第十一話
俺はパンゲアからログアウトして一瞬休憩を挟んだ。
向こうでは二、三日が経っていたが、こっちではまだ半日程度しか経っていない。便利な機能だ。寝てるだけなのにこんなに遊べるなんて。
いや、「遊んでない」な、俺。
RPGもクソも無いだろなんだこれは。冷や汗しかかいてねえよ。
スライムには負けるのに、喧嘩はできるし。
ツッコミどころは死ぬほどあるけど。
でも、もう俺は冒険を始めるんだ!「侠客」とか知ったこっちゃ無い。英五郎にも自由にやれって言われてるからな。自由にやらせてもらう。
俺は数少ない休日をフルに活用しようと、再びパンゲアにログインした。
基本的にはログイン、ログアウトは自由らしいが、戦闘中や特定のエリア、シナリオはログアウトできないらしい。俺は、裏路地でひっそり目を開ける。表に出ると活気に溢れる街並みと、荘厳なまでの欧風建築。
「これか」
俺は江戸エリアの冒険者組合員本部を訪れていた。両国にあるこの大きな建築物は、各エリアごとに存在するらしい。冒険者組合は、ヤマト国以外にも存在する、共通組織でもあると聞いた。さっき聞いた。そこら辺で酒飲んでた酔っぱらいに。
だってステータスとかマップとか無いから、ログアウトしてネットで見るより、ログインして聞いたほうが早いじゃん。
俺は自分の境遇にだいぶ悲しくなりながら、本部へと足を踏み入れた。職業変えてぇ〜。
冒険者組合員の本部は活気に溢れていた。大理石で敷き詰められた大広間。中心には大きな受付カウンターがある。脇には机や椅子が並び、酒も出ているようでジョッキ片手に冒険者たちが盛り上がっている。向こうの壁には、クエストだろうか。多種多様のポスターが貼られ、それを前にたむろっている人々もいた。
真ん中を通るほど、堂々ともしていないので、端っこの方から受付に向かう。
「レベ上げには何が最適だって?」
「経験値の取得率にもよるだろ、あ、スキル何持ってる?……えぇ……雑魚じゃん……」
「MPを底上げしないと!新魔術を試せないじゃないですか!解放された新エリア行きたく無いんですか!」
「パーティー2人、仕事で来れないってよ。ここで募集するか?」
「おい速度重視して防御紙みたいな装甲で何倒しに行くんだよ、え?トロール?バカじゃねえのお前の脳みそがトロールだろ」
俺は感動しながら足を進める。
冒険ってこれだよなぁ!この、RPGの冒険者たちって感じのこれだよぉ!酒片手に博打打つのは違うんだよ!!!ね!!!
俺は嬉しさに震えながら受付に向かう。人混みを避けていたら、受付の真ん中についてしまった。先客がいるようで、俺はその後ろに並ぶ。
俺の前にいた冒険者プレイヤーたちはサムライの姿をしていた。パーティーだろうか。眩しいな、俺もそれがしたかったんだけど。「じゃっどん、加減は難しか」と、方言だろうか、サムライの1人が受付NPCと話をしているようだ。
「いえ、あの」
「おーくば根切りすりゃ、よかど?」
「よか!」「よかよか」
「まぁオークの群れを絶滅させていただけるなら、とてもありがたいんですけど」
「刀ばいらん、素手でよか」
「肝練りよりも楽しか!」
「素手でオークの群れと戦闘しないでください!」
うーん。うんうん。そっか。薩摩隼人パーティーだね!
俺は静かに列を抜けると端の方の受付に向かった。
受付の端っこでは、1人のNPCの女の子が「どうしよ!」「やば!」とか言いつつ、恐ろしく忙しそうにしているだけだった。そこだけ列がないし。でも、他の受付は脳筋列以外、すごい並んでるし……と話しかけようか迷っていると、向こうが気づいた。
「ぬぉぉわやばぁ……あ!何か御用ですか!!こちらへどうぞ!!」
アリサと名前の書かれた名札をつけたNPCは、俺に向かって手招きをしている。おずおずと前に出ると「冒険者登録をしにきたんだが」と、言ってみた。
「おおおお!!!助かります助かります!!もう本当に人手が足りなくて!!!新規登録の方ですね!!まずこの用紙に氏名とか書いていだいて、そのあと適性検査がありますのg」
「アリサ!!!またなんかやらかしたのかい、組長が呼んでるよ!!!!急がないとまた減俸になっちゃうよ!!!!!!!」
「ゲェ!!!!」
アリサは手に持ちかけた「登録用紙」と書かれた紙とペンを俺に押し付けると、近くを通りかかった冒険者プレイヤーに、受付から飛び出して何かを渡す。
「スミレさん!!!ちょうどいいところに!!!この方、新規登録らしいんで、適正検査をしてあげてください!!!合格でしたら冒険者カード渡して構いませんので!!それで!!えーと?」
「雷門だよ」
「ライモンさん!このスミレさんって方はB級冒険者の方ですから安心して検査を受けてください!!」
では!!!とアリサはダッシュで二階へと向かっていった。取り残された俺は、スミレと呼ばれたプレイヤーの顔を見る。恐ろしくご機嫌ナナメな顔をしていた。
「……ハァ」
何度目かわからない、ため息が漏れる。どうしてこんなにポンコツしかいないのか。
私はB級冒険者として、このパンゲアを真剣に取り組んできた。自分の職業の研究や、使えるスキル、アイテム、魔術の研究だってした。装備だって、生産職を渡り歩き、自分が一番戦いやすい装備を整えた。ステータスの底上げの為に、自主練習も繰り返し、レベルを上げる為に様々なエリアも踏破し、ダンジョンもクリアしてきた。強いパーティとともに、レイドボス戦だって経験したんだ。
私はそうやって、下はF級から上はS級まである冒険者協会の会のランク付けの上から三番目にランク付けされた。
日々の努力は裏切らない。私はたくさんの攻略情報サイトを調べて、1番面白そうだった「魔術師」として、研鑽を積んできた。
フレンドもたくさんできた事もあった。特にボス戦の後は、共闘をしていたパーティのフレンドだったり、自分が組んだパーティのフレンドだったり。でも誰も彼も、私にはついてこれなかった。
「スミレ、もうちょっと人のこと考えてよ!」
一体、何度言われたことだろうか。私の頭の中にグルグルと同じ言葉が回る。フレンドもめっきりいなくなり、メッセージも来なくなった。
協調性がないと言われるが、これでも私は気を遣っているのだ。戦闘の立ち回りだって、他の人のことを考えて動いている。
それでも文句を言われるのは、みんなが努力をしていないだけだろ。なんで私が怒られなきゃいけない。
「はぁ……」
今日も同じことを言われた。クエストが被ったパーティと共にミスリルゴーレムの討伐に向かった時。私の得意の術式である「炎弾」で、周囲の雑魚敵を排除しようと術式を展開した。だが、それに気づかずに射線に入ってきた剣士と盾職は、数多の炎弾に撃ち抜かれた。
フレンドーファイヤ。事故ではあったと思う。
故意に狙ったわけじゃないんだけど。クエストは当然失敗し、パーティの面々から「なんで周りを見ないんだ!」と怒鳴られた。
「いや見てるし、声かけもしてるじゃん。」
私はそう反論したんだけど、
「声かけから2秒ぐらいで大規模術式が展開されるって予想できるかよ!!!!!!!無茶言うな!!」
「高速詠唱にも程があるだろ!!」
「周りのレベル差を考えろよ!」
と、怒られてしまった。レベル差だってそんなに変わらないと思うし、ランクだって同級のパーティだった。それで避けれないっていうのは、もうアンタたちの努力不足じゃんか。
みんなポンコツばかりだ。そんな事もあり、私がだいぶイライラしながら冒険者本部のクエスト受注を眺めに行こうとしたとき、受付のこれまた「ポンコツ」で有名なNPCのアリサから厄介事を押し付けられてしまった。C級以上の冒険者は、冒険者組合本部から初心者研修を任される事もあるが。
「はぁ……」
もう何もかも面倒くさくなった私は、このとぼけた男を練習闘技場へと連れてきた。本当は、冒険者の適正試験というのは、体の動かした方や職業固有のスキルを確認し、冒険者の注意事項を講義する。
そんなごく簡単なもので、特に実戦はしなくてもいい。
だけど今日の私は「非常にイラついている」。
このプレイヤーには申し訳ないけど、このデスペナのない練習闘技場で私のストレス発散に付き合ってもらおうと思う。
すげぇ殺気。スミレって言われたこのプレイヤーに連れてこられた冒険者組合本部の中にある室内闘技場?のような場所で、俺は見えないはずの殺気をビンビン感じていた。
なんで?適正検査って殺し合いでもするの?
だいぶ戸惑っていると、対峙したスミレから「職業は?」と聞かれた。少し迷ったが、同じ過ちは繰り返さないのだ。
「……虚無僧です」
「ハァ?……聞いた事ないけど、非戦闘職じゃないの?」
普通にダメでした。虚無僧とか言っとけばバレないだろと思ったけど、怪しまれてる。なぜだ、尺八とか持ってないとダメだったか。しかし、慌ててる俺をよそにスミレは、被っていた魔女のような帽子を被り直し、手に持っていた杖を俺に向ける。
「……なんでもいいや。じゃあ始める……紅き烈風と軌跡は連夜、彼の神殿に憩え。業火の槍は、争わざる神々の眠りを覚ます。断ずべきは向こうへ。祈りはこちらへ。ー術式展開、火槍」
スミレがそういうと、彼女の左側に小ぶりな魔法陣が浮かび上がる。そして、炎の槍がスッと出てくると、そのまま俺に向かって飛んできた!
「どぇぇ!!?!!?!」
俺は慌てて転がり避ける。なんだこの人!?今のは魔術だよな、魔法陣みたいなの出てたし、でも完全に俺を撃ち抜くつもりだったよな!?スミレは、避けた俺を眺めると舌打ちをする。
「照準がズレたか……心の乱れ、クソ」
スミレは杖をかざし、
「不可逆の流転によりて、螺旋を重ねよ。踊れ炎天、苦難は煉獄への道標とならん。灯は我が手に。断罪は一矢となりて彼の者を穿つことを願う。ー高等術式展開、多重起動、火矢」と唱える。
さっきは一つだった魔法陣が、5個ほどに増えて、炎の矢が現れる。そしてさっきよりも勢いよく射出された。俺は横っ飛びでかわそうとするが、間に合わない。一本の矢が俺の胴体を掠める。
「〜ッ!!?」
ピリピリと焦げ付くような熱さと軽い痛みが走る。本当にクソ仕様だな痛覚無効!!ふと見ると、幡随院一家に貰った服に火がついていた。俺は服についた火を消すために慌ててゴロゴロと転がる。
「見苦しぃ……」
「誰のせいや思っとんねんワレ」
いかん。スミレのあんまりな言い草に、思わずエセ関西弁が出てしまった。こーいうん関西人に怒られるで、ホンマ。
「……アンタも大して努力もしていないのに人のせいにするの?本当……ポンコツばっかり。本当ムカつく。」
スミレは、また杖をかざす。なんだよ、嫌なことあって八つ当たりか?迷惑すぎるが、俺はどちらにでも避けられるように腰を低く落とし身構えた。かったるい詠唱の時間で踏み込んでいくのもアリだな。俺がそう考えた時、
「ー詠唱破棄、『炎弾』」
「…………オイオイ……嘘だろ……」
さっきまでとは比べものにならないぐらいの数の魔法陣が、スミレの周りに展開される。俺は、自分の体から冷や汗が噴き出たことを理解した。
雷門が屋敷から出て行ったあと、幡随院屋敷では、お蝶、銀次、新場大安が車座になっていた。大騒動の後始末もまだまだこれからだし、壊れた屋敷を直さなければならない。諸々の相談会である。
幡随院一家も、新場一家も元はお互いに行き来しあうほどの仲であったため、一家同士はすぐに打ち解けていた。新参者はまごついていたが、それもまた時間の問題だろう。
「にしても、まさか手打ちをするとは、でしたね」
「そうだなぁ、銀次が死にそうな顔してたのも笑ったな」
「そりゃお嬢あんまりでサァ……」
「しかし、石川島行きか打首かってところを助けていただいた御礼はしたいですなぁ」
いつしか話は、雷門へと移っていた。「あいつの動きは初心者のそれじゃない」だとか、「肝の据わり方がおかしい」とか一見悪口であったが、皆、雷門というプレイヤーに親しみを持っていた。
ひときわ雷門について熱く語っているお蝶。銀次は、「もしかしてお嬢、惚れたんですかい」とからかうと「ちげぇし!!!まだそんなんじゃないし!」と顔を真っ赤にして否定していた。
「……くっくっく……「まだ」ねぇ……」
「なんだよにいちゃん!銀次も笑うな!えーと、そう!いつかうちの一家に入ってもらうんだってことよ!」
妹を見守るかのように、暖かい眼差しを2人で送っていたが、新場が「あの人は今どこで何してるんでしょうね〜」とつぶやく。
「……私らはフレンド登録もできないし、メッセージも送りあえないからな。居場所がわからんし連絡も取れないよなぁ」
「でも、雷さん、このパンゲアに来たからにゃ、それらしい冒険がしてぇって言ってやせんでした?」
「なんかそんなこと言ってたな……私ら「侠客」は、冒険者登録の資格も貰えない職業だから冒険者にはなれないし冒険もできねえのにな……しかも組合に行ったら通報即刻打首ってのによ……ナァ」
お蝶がフルフルと2人を見つめる。銀次も、新場もそれに気づいて同じようにフルフルとし始めた。
「あいつ、初心者だったよな」
「誰かその話説明しました?」
「してねえ……」
「「「まさか……冒険者組合に行ってねえよなァ……?」」」
静寂。庭のししおどしがカコーンと響く。お蝶が叫んだ。
「オイわけぇ奴ら呼んでこい!冒険者の奴ら!組合本部に走らせろ!!!今すぐだ!!!」
「ウチの一家の冒険者たち!!!総出で支部を回ってください!!!今すぐ!!!!」
「「雷門を止めろ!!!!」」
御厄介になりますが、何かございましたらご連絡ください。
一日一話を目安に、更新は昼の12時頃でございます。
どうぞよろしくお願いいたします。




