第二十話
言い訳となってしまうのですが、次の話から、2,3日に一回の更新にさせていただきます。
仕事が忙しく手が回らないのですが、初めての長編連載モノ、絶対に筆を折らねぇぞという気持ちはありますので、どうぞよろしくお願いします。
大変な駄文なうえ、厚かましくて申し訳ありませんが、感想もいただけると嬉しいです。
要町墓地ダンジョンの四階層に行く前に、一同は装備の補充等を行う。運搬役が広げた風呂敷からガラガラと替えの武器が出てくると、「うヒヒ」と言いながらエサに集まる動物のように群がった。
「知性失っとるやんけ……」
事の次第を本部の通信で聞いていた卍先生は再び顔を覆った。
世紀末モードは偏差値を下げるらしい。
「さて。慎重に進もうか」
後を引き継いだ銀次と新場親分は、「ヒャッハーはまだですか??」と繰り返している回復役と共に四階層の攻略に進む。さっきのバカどもは一回地上に帰した。
ダンジョンは階層ごとに転移石が設置してあり、そこに触れると、地上に出てしまってもまたその階層に戻ることができる仕組みになっている、と冒険者たちが話していたので、休憩がてら頭を冷やしてこいと、銀次らは、お蝶たちを送り返した。
冒険探索にしろ、出入りにしろ。
熱を持つことは大いに結構だが、正気を失っちゃいけねぇが持論の銀次らの行軍は静かであった。四階層は、三階層のボスにもなっていた動く骸骨であるスケルトンと屍鬼が現れるようだ。
腐った手足を緩慢に伸ばしつかみかかろうとするグールの手を新場親分が長ドスで切り払うと、返す刀で首を刎ねる。残心する親分に向かってガシャガシャと走ってきて剣を振りかざしたスケルトンの横っ面を、銀次が肘鉄で吹き飛ばした。
「助かりましたよ」
「なんの、これしき」
流れでついてきていた運搬役がその連携に「凄腕だ」と感嘆しているが、「全然ヒャッハってない……」と回復役はしょんぼりしていた。
「銀次さんたちは「侠客」なんですよね?ステータスが見れない不遇職って聞きましたけど、なんでそんなに強いんですか?」
銀次が強烈な膝蹴りをグールに叩き込み、動かなくなったところで運搬役は聞いた。
「……あっしらはね、喧嘩したり関所抜けして魔物狩りしたり、毎日殺し合いしてたんでさぁ」
「人の世は情けと聞きますが、あの頃は情けもクソもありませんでしたからねぇ」
「あっしらは鉄火場に生きるモンでございやすから」
「打首通報に怯えながら暴れてやしたねぇ」
「一日の長ってやつでさぁ」
新場親分が長ドスを斬り払う。2体のスケルトンの首が同時に飛んだ。回復役は「ヒャッハヒャッハ」と言いながら死体蹴りをしている。……ダンジョン探索は順調に進んでいった。
パーティを交代しながら一昼夜が過ぎるころ、近くの村から差し入れいれて貰ったおにぎりを頬張っていた武具職人が、通知を受け取った。
「8階層ボス部屋前に到達!一回引き返すそうです」
「分かった、本部で受け入れ準備を」
お蝶がテキパキと指示を出した。ヒャッハー!状態から早々に正気に戻ったお蝶は、着実な攻略を銀二らと共に進め、回向院が驚愕し続けるほどのハイペース(すべてを無視したヒャッハー状態ほどではない)を維持していた。
しかし、ダンジョン下層に行けば行くほど、敵のレベルは上がっていく。浅い層は一時間程度で踏破していた面々だが、少しづつ攻略速度が落ちていく。雷門はまだ見つからず、このダンジョンもどれほどの深さと階層なのか未知数。階層と比例するように段々と士気は低下していた。8階層のボス部屋の前から戻ってきた銀二に、お蝶が目配せする。もはや兄妹である彼らにはそれで十分だった。
「よし、ここで一時撤退を」
「行くぜぇてめらぁ!皆殺しだぁ!ここで一気に決めるぜぇ!」
「いや、違「「「ヒャッハー!wwwwwwww」」」
もんどりうつようにダンジョンに踏み込むお蝶と冒険者たち。笑顔は既に狂気に染まっていた。新場親分も「フハハ!!」と言いながら突っ込んでいく。銀次は一人で冷静にいるのが億劫になってきたので「へへへへ」と笑ってみる。
あれ……なんだか楽しくなってきたぞ!
銀次は同じように高笑いをしながら狂気の集団の後ろにくっついていく。それ見て、卍先生は再び顔を覆い、佐之助と回向院は酒を飲み始めた。
8階層のボスモンスターであるサイクロプスは、この突然変異的ダンジョンの最下層主として守護を任されていた。ある程度の知能を持ち、ダンジョンマスターである白衣の男の言うことを聞くべきであると理解していた。
サイクロプスは来る日も来る日も守護をする。しかし、誰も来ない。たまに訪れるのは、白衣の男の従順な飼い猫が死体を咥えて通り過ぎるくらいだ。
サイクロプスは暇を持て余していた。特に誰も来ないし、やることもない。ボス部屋から出て階層を散歩しながら、仲間の魔物と遊ぶこともあった。
だが、彼の本能はいつも戦闘を欲していた。体のどこかで、血湧き肉躍る戦いを楽しみにしていたのだ。得物である大きな斧を石で研ぎながら、猛者たちとの戦いを想像した。
だが、誰も来なかった。手持ち無沙汰を極めたサイクロプスは技能の向上を目指した。どんな敵が来ても一閃で屠れるような技の鋭さを。
斧を振るう度、自身の最適化された技のコースが理解できる。サイクロプスは楽しくなっていた。技のキレが増すとたまに知能も上がっていく。
そして、とうとうサイクロプスは。
「ヒヒヒヒww汚物はどこダァ!!!!!」とボス部屋に飛び込んだマル森の上半身が消えた。エフェクトが散っていく向こうに、正座で目を瞑っているサイクロプスがいる。
消し飛ばされたマル森を見ていれば、いま、とんでもないことが起こったことが理解できるはずだが、生憎、冒険者御一行はヒャッハ!状態である。そんなものは見ていなかった。お蝶は大槌をブルンブルンと振るうと、ピッタリとサイクロプスに向ける。
「野郎!ぶっ殺せ!!!!!」
冒険者が数名。その言葉と共に飛び込み、サイクロプスの数メートル手前でエフェクトを散らして消えた。上から「消毒だぁ!!!!」と斬りかかった冒険者も一瞬でエフェクトの霧と化した。
魔法を使える冒険者が遠くから詠唱を終わらせ「火炎放射器じゃぁ!!!!」と火の蛇をサイクロプスにぶつける。しかし、サイクロプスは立ち膝で斧を振りかぶると火の蛇を一刀両断した。
ここでようやく彼らも、この目の前のサイクロプスが只者ではないことを認識し、ヒャッハ状態を止める。お蝶は、一息吐くと大槌を手に一歩下がり、新場親分と銀次に声をかける。
「テメェら……いいか?」
「「ぉう」」
まず新場親分が走り出す。ふくよかな体に似つかない俊敏な動きで、抜き身の長ドスを刺突しようとし、サイクロプスは薄目を開け横薙ぎに斧を振るう。
そのまま親分を引き切ると思いきや、親分はその場で大きくタタラを踏んだ。タイミングをずらされた斧は空を斬り、サイクロプスも僅かに体を浮かせる。そして目を見開いた。
親分の体の影に隠れていた銀次が、サイクロプスの空いた胴体の前に立ち、体を捻りつつ寸頸を鳩尾に叩き込む。
「グゥフッッ」
サイクロプスはその衝撃に息を漏らすが、すぐさま返す斧で銀次の頭部を狙う。だが、体勢を大きく崩されており、そのスピードは先ほどよりも遅かった。
新場親分は、たたらを踏んだ位置から足を一歩踏み込みつつ、袈裟斬りの構えを振り下ろす。ゴウゥンと風切り音が響けば、サイクロプスの右腕は落とされていた。
「ッッッッ!!」
残った左腕を使って銀次と新場親分を殴り飛ばそうとするが、迫りくるサイクロプスの左肘関節を、銀次は真下から真上へ掌底をぶち抜いた。勢いよくサイクロプスの方が跳ね上がり、左腕はあらぬ方向へひん曲がってしまった。グルングルンとお蝶は大槌を片腕で回しながら一歩一歩近づく。
サイクロプスは敵が来たことに喜びを覚え、全てをぶつけようと震い立っていた。ヒャッハと叫びながら飛び込んできた連中であるが、幾度も練習した技の一振り一振りが、夢にまで見た戦いに喜びの花を添える。
だから両手を使い物にされなくなってもなお、サイクロプスは戦いを止めるつもりはなかった。手が使えなくても足が使える。体が使える。この牙の生えた口も。自分はまだやれるんだと、部屋に響き渡るほど大きな声を上げて、突っ込んでいく。
「私らはよぉ、スキルが取得できねぇ」
一歩、また一歩とお蝶は迫り来るサイクロプスに足をすすめる。
「どんだけレベルを上げても、ポイントはステータスに勝手に割り振られてスキルに変換できねぇ」
お蝶の振り回す大槌は、吠えるサイクロプスに呼応するように「ブォォ!!!」と唸りを上げる。
「だからよ、私らは技術を磨くんだ……技を極めるんだ……その武術の行き着く先、私ら「侠客」が唯一得られるその先を教えてやらぁ!!!!!!」
サイクロプスはあと一歩踏み込めばお蝶に突進を食らわせられる位置まで踏み込み、より頭を低くする。この一撃に全てを載せる為に。
お蝶は、加速した大槌の柄を両腕でかい抱くように掴み、勢いを殺さずに回転させた体をひねり、慣性のままサイクロプスに叩きつけた。
「廻り鉄杭!!!!!!」
ドォォォン!!!!!!!と轟音が響き、土煙が視界を遮る。ゴホゴホと回復役が土煙を払う。視界が晴れると、地に打ち付けた大槌の下に大きなクレーターが出来上がっており、サイクロプスはエフェクトが散り消えた。
「いい斧の抜き打ちだったぜバケモン」
お蝶らはこうして要町墓地ダンジョンを攻略したのだった。
「結局ボス部屋の宝箱アイテムも大したもん入ってなかったな」とリスポーン地点を本部に設定していたマル森が、階層転移で合流しつつ言った。お前なんもしてないじゃんと言うツッコミを抑えて一同が下の階層に降りる。武具職人と卍先生は中継でコールを繋いでおり、回向院がコール越しに「次が首魁だ!気をつけて!」と皆に声をかけていた。
8階層から下に降りると、大きな鉄の扉がある。お蝶はそれを大槌でぶち抜こうと構えるが、新場親分に制された。
「奥に何がいるかわかりませんでしょう。慎重に、扉が開くならそっと開けましょうや」
ギギギと新場親分が扉を少しだけ開ける。雷門が連れ去られてから二日ほどが経ってしまっている。拷問にかけられているか、どのような目に遭っているかわかったものではない。一同は薄く開いた扉から中を覗き込んだ。
「だから梅干しは残すなって言ってんだろ!!!」
「ヒィ!ご、ごめんなサイ」
「ったく飯は残すな、しっかり食わねえとダメだろうがよぉ、オイ!にゃん助!お前、ルフレにご飯あげたのか!?なにぃ!?掃除してた!?……よーし、偉いぞ、カツオ節食うか?」
「なんでにゃん助にはそんな優しいんデスか!」
「お前が言われたことしっかりやんねぇからだろう!」
雷門がエプロンをつけて、白衣の科学者にしゃもじを叩きつけつつ、火車にカツオ節を渡していた。キメラ動物に餌を与えていた火車も、雷門に頭を撫でられて嬉しそうだった。
「……これは……どう言うことでぇい……」
絶句している銀次の目の前で、エプロン姿の雷門が食器を片づけながら白衣の科学者に怒鳴っていた。
「オイ!ダランド!ホトケさんはそろそろ乾いたのか!?さっさと棺桶に花詰めて準備しろぃ!ただでさえ大迷惑かけてんだまずはさっさと詫び入れなきゃ筋が通らねえだろ!」
「ごめんなサイ!でも本当にワタシ、許してもらえるんでしょうか……」
「アイツらは、なんも理由聞かねえでヒャッハー!とか言いながらぶっ殺すようなヤツじゃねぇ!同心の兄貴もいらぁ、俺も一緒に頭下げてやるからさっさとしろ!!」
「はい!ママ!」
「うるせぇ!母ちゃんと呼べ!!!」
一同は静かに扉を閉める。そしてみんなで俯いた。なんか気まずかった。
コールと通信により本部で全てを聞いていた佐之助は「お前のクソ度胸はたしかに買ったが、肝っ玉母ちゃんになれとは言ってねぇ」と顔を覆いながら卍先生に漏らした。
後日談として。
研究の為と死体をかっさらい保存していたダランドは、生来のお片付けできない病により、死体を綺麗に保存するだけで何もしていなかったため、再び丁重に棺桶に詰め、盗んだ家の一軒一軒に土下座をして詫びた。佐之助や俺も同行し、一緒に頭を下げた。
遺族も遺体が返ってきたことと、見廻り同心、佐之助の顔を立てる為に、誰も訴える者はいなかった。また、生み出されたキメラたちは、卍先生のもとで写生のモデル兼癒しとして飼育されることになった。火車ことニャン助も一緒だ。
ダンジョンを完全踏破し、各々がドロップ品も回収し終わったころ、しばらくして踏破の手伝いをしてくれた冒険者たちが、ダンジョンを組合本部に連絡をした。組合本部はその功績を持って、彼らを一段階上の級に昇格させた。冒険者は功労者としてしばらくちやほやされていたが、ただ、そのうちの一人の治癒術師の女性は「ヒャッハーヒール流」なる流派を広めていたらしい。
異国の医学知識を持つダランドは、ひっそりと佐之助宅に居候しながら、その医術の見識で江戸エリアの学者たちには重宝されるようになったという。ただ、ダランドにダンジョン生成の為のダンジョンコアと研究室を与えたという男は、結局わからずじまいだった。
ダンジョン生成のコアとかいう、多分、特級の情報が出たが、触らぬ神にたたりなし。俺と佐之助は聞かなかったことにしたけど。
一通りのことが済み、これにて落着と俺と佐之助は連れ立って品川の海辺を散歩していた。漁師の掛け声が岸に響いている。ここ辺りはハマグリが美味しいらしい。焼きハマグリでも食べに行こうかと話をしていると、ふと佐之助が俺に聞いてきた。
「そういえばゴロゴロって雷鳴はなんだったんだ?」
「……ありゃ、にゃん助の喉鳴らしだ」
「紛らわしいわ!」
さて、焼きハマグリが楽しみだ。早く行こう!そう思いながら佐之助の背中を叩く。
いてぇなと言っている佐之助の後ろから、ゴロゴロと雷鳴の音が響いた。
よく晴れた空なのに?佐之助が振り返る。
岸に近い海の上。「石川島」と書かれた小舟に乗っていた、ひげ面のポニーテールのプレイヤーが、毛むくじゃらの何かに空へと連れ去られていった。
俺たちは顔を見合わせ、うなづきあう。
そして、そそくさと焼きハマグリでも食べに行こうと足を速めるのであった。
御厄介になりますが、何かございましたらご連絡ください。
更新は朝の7時頃か、昼の12時頃もしくは夜の21時頃を目指します。
どうぞよろしくお願いいたします。




