第3話 吸血鬼の国 <4th 恐王>
王宮の広間は広く床はチェスの盤のような模様をしている。
中は2階まで吹き抜けており上から宮殿の者達が下を眺めている。
ハヤトは広間の光景を見てワクワクしている。
彼にとってこの宮殿が西洋最初の王宮だ。
どっかの師団本部や総督府と違いこの宮殿には人を奮い立たせる雰囲気がある。
ハヤトが広間の中腹にさしかかった時、突然ブルーノが隣に寄って来た。
「ちょっと、聞きたい事があるんだが」
「何だ?」
「お互い自己紹介をしていないだろう?
さっきの会話でお互い名前は知っていると思うが……」
「そうだったな。俺はハヤト・スサノメ。エーゲの外交官だ」
ハヤトは歩きながらブルーノに握手をした。
彼はすっかりブルーノに対する気持ちが変わっていた。
「俺はブルーノ・フォルト。陛下の近衛兵を務めている。
謁見の間に着くまで話をしてもいいかな?」
ハヤトが「構わないよ」と返事をするとブルーノは歩きながら話を始めた。
「見た所、エーゲの出身じゃないよな? どこ出身なんだ?」
「ヤマト王国だ。東洋の島国で、ここからかなり遠い」
「ヤマトか! それなら知っているぞ!
金銀が豊富で建物が金ぴかに光っているんだよな!?」
「いや、それは迷信だ」
ヨーロッパに来るまでハヤトは色んな所を転々としていた。
そのため、こういう偏見には慣れている。
――夢の国だと思っていたのに、違うのかぁ……
ブルーノは唇を引っ張り残念そうな顔をしている。
「アンタはどこ出身なんだ?」
「ポルスカ王国さ。この国の北隣だな」
ブルーノの格好を見てハヤトは疑問を抱いた。
ブルーノの服装は緑一色。軍人に見えなくもないがこの国の軍服ではない。
「その服は戦闘着か何かか?」
「この服? これはなぁ猟兵の服装なんだ。
俺の家は代々猟師の家系でねー。俺も以前は猟師だったんだ。
この服はその誇りを捨てない為に着ているんだよ」
――猟師ねぇ…… でも何でそれが近衛兵に?
それにゼスト志願者になった理由って何だ?
ハヤトは何故ブルーノがゼストを目指しているか
それが気になって溜まらなかった。
彼がその事を問い掛けようとした時、彼等は謁見の間に辿り着いていた。
「俺はココまでだ。機会があればまた会おうぜ」
ブルーノは右手を軽く上げ立ち去って行った。
謁見の間には3人の男女がいる。
フェリクスは玉座に座り右には側近が立っている。
ソニアは部屋の左側に立っている。
彼女の位置は玉座とハヤト達の中間に辺り両者を見渡せる場所だ。
謁見の間は広く床に黒い絨毯が敷かれている。
普通、謁見の間と聞くと赤い絨毯などが連想されるがこの王宮は違っていた。
玉座側が上段となっており少しの段差がある。
玉座の後ろには縦型の大きな窓が4つある。
窓の光が強いので部屋は明るく照明は付けられていない。
部屋の装飾は至る所が黒と白の色彩で構成されている。
ハヤトは『これも一瞬の芸術なのだ』と心の中で賞賛した。
ハヤト達は下段で並列し改めて跪いた。その光景を見たフェリクスは少し慌てる。
「跪かなくても良い。腰を据えたいのなら座ってくれ」
その言葉にハヤトとセーラは動揺した。
――座るってどう座ればいいんだ。
今、ハヤトが目の前にしているのは一国の主。
彼は座り方1つで試行錯誤した。
セーラは動揺したままで硬直している。
そんな中、1人胡坐をかいている人物がいた。
クラウスだ。
ハヤトとセーラは信じられないという目でクラウスを見つめる。
「大丈夫だよ。陛下は寛大な方だ」
その言葉を聞いてハヤトはしぶしぶ胡坐をかいた。
セーラはそれが出来ないので膝を抱えて座っている。
3人が落ち着いた所を見てフェリクスは話を始めた。
「まずは3人共、我が国に来てくれた事を歓迎する。クラウスも久しぶりだな」
「ハッハッ、一月振りですなぁ」
「話はブラントから聞いている。ハヤト殿はエーゲの使いとして来られたそうだな?」
「はい。陛下、その前に1つよろしいですか?」
「何だ?」
「あの竜についてなのですが。陛下はあの竜をいかがなさるつもりですか?」
フェリクスは黙っている。すると、横にいるソニアが口を開いた。
「それなら既に手を打っておる。
竜はしばしこの城で療養させた後、トラヴィアに返すつもりじゃ」
ハヤトはソニアの口調が変わった事に違和感を抱く。
しかし、竜の話を最優先に考えた。
「それなら良いのですが、貴方方は竜を扱えるのですか?」
「問題無い。先程、兵に竜の扱いを指導してきた所だからのう」
――この国には竜がいないはずだ。何故指導なんかが出来る?
ハヤトは疑問を抱いた。だが、すぐに考えを切り替える。
「失礼ですが、送り主を教えてもらえますか?
確かトルクートの貴族だったと思いますが」
竜が解放されると分かってもハヤトは気を緩めなかった。
彼は竜に対し特別な感情がある。それはトラヴィアにいた時に生まれたモノだ。
「それについては心配ご無用。
この件については既に周辺国に報告を向かわせている。
トルクートには密偵を送り、調査を託した所だ」
――ついさっき分かった事なのに手回しが早いこって。
ハヤトは目を細めフェリクスを見た。彼は猜疑心がぬぐえない。
ドラクロの対応はまるで最初から分かっていたかのようだ。
――まぁいいか。俺は別に保護局の人間じゃないし。
余計に突っかかって、場の空気を悪くするのは得策じゃないしな。
フェリクスとソニアの対応を聞いてハヤトは納得する事にした。
「分かりました。それなら大丈夫だと思います」
一呼吸置きハヤトは交渉の話を始めた。
「話を折って申し訳ありませんでした。
では、私が来た目的を説明致します。
私はエーゲとドラクロが国交を結ぶ為の使いとして参りました。
コレを望んでいるのはエーゲ王国先々代国王マティアス・ファルガー様です」
ハヤトは一度しか大王の名前を聞いていないのにすらりと名前を言えた。
実はここに来る道中、馬車の中でクラウスと謁見の予行練習をしていたのだ。
大王の名を忘れたハヤトはクラウスから何度も名前を教えてもらっていたのである。
「マティアス様は隣国であるドラクロと
いつまでも国交を結ばないのは不徳だと判断しました。
そのため、ドラクロと新しい関係を築こうとしているのです」
「大王がそのような事を……」
国交を結んでいないとはいえ
フェリクスは大王マティアスの事を知っていた。
国王ともなればそれくらいの常識は必要とされる。
しばし間を置いた後、フェリクスは口を開いた。
「私とて、このままの状態を続けるつもりはない。
しかし、エーゲとドラクロには古い因縁がある。
それは会談を行うだけで解消されるものではない。それに……」
フェリクスは一瞬言葉を置くとハヤトに鋭い視線を向ける。
「いくら大王の使いとは言え
国の大事を異人に任せるというのはいかがなものか」
フェリクスはハヤトを使いに出した事に不満を抱いていた。
外見から分かるようにハヤトは東洋の異人。
そんな異国の者を自国の使いに出すなど常外れも良い所だ。
ハヤトは沈黙した。
こういう事に備えて予行練習をしていたのに決定的な一言を受けたのだ。
――どうしようか。見た所、貢物も届いている様子はない。
ハヤトがエーゲのサロニカで買った品物の数々。
実はその品物はフェリクスに送る為の貢物だったのだ。
彼は海賊を倒した報酬のほとんどをそれに使い込んだのである。
しかし、貢物は王宮に届いておらず先にハヤト達が到着してしまったのだ。
――このまま引き下がる訳にはいかないが、突破口がないなぁ。
ハヤトはクラウスの言葉に甘えていた。
『交渉については、現地に着いてから考えるとしよう』
しかし、竜の登場により何の下準備も無いまま王宮に来てしまった。
ハヤトは一瞬竜を交渉材料に使おうと考える。
しかし、自身の信念に背くとしてそれをすぐに却下した。
「とはいえ、貴公には竜の件で借りがある。
今すぐ国交を結ぶ事は出来ないが、交渉には応じる事にしよう」
フェリクスの発言を聞いてハヤトは意表を突かれた。
流れとはいえ、ハヤトが竜を宥めた事が交渉参加に繋がったのだ。
「交渉は数日を催すと思われる。それまでこの宮殿に留まってはくれないか?」
「分かりました。交渉に応じて頂き感謝致します」
ハヤトは顔を下げ拳に力を込めた。
それは、首が一枚繋がった事に対する喜びの表れだ。
会談はほぼ成功に終わった。
いきなり国交が樹立されるという事はまず有りえないので
交渉に応じるというフェリクスの対応は無難で
国交を結んでも良いという意志の現れだ。
会談が終わりハヤト達は謁見の間から退場した。
玉座にいるフェリクスはソニアに目を向ける。
「それでソニアよ。今回は何用で参ったのだ?」
「はい。実は……」
会談だからハヤトの喋り回となっていますが
セーラやクラウスの発言も欲しかったですねー。
もうちょっと長いシーンにしても良いかも……




