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黎剣のゼスト  作者: 幻人
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第3話 吸血鬼の国 <5th 2人の志願者>



 夕刻。宮内では晩餐の準備が行われている。

 エーゲの客人が来たという事で準備に時間が掛っていた。

 ハヤト達は王宮の左側にある庭園にいた。

 庭園の中央には竜がおり羽を休めている。

 竜の足枷は取られ2人の兵士が世話をしている。

 竜は逃げる素振りをせず大人しい。

 ハヤトはセーラに竜の扱いを教えていた。

 クラウスはその光景を宮殿のテラスから眺めている。

 すると、クラウスの元にフェリクスがやってきた。


「クラウスちょっといいか?」


「なんでしょうか?」


 クラウスはフェリクスに身体を向けた。


「貴公に頼みがあるんだ」


「頼みですと?」


「うむ。実は、我が国の学者で細菌を研究している者がいるのだが

 最近その者と連絡が取れないのだ」


「その学者は行方不明なのですか?」


「いや違う。半月前、私はライールと部下に学者の調査を託した。

 しかし、いまだに誰も帰ってこないのだ」


「ライール君が? それは妙ですねぇ……」


 クラウスは交友関係が広い。彼はライールとも知人の関係だ。

 ライールは黒騎士の1人。その彼が消息を絶つのは異常と言えた。


「だろう? ここだけの話、その学者は以前生物兵器を作った事があるんだ」


「それは本当ですか!」


「あぁ。彼女はそれを戦争に使うべきと主張した。

 私は彼女を危険だと判断し大学から追放した。無論、兵器も処分したよ」


 フェリクスの言葉から学者が女性だと伺える。


「追放した後、その学者はどこに?」


「1月前、モトルという村の『古い屋敷に身を潜めている』と報告があった。

 彼女は何か研究をしている可能性が高い。

 ましてそれが生物兵器なら絶対に阻止せねばならぬ」


 クラウスは頭より先に口を動かした。


「分かりました陛下。そういう事なら喜んで力になりましょう」


「助かるよ。私があの時彼女を裁いていれば

 部下の身を危険に晒す事は無かったのだがな……」


 恐王と呼ばれているがフェリクスは冷酷な人間ではない。

 彼は話の分かる男で不作法を気にしない器の大きい人物である。

 それが評価され彼は長年この国の長を務めているのだ。


「陛下のせいではありません。

 貴方はそんな罪人にも寛大な処置を施した。

 悪いのはそんな陛下の気持ちを無下にしたその学者です」


「すまないなクラウス。ゲオがいれば真っ先に奴を向かわせていたものを」


「構いませんよ。ゲオルギー君は今ヘルニアで大変ですからね」


 フェリクスは「頼むぞ」と声を掛けるとその場から立ち去っていく。

 クラウスは庭園に目を向けハヤトの存在を思い出した。


「しまった! 勝手に安請け合いをしてしまった」


 ハヤトはドラクロとの国交樹立に向け

 しばらくこの王宮に留まらなくてはならない。

 クラウスはハヤトに力を貸している為

 ハヤトの元を離れる訳にはいかなかった。

 彼は急ぎフェリクスの元に駆け寄った。


「陛下! 1つよろしいですか?」


「どうしたんだ?」


「私1人では心細いので、ハヤト君達を連れて行きたいのですが。

 許可をもらえますか?」


 クラウスは無理なお願いを出した。しかし、これも考えがあっての事。

 彼はハヤトを調査に同行させる事で交渉を優位に進めようと考えたのだ。

 フェリクスはしばし黙り考え込む。


 ――せっかくエーゲから大使がやってきたというのに

   それをすぐに手放すのはマズい。


 しかし、フェリクスはハヤトの力量を目にしている。


 ――だが、あの剣士は相当の手練れだ。

   さすがにクラウス1人では荷が重い、か……


 フェリクスはクラウスの提案を受け入れる事にした。


「分かった。ハヤト殿にはお前から伝えておいてくれ」


「待ってください!」


 突然、横から女性の声が入ってきた。声の主はソニアだ。


「ソニア…… いつからそこにいた?」


 フェリクスは目を細めソニアを睨む。

 ソニアは何かと間に入る事の多い人物と見える。


「今来た所です。話は大臣達から聞きました。アルマの事ですよね?」


 フェリクスは軽く頷いた。クラウスはソニアに尋ねる。


「アルマとは誰かね?」


「童と同じ大学におった細菌学者じゃ。

 そのアルマが、今話をされていた学者なのです」


 ソニアは相変わらず敬語が中途半端だ。他の2人はそれに慣れているようだ。


「陛下、童もクラウス殿に同行させてください」


「なんだと?」


 それを聞いてクラウスは呑気に喜んでいる。


「それは本当かね? ぜひお願いする! ソニア君がいれば百人力だぁ」


 フェリクスはソニアの近くに寄ってヒソヒソ話をする。話はすぐに終わった。


「……分かった。お前がそこまで言うのなら止めはせん。

 クラウス、ソニアの事を頼むぞ」


「任せてください。ソニア君はこの身にかけてお守り致します」


 国王と別れるとクラウスとソニアはハヤト達の元に向かった。

 クラウスはハヤトとセーラに事情を話す。

 事情を聞いたハヤトはクラウスに尋ねる。


「そのアルマってのが生物兵器を作った学者なんだな?」


「その通り」


 セーラは1人不安な表情をしている。彼女の反応は自然なモノだ。


「ねね、そんな危ない学者の所に行って大丈夫なの?」


 セーラが不安になっているとドラクロの貴女が追い打ちをかける。


「大丈夫ではないのう。村に行った者達は誰も帰って来ぬのだからな」


「えぇっ! やめようよ。コレはかなりヤバイ感じがする」


「ハッハッ、大丈夫。もしもの時はこのクラウスに任せなさいっ」


 セーラはクラウスの顔を見て『頼りないなぁ』と思った。

 ソニアは自信満々の態度で話を続ける。


「我等ドラクロ人は生物兵器なんぞ効かん。

 我々は滅多な事がない限り、病に掛る事がない種族だからのう」


「ほぅ、頼もしいな」


 ハヤトはすっかりソニアの口調に馴染んでいた。


 ――それって自分だけ大丈夫って事じゃん。何の解決にもなってないよね?


 セーラは心の中でソニアの発言を否定した。

 彼女の気持ちを気にせずハヤトは勝手に話を決める。


「よし、そういう事情なら断る事は出来ないな。

 調査に参加しよう。それで、いつ出立するんだ?」


「出来れば明朝。馬車で行けば、4、5日は掛るかなぁ」


「そんなに掛るの?」


 ハヤトは正直馬車がウンザリだった。

 彼は馬車の中の何もしない状況が辛くて耐えれなかったのである。 


 ――たまには地面を歩きたい。


 歩いていけば移動する事や周囲を警戒する事も出来

 なおかつ、外の景色を楽しむ事が出来る。

 しかし、今回はソニアという貴族の娘がいる。

 ハヤトは仕方なく歩いて行く事を断念する。


「分かった…… 明朝出発しよう。姫君もそれでよろしいかな?」


 姫君と呼ばれソニアは少しイラッとした。


「童は姫ではない。皆が勝手に呼んでいるだけじゃ」


 ソニアは目をつぶり姫と呼ばれる事を否定した。

 ハヤトは良い機会だと判断しソニアの口調について尋ねる。


「ソニア様は色々な喋り方をされますが、何か理由があるのですか?」


 ソニアは一瞬目を見開いた。


「やはり気付いておったか…… 実の所、童は敬語が苦手なのじゃ。

 元々こーいう口調なのもあるが

 初対面や高貴な者と話す時、どうしてもボロが出てしまう。

 全く、不甲斐ない話よ」


 ハヤトはソニアの口調が初めて統一されたと感じた。


「俺やセーラについては敬語なんか使わなくていいですよ。

 俺の事もハヤトとお呼び下さい」


 ハヤトはセーラの背中を軽く叩いた。セーラは緊張しながら口を開く。


「あっ、うん。敬語なんていりません。

 そういえば私、まだ自己紹介していませんでしたね?

 わわっ、私の名はセーラ…… セーラ・リントロースです。

 よっよろしくお願いします」


「童はソニア・ガヴィストじゃ。道中よろしく頼む」


 ソニアが握手を求めるとセーラはブルブルに震えた手で応じた。

 握手を終えるとソニアは皆に顔を向ける。


「これから道中一緒にするのだ。童に対しても敬語は使わんでくれ。

 名もソニアでよい」


 ソニアは涼しい顔をしている。ハヤトは「分かった」と答え新しい仲間を迎えた。




 夜。やたら豪勢な晩餐が終わりハヤトは王宮の右にある庭園に向かった。


「気持ちわりぃ…… 早く風に当たりてー」


 晩餐でハヤトは5杯も晩酌を受けた。

 どれも数秒で口から出したが気持ち悪さは抜け切れなかったのである。


 ハヤトは猫背の姿勢でベロを出しながら庭園を歩いている。

 すると、ベンチに座っているブルーノを目撃する。

 ハヤトはブルーノに尋ねたい事がある。彼はすぐに正気に戻りブルーノの元に寄る。


「ブルーノ、ちょっといいか?」


「ハヤトか。何の用だ?」


「その…… ゼスト志願者って言っていただろう? だからちょっと、気になってな」


 ブルーノはハヤトから目線を逸らし空に目をやった。


「どーせお前も馬鹿にするんだろう? ゼスト志願者と聞いたら皆そうだ」


 ブルーノは顔を下に向け指を弄りだす。


「馬鹿にしているならわざわざ聞いたりしない」


 ハヤトは真面目な顔でブルーノを見る。それを見てブルーノは答える事にした。


「分かったよ。それで、何が聞きたい?」


「アンタは何でゼストを目指しているんだ?」


「国を救うためだよ」


 ブルーノは街に目を向けゼストを目指す経緯を語り出した。


「俺の故郷ポルスカは1人もゼストがいない。

 そのせいか、東部の州の幾つかがスキティアに編入してった。

 このままじゃポルスカはスキティアに乗っ取られちまう」


 スキティア帝国は中央アジアの覇権を握っている大国。

 スキティアはその勢力を欧州にまで伸ばしポルスカの一部を支配しているのだ。


「だから俺はゼストになって国を守ろうと思っているんだよ」


 ブルーノはゼストになるためにドラクロ王の元に身を置いているのだ。


「ゼストじゃないとダメなのか? 国を救う方法は他にもあるだろう?」


 ハヤトは人の事が言えた義理じゃないと思ったが聞かずにはいられなかった。


「生憎とポルスカは周辺国に嫌われていてね。どこの援助も期待できないんだ」


「外国に頼らなくても戦えるだろう」


「戦えるが戦う事が嫌いなんだ、ポルスカの国民は。

 だからスキティアに下る。その気持ちは分からなくもない」


 ブルーノは顔を上げ再び空を眺める。彼の表情は穏やかだ。


「だからさ。新しいゼストが現れれば国民は一致団結し

 再び手に刃を取ってくれると思ったんだよ」


「そうか……」


 ハヤトは黙り込んでしまった。

 王宮での一戦で彼はブルーノが軽い男だと思い込んでいた。

 しかし事情を聞いて、ブルーノが本気でゼストを目指している事に気付かされる。


「何しけているんだ! 暗い話をする為にした訳じゃないぞ?」


「悪い。見直したよ、お前の事」


「フッ、今更かよ」


 ハヤトとブルーノは笑っている。ブルーノはハヤトに尋ねる。


「お前はゼストを目指したりしないのか?」


「してるさ」


「じゃあお前もゼスト志願者かよ! 何でもっと早くに言わない?」


「聞かれなかったから」


 ブルーノはムスッとした顔でハヤトを睨んだ。


「お前は何でゼストを?」


「アンタと同じ理由だ。祖国を救う為に、俺はゼストを目指している」


「そうか。なら俺達は同志、という事だな」


 ブルーノは右の拳をハヤトに突き出す。

 それに反応しハヤトも拳を突き出した。

 2人の拳は密着している。何とも友情を感じる光景だ。


「頑張ろうぜ、お互い」


「そうだな」


 夜。秋の風に打たれながら2人の志願者は己の目標を再認識した。



ポルスカは、ポーランドの事です。

スキティアは近々お世話になる国です。

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