第4話 悪しき学者 <7th 王族の花嫁>
時はハヤト達の会談の後。
謁見の間には国王フェリクスとソニアがいる。
「それでソニアよ。今回は何用で参ったのだ?」
「はい。実は『レグリアとの関係強化の為、政略結婚を行う』
という話を父から聞きました」
「あー、ゲオが言っていたヤツだなぁ。
レグリアとの関係を良くするために向こうに花嫁を送るという話だろう?」
「はい」
レグリアとはドラクロの西方に位置する王国。
中央ヨーロッパの大国でゼストが3人いる。
レグリアとドラクロは友好国で同盟関係にある。
フェリクスは正面に顔を向け不機嫌な表情を取る。
「正直私はその話が好かん。
貴族に身売りする農民の娘みたいで、とても良い印象は受けない」
フェリクスは政略結婚を否定した。しかし、ソニアはめげずに話を続ける。
「送る女性は貴族の出と限られております。
父がトラン領で募集を掛けた所、誰も名乗り上げませんでした」
フェリクスは鼻で笑う。
――それもそうだろう。農民や市民と違い貴族は誇りを大事にする。
隣国に嫁ぐ者など誰もおらんわ。
「まぁそーいう事なので、童が引き受ける事にしました」
「なんだと?」
衝撃の言葉を聞いてフェリクスの身体が凍りつく。
「今日こちらに参ったのは陛下にお別れの挨拶をするためです」
「ちょと待て! どういう事だ!」
フェリクスは焦った。
何故ならソニアはこの国にとって無くてはならない存在だからである。
ソニアは優秀な学者で歴史や軍事学を専攻とする博士である。
ドラクロ史上最年少で大学に入学し最年少で博士号を取得した天才児なのだ。
「ルドルフの奴は何と言っている?」
「父は童の婚姻に賛同してくれました。姉上や皆の許可も得ています」
「……お前はそれで良いのか?」
「構いません。貴族の家に生まれた時点で、それくらいの覚悟はしておりました」
――それにしても早すぎる。あれからまだ2年しか経っていないのだぞ。
ゲオの奴め、余計な事をしおってからに!
フェリクスは歯を立て顔を強張らせた。
ゲオはフェリクスの臣下でドラクロ二大将軍の1人である。
名をゲオルギー・ヤーノシュと言い、フェリクスはゲオと呼んでいる。
ちなみにソニアの父ルドルフ・ガヴィストはもう1人の将軍である。
ゲオとルドルフはドラクロのゼストなのだ。
一呼吸着くとフェリクスは落ち着いて話し始めた。
「我が国とレグリアは立派な同盟関係にある。今更、政略結婚などする必要はない。
ゲオや議会には私から言っておく。よって、お前は嫁ぎに行かなくて良い」
「それはなりませぬ。ゲオルギー殿はこの事を既にレグリアに報告なされた。
それを撤回する事は出来ませぬ!」
フェリクスは言葉を失った。
――もう手遅れという訳か……
私の知らない所で勝手に話が進むのは解せないな。
国王は玉座から立ち上がると左手に剣を持った。
顔は再び強張り眉間にしわが寄っている。それを見たソニアが驚く。
「どうなされました?」
「決まっている! あのヘルニアの腰を折りに行くのだ」
ちなみにゲオルギーは現在ヘルニアで自宅療養中である。
ソニアは焦りすぐフェリクスの前に立ちはだかった。
彼女は動揺し敬語を忘れてしまう。
「落ち着くのじゃ陛下! 今更ゲオルギー殿に何かをしてももう遅い!」
「これは私のミスだ! いつもお前には皆の失敗を補ってもらっている。
今度もそうだ! だから、今度は私の手でお前を救い出してみせる」
「落ち着かれよ! 陛下のお気持ちは十分ありがたい。
ですが、これはもう決まった事。どうか納得されよ」
フェリクスはソニアの制止を受け入れ玉座に戻った。
彼は放心状態で抜け殻のようになっている。
「……お前にはいつも何もしてやれないな。不甲斐ない王ですまない」
ソニアはフェリクスの前に跪いた。
「その御心こそ、陛下が陛下であられる証拠。
それが確認できただけでも、ソニアは嬉しゅうございます」
フェリクスは額に手を当て顔を下に向けた。
「にしても早すぎる! お前は奴を失ったばかりだというのに……
これではあまりにも不憫だ!」
フェリクスは必死に涙を流すのを堪えている。
それほど彼はソニアを大事にしていた。
――ルドルフもこんな気持ちだったんだろうな。
フェリクスの感情は父親のようなモノといえる。
ソニアはフェリクスの状態を察し王の手を取った。
「大丈夫です陛下。婿は童の友。心配する必要はございませぬ」
フェリクスはソニアを抱きしめた。
ソニアのローブには国王の涙が零れている。
ゲオルギーさんも余計な事をしてくれますねぇ。
ソニアの花婿って誰なんだろ?




