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黎剣のゼスト  作者: 幻人
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第4話 悪しき学者 <5th 血術剣士>



 屋敷の屋根は幾つかの三角屋根で構成されている。

 ソニアは中心の屋根の上に立っている。

 それに対しアルマは空中に浮いたままだ。彼女の後ろには剣の翼が生えている。


 ――これではうまく戦えんな。


 雨はローブに浸透しソニアの身体を重くしている。しかも足場が悪いときたもんだ。

 ソニアはローブを脱ぎ左の屋根の出っ張りにローブを掛けた。

 ローブに付いている鞘のおかげでローブは風に飛ばされないでいる。

 ソニアは顔や全身をさらけだした。

 短髪とはいえ彼女の髪は肩にまで届いている。

 長い間、日避けをしていたせいか肌は他のドラクロ人よりも白い。

 ソニアは黒と赤の装飾がされた服を着ている。袖は肩の所までで白い腕が見える。

 胸元はV字型になっており胸元が見える。ソニアはほどほどに胸があった。

 下は黒いスカートを履いており端に赤い刺繍が入っている。

 膝から下へ黒長い靴下を足に紺色のブーツを履いている。

 ソニアの格好を見てアルマは思わず口を開く。


「随分と挑発的な格好をしているのね。

 貴方がそんな格好するなんて、正直驚いたわ」


「ローブを着ていると熱くなるからこういう服を着ているだけじゃ」


 アルマは右の人差し指を上げる。すると、どこからか鉄の塊が2つ飛んできた。

 塊はソニアの前方と後方に別れ空中に浮いている。


「それは(アイアン)処女(メイデン)。大昔に使われていた拷問道具よ」


 塊の正体はアイアンメイデン。

 ソニアの前にあるのが前半分で後ろにあるのが後半分だ。


「知っておる。歴史学なら童の方が詳しいからのう」


 ソニアの自慢を聞いてアルマは軽く笑った。


「なら話は早い。その身を持って、その歴史を体感するといいわ」


 アルマが指を招くと2つのアイアンメイデンはソニアに襲い掛った。

 アイアンメイデンの動きは早くソニアは避ける事が出来なかった。

 パクリ…… アイアンメイデンは1つに合体しソニアを中に閉じ込めた。

 アイアンメイデンの前側には数本の棘が付けられている。

 そのため、中にいる者は致命傷を免れない。

 暗い棺の中でソニアは鼻で笑っている。

 次の瞬間アイアンメイデンはバラバラに砕けた。

 ソニアは依然全身を光らせ無傷の状態だ。


「どういう事? 確かにアイアンメイデンは1つになったはず……」


 アイアンメイデンが1つになるという事は

 中にいる者が串刺しになると言う事。しかし、ソニアは棘を受けていなかった。


「これの事か?」


 ソニアはバラバラになった鉄の残骸から棘の先端を取り出す。

 棘はバラバラにされソニアが持っている物が唯一大きいと言えた。


「生憎、こんな物で死ぬ程童は柔ではない」


 ソニアは手に持っている棘を握り潰す。彼女の目は赤く光っている。

 それは全身を光らせていても分かるくらいの輝きだ。それを見てアルマは驚愕する。


「……どういう事? 何で貴方もその力を持っているの?」


 ソニアは鋭い目線をアルマに向けながら口元をニヤリとさせた。


「この力は元から持っておる。ただ、あまり人前では見せないがのう」


 2人が言っている力とは『血体強化』と呼ばれる血術の事。

 血体強化は使用者の身体機能を著しく向上させる働きがある。

 それ以外に傷の回復を早めたり痛みを和らげると言った左様も持っている。

 だが、その分体力の消耗が激しい。

 ドラクロ人でも血体強化を使える者は少ない。

 普通は国王や黒騎士と言った猛者のみが使える力なのだ。

 ソニアとアルマはこの力が使える。それは2人が相当な手練れという証でもあった。

 アルマは外に出てから血体強化を使いソニアは今使い始めた。

 2人の目が赤く光っているのは血体強化による作用である。

 アルマは動揺した。

 先程までソニアを見下す事が当たり前だと思っていたが今は違う。

 彼女はソニアに目を向けるのが恐ろしくなってきた。アルマの頬に汗が流れる。


 ――元から力を持っていたって……

   それじゃあ私は最初から躍らされていたという事なの? ふざけるな!


 アルマは右手を前に払う。それに反応し彼女の剣はソニアの上下左右に展開する。

 ソニアは剣の刃に左手の指を当てる。剣に指から流れた血が垂れていく。


「我、己が力を剣に宿し肉体の一部と成す」


 ソニアの剣は赤色に染まった。


「……血の剣約」


 ソニアの使った技はライールがアルマ戦で使ったのと同じ技だ。

 血の剣約は使用者の血を剣に流す事で剣から血術を発動する事が出来る技だ。

 ソニアは血の異能を使う血術剣士である。

 彼女は姿勢を低くするとアルマのいる屋根へと走り出す。

 アルマは右の人差し指を下げる。剣は上下左右からソニアに襲い掛った。

 爆音と共にソニアのいる屋根が崩壊する。剣はソニアに命中した。

 辺りには噴煙が舞っている。すると噴煙から1人の女性が走って出てきた。

 ソニアだ。彼女は無傷でアルマの方へと向かっている。


「しぶとい! 何という執念なの」


 アルマは剣を操りソニアへと放っていく。

 ソニアは走りながら向かい来る剣を弾き返す。

 弾かれた剣はバラバラに砕け散った。


「今度は分解? 一体どれだけ技を隠し持っているのよ!」


 アルマは焦っていた。後ろには剣が3本しかない。

 彼女は右の人差し指を動かし剣を放とうとする。

 剣は何故かアルマを襲った。

 剣はバットを振るような動作をして、みねの部分をアルマの背中に当てる。

 剣の攻撃を受けアルマは真下の屋根へ落下する。

 アルマは受け身が取れず身体の正面から屋根にぶつかった。

 屋根のレンガは少し崩れアルマはその場に這いつくばっている。


「……何が起きたの?」


 アルマは胸と背中の痛みに耐えながら何とか立ち上がった。

 彼女の上には3本の剣が浮いている。

 剣はそれぞれ別の動きをしている。

 1つは上下に回転し、1つは振り子のような動作を、1つは左右に回転していた。

 ソニアは歩きながらアルマに近付いてくる。

 アルマは右手を動かし頭上の剣を操ろうとする。

 しかし、剣は言う事を聞かなかった。


「無駄じゃ。さっきお主が屋根を吹き飛ばした時、剣の3本を頂戴した。

その剣はもう、お主の一部ではない」


「そんな訳ないでしょ! 貴方はお婆様の力を持っていないはず……

 デタラメを言わないで!」


「複数は無理でも、3本くらいなら童でも操れる」


「そんな……」


 アルマはおかしくなりそうになった。彼女は自分の方が強いと思い込んでいた。

 しかし、ソニアの方が圧倒的に強かったのである。

 アルマは左手で胸を抑え顔に笑みを作る。


「王族の1人で、最年少の博士となって

 ホント恵まれた環境で育った子は違うのね」


 ソニアは貴族の出であるが同時に王族の1人でもあった。

 ソニアは博士になった後ドラクロの軍事指導を行ってきた。

 フェリクスはそんな彼女を評価し王族の1人に迎えたのである。


「童が何の努力もしていないと言うか?」


「そうは言わないわ。ただ、エコヒイキだと言いたいだけよ」


 アルマは咳を吐きながらも話を続けた。


「何をしても父や国王から褒められて、さぞ気分が良かったでしょうね」


「お主は勘違いしておる」


「何が? 勘違いしているのは貴方でしょう?

 私の所に来たのだって国王から褒美を貰うのが目的。ほんと強欲なのね」


 身体の痛みに耐えながらアルマは無理に笑っている。


「童の……」


 ソニアは左の拳に力を入れる。


「話を聞け!」


 ソニアの怒声を聞いてアルマは笑うのを止めた。


「細菌兵器を作ってしまっても童はお主を減滅しなかった。

 お主が国を思って研究をしていたのを知っていたからじゃ!

 なのに何故こうなった…… どうして同族を殺したりしたのだ?!」


 アルマは冷めた表情をしている。


「私は研究者。研究には実験が伴う、貴方も博士なら分かるでしょう?」


「実験のために殺したと言うか?」


「そうよ。おかげでドラクロ人が無敵の存在じゃないという事が証明できた。

 私を意味嫌ってた奴等が私の病原菌で死んでいくの。滑稽だと思わない?」


「笑わせるな!」


 ソニアは剣をアルマの心臓に突き刺した。

 アルマは避ける動作をせずそのまま攻撃を受け入れた。


「なっ、何故避けん?!」


 アルマは口から血を流しながら答える。


「私では貴方に勝てない……

 こういう結末になるのも、始めから決まっていた事なのよ……」


 アルマは口から血を吐きだす。彼女の目からは光が消えていた。

 ソニアが剣を抜くとアルマは倒れそうになる。

 彼女はとっさにアルマを抱え屋根から落ちるのを防いだ。


「……情けのつもり? ほんと、貴方のそういう所…… 昔から嫌いだった」


 アルマは顔を横に向けた。彼女の頭に大学時代の記憶が蘇ってくる。



 13年前。大学の講堂。

 学士帽を被った新入生達が入学した事を喜んでいる。

 しかし、アルマは1人だけ皆から離れ隅にいた。

 そんな彼女の元に幼い少女が近寄ってくる。


「何故そのような所におる? お主もこっちに来い」


 少女はソニアだ。

 ソニアは異常と呼べる程の秀才で

 わずか6歳でアルマと同じ大学に合格したのである。


「……いや、私はいい」


 アルマは顔を反らし中庭を眺める。

 すると、ソニアはいきなりアルマの手を引っ張り走り始めた。


「ちょっとやめて! 私にはかまわないで!」


「何を言う! これから一緒に勉強するのじゃ。

 最初から1人でいてどうする!」


 10歳にも満たない小さな女の子に説教されアルマは少々イラついた。

 しかし、本心では声を掛けられた事が嬉しくてたまらなかった。

 アルマは自分を引っ張っている小さい手が温かく大きな手に見えた。

 ソニアは突然止まりアルマに顔を向ける。


「そーだ、肝心な事を聞いてなかった!

 童の名はソニア・ガヴィスト。お主の名は何じゃ?」


「……アルマ。アルマ・シルヴェストリよ」


「アルマかぁ、良い名前じゃのー」


 ソニアは小さい身体を正しアルマに笑顔を見せる。


「これでもう童達はお友達じゃの! よろしくな、アルマ!」

 


 昔の光景を思い出してアルマはニヤける。


 ――ホント、昔からお節介で上から目線の喋り方で何様よこの子。

   でも、自分から私の友達になってくれた人、ソニアしかいなかった。

 

 アルマはコートの内側から小さな瓶を取り出す。


「特効薬よ…… これと同じ物がさっきの実験室にある…… 後は自分で探して」


「お主……」


 ソニアは顔を下に向け「わかった」と答える。

 特効薬を受け取るとソニアはそのままアルマを抱えた。

 ほどなくしてアルマは絶命する。

 ソニアは悲しい表情でアルマを見つめている。彼女の目から光が消える。


「さらばだ…… 友よ」


 アルマが息を引き取った後、屋根の向こう側からハヤトとクラウスが現れる。


「ソニア!」


 2人はソニアの元に寄る。彼等はアルマの状態を見て勝敗が決した事を悟った。


「終わったんだな?」


「うむ……」


 ソニアはそれ以上口を開かなった。

 ハヤトが空を見ると先程まで降っていた雨は止み雲の間から光が入り込んでいた。



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