第十二話
両国の冒険者組合本部内。
ここでは、いくつかある練習闘技場の様子が大広間にある、それぞれのディスプレイにリアルタイムで映されるようになっている。基本的にそのディスプレイはあまり人が見ないものであったが、珍しいことに3番のディスプレイを数人が眺めていた。
「なんだこれ模擬戦闘か?」
「ん?この魔術師、確かB級冒険者の「狂炎」じゃねえか?」
「狂炎ってあの!?詠唱破棄で周囲にありえないほどの散弾ばら撒くソロ冒険者だろ!?今朝も「ヴォラニールの鉄」のメンバー2人が共闘作戦中に撃ち抜かれたって」
「その件の「テロ冒険者」だろうな。あんな大きな魔女みたいな帽子被ってる炎を使う魔術師、そんなにいないだろ」
「でも相手丸腰だぞ?これはなんだ、決闘か?」
パンゲアでは「決闘」という制度があり、挑まれた者はそれを受けるか受けないかを選択できる。決闘が成立すると、転移陣により、俗に「決闘部屋」と言われる場所に転移し、決着がつくと元いた場所に戻る仕組みだ。
しかし街中で急に喧嘩を売ることで始まる戦闘もある。
野良決闘と言われるが、仕掛けた側が勝つと、大体プレイヤーキルとなり、「犯罪行為」の認定を自動的に受ける。そういった類の犯罪行為は殺人や強盗のような扱いを受け、行ったプレイヤーは「レッドネーム」、お尋ね者になる。それらの犯罪行為が累積すると、江戸エリアの監獄兼収容所である「石川島」送りになったり、小塚原処刑場や鈴ヶ森処刑場での打首獄門となる。
ヤマトの国に限った話だけでなく、他の国でも同様の措置が取られているので、「レッドネーム」は少ない。
「ここは練習闘技場だぞ、でも、さすがに野良決闘はしないんじゃないか?」
「ってことは練習なのかな……?」
数人がそうやって話している時、組合本部にドタドタと駆け込んでくる1人の冒険者がいた。新場一家の万年Dランク冒険者、マル森である。ちなみに得意技は「ディバインスラッシュ」。
マル森は、大広間をキョロキョロと見回して舌打ちをする。目当ての者はいないようだ。空いている受付に駆け込むと「なぁ!雷門って人来なかったか!?」と座っていたNPCに聞いた。NPCは俯いていた顔をゆっくりあげる。ギャン泣きしていた。
「なんで泣いてるんだ……」
「またお給料が減らされたんです……私の失敗のせいで……サリバン組長にいじめられてます……」
「あ、アリサだった……」
マル森は聞く人を間違えたと後悔する。NPC受付のアリサのポンコツ加減は冒険者プレイヤーの間でも有名であった。しかし他の受付を見ても行列になっており、マル森は仕方なくアリサに尋ねる。
「えーと、鈍色の小袖に、腰元に瓢箪をぶら下げてたやつ!見てないか!」
シクシクと泣いていたアリサは、えーと、と泣きながら思い出す。自分が、B級冒険者スミレに丸投げしたあの男。確か瓢箪をぶら下げていた。
「その人なら、たぶん、B級冒険者のスミレさんに適性検査をお願いしましたが……」
「適性検査の委託したのか、場所は!?」
「えーと……わからない、です……」
嘘だろ、とマル森が言うとと少し離れた練習闘技場のディスプレイ前の人だかりから、悲鳴が上がる。マル森とアリサはそっちを思わず見る。ディスプレイには、魔法陣から飛び出した五つの矢を避け損ね、衣服に火がついている雷門の姿があった。
「おいおいおいおい適性検査で実戦なんて聞いたことねえぞ!!!!」とマル森が叫ぶ。アリサも「なんで!?スミレさん何してるんですか!?」と慌ててディスプレイに駆け寄って行った。ディスプレイからは闘技場の音声が流れている。練習闘技場は、練習中は危険のため誰も立ち入ることができず、アリサは呆然と立ち尽くしていた。
「”詠唱破棄”ー」
「「「……まさか、」」」
「ー”炎弾”」
B級冒険者スミレ。職業、魔術師。大量の魔法陣を展開する固有術式「多重起動」を操り、フレンドリーファイヤもあまり気にせず、周りを焦土にするほど炎系の魔術を好んで使うことからついたあだ名は「狂炎」。
冒険者組合でも屈指の「問題児」である彼女が必殺技としている魔術、「炎弾」がディスプレイの中で弾けた。
闘技場を激しい炎の閃光が何条も煌めいたあと、焦げついた男が1人、横たわっていた。プスプスと煙が上がっている。雷門は侠客。痛覚が有効になっているはずだ。あんな火の嵐を浴びたらどんな痛さになるのか。雷門の事情を知っているマル森は絶句していた。
見ていた他の冒険者たちも
「……酷いな」「ちょっと可哀想」と口々に言っている。丸腰の相手を蜂の巣にするように、無数の炎の弾を当てたのだから。しかし
「あの人のエフェクトが散らないな……まだHP残ってるのか?」
「確かに、炎弾正面から食らってまだHP残ってるなんて、すごいタフだな。」
群衆がディスプレイを食い入るように見つめる。すると、掠れ掠れに闘技場の音声が流れた。焦げついて横たわった雷門だった。
「”……ガハッ……オイ……魔術師”」
「”まだ生きてるの、しぶといのね”」
「”適性検査は……何をしたら……合格なんだ”」
スミレはしばらく無言だったが、心の底から煙を上げながら横たわっている男を侮蔑し、嘲るように言った。
「……”私から「一本」取れたら”」
それを聞いた観衆はどよめいた。「適性検査だったのかよ!」「こんな実戦があるなんて聞いたことねえぞ」「じゃああの人初心者ってこと!?」「B級冒険者が初心者を痛ぶってる」「冒険者委託の適正検査かよ、組合の責任者誰だよ」「てかB級冒険者から一本取れるわけなくね?」「いじめじゃん」「アワ……どうしよ……減給……責任……アワ」
ディスプレイの前は騒々しさを増す。しかし、また画面から音声が流れてくると静かになった。
「……”上等だクソ厨二病……ダセェ詠唱も大概にしとけよ”」
「……”コロス”」
低く唸るように返したスミレは、雷門からさらに距離を取り、壁際へと背中をつける。
「ー”射角調整、着弾点集積……詠唱破棄、多重起動……炎弾!!”」
さっきよりも魔法陣が多くなり、雷門を取り囲むように綺麗に整列された魔法陣が展開される。魔法陣の射角は、先ほどとは違い、しっかりと全てが雷門に向けられていた。雷門はフラフラと立ち上がる。そして次の瞬間、闘技場に爆音が響いた。
火傷の痛みがジンジンと響く。さっきの攻撃はやばかった。1本取れれば冒険者の資格がもらえるらしいが。
みんな、こんな感じの試験をクリアして、冒険者になっているんだな。……ちょっと待てよ、ハードル高すぎるだろ。
しかし、さっきのあれをもう一回食らったらさすがにまずい。大体、丸腰の相手にあんな過剰攻撃加えるとか。俺はこの試験に無性に腹が立ってきた。
作戦と呼べるかわからないが、作戦を立てる。
このスミレって魔術師、プライド高そうだし、まず、あの厄介な炎弾を俺に「集中」させる。
スピードが速いのでそれを避け切ることはできないと思うが、さっきの火の矢を避ける時に俺は気づいた。俺の腰にぶら下げていた「瓢箪」に火の矢が当たって、矢が弾かれていったことに。瓢箪は焦げてすらいなかった。……もしかしたらたまたまかもしれない。でも俺はここに賭ける、
俺は瓢箪を両手で持つと、スミレが魔術を発動させた。集約されすぎてもう火の玉みたいになってる。俺はその火の玉ストレートに向けて瓢箪を振り抜いた。
「どぉりゃ!!!!!」
「なっ!?!!?」
裂帛の気合いを込めたフルスイング。頼むぜ瓢箪!!
俺の願いが届いたのか、手元にダメージが入りつつも、火の玉は弾け飛んだ。えぇ、瓢箪つっよ。俺は振り抜いた勢いを殺さず、左足を軸に一回転して、そのまま瓢箪を、間髪入れずにスミレの杖に向かって投げつける。
スミレはご自慢の魔術が派手に散らされて呆気に取られていたのか、瓢箪はそのまま杖に当たり、バキッと杖が真ん中からへし折れた。
「は!?!?」
スミレは折れた杖を呆然と眺めている。俺はその隙を見逃さずに、壁際に突っ立っているスミレに向かって走り出す。そしてその勢いのまま、右手を振りかぶる。
「ヒッ!!」
俺は右手をスミレに向かって振り抜く。ドォンと音がして、壁に亀裂が走った。俺の拳はスミレの顔の真横を的確に撃ち抜いている。
「……ハァ……ハァ……一本取っただろ」
俺がそう声をかけると、スミレはヘナヘナとその場に座り込んだ。
練習闘技場から出ると、体の傷はまるで何もなかったように治り、ダメージも消えた。なるほど、なかなか面白い設備だ。と、冷静ぶっているが、本当に心臓に悪い試験だった。
俺の後ろに、トボトボとスミレが歩いてきた。
帽子を深く被り、無言で俺に何かを差し出す。
「……ありがとう」
「別に……」
スミレは、モゴモゴと何かを言っている。聞き返すと、「私の杖、花って名前つけてたのに……これが折られるなんて、私は鼻を折られた天狗だったのかな」とかしょうもないことを言っていた。杖を折っといてなんだが、しょうもな。
「…まぁ、私が本気出せばアンタなんて一発だからね」
「全然折られてねぇじゃねえか」
「私の鼻っ柱は強いんだ」
と言いつつ、スミレは改めて「ようこそ、冒険者組合へ」と手を差し出してきた。まぁイカれた試験だったが、ちょっと楽しかったのは事実だ。八つ当たり感はあったけどな。俺はスミレと握手をする。
「じゃ、私は修行してくるわ……次こそワンパンで勝てるようにね」
魔術師は颯爽と歩き去っていった。その後ろ姿を眺めながら、俺はようやく受け取った青く輝く冒険者カードを首から下げた。これで俺も冒険者だ!とドヤ顔をしていると、後ろから誰かに肩を抱かれる。
「雷門、確保」
「え?……あれ、新場一家のとこの、ディバインスラッシュ仏壇返しさん」
「……その名はやめろ」
幡随院屋敷で仏壇を壊していた、新場一家のディバインスラッシュしてくる冒険者、略してDスラ先輩は、俺の肩を抱えたまま、ステータスウィンドウを開き、ポチポチと操作をしている。
「新場グループと幡随院グループに、組合本部で雷門確保しましたっと。よし、メッセージ送信。」
「えっ、そんな機能ついてるの?」
「フレンドチャット機能だよ、フレンド登録したヤツには、ステータスウィンドウから開けばメッセ送れる機能で、通話も可能だからアンタも……あ、悪い」
「おい嫌味かこの野郎」
こちとらステータス開けねえからフレンド登録もクソもない。ちょっとバツが悪そうにしていたが、Dスラ先輩は「ちげぇ、そんな話する為じゃなくて」と仕切り直した。遠くの方でカッコよく去ろうとしたスミレがアリサに捕まってる。
「とりあえずここから出るぞ」
とDスラ先輩は慌てて組合本部から俺のことを連れ出した。えぇ。クエストとか受けたいんだけど。薬草取りとかスライムリベンジとかしたいんだけどー!
御厄介になりますが、何かございましたらご連絡ください。
一日一話を目安に、更新は昼の12時頃でございます。
どうぞよろしくお願いいたします。




