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第十九話

パンゲアでは気絶状態が存在する。昏倒とも言われるが、強い衝撃などを浴びると一時的に気絶状態になる。リアルを追求しているパンゲアらしいが、俺は気絶状態から復活した時、自分が置かれた状況がいまいち読み込めなかった。


俺は息苦しさを覚えて意識を取り戻す。目を開ける。眩しい。光に慣れてくるとあたりが見える。


「モゴゴ?(オペ室?)」


猿轡でうまく声が出なかったが、俺はどうやら拘束されてオペ室のようなところにいるらしい。側にはメスやらなにやらが並び、摘出台のような机もある。あと、俺の手足もきちんと縛られている。死装束で縛られているところを見ると、俺は火車に連れ去られてここに?


しかし、このオペ室も近代的な設備だ。パンゲアの江戸エリアにありそうなクオリティではない。まさか、火車に連れて行かれると別ステージに突入するのか!?


ガチャリと音がすると、オペ室の重厚な扉が開いた。俺が目を見開いていると、白衣を着た外人が入ってくる。NPCか?


「お目覚めデスか?怖いもの知らずなプレイヤーもいるもんデスね」


パイナップルみたいな髪型なそいつはニヤニヤと笑いながら近づいてくる。


「モゴンゴ(誰だお前)」

「私デスか?私はダランドデス。科学者をしておりましてネ。ここに研究室を持ってるんデスよ。」

「モゴゴモゴ?(研究室?)」

「えぇ、そうデス。私の素敵な研究デス。生命の神秘を調べ尽くし、人類のために研究をしているんデスけどね、私の母国であるローマ国では誹りを受けましテね。私は純粋に人体の研究を行なっているのニ、あの猿どもは神への冒涜だなんだと……」

「モゴゴォ(大変だな)」

「そうなんデスよ!人体研究のためには死体の解剖が必要デス!私は解剖を重ネ、より詳細なデータが欲しいんデス!だから私は国を出て、ここに来まシタ!この国はローマと違って死体は火葬しないばかりか、土葬デス!だから墓を掘れば新鮮な死体が!……とは思ったんデスが、やはり腐敗がひどい。私はこう考えたんデス。死んだばかりの人間の死体を得るためにはどうしたら良いのカと」

「モゴォ(えぇ……)」


ダランドは、ガラガラと手術台ごと押して、オペ室を出る。部屋を出ると、培養液のようなものに入ったいくつかの死体が並んでいた。お世辞にもいい光景とは思えない。吐き気がしそう。


培養液の眼前には檻が並んでおり、動物がガシャガシャと暴れていた。よく見ると、動物たちも何かが違う。犬の体に猿の頭がついていたり、鳥にタコの足が生えていたり。キッショ。ダランドは、それらを愛おしそうに眺める。


本当にキッショいやつだな。人体研究室じゃなくてキメラ研究室やんけ。ダランドは振り返り、「わかってくれマスよね?」と言ってくる。いや、わからないけど。


「私の愛しい人造猫が、死体を持ってきてくれる素敵な毎日でしたが……デスが、今日はいい日だ!!」


あの火車って人造猫なんだ……と俺がドン引きしていると、ダランドは俺の猿轡を外す。


「私は常々、「プレイヤー」という奇怪な存在に興味を抱いていまシタ!何度死んでも戻ってくるうえに、不思議な力を操る彼ら!大変興味深いが、どうやっても調べられナイ!そんな時にアナタが来た。」

「……」

「死体泥棒でも探していたんでしょう?残念ですが、お仲間はここにはこれまセンよ。……ここは深いダンジョンになってマスからね。……あと幸いにもここには薬草がたんまりとありマス。自分で死んで逃げ出そうなんて考えても無駄デスよ」

「……」

「手足をもいだり、皮膚を剥がしたり……あァァ!最高に楽しくなりそうデスねぇ!あ、あぁ、ゾクゾクしマス!」

「……なぁ」

「なんデス?アナタも私のことを狂人科学者マッドサイエンティストと言いマスか!?それとも助けてくれって泣き喚きますか!?」

「なんで白衣に納豆つけてんの?」


え、といいつつダランドは白衣を確認する。「これは今朝食べた納豆デスが……」と戸惑ったように俺に言う。


「いいか?よく聞けパイナップル野郎。」

「なっ……」

「死者への冒涜と言われればそうだな、お前がやってることは間違っている。怪我人も出てるし悲しむ人もいらぁ。生き物をいじくり回して遊んでるタチのわりぃガキにしか見えねえ。」

「……やはりアナタも」

「だがな!」


俺は睥睨する。だらしなく脱ぎ捨てられたシャツや、散らかったゴミ。研究資料と思われる紙が辺りに散らばっており、キメラ動物たちの餌皿も汚い。檻も汚い。このパイナップル野郎の身なりも汚い。綺麗なのは培養液の中の死体だけだ。俺は丹田に力を込めて、パイナップル野郎に叫んだ。


「このきったねえ部屋をまず綺麗にしろこのダボハゼ!!!!!!!」



火車に逃げられたあと、残された者たちは騒然としていた。追いかけるべきか、どうするべきかを喧々諤々としているが、一向に方向性が定まらない。回向院こと次郎吉が後を追いかけているとはいえ、大所帯での作戦は佐之助も想定していなかった。


佐之助と卍先生が困り果てていると、「テメェら静かにしろぉィ!」と、幡随院と共に来ていた新橋大安親分が一喝する。


「日暮里の旦那の手のもんが追いかけてるってんだ。アタシらはさっさと支度してらその人の戻りを待つしかねぇでしょうが!」

「でもにいちゃん!間に合わなかったらどうするんだ」

「お蝶!慌てんじゃねぇ、アタシらはプレイヤーで、万一死んでも戻ってくるでしょう!それに……奴さんはそんじょそこらのタマじゃねぇでしょうよ」


今は待ちなさいな、と新場親分はお蝶の頭を撫でる。落ち着きを取り戻した一同は、回向院の帰りを待った。


数刻後、回向院がサラリと戻ってくる。汗の一つもかいていないようだが、その顔は険しかった。ひとまずと通夜支度も片付けていない農家で、回向院の話を聞く。


「足に矢が刺さってたんでしょう、割りかし鈍い足だったので、追いかけられましたし場所もわかりましたよ。ここからそう遠くはない、池袋の奥、要町の墓地です。」

「墓地?」

「えぇ、旦那、墓地でした。墓地の奥に1人分くらいの穴が空いてましてね。ヤツはそこにはいっていったもんだから、後を追いかけて穴倉に入ったわけです。……いやぁ、盗賊組合で教練しててよかったですよ、そこ、ダンジョンだったんですよ」


回向院はなんの気なしに語るが、プレイヤー組は唖然とした。ダンジョンは本来、エリアとされる町の外にあるもので、市中にあっていいものではない。


関所を出て、プレイヤーたちが冒険をするフィールドの奥にダンジョンは存在するのだ。恐らく未発見ダンジョン。ダンジョン自体が、ドロップ品をほぼ無限に産出する金鉱山であることから、本来であれば、冒険者組合にダンジョン発見を通報し、大規模な捜索隊が組まれるのだが。


「そんな悠長な時間はねぇ!者ども、支度しろィ」


新場親分の一声で、要町墓地ダンジョン(仮)の捜索が決まった。




一時が経ち要町に集合した面々は、墓地に陣屋を敷く。同心の佐之助が「捜査でこの一角を仕切らせてもらうぞ」と村の長に口止めをし、続々と集まる関係者は、陣屋に入っていく。


幡随院一家、新場一家、それに盗賊組合から冒険者数名、生産職に数名の鍛冶プレイヤーと回復救護班として、回復持ちの冒険者が数名。生産職は卍先生のツテ、回復持ちはマル森のツテで集められた。


「まずは、未踏破ダンジョンの極秘捜索に集まってもらった諸君、感謝を申し上げる」

「親分ら差し置いて何仕切ろうとしてんだバカが」


マル森が頭を引っ叩かれて退場すると、幡随院お蝶と新場大安両名が並び立つ。新場親分は、至って落ち着いた面持ちで集まった面々のツラを眺め、ふくよかな腹を見せつける。だが、お蝶は目を真っ赤に今にもダンジョンに飛び込んでいきそうだった。新場は心配そうにそれを宥めつつ、口火を切る。


「ダンジョンは見つけた場合、冒険者組合に連絡するのが義務だが。テメェらも聞いているように、私らのダチが連れ去られちまいました。プレイヤーとはいえ、何をされているかわかったもんじゃねぇ。それにダチは初心者の町奴。リスポーン地点の変更設定なんて知らねえに決まってる。」

「……確かに教えてやってねぇなぁ」

「だから、そいつは何度死んでもダンジョンの奥底で悶え苦しんでるにちげぇねえでしょう。ダチがそんな目に遭ってて、チンタラポンタラと組合の準備を待ってられますか?」

「「待ってられるわけねぇ(ないです!)」」

「私らは迷宮に捕まったダチを手こまねぇて眺めたくて集まったわけじゃねぇよなぁ!」

「「おおぅ!」」

「……お嬢、頼みますよ」


お蝶は血走った目を静かに瞑る。自分の中の激しい感情を抑えつけ、敵と戦うために冷静な自分でいることを厳しく律する。私はこの探索隊の指揮官だ。静まれ、自分の心。私情を挟むな。これから未踏破のダンジョンに挑むのだ。関所抜けして狩りまくった魔物とはきっと違うだろう。気を引き締めねば。冷静に。冷静に、抑えて……そしてお蝶に残ったのは純然たる敵への殺意だけであった。


「行くぜテメェら皆殺しだァァ!!!!!!!!!!」

「「「ヒャッハーーー!!!!!!!!」」」

「違う違う」


応援で連れてきた生産職や回復職も一家の馬鹿どもに釣られて、同じように狂乱していた。新場親分は止めているが全く治る気配はない。それを見て卍先生は頭を抱えた。どこの世紀末だよ、と。



幕を張った陣屋で、作戦本部が立てられていた。基本的に探索隊はプレイヤーで構成されており、第一弾として向かったのは、上はC級、下はE級の初心者〜中堅パーティーと、お蝶なのだが。


作戦本部でダンジョンマッピングを手伝っていた回向院は、続々ともたらされる連絡に驚いていた。


「なんですか、この踏破の速さは」

「2階層ボスモンスター撃破!3階層入ります!」


パーティーからメッセージを受け取った武具職人が叫ぶ。佐之助が「俺、いまいちわからねえんだが、そんなに早いもんか?」と回向院に尋ねる。回向院は「旦那ァ!こんなのはトップの冒険者たちが万全の体制と、既にマッピングが済んでいる状態でできる速さですぜ!?」と叫ぶ。


その時、回復班の1人から緊急コールが入った。慌てて武具職人がコールを受ける。


「どうした!」

「3階層突入しました!でも物資が足りません!運搬班に願いま……ヒャッハー!!!イェス!!!!ぶっ潰せ!!!!そこだぁ!!!汚物は焼き尽くせえ!!!!……あの、私らの武器を潰してしまったので!!代わりの武器を!!!」

「……お前らは何で攻撃してるんだ?」

「クソどもが持ってた棍棒に決まってんだろうがよぉ!!!!!いっけぇ!!!!!」


ガチャリ、とコールが切れる。武具職人は「あいつ、お淑やかな女の子だったのになぁ」と泣きながら準備してきたパーティーの替えの武器を運搬役の冒険者に手渡した。


「私も一緒に様子を見てきましょう」

「あっしも見てきやす」


本部で第二陣として待機していた新場親分と銀次が、運搬役の冒険者を伴ってダンジョンに潜ることにした。とてつもなく不安になりながら。


要町墓地ダンジョン1階層。基本的にダンジョンの浅い層ではゴブリンやコボルトと言った低ランクの魔物が現れることが多い。銀次は、得意の八極拳をすぐに出せるように身構えながら進む。新場親分も得物である長ドスを抜き、いつでも斬れるよう周囲を警戒していた。


しかしいつまでも敵は出てこず。足元には拾われていない魔石やドロップ品が散らばっている。銀次はゴブリンのドロップ品である耳を拾いながら、すぐ横の壁を見る。すっごく陥没していた。


「なぁ……ダンジョンの壁って凹むことあんのかい?」

「いえ……聞いたことないですけど……」


運搬役もドン引きしている。ダンジョンの構造は、プレイヤーが傷つけられるようなものではなかったはずだが。そしてこのダンジョンは敵のリスポーンタイムが長いのか、一向に敵が出てくる気配がない。


「ドロップ品は捨て置いて、とりあえずはあの子たちを追いかけましょう」

 

彼らは敵が全くいないダンジョンを、下層に向けて走っていった。



3層階ボスモンスターの部屋の前。

銀次と新場親分らが部屋の前に着く。替えの武器を所望した先遣隊のパーティーから特に連絡はなく、本部から追加の連絡もない。そして彼らはここまで先遣隊とすれ違っていない。ボスモンスターの部屋は、ボスが倒されると部屋が開く仕組みになっているが、いま、目の前の扉は閉められていた。閉められているはずなのだが、中から「ヒャハ!!」と小さく聞こえた。銀次と新場親分は顔を見合わせる。意を決して扉を開ける。


「オイオイオイオイオイ!!クソ雑魚さんですかぁ??????えぇ?????テメェも汚物かぁ????????オラよディバインスラッシュ!!!」

「失せろカス!!!!!」

「燃やせぇ!!!ヒャッホウ!!!」


先遣隊は、敵が落としたのであろうゴブリンの棍棒や、スケルトンの錆びた剣で、この階層のボスモンスターであるスケルトン騎士を、パーティーで寄ってたかってぶっ叩いていた。スケルトン騎士が「ナ、ナンダ、アブ!」と、なんか言ってる。騎士が銀次たちに助けを求めるように手を伸ばしながら「コイツラ……モンスターヨリモンスターシテルゥ」と言いながら消えた。


叩く対象がなくなったパーティーは、「もう終わりかつまんねぇな」と言いながらスケルトン騎士のドロップ品を蹴り飛ばす。マル森が「チッ、ドロップもシケてんな、よしテメェら行くぜぇ!!!!」と叫ぶと、「ヒャッハ!!!」と言いながらパーティーが返事をして、モンスター部屋の奥に現れた階段を降りようとする。


そして新場親分と銀次が静々と歩み寄り、長ドスの鞘と肘でマル森とお蝶の頭をぶっ叩いた。


「「品がねえ(でしょう)!!!!」」



御厄介になりますが、何かございましたらご連絡ください。


更新は朝の7時頃か、昼の12時頃もしくは夜の21時頃を目指します。


どうぞよろしくお願いいたします。

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