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黎剣のゼスト  作者: 幻人
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第4話 悪しき学者 <3rd 死の剣士>



 ソニアは屋敷の中を走っている。アルマの姿は見当たらない。

 彼女は己の直感を信じ2階に上がった。


 ――アヤツは逃げたりしない。きっととこかで童を待ち構えている。


 ソニアは走りながら頭を働かせアルマのいそうな所を絞る。


 ――バルコニーじゃ!


 ハヤト達が屋敷に着いた時2階に広いバルコニーがあるのをソニアは思い出した。


「あそこなら誰の邪魔も受けない。きっとアヤツはあそこだ」


 ソニアはすぐにバルコニーへの扉を見つけドアを開いた。

 バルコニーには誰もいない。

 外は風が少し強くなっている。雲は先程より濃くなり小さな雷光が見える。

 ガタンという音を聞いてソニアは後ろを振り向いた。

 ドアは閉まっている。ソニアはふと顔を上げた。屋根の上には何かが浮いている。


「やはりココにおったか」


 空中に浮いているのはアルマだった。彼女の目は赤く光っている。

 ソニアは右手を柄に掛けアルマを睨んだ。


「いつから浮遊なんぞ出来るようになった?」


「だいぶ前よ。貴方が(いくさ)なんかに興じていた時かしら」


 剣を抜くとソニアは左手を前に出した。


「我、己が血を持って眼前の障害を殲滅せん」


 ソニアの左手は赤く染まった。手の前には赤い突起物が生成されていく。

 突起物は細長くナイフの刃だけを取ったような形をしている。

 数は10本程で手の前に止まっている。


「ブラッディニードル!」


 ソニアの言葉と共に突起物はアルマに襲い掛った。

 しかし、ソニアの攻撃は横から飛んできた複数の剣に弾かれる。

 剣の数は20本。剣は空中を泳ぐように旋回しアルマの後ろで止まった。

 剣は翼のような陣形を組んでいる。


 ――どういう事じゃ? 何故クリ婆と同じ技が使える?


 ソニアは左手を下げた。手は元の肌色に戻っている。


「驚いた? 貴方には見覚えのある光景だものねぇ。

 黒の魔王クリツナ…… 私は貴方のお婆様と同じ力を手に入れたのよ」


 アルマが使っている力は『鉄従』と呼ばれる血術で鉄の異能ではない。

 血液には鉄分が含まれている。そのため一部のドラクロ人は鉄を操る事が出来た。

 ソニアの祖母クリツナもその力を持つ1人である。


「なるほどな。お主が疫病に掛らない訳、そして鉄従が使える理由。

 全て薬のおかげという訳じゃな?」


 アルマは細菌学者であるため生物学も詳しい。

 ソニアの言う通りアルマは薬を服用する事で

 疫病の耐性を付け鉄従も手にしたのでる。

 祖母と同じ力を目にしてもソニアは冷静さを失わなかった。


「何故だアルマ。何故、村の者を殺す必要があった?

 彼等はお主の因縁には関係ないはずじゃ!」


 数年前、アルマは祖国を愛する1人の学者だった。

 彼女は国を想い国に役に立つだろうと考え細菌兵器を開発した。

 しかし、アルマの行動は評価されなかった。

 治療術の研究に励まず無許可で兵器を開発したアルマは

 危険人物だと判断され大学から追放される。

 彼女は国に裏切られたと錯覚し

 同族であるドラクロ人に憎しみを抱いているのだ。


「関係なくなんかないわ。彼等もドラクロ人なのよ?

 ならばその時点で死ぬ理由は出来上がっている」


「同族という理由で殺したのか?」


「そうよ。何か不満?」


「……お主を許す訳にはいかない」




 屋敷の中。ミイラに追われながらハヤト達はソニアを探している。


「たく、ソニアの奴どこ行ったんだ」


「ねぇハヤト~。一旦、外に出た方がいいんじゃない?」


「何言ってやがる! 仲間を置いて逃げろってのか?」


「そうは言ってないけど。こうも邪魔が入ると探せる者も探せないよ」


 ハヤトは向かい来るミイラを蹴散らしセーラは後方で追手を追い払っている。

 クラウスは真ん中で涼しい顔をしていた。


「ファイトだよ君達! 早くソニア君を探さないとバリアが切れてしまう。

 私の近くにいないと効力はどんどん薄れていくんだ」


「プレッシャー与えないでくれよクラウス」


 ハヤトは下唇を甘噛み顔を引きつらせる。

 ハヤト達はエントランスに出る。

 左にある入口や正面からは10体以上のミイラが見える。

 ハヤトはミイラを倒す事が面倒になり右にある階段に上がって行った。


「こっちでいいのかね? ハヤト君」


「知らん! とりあえず逃げながら探すぞ」


 幸い2階にはミイラがいなかった。ハヤトは足を速め耳をすませる。


 ――1つ1つドアを開けている暇はない。

   どこからか声がするはずだ。それを聞きとるんだ!


 ハヤトは自分に言い聞きかせながら廊下を走り回った。

 すると、あるドアの前に男が立っているのを目撃する。


「アイツは……」


 ハヤトが見た男はマハドだ。マハドは銅像のようにその場に立っている。


 ――怪しいな。たぶんソニアはあの向こうだろう。


 ハヤトは躊躇する事なくマハドに向かって行った。

 それに反応しマハドは腰の曲刀を右手に取る。

 ハヤトはマハドの数メートル前で立ち止まった。


「そこ通してくれないか? って言ってもどかないよな」


 マハドは無言のまま足を動かさない。彼はこのドアを守っているのだ。


「どうしたのかね! ハヤト君」


 ハヤトが後ろを振り向くとクラウスとセーラが追いついていた。

 はるか後ろにはミイラの団体が見える。


 ――何ちゅう数だ…… この屋敷にいる全部が集まっているんじゃないのか?


 ミイラの数を見てハヤトは拍子抜けする。

 クラウスとセーラはマハドを視界に捉えこの場の状況を把握した。

 前を向くとハヤトは剣を抜きマハドに斬り掛った。

 いつもの彼なら抜刀で片付けている。しかし、ハヤトは抜刀を使わなかった。

 昔、ハヤトは相棒から「お前は抜刀を使いすぎる」と言われ

 抜刀を多用しないようにしていた。

 それにハヤトはマハドを過小評価していたので

 斬り合いで勝てると思い込んでいたのである。

 ハヤトの動きに反応しマハドは曲刀でハヤトの剣を弾き返す。

 マハドは感情のない人形のように身体を動かしている。

 彼はハヤトの剣先に曲刀を繰り出し攻撃を華麗に弾く。

 ドアに背を向けた状況にも関わらずマハドは落ち着いており

 ハヤトの攻撃を完全に防いでいた。

 後ろではセーラの元にミイラが集まっていた。

 セーラは棒を左右に振り向かい来るミイラをなぎ倒していく。

 倒されたミイラはノロノロと起き上がると再びセーラへ向かっていく。


 ――弱ったなぁ。これじゃ体力の問題だよ。


 セーラは息を切らしながら棒を振り続けた。

 さすがに限界を感じた彼女は後ろにいるハヤトに声を掛ける。


「ハヤト~! そっちは終わりそう?」


「ちょいと待ってくれ」


 ハヤトは依然マハドと剣を交わしているが倒せる気配は全くない。

 彼は仕方なく抜刀を使った。

 しかし、マハドは立ち上がり再びハヤトへと刃を向ける。

 マハドの攻撃を弾きハヤトは一旦クラウスの元に下がった。


「クラウスさんよ。これってアレか、死んでも動くっていう……」


「断定はできないが、恐らく『ゾンビ』だと私は見る」


「……人外ねぇ」


 マハドの正体はゾンビだ。彼はアルマによって生かされた不死身の兵士である。

 しかし、ハヤトは全く恐れを抱いていない。むしろこの状況を楽しんでいた。


「頭を斬り落とせば勝てる」


 ハヤトは顔に笑みを浮かべ剣を鞘に戻した。

 彼は首を跳ねる事に考えを集中させる。


 ――にしても後ろのドアが邪魔くさいなぁ。ドアごと殺るしかないな。


 ハヤトはお得意の構えを取る。

 それを見てマハドはすかさずハヤトに襲い掛った。侍は短く笑う。


「抜刀だと思ったか?」


 ハヤトはマハドの懐に飛び込んだ。

 彼は鞘から抜けきっていない剣を使いマハドの曲刀を床に反らした。


 ――反刀奥義、嵐竜翔(らんりゅうしょう)


 剣はマハドの左下から右上へと一閃を放つ。

 剣からは衝撃が放たれている。衝撃はそのまま後ろのドアへと伝わった。

 壁が崩れるような音と共にドアが壊れる。

 ドアの左は半壊し右側は完全に崩壊している。

 ハヤトの剣はマハドの右腹から左肩を引き裂いた。

 マハドの身体は右手から顔までの上部と

 左手から両足までの下部に分かれている。

 上部は完全に沈黙し下部はほのかに動いている。

 その状態を見てハヤトは気持ち悪くなった。


「どういう原理で動いてんだよ、気持ちわりぃーな」


 ――さすがハヤト君。私が見込んだだけの事はある。


 クラウスは後ろからハヤトを見つめ心の中で拍車を送った。

 右のドアが壊れた事で暗い廊下に光が入ってくる。

 セーラは後ろに顔を向けドアが開いた事を確認する。


「殺ったの? それじゃさっさと外に出ようよ」


 セーラは目の前の敵の事で頭が一杯だ。そのためハヤトを褒めている余裕は無い。

 クラウスは両腕を振り最初にバルコニーに出る。

 ハヤトはマハドを眺めながら鞘に剣を戻しクラウスに続いた。



途中省略している部分がありますが

そこは0話でのシーンなので省略して書いております。


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