第4話 悪しき学者 <8th レグリアへ>
ソニアはレグリアに嫁ぎに行く事をハヤト達に明かした。
「つまり、今回の調査はついでで
本当の目的はレグリアへ嫁ぎに行く事だったんだな?」
「まぁそうなる」
ソニアの話を聞いてセーラは我慢できなくなった。
「政略結婚って、ソニアはそれに不満はないの?」
「勿論ある。しかし、誰も名乗り上げない以上童が引き受けるしかないのじゃ」
「そんな……」
クラウスはハヤトに身体を向け真剣な顔をする。
「ハヤト君。我々はこれからどうしよう?」
「どうするって?」
「このままソニア君を1人でレグリアへ向かわせていいのかね?」
「そうだなぁ……」
ハヤト達は交渉を中断してモトルの調査に来た。
調査が終わった今、ただちにブクレに戻り交渉を続ける必要がある。
「隣の街に着いたら馬を借りるから心配ない。
もうお主等と一緒にいる理由はないはずだ」
ソニアはコップにココアを注ぎココアを飲む。
ハヤトは悩んでいた。このまま王都に戻るか、それともソニアと行動するか。
「交渉があるから王都に戻らないといけないんだがなぁ……
だが、花嫁を1人で行かせるのは危ない気がする」
それを聞いてクラウスとセーラが早とちりをする。
「さすがハヤト君! 私もそう思っていた所だよ」
「へっ? じゃあ、ソニアと一緒にレグリアに行くの?」
勝手に話が進んだ事に驚きソニアは口に入っているココアを吹き出した。
「ちょっと待て! お主等には国交を結ぶという重大な任がある。
童の私情でそれを潰す訳にはいかんのじゃ!」
ハヤトは無表情でソニアに返答する。
「何とかなるだろう。王都に手紙を出せば交渉を待ってもらえるだろうし。
あの王様ならソニアの護衛を務める事を許してくれるさ」
クラウスは笑顔で頷いている。
「だね。陛下なら、かならず我々の意を組んでくださる」
「しかしだな……」
ソニアが困っているとセーラがソニアの手を取った。
「大丈夫だよソニア。政略結婚なんて、私等がかならずブチ壊してあげるからね」
何故かセーラの目は輝いていた。ハヤトは呆れた顔でセーラを見る。
「何で結婚を壊す方へ話が進んでんだ」
ソニアは大きく溜め息を吐いた。彼女は折れハヤト達が同行する事を受け入れる。
「どーせ童が断っても付いてくるのであろう?
分かった。お主等の好きにするがいい」
セーラは「やったー」と叫びソニアを抱きしめた。
ソニアはムッとした表情で顔を赤くしている。
「なぁクラウス。レグリアには何人ゼストがいるんだ?」
「3人だね」
「3人か……」
クラウスはハヤトが認定者の心配をしている事を察した。
「大丈夫だよハヤト君。
レグリアはヨーロッパの中心にあり多くの人が訪れる土地だ。
認定者の数は10人いると考えていい」
「10人も? ホントか?」
10人と聞いてハヤトは胡散臭いと思った。
「私を信用したまえ。それよりも、今やらねばならない事があるだろう?」
――そうだ。俺は欧州に来てまだ、何もしていない。
ゼストになるには様々な事象を解決し
多くの人の支持や推薦状を獲得しなければならない。
今のハヤトは1つの推薦状も無く人々にも知られていない無名の存在だ。
「レグリアに着いて俺に出来る事があるのか?」
ハヤトは自分に問い掛けるように言葉を呟く。
「ハッハッ、それについては心当たりがある。心配しなくてもいいよ」
「ホントか!? 助かるよクラウス。アンタにはいつも助けられてばかりだな」
ハヤトは屋敷での事も踏まえクラウスに感謝の意を伝えた。
「やがて君の助けを借りる時が来るさ。その時は哀れな私を助けてやってくれ」
「勿論だ。情けは人の為ならずってのがヤマト人の心得なんだ。
この恩は絶対に返す」
「あの……」
「何だ? セーラ」
「2人で盛り上がっている所悪いんだけど、確認の為聞くよ?」
セーラはハヤトとクラウスの返事を聞かずに話を続ける。
「レグリアに行ったら、まずソニアの結婚をどうにかするんだよね」
「そうだ」
――どうにかって、お前まだ結婚を潰す気でいるのかよ。
ハヤトはツッコむのを心の中で止めた。
「それで次に、ハヤトが推薦状を貰う為に何かするんだよね?」
セーラはハヤトの目的を知っている。
そのため、クラウスが言ったやらねばならない事が
推薦状を貰う為の活動だと理解していた。
「まぁそうだと思う。いや、絶対そうする」
「その次はどうするの? ドラクロに一旦戻るの?」
「それは……」
セーラはハヤトの言葉を遮った。
「私はレグリアで何かをする事に反対だなぁ。
交渉を長く中断して王様を待たせるのはやっぱ良くないよ」
ハヤトとクラウスは目先の事ばかりに気を取られて肝心な事を忘れていた。
せっかくエーゲで大王やスラングスが与えてくれたチャンスを
2人は勢いで潰してしまう所だった。すると、意外な人物がそれを論破する。
「心配いらん。エーゲとドラクロの交渉は急を要するものではない。
1月経っても陛下なら文句など言わない」
ドラクロの王族の一言を聞きセーラは黙り込んでしまった。
「お主等にはここまで付き添ってもらった恩がある。童にも何か手伝わせてくれ」
「と言われても…… お前花嫁だろ」
「だから何だと言うのじゃ?
お主は祖国に帰るためにゼストを目指しているのであろう?
ならば小さい事を気にしている場合ではない」
ハヤトは目を見開いて驚いた。
彼はまだソニアに真相を話していない。驚くのは当然の反応と言える。
「何でその事を知っている?」
「ごめん…… 私が言った……」
セーラは左手を上げ上目使いでハヤトを見る。
「おま……」
怒りを抑えきれずハヤトは言葉を出しかけた。
ハヤトは自分の目的をあまり人に言いたくないと考えている。
――まぁセーラは俺の護衛として良くやってるしなぁ、許してやっか。
ハヤトは怒りを抑えセーラを許す事にした。
「セーラを責めんでくれ。聞いたのは童だ。ちと、お主の存在が気になったのでな」
溜め息を吐くとハヤトはココアを飲んだ。
「分かった…… それで、ソニアは俺に協力してくれるのか?」
「無論だ。お主程の手練れが、まだゼストではないのはオカシイと童は思っている」
ハヤトは顔を少し前に出して鼻で笑った。
「お世辞はやめてくれ。俺じゃあクラウスと対等になる事は出来ない」
ハヤトは顔をクラウスに向け目で合図した。
「どうかな? 私はまだハヤト君をよく知らない。
屋敷で使ったような技を他にも持っているのならば、私とて余裕ではいられないよ」
――それでも『負ける』という言葉は出さないんだな。
ハヤトは軽く頭を縦に振りニヤリとした顔をクラウスに見せた。
「ともかく安心せぇ。事情を話せば童の婿も協力してくれるはずじゃ。
アヤツは困っている人を見捨てれん男だからのう」
ソニアは腕を組むと目を閉じて頷いている。ハヤトはセーラに身体を向けた。
「頼りないオーナーですまないな、セーラ。もう少し付き合ってくれるか?」
突然の言葉を受けてセーラはドキっとした。
「えっ? 私は全然平気ですよ。どうしちゃったの? ハヤト」
「いや、何でもないよ」
ハヤトは安らかな顔でセーラを見ている。
彼がこんな顔をするのは欧州に来て初めだ。
ハヤトの表情を見てクラウスやソニアも少し驚いている。
セーラは見つめられる事が恥ずかしくなり顔の前で両手を振り始めた。
顔は赤くなり目を力一杯閉じている。
「そんな顔しないでよ! 私シャイなんだから……」
ハヤトは立ち上がると焚火の傍に寄った。
「じゃあ次の目的地はレグリアで決まりだな。皆、ソニアの結婚祝いに一杯やるぞ」
ハヤトは皆のコップにココアを入れ全員を立たせる。
セーラは急に不機嫌な顔になった。
「むぅぅ、何で結婚祝いなんてやらないといけないの? しかもココアだし……」
「フッ、面白い。乾杯するとしよう」
ソニアに肩を突かれセーラは乾杯に参加する事にした。
ハヤト達はコップを前に出す。
「それじゃ、ソニアの結婚と俺等の旅路を祝して、乾杯!」
「かんぱーい!」
暗い夜空の下。道端の草むらで4人の男女はココアで乾杯を取った。
4人は辺りの静けさをかき消し焚火より明るく陽気だった。
次の目的地がレグリアに決まりましたね。
でもドラクロ編はまだ続きます。




