第十三話
「なんで、この人は冒険者カードを首からぶら下げてんですかねぇ!!!!」
俺の姿を見た新場大安が絶叫する。幡随院屋敷には、こないだの出入りよりも人が集まっていた。お蝶は頭を振り、銀次は呆れたように半笑いだ。
「みんなアンタを心配して江戸市中駆け回ったんですよぉ!?」
「え、なんで?」
俺が疑問を呈すると、一同が大きなため息を吐く。えっ、なんで?そんな反応するの?俺のことをここに連れてきたDスラ先輩が、「お前、侠客の事ちゃんと調べたのか?」と聞いてくる。
「え、えーと。細かくは調べてないです……」
「雷さんね、アタシら町奴は、冒険者になる資格も何もねえんですよ。ホイホイ組合にいけゃ、奉行所に通報されて、そのまま打首。町奴と知れた日にゃ、冒険者になる前に普通にお陀仏なんでサァ……何人打首になったことか。そのこと知ってていったんですかい?」と銀次。
「い、いえ……」
何それ全然知らない。知ってたら行かないでしょ?
銀次はそれから「侠客がどうにかして冒険者になろうとして、ことごとく打首した話」をしていた。
……なんで、俺はできたの?
俺がその疑念を聞こうと思ったが、Dスラ先輩が、俺の身に起こったことをみんなに解説した。
それらすべてを聞いた上で銀次の笑いが引き攣り始めた。お蝶が「それ、登録できてんのか?」と俺に聞く。
「適性検査に合格したんだけど多分?」
「……まぁそうだが。カードの裏を見てみな」
カードの裏には、「ライモン」と氏名が記載され、職業欄には「コムソウ」と書かれている。
「書いてあるぞ職業欄にコムソウって書いてあるけど」
「嘘だろ……鑑定の儀をしていないのか?」
「……してないと思うぞ、それは」
その場にいた面々が、驚愕する。お蝶が言うには、冒険者登録には鑑定の儀が「必ず必要」で、職業を誤魔化そうとしても絶対にバレるんだとか。だから、侠客は絶対に冒険者になれないはずだった……のだが。
「「「えぇ……」」」
どうも、俺は鑑定の儀を通さないで冒険者になった、初めてのケースだったらしい。
それから「冒険者組合がわざと泳がせているのでは?」と言う話も出たが、わざわざそれをする必要はないだろと会議が巻き起こっていた。俺、本当に大丈夫かな。
Dスラ先輩が、俺の隣に来る。
「まぁしばらくは大人しくして、様子見ながらクエストを受けたりとかしろよ。いずれにせよ、冒険者になったんだ。おめでとう」
「先輩……!」
「困ったことがあったら、何でも俺に聞けよ。この一家に所属する冒険者じゃ、俺が1番長いんだ」
頼りになるぜ、Dスラ先輩!
スキル名叫びながら技出すのはダサいけど!
「なるほどなぁ……」
人通りは以前よりも幾分も増したかな。目の前の屋台の寿司屋で、アフリカ系の冒険者が「スシ!?これデカいネ!?!」と叫んでいる。確か、寿司は昔は握り飯ぐらいの大きさだったらしいな。芸が細かいな、パンゲア。
俺は、お茶屋「渡りガラス」でのんびりとお茶を飲みながら先輩に教わったことを思い出していた。
冒険者はF級からS級の7段階に分けられており、初めはF級かららしい。昇級するためには、クエストを受注し成功を重ねるか、級に見合う功績を上げれば良い。各級ごとに、優遇制度などがあり、C級以上だと組合でも優遇措置が取られる。例えば、クエストの優先受注とか。あと、回復薬とか薬草、装備が、指定の商店で割引されるらしい。
また、モンスターとかを倒して経験値を得て、自身のレベルも上げていくと、冒険者組合から「指名」のクエストも来るらしい。冒険者組合だけでなくても、個人から来ることもあるらしいが。
依頼ってやつか。
いいねぇ、冒険者っぽいな。
パンゲアでは、レベル上げは基本的にモンスターや敵を倒すことで得られる経験値を獲得すればいいらしい。一定のレベルに達すると、ステータスポイントが貰える。それは、ステータスの中のパラメータにポイントとして割り振れるポイントらしい。……俺はステータス見れないけどな!
魔術や魔法、スキルは、そのポイントを使用すれば、誰でも取れるらしい。……ステータスがみられればな!
お蝶や銀次、新場大安らの侠客プレイヤー勢は、冒険者になれないので、夜な夜な関所抜け(犯罪)(見つかれば即打首)をして、野良でモンスターを狩ってレベルを上げたそうだ。何してんだよ。
「ステータス見れないのに、レベル上げして何かあるのか?」
「基礎的なパラメータは上昇するから、普通にレベルあがったら強くなるんだよ」
と、お蝶が教えてくれた。つまり、俺はいま恵まれているようだ。冒険者カードも持ってるし。堂々と江戸の外にいるスライム君に「リベンジ」しに行けるわけだ。……まずはスライム君に勝つことからだな。
まぁ、このゲームに体も慣れてきたし、B級冒険者に一本取れた俺なら?もう余裕だと思いますケドね。なーに、こないだは不慣れで油断しただけさ!
俺が、テンションを上げつつお茶を啜っていた。すると、看板娘のハルさんが「お茶のおかわりは?」と聞いてくる。さっき、店に来た時「あ!チャレンジャーな変態さん!今日は服着てるんですね!」って言われたからな。
「いや、そろそろ「冒険」してくるよ」
「初めて、でしたよね!頑張ってください!」
俺は片手を上げて応じる。お茶の支払いの金?金ならさっきDスラ先輩からご祝儀だって言ってもらったぜ。
俺は首から下げた、青色に輝く「F級」冒険者カードを颯爽ときらめかせて、立ち上がる。
さぁ、行こうか。
「ひでぇよ………もうやめてくれェ……」
ヨォ!俺の名前は雷門!このパンゲアの駆け出しのF級冒険者だ!今は江戸エリアの外れ、関所から歩いてしばらくした、のどかな森の中でスライム君に溶解液ぶっかけられたとこさ!
イデェ……!……見て!ゴブリンに刺されたぜ!このダメージでどうやらお陀仏だったみたいだな!俺の意識が薄くなり、エフェクトが虚しく散っていく。じゃあな!森のみんな!
ヘッドギアを外すと、俺は布団から起き上がる。軽く身支度をして、スーツに袖を通す。朝食はプロテインを軽く。ビタミン剤をガバ飲みすると、タバコに火をつけた。静かに息を吐き出し、仕事内容の確認をする。
家から出ると眩しい日の光に、手をかざす。満員のバスに飛び乗り、痴漢冤罪にならないように、両手を上げながら満員電車へ。
会社にある誰もいない喫煙所でもう一服をする。またここから激務が始まる。静かに息を深く吐き出す。マルボロの味が苦く感じた。そして、脳裏に浮かぶ。憎き球体。
「……クソスライムめぇ!!!!!!」
俺は思わず叫んだ。なんでアイツを倒せない!?スライムやゴブリンを前にすると急に体がありえないぐらい重くなるし、パンチも激遅。江戸で喧嘩をした時はあんなに動けたのに!!!おかしいだろ!!!ゲームに慣れたんじゃねぇのか俺は!!
俺がボコボコにされてる時に、ケツをブッ刺してきたツノ生えたウサギみてぇなやつもいたな。ホーンラビットだったか?アイツもぜってぇ許さねえ。あの森に
「火ぃつけてやろうか……全部燃やしてやろうか……」
「……ナァ……吾妻。大丈夫か?ストレスか?気持ちはわかるけど、会社に放火するのはやめた方がいいぞ」
「え、あ、柿田部長」
いつも俺のことを気にかけてくれる柿田部長が、軽く怯えた感じでタバコを吸っていた。子煩悩な柿田部長は、我が会社の良心であり、俺もよく相談に乗ってもらっている。しかし、柿田部長には流石に相談できない。
「今日の定例会議か?……さすがにこないだ、みんなを二徹させた室長にはブチギレていいと思うぞ」
「……それはもうしょうがないですよ」
室長。この会社をブラックに片足を突っ込むきっかけを作った張本人。処理しきれない案件をドヤ顔で進め、間に合わない納期を提示した挙句、間に合わないと俺たちのせいにする。毎週の定例会では仕事が滞っていることへの当てつけとばかり、名指しで社員を批判する公開処刑を行っていた。
「会社員ですから……我慢は必要ですよ」
「無理するなよ、吾妻。……お前は、部署の柱なんだからよ、倒れるまでは頑張るな」
「はは、ありがとうございます」
柿田部長の目の下にも隈ができている。きっと調整で寝ずに仕事をしているのであろう。子供のために辞めたはずのタバコを吸っているし。俺は、会社とスライムに恨みを持ちつつ定例会議に向かった。
「で、何でできないわけ?」
黒メガネをかけた七三分けの室長が、ネチネチと新人社員を責めている。資料の出来がイマイチだったからか、ご機嫌は斜めのようだ。
俺は無駄な会議に虚空を眺めつつ、なぜ自分がスライムに勝てないのかを考えていた。もしかして、侠客の縛りだろうか?でも、お蝶や銀次は、モンスターを狩っていたと聞く。つまり、縛りはないはずだ。なら単純にレベルが足りない?……しかし、Dスラ先輩やスミレと戦った時は、問題なく動けたはずだ。
「……ま。……づま」
なぜだ?何かそう言う呪いかバグ状態になっているのだろうか?動きが遅ければ、足の動きや手の動きをどうしたってスライム野郎には勝てない。先に動いても、意味がないし。本当、あのクソ野郎。クソスライムめ。……
待てよ。俺が今まで戦ってきて、ロクに戦えなかったのは「魔物」だけだ。人間との戦いは普通に動けてる……酒呑童子は「妖怪」だけど。……俺はもしかしたら、「魔物とは戦うことができない体」なのか!?
確かに酒呑童子に殴られて気絶する前に、朧げながら運営アナウンスで、何かを獲得しましたってのを聞いた気がする……!!!!まさか、そのアナウンスで獲得したのが呪いで、この現象を引き起こしているとするなら……
おい、俺、冒険者向いてなさすぎじゃねぇか!?嘘だろ!?旅と冒険するためにゲーム買ったのに!?
「オイ、吾妻聞いてるのか?」
「ぁア?」
「…………ヒェ」
あ、やべえ。怒りで思わず室長を睨みつけてしまった。しまった、やっちゃった。室長がすごい目でこちらを見てくるのが、すごく居た堪れなかった。
「ギャハハハwwwwwww笑うのめっちゃ我慢したwwwwww」
「そんなに笑うなや、落ち込んでんだぜ」
「でも室長、「ヒェ」って言ってたぜwwビビってwwwwwマジウケるww」
俺は同期の高橋と昼飯を取っていた。高橋はずっとゲラゲラと笑っている。定例会議にはこいつも居たけど、よほど楽しかったのか。俺は上司にメンチを切ってしまって落ち込んでいるんだが。
「まぁ、いじめられてた新人もスカっとしたって言ってたしいいんじゃないかな?」
「適当言うな」
俺はテンションが下がりながらサンドイッチをモサモサと口に運ぶ。高橋は同期では出世コースに入っており、俺とは違って幹部候補としてバリバリと仕事をこなしていた。
「まぁ、どうにもならなくなったらウチの部署で引き取ってやるよ吾妻」
「やだよ、お前らんとこは美男美女しか入れねえだろ、お前もな。」
「そんなこと……あるな!」
高橋はバリバリのイケメンで、彼のいる営業部も美男美女しか入れないと言われるほどの花形部署であった。どうにも惨めな気分になりそうだった。
俺は帰宅するとヘッドギアをつける。色々と「衝撃」があった日だったが、まずは確かめねば。
いざ、参る!
俺はそれから。
1週間「スライム」と「ゴブリン」にボコられ続けた。
御厄介になりますが、何かございましたらご連絡ください。
一日一話を目安に、更新は昼の12時頃でございます。
どうぞよろしくお願いいたします。




