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第十七話

今日も遅くまで仕事をする羽目になった。ヘロヘロになった俺は倒れ込むように布団に入る。こないだ室長に(不慮の事故)でメンチ切ってから、どうにも俺への当たりが強くなってきた気がする。


ヘッドギアをつけ、ログイン。

目を開けると、俺は竹林の中にいた。なんでだっけ。


しばらく考えて、そういえば昨日、佐之助の家から出てプラプラ歩いてたら竹林を見つけたから、ちょっと入ってみようかと足を踏み入れ、そよぐ風と竹の匂いに「風が語りかけます…」と癒されながらログアウトしたんだった。


さて、佐之助の家でも行くかと動き出す。すると後ろから、「おい!タケノコ泥棒め!!待ちやがれ!」とNPCの農民っぽい人に怒鳴られた。


え?いや、違うんだが……?俺はタケノコ盗んでないけど?そう答えようとして振り返ると、農民は「そぉら!やっぱり!!お前だろ!」と、俺の腕を捕まえる。そして、手に持った紙を俺に見せてきた。


その紙には「この者、盗人で候。捕まえたる者、金一封なり」と書いてある。しかもその手配書の顔は、少しだけ俺に似ていた。農民はそれを誇らしそうに見せながら「ほら、先生が書いて下すった顔とまるで同じだ!観念しろ!盗人め」と腕の関節を極めてくる。いてぇよバカ。俺は慌てて農民に弁解する。


「ちょっと待て!それよく見てみろよ!名前んとこ!」

「あぁ?名前?……これだろ?」

「誰が「ぷいきゅあがんばえ丸」だコラ」

「な!しらばっくれる気か!」

「ちげえ!よく見てみろぃ!」


俺は極められていない方の腕で、冒険者カードを見せる。「らいもん……?」と農民が読み上げ、すわ間違いに気づいてくれたと安堵するが「いや!この札は偽物かも知れねえ!」と言い始める。やんやと言い合ううちに農民が「それなら先生のところで確認してもらおうじゃねえか!」と俺を引きずるように、その先生とやらの家に向かうことになった。……そろそろ腕の関節極めるのやめてくんない?アンタ関節技のプロ?



板橋の農村の一つに、ぽつねんと建つボロ小屋があった。その小屋の扉を農民が勢いよく開け放つ。


「先生ぇ!」


先生と呼ばれたプレイヤーは、「うーん?あ、田吾作さん、ちょうど良かった」と振り返る。片眼鏡をした線の細い男。彼はそのまま「今日ね」と話始めるが、田吾作はそれを遮り「盗人捕まえたんだよ!ほら、タケノコ泥棒!」と俺を突き出した。


先生は俺の顔をまじまじと眺め、後ろでドヤ顔している田吾作に「あの泥棒は今日役人さんが捕まえたって……」と言った。田吾作は「えぇ……?」と困惑を隠せていない。俺はようやく腕を解放された。

 

「だから言っただろ、俺の名前は雷門だ!」

「ほら田吾作さん、手を離してあげなよ。人違いだよ。盗人、ポニーテールの髭面だったらしいし。似ても似つかないし」

「えぇ!?だってこの手配書、先生が書いてくれたじゃねぇか!」

「田吾作さん、みんなの目撃情報から推測で書いただけだからね?みんなはっきり覚えてるの名前だけだったでしょ」


勘違いで雰囲気が俺に似てるやつが描かれて、誤認逮捕されたのはわかったが、「ぷいきゅあがんばえ丸」って髭面のポニーテールは魔物だろもはや。みんなで何見てたんだ。どんな目撃証言を寄せ集めたんだよ。


田吾作はしきりに恐縮しながら出ていき、俺と先生が残される。気まずい。俺も小屋から出ようとすると、そいつが話しかけてきた。


「なんか、ごめんね」

「いや、いいさ。運が悪かったんだ」

「……詫びに茶でも出すよ」


佐之助との待ち合わせまで、まだ時間はある。せっかくならと俺はお茶をご馳走になることにした。先生は、自分は生産職の絵師なんだ、と打ち明ける。


「画狂凡人マジ卍って名前の絵師さ」


おとなしい顔して、えぐいプレイヤーネームつけてるね。何考えたらそんな名前出てくんの?卍先生は、裾を捲し上げて書棚に並ぶ本を手に取る。


「本当は絵師として、キチンと屏風絵とかを描きたいんだけどね。版元がそれじゃあ売れないから、売れるやつ出せってうるさくてね」

「これは?」

「僕の書いたもんさ」

「不潔三十六景……第三景「馬込のお糸が部屋」……」

「大した絵師じゃないんだけどね、ほんと」


どっかで聞いたことがある浮世絵だな。しかし大首絵で、とっ散らかった部屋がよく見える。面白い絵ではあると思う。


「まぁそれも不人気すぎて、途中で打ち切りになったけどね。ファンもいないし、いま、浮世絵のネタ探しに大変なんだ」

「ネタ探しねぇ」

「雷門君は、冒険者だよね?……なんか浮世絵の題材になりそうな話はないかい。こう、衝撃的で、民衆にビビビと響くような!売れそうな題材だよぉ」


衝撃的といえば、まぁショッキングな目に合うことが多いですけどね。売れそうな題材ねぇ。……浮世絵、浮世絵……あー、妖怪とか?ちょうどいい塩梅に妖怪の話があるけど。


「妖怪!良いねぇ!!!是非とも見てみたいね!」


卍先生は片眼鏡を押し上げてノリノリになっていた。俺と先生は、連れ立って佐之助の家に向かうことになった。



ガラリ。扉を開けて「佐之助さんや、邪魔するぜ」と部屋に入れば、そのには腹を出して寝ている佐之助。酒瓶が傍に転がっている。……コイツ。


俺は腹をペシペシと叩く。ぐがっ、と佐之助が起きる。寝ぼけなまこで「なんだぁ……なんだ、雷門か」と呟くと、俺の後ろにいる卍先生に気づく。「誰だそれ」


「画狂凡人マジ卍です」

「……えぇ?」


佐之助が戸惑っている。

そら見知らぬ男から急に変な名前言われても反応に困るよな。寝起きだし。


「卍……先生……?」

「え?」

「不潔三十六景の卍センセですか!?あと、あまりにも描写が激しすぎてお上から発禁処分食らった春画の!」

「……なにしてんねん」

「へへへへ、つい描きすぎちゃって」

「えっ!?、本当にマジ卍センセ!?俺、いつも読んでます!!!!!!」


いたよ、ここに。

先生よかったね。ファンがいたよ。佐之助はとても嬉しそうにいそいそと支度をし、先生を歓待した。


卍先生同伴で、佐之助は「火車」の話を始める。

白山や巣鴨の村で葬儀を出すと、棺桶を狙う毛むくじゃらの何かに襲われるらしい。しかし、全ての葬儀ではなく、狙う先は、時間も死者もバラバラで、村の墓地が掘り起こされていたこともあるらしい。出てくる光景は、雷鳴が轟くとどこからか現れた「火車」が、人を薙ぎ倒しながら棺桶から死体を引き摺り出し、脇に抱えてそのまま何処とも知れず逃げていく。


居合わせた人が武器で倒そうとしても、するりと逃げていくらしい。村を回る役人が対応しようとしたが、すぐに逃げられてしまい、どうにもならないらしい。


「冒険者とかには頼まなかったのか?魔術師とかいっぱいいるだろ」


俺は大きな魔女の帽子を被ったプレイヤーを思い浮かべながら佐之助に尋ねるが、彼は首を振りながら「奉行所と組合はあまり仲がいいわけじゃねえしな、正式に依頼なんざ出せねえんだよ」と嘆息した。


「それでも、俺たちにも打つ手があまりなくてな。高名な坊主や、陰陽師に調伏を頼むにしても依頼元の村の百姓じゃ、大した金なんざ出せねえ」

「……それで俺に?」

「あぁ、俺はよ、雷門。お前を買ってるんだぜ。そのクソ度胸をな」


佐之助がそう言うが、クソは余計だ。しかし、俺の力量じゃ、その「火車」に対応できるかわからないぞ。


「まぁ、囮ぐらいになってくれれば、その間に俺が斬るから安心しろ。お前は肉壁役だ」

「いっぺん表出ろや」


卍先生が、「それで、次に出てきそうな場所はわかってるの?」と佐之助に聞く。佐之助は散らかった文書をゴソゴソと探すと、一枚の紙を読み上げる。


「えぇと、火車が出やがる日取りは不規則だが、巣鴨あたりから池袋の間の村に出てくるのはわかってる」

「偉く決まってるな、それなら対策できるだろ」

「だから百姓の葬式だぞ、用心棒を雇える金なんざねぇし、怖がって出さなくても仏さんが腐っちまうだろ。仕方ねえから怖がりながら出すしかねえんだ」


今夜、北大塚の村で、1人の老人の葬儀が行われるらしい。火車が出る可能性が高い。佐之助は「仕事だからよ、火車を討ったら2万バール出すぜ」と俺に言った。


「やりますやります肉壁でもなんでも」


俺は一にも二にもなく頷く。2万バールあったらトンデモ鑑定団に行ける!!卍先生が「現金だな」と苦笑しているが、文無しはこう言うのが大事なんだよ。ところで、卍先生、さっきから筆を取り出してるけど何描いてるの?


「あぁ、これ?火車の想像図」


そう言って卍先生が取り出した紙には、なんか悍ましい、呪いみたいな物体が描かれている。ファンを公言する佐之助ですら、ドン引きしていた。卍先生は


「やっぱ、やばい?……僕、人とかはちゃんと書けるんだけど、動物とか描こうとするとバケモンになっちゃうんだよね。こないだも動物画書いたら、版元に江戸を呪う気か?って怒られたしね。」


卍先生楽しそうに笑ってるけど、アナタ、そう言うの描くのやめなさよ。本当に一緒に火車見にいくの?佐之助も困り顔になりながら胸を叩く。

 

「ま、まぁ、この市中見回り同心、岡田様に任せとけ」

「……賭場しか見回ってねえじゃねぇかゴロツキが」


全てが不安だ。




北大塚のとある村。小規模ながら、農家や職人が家家をなし、夕暮れが差し込む農村部として落ち着いた雰囲気を醸し出していた。畑や田んぼには秋頃だからだろう、作物も実っている。


俺と佐之助、そして卍先生は、村の一つ。忌中の張り紙が出ている家を訪ねた。


「こんな時に悪りぃな、北町奉行所から来た岡田だ」

「これはこれは、わざわざありがとうごぜぇますだ」


出迎えた老婆は、曲がった腰をさらに深く曲げ、俺たちを迎える。近所の寺の住職には話を通しているらしく、部屋に通される。中には住職と数人の親族。そして白い布を被って布団に横になっている故人。


「まずは、線香の一本でも上げさせてくれ」


佐之助はそう言うと、線香の火をあげ静かに手を合わせる。俺たちも手を合わせた。佐之助はさっき、「少ないけどよ」と言って婆さんに幾許か渡していたし、こう言うところを卒なくこなす男だった。


住職が「今晩は出なければいいんですがね」と数珠をカチリと鳴らす。こないだ巣鴨の村で火車が出た時、居合わせたらしい。なすすべもなかったことに悔恨の念があるのだろう。俯きがちな住職に、場の雰囲気もより暗くなる。それはそうだろう。ただでさえ悲しいのに、バケモンに持ち去られるかも知れないんだから。だが、住職も気を取り直して、「彼は信心深い人でしたから、今晩は大丈夫でしょう」と手を合わせる。


それ、こないだ持ち去られた人、信心深くなかったのかなとか邪推してしまう俺は、卑しい人間かもしれない。


その後、通夜は粛々と進み、いよいよ個人は納棺され寺に行く段階になった。外に出ると、今夜は新月であたりは真っ暗だった。佐之助は、明かりを灯すかというと提灯に火を入れる。


棺桶が家から出てくると、親族が棺桶を担ぎ、そのまま寺へと向かう。皆、おっかなびっくりであたりをキョロキョロとしていた。俺も佐之助もいつでも動けるように、腰を少し落としながら進む。


そして、寺まであと少しというところで、ゴロゴロと音がした。住職が、「来てしまった」と呟くと数珠を振り上げる。佐之助も「おいでなすったか」と鯉口に手をかけた。


その時、一陣の風が吹き抜ける。俺たちが突風に目を瞑ると、ガン!と音が鳴り、風がおさまった。目を開けると棺桶の蓋が開き、数メートル先には故人を抱えた何かがいる。佐之助がそちらに明かりを向けると、そこには、仁王立ちする毛むくじゃらの化け物がすごい形相でこちらを睨んでいた。


佐之助がそれを見るやいなや、毛むくじゃらの方に駆け出し、俺も釣られて走り出す。しかし、その化け物はすごい足で逃げ出し、すぐに見えなくなった。

御厄介になりますが、何かございましたらご連絡ください。


一日一話を目安に、更新は朝の7時頃か、もしくは昼の12時頃を目指します。


どうぞよろしくお願いいたします。

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