歩くんじゃないの?


「やだなぁ兄貴。関所抜けにゃ常識でしょうよ」

「抜けるなよ」

「兄貴といえどもお上に目つけられたら縛首ですぜ」

「だから関所を普通に通るんだろ」

「またまたwwカタギじゃねぇ兄貴がどうやって関所を通るって言うんです」

「……俺……冒険者……あの……」

「まったく!冗談やめてくださいよ!あっしにもわかりやすよ、そのカード、よくできた偽物ですけどね!」

「本物だわバカタレ」


誰が偽カードでカタギのふりしてる外法者だよ。三郎は、「カタギはあんな狂気でNPCを殴らない!」と言い張ってるが、ストレス溜まってたら誰だって狂気を抱えるだろ、何言ってんだ。


三郎の気遣い(?)により、奥飛騨に近い山中を踏破している俺たちだったが、夕暮れ時になりやっと湯煙が見えてきた。


「兄貴!あれ!あれが奥飛騨温泉ですぜ!」

「やっとかぁ」


馬でもあればもっと早かったと思うが、あいにくそんな金もなかった。強がりを言えば、RPGの徒歩移動も悪くない。



温泉郷に着くと、至る所から湯煙が立っている。旅籠が立ち並び、夕暮れが差し込む山間を、煙が幻想的に漂っていた。しかし、「人がいねぇですぜ」と三郎が怪訝そうにしている。


たしかに、なかなかの大きさの集落なのに1人のNPCもプレイヤーもいない。どの家からも人がいる気配がするが……?


俺たちはしばらく温泉郷の中を歩く。旅籠の数は多いが、灯りもついていないな。


しばらくすると、通りの向こうから人が歩いてくる。俺たちは安心した。三郎が「兄貴、ちょいと泊まれるところでも聞いてきますぜ」と駆け出していく。


日も沈みそうだし、今日はひとまず一泊して。依頼は明日からにしようか。詳細も書いていないし、誰かに聞かねばいけないし。


そう考えていると三郎が「んぎゃあ!」と叫んだ。俺は慌てて顔を上げる。凄い勢いで三郎がこっちに逃げてきていた。


「兄貴!!!ここは逃げ!逃げますぜ!!!あれはやべぇ!!!!!!」


三郎の後ろにはヨタヨタとこちらに向かってくる人がいるが、家々の隙間から差し込んだ夕暮れが、その人の顔を照らす。


猿だった。

なんと言うかその、ちゃんと猿。人の着物を着ているが、あれは動物の猿だ。しかも目玉がなく、真っ黒な眼孔。口も半開きで、「ぎ……ぎ……」と声にならない声を上げている。


「なんだあれ!?」

「わっかんねぇですよ!!!!!何してるんですか兄貴!早く!走って!」


猿人間はヨタヨタとこちらに歩いてくる。俺は言い知れぬ恐怖を感じて、三郎と走って逃げた。



「ハァ……ハァ……、兄貴!あそこに猟師がいますぜ、ちょいと匿ってもらいやしょう」


奥飛騨の町から走り、山間に逃げ込んだ俺たちは1人の猟師を見つけた。猟師は火を焚いていたが、慌てて走り寄る俺たちに驚いていた。


「どしたさ!?」

「いや、親父、今奥飛騨でよ」

「……あぁ、化けマシラにあっただか?」

「ばけましら?」

「んだ、猿のバケモンだで。」

「それだ!それ!」

「食われなくて良かっただな」


あいつら人間食うのかよ!聞けばバケモンは1週間ほど前から奥飛騨温泉郷に現れたらしい。夕暮れから夜に街を徘徊し、運が悪いと食われる。だが、こちらからの攻撃は何も効かないそうだ。刀も矢も魔術も、通り抜けてしまう。だが、人は頭から丸呑みにするらしい。


冒険者たちも岐阜支部から派遣され戦闘をしたらしいが、傷つけることができず撤退した。


「じゃあ温泉郷の人たちはどこへ?」

「みんな夕暮れになると家の中に籠るのさ。家ん中までは入ってこねえだ」


俺と三郎は、猟師の家で夜明けまで待ち、奥飛騨温泉郷へは日が登ってからにした。温泉郷に着くと、猟師の親父が、温泉郷の会長と仲良しらしいので、事情を話してもらう。会長はウンウンと頷くと俺と三郎を見る。


「なるほど、組合本部から」

「クエストとして、な」

「えぇ、確かに組合には依頼を出しましたが……はて、F級の……はて……書き間違えたかな?」

「どうしたんだ?」

「い、いえ、なんでも。それでお連れさんも?冒険者の方ですか?」

「いえあっしは」

「そうだ!!こいつは俺のパーティメンバー、サブちゃんだ!凄腕なんだぜ」


何逃げようとしてんだよ三郎。あんなキモいのと一人で戦うの嫌に決まってんだろ。乗りかかった船だ、付き合ってもらうぜ。嫌だ、と首をふるふるしてるので、肩を押さえた。


 


「話が違うじゃないですか兄貴ぃ」


三郎が宿で俺に文句を言ってくる。道案内まで、と言って引きずってきたが、巻き込まれる形になったのでブスくれている。


会長に紹介された宿の人も、俺たちが猿のバケモンに対処する冒険者と知って、なかなか良い部屋を無料で用意してくれた。俺は布団にゴロゴロと転がりながら「許せ〜」と三郎に言う。


しかし三郎も綺麗な顔をしているんだな。無造作に伸ばした髪の毛を束ねてお団子にしている。


奥飛騨の温泉はやはり良いものだった。俺は三郎よりも先に入ったが、仕事の疲れが一気に吹っ飛びそうだった。これだよこれ。やっぱパンゲアを始めた理由はこういうのだよ。


「今日はもう遅いから寝るぞサブちゃん」

「……え?一緒に?」

「寝ないのか?」

「いや……えーと……」


三郎がモジモジしてる。綺麗な顔を真っ赤にしている。もしかして、野郎どもで布団並べて寝るの恥ずかしがってるのか?確かにイビキとかな、ちょっと恥ずかしいよな。


「あ、兄貴……あっしは……」

「大丈夫だ。俺は気にしないぞ」

「いや!あっしが気にするって言うかそのなんて言うか」


ウダウダと言っていたが、よし、と決意を固めると仲居さんが気を効かして並べてくれた布団に横になる。野郎で並んで寝るのに決意しないといけないのかよ。盗賊団でどう生活してたんだ一体。


明かりを消し、俺がログアウトもせずにウトウトとしていると隣の布団から三郎がモゾモゾと近づいてきた。


「あ、兄貴……」


猿のバケモンが怖くて寝れないのかな。俺はチラリと横を見て近づいてくる三郎の頭を撫でる。追い剥ぎ団にも怖いもんはあるようだ。三郎は顔を真っ赤にしながらちょっと嬉しそうにしていた。俺の手を掴むと布団に潜り込んでくる。え?


「あの、あっし、その初めてなんで……」

「え?」

「不慣れなんですけど……」


三郎は俺をぎゅっと抱きしめた。なんで?俺が慌てて顔を見ると、吐息を荒くしながら三郎が潤んだ目を向ける。


あるれぇ?一緒に寝るってそういうこと?今のご時世は多種多様だから特にそういうことが悪いとは言わないけど、俺は男の子とそういうことする趣味はないぞ?


「三郎、あの、違うよ」

「えっ……?」

「俺は同性とそういうことする趣味ないぞ……」


しかもここゲームだし、三郎はNPCだろ。落ち着けよ。

三郎は衝撃を受けた顔をしている。


「兄貴、あっし、男じゃありませんよ……」

「えっ……」


俺は思わず天井を眺める。あれま。

サブちゃん、女の子でした。




スズメの鳴き声で目が覚める。昨晩の衝撃でログアウトをしようと思ってそのまま忘れてしまったが。


手を繋いだままぐっすりと寝ている三郎の顔を眺める。あれから何とか宥めて特に何もなく寝れたので良かったけど。なんでこんな朝チュンみたいになってんだよ。


パンゲアさん大丈夫か?

 

どうぞ引き続きよろしくお願いします。

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