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黎剣のゼスト  作者: 幻人
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第3話 吸血鬼の国 <2nd ざわめく王都>



 セルディカを立って数日。

 昼。ハヤト達はドラクロ王国の首都である王都ブクレシティに到着した。

 ブクレはワラキア地方の中心地でドラクロ最大の都市。

 建物は壁が白やベージュ色の所が多く大きな窓が幾つもある。

 道は完璧に舗装され段差が無く真っ平だ。

 街にはドラクロ人の姿が多く見られる。だがそれ以外に観光客の姿も多かった。

 街は吸血鬼の国とは思えない程活気に溢れ様々な人々が行き交っている。

 馬車を下りると3人は王宮を目指し歩き始めた。


「すげぇ人だな。さすが首都っていうだけの事はある」


「ハッハッ、ハヤト君。この程度で驚いてはいけないよ?

 ルミノスの首都なんてこの倍は人がいるからね」


「何コレ、私の国の首都より人が多い……」


 クラウスは笑っているがセーラは落ち込んでいた。

 一行はクラウスの道案内で街の中心部へと向かう。


「クラウスはここに来た事があるのか?」


「うむ。私はドラクロ王と知人の間柄なんだよ。だから、度々ブクレには来ている」


「へぇ、国王と知人ねぇ。

 そういえば俺、ドラクロの王について何も知らないままだったな……」


 ハヤトの気持ちを()み取りクラウスはドラクロ王の説明を始める。


「国王の名はフェリクス・スタンバーグ。

 彼は『恐王』と呼ばれ、厳格な法制度を設けた人物だ。

 とりわけ罰には厳しい王として、周辺国に知られている」


 クラウスはフェリクスの知人。

 そのせいか、彼は全く恐王を恐れておらず強い信頼を寄せている。


「あの方なら交渉に応じてくれるはずだ」


 恐王と呼ばれるのでハヤトは一瞬動揺したが

 クラウスの説明を聞いてすぐにホっと胸を撫で下ろす。


「そうか。それなら話が進みそうで何よりだ」


 ハヤトとクラウスが歩きながら話をしていると

 少し後ろでセーラが足を止めていた。それに気付いたハヤトはセーラに声をかける。


「どうした? セーラ」


「うん。なんか向こうに人だかりが出来ているんだよ。

 祭でもやっているのかな?」


「行きたいのか?」


「まぁ心をはぐらかすには良いかなーなんて」


 ――心をはぐらかすってどういう事だ?


 ハヤトはセーラの言葉の真意が分からなかった。

 ハヤト達には打ち明けていないがセーラはドラクロ人が苦手である。

 彼女は吸血鬼と呼ばれるドラクロ人を恐れ

 今までこの国を訪れた事が無かったのだ。

 とはいえ、ハヤトの護衛を断る事は出来ず彼女はこの国に来てしまったのである。

 街の雰囲気に呑み込まれハヤトはドラクロ人が吸血鬼である事を忘れている。

 そのため、彼は能天気だった。

 クラウスは平然としておりドラクロ人を恐れる気配が全くない。


 ――王宮に着いたら何かされるかもしれない……

   ここらで緊張をほぐしておかないと。


 セーラは気分転換に祭に行く事にした。

 彼女は棒を上げると2人に「行こう」と声をかける。

 こうして、3人は王宮を目指すのを中断し人だかりの方に向かう。



 3人が人だかりに近づくと悲鳴のような声が聞こえてきた。

 声を聞いてセーラは危険な祭なのだと判断する。

 しかし、そこで起きていたのは祭なんかではなかった。

 3人の目に飛び込んできたのは空中に伸びる炎。

 大衆はその炎に当たらない距離に陣取っていた。

 大衆の奥には大きい羽の生えた動物が見える。

 ハヤトは動物を見て心の中で呟いた。


 ――竜だ。


 そこには黒色の竜がいた。

 この世界には竜が存在する。

 しかし、多くが人間に狩り取られ年々数が減少していた。

 ヨーロッパ原産の竜は既に絶滅している。

 そのため、多くのヨーロッパ人は竜を見た事がない。


「何あれ! 火吐いているんだけど!」


 セーラは驚きと喜びを隠せない。彼女は竜を見るのが初めてだ。


「あの形は恐らく竜だろう。

 それにしても、実物を見る事ができるなんて。私は何て幸運なんだ!」


 クラウスもセーラと動揺の反応を示す。彼も竜を見るのが始めだ。

 ハヤトは1人落ち着いている。それもそのはず。彼は竜を見た事があるのだ。


 ――ありゃ、グリーヴだなぁ。


 グリーヴは翼竜と火竜の一種。

 主にアフリカ南東部に生息する希少な竜だ。

 大きさは成獣で7、8メートルにも及ぶ。


「黒色って事はトラヴィア産だな」


 アフリカのグリーヴは典型的な緑色をしている。

 それに対しトラヴィア産のグリーヴは黒色をしているのが特徴だ。


「えっ? ハヤト、あれが何なのか分かるの?」


「竜だろう? 珍しくもない」


 それを聞いて、セーラとクラウスは唖然となる。

 ハヤトにとっては当たり前でも、この地の者にとって竜は珍しい生き物なのだ。

 ハヤトはこの状況に異変を感じていた。


 ――こんな所に竜がいるなんてオカシイ。


 ヨーロッパにいる竜は少ない。

 既に固有種は絶滅しているので、欧州では別の地域の固有種を

 政府が管理している保護区で育てている。

 それも条約によって厳しく検査されているので

 保有している国は3ヶ国しかない。ドラクロはその国に含まれていなかった。


 2人を置いてハヤトは人混みの中に入って行く。

 竜に近付くにつれ竜の鳴き声が聞こえてくる。

 頭上に火が迫っているというのに大衆は面白怖さを目的に離れようとしない。

 まさに命知らずである。


 ハヤトが大衆の前に出ると目の前では翼を広げた竜がもがいていた。

 竜の大きさは4、5メートル。この竜は子供だ。

 皮膚は黒い鱗に覆われ目はギラリと赤く輝いている。

 頭の後ろに白の角を2本生やし足に足枷が付けられている。

 足枷のせいで竜は自由を奪われていた。

 竜は何度か火を吐き翼を羽ばたかせ足枷を力尽くで取ろうとしている。

 足枷に繋がれた3つの鎖をドラクロの兵士達が引っ張っている。

 1つの鎖に2、3人の兵士が付いている。

 鎖を3方向から引っ張り竜の移動を阻止しているのだ。


 ――何てこった。


 ハヤトはすぐに状況を察した。兵士達は竜の扱いが出来ていない。

 竜を手懐けていれば足枷などする必要が無いのだ。


 ――このままじゃ、被害が出るなぁ。


 ハヤトは周りの大衆を気にした。

 今は誰も火の犠牲になっていない。だが、それも時間の問題。

 竜が本当に暴走したら大参事になる事は明らかだ。


「おい!」


 東洋の剣士は竜に向かって言葉を放った。

 大衆のざわめきをかき消すよく響く大きな声だ。

 竜は火を吐くのをやめ剣士に目を向ける。

 竜が静まった事に反応し兵士達は手を休める。

 大衆のざわめきが止みセーラとクラウスが大衆の前に出てきた。

 ハヤトは左手で鞘の真ん中を掴んだ。鞘を上に掲げそれを竜に見せつける。

 剣を地面に置くと彼は歩いて竜に近付いた。

 大衆の多くが驚いている。

 無理もない。武器を捨てて竜に近付くなど無謀にしか見えないからだ。

 しかし、竜は火を吐かず何もしない。ただハヤトだけを見ている。

 竜の足元に近付くとハヤトは顔を一度上げた。竜は不思議そうな顔をしている。

 顔を下げるとハヤトは竜の下腹に触れた。そして腹を撫で始める。

 竜は広げていた翼を畳み落ち着き始める。


「何という事だ……」


 クラウスは開いた口が塞がらなくなった。

 彼だけではない。皆、開いた口が塞がらない状態だった。

 10人程度の兵士が(なだ)めれなかった竜をハヤトは1人で宥めたのだ。


「お前、故郷に帰りたいのか?」


 グワーン、竜は鳴いた。ハヤトはそれを『帰りたい』と受け取る。

 ハヤトは辺りを見渡した。


「コイツの持ち主は誰だ?」


 ハヤトの呼び掛けに応じ1人の男がハヤトに近付いて来た。

 男は鎖を引っ張っていた兵士の1人。

 他の兵士と同じく赤いマントに黒の軍服を着ている。

 男はドラクロ人で彼だけ赤いチロル帽子を被っている。


「アンタは?」


「私はブラント。この竜を護送している者だ。」


「護送?」


「ああ。この竜はトルクートの貴族が陛下に献上した竜なんだよ。」


「献上?」


 ハヤトは疑問を抱いた。

 世界では、竜の減少を防ぐために国際条約が設けられている。

 竜の売買は勿論の事、竜を取引材料に使う事は禁じられているのだ。

 腕を組むとハヤトは強い態度でブラントに問いかける。


「国際法知っているよな? 政治の道具に、竜を使う事は禁じられている」


 ブラントは申し訳なさそうな顔をしている。


「そう言われても、これは向こうが送ってきたモノなのだ。

 我々は、コレを陛下に届けなくてはならない」


「だったら早い所解放するこった。ただでさえ火竜は数が少ないんだからな」


 ハヤトの説得を受けてもブラントは食い下がらなかった。


「どんなに言われようと無理なモノは無理だ」


 ハヤトは顔を強張らせた。彼はブラントの泣き言など気にせず更に強く出る。


「いいのか? 竜を不法所持している事が諸外国に広まると大変な事になる。

 アメリクスは勿論の事、原産国のトラヴィアは黙っちゃいない。

 最悪『戦争』になるぞ」


 戦争という言葉を聞いて大衆がざわめきだす。

 それもそのはず。アメリクスとトラヴィアは世界の覇権を握る大国なのだ。


「君は何者なんだ?」


「俺はハヤト。エーゲの外交官だ」


「エーゲの外交官が、何故そのような事を知っている?」


「以前、トラヴィアにいたからな。竜については詳しいよ」


 ブラントは考えた。彼は国王に竜を届けなくてはならない。

 しかし、竜は自分達の言う事を聞かない。

 おまけに国際法という常識を目の前に叩き付けられたのだ。


 ――彼の言っている事は本当だろう。


 ブラントは国際法についてあまり知らない。

 彼は竜を宥めたハヤトが信用に足る人物だと判断した。


「私には竜を解放する権限がない。だが、陛下ならその権限を持っている。

 とりあえず、竜を陛下の元に連れて行きたいのだが、ご同行願えるかな?」


「分かった。俺も王様に用事がある所だったんだ」


「本当かい? それまで竜の面倒を見てもらえると助かるんだが……」


「いいよ」


「ありがとう。感謝するよ」


 ハヤトはブラントのお願いを引き受け竜と共に王宮に向かう事となった。



ドラクロのモデルは、ドラキュラの発祥地であるルーマニアです。

バルディアを凌ぐアメリクスという大国。

ハヤトはその国の戦士とガストーネを倒しているんですねー。

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