第2話 偽りの革命家 <End 薔薇の都>
翌日の昼。ハヤト達はセルディカの街を散策していた。
通りには人が溢れ商人の掛け声や楽器の音が聞こえてくる。
昨日と違い街は賑やかだ。
「昨日とは、まるで別の街だな」
「ハッハッ、確かに。革命軍のせいで自由に商いをする事が出来なかったんだ。
皆、普段の生活に戻れて嬉しいのだろう」
通りを歩いているとハヤトは何かを発見する。
――おっ、あれは!
ハヤトはセーラとクラウスを置いて、ある露店に足を運ぶ。
彼はそこの品物を眺めている。
「この国にも豆腐があるんだなぁ」
ハヤトが見ているのはビンに入った白い塊。
彼はそれを豆腐だと判断した。ハヤトは嬉しくなった。
「西洋に故郷の食べ物があるなんてビックリだ。後は醤油があればなぁ」
気付くとハヤトの隣にはセーラとクラウスがいた。
セーラはハヤトが豆腐と言っているのを聞いていた。
「豆腐って何? これ、ヨーグルトだよ?」
「えっ?」
それを聞いてハヤトは値札を凝視した。値札には英字でヨーグルトと書いてある。
「豆腐じゃねーのかよ……」
ハヤトは落胆した。国に帰りたいという気持ちが強すぎて
彼はヨーグルトを豆腐だと勘違いしてしまったのである。
ハヤトが顔を上げると店主が生のヨーグルトを差し出していた。
「いいから食べてごらん。美味しいから」
ヨーグルトの上には、ぶどうのジャムが乗せられている。
ハヤトは小動物のようにパクリとヨーグルトを頬張った。
「うん? うめぇ!」
ジャムの甘さとヨーグルトの酸味が上手くマッチしている。
あまりの美味しさにハヤトは目を見開いて驚いた。
店主はそれを見て満足気な顔をしている。
「どうだい? 買ってみないかい?」
「勿論!」
店主の巧みな商法に掛りハヤトは3つもヨーグルトを買った。
彼は残り2つをセーラとクラウスに分ける。
ヨーグルトを買った後3人は散策を続けていた。
ハヤトのヨーグルトだけは大きいサイズで彼だけ未だにヨーグルトを食べている。
ハヤトが食べる事に夢中になっていると隣に2人の姿がなくなっていた。
「あれっ? どこ行った?」
ハヤトが周囲を見渡していると
クラウスが「こっちだよ」と叫んでいるのを目撃する。
ハヤトはヨーグルトを急いで食べ終えるとクラウスのいる店の中に入っていった。
店は薔薇の加工品を置いている雑貨店。
薔薇はトラキアの特産品なので似たような店が街のいたる所にあった。
「良い香りだ」
店内には薔薇の香りが充満している。
ハヤトは一瞬目を閉じその香りを堪能した。
目を開けるとセーラがちょこちょこと店内を移動している。
「この香水良い! こっちのお香も良いなぁ! ホント欲しい物ばかりで困っちゃうよ」
セーラの目は星のように輝いていた。
彼女の腕にはカゴが掛り幾つかの商品が入っている。
「良い大人が子供みたいにはしゃぐなよ……」
ハヤトが呆れた顔をしていると、もう1人チョコチョコしている人物が目に入った。
「これは良いな! 衣服の消臭に使える。こっちは制汗剤だ!
これも薔薇の香り。何と言う薔薇色の店なんだココは!」
「クラウス、お前もかよ……」
ハヤトは2人に合流し買い物に付き合った。
店を出るとセーラは香水の1つをハヤトにプレゼントする。
それは帽子を買って貰った事に対するお礼の品だった。
「くれるのか? 気持ちは嬉しいが、俺あまりこういうの使わないぞ?」
「大丈夫だって。良い香りがするから使ってごらん?」
セーラに勧められハヤトは手に香水を掛けてみた。彼は手の匂いを嗅いでみる。
「薔薇の香りがする。悪くないな」
ハヤトはセーラに感謝を述べると買い物を続けた。
買い物を済ませた3人はレストランのテラスで食事を取っていた。
食事を済ませた3人は食後のティータイムを取りながら今後の予定を話していた。
「それでハヤト君。これからどこに向かうのかね?」
「ドラクロ王国の首都に行こうと思っている」
「首都と言うと、王都ブクレシティだね。と言う事は王に謁見するつもりかい?」
「その通りだ。俺はある人物の命でドラクロと国交を結ぶ交渉を託されている。
それを成功させれば、エーゲ王からゼストの推薦状を頂けるんだ」
ハヤトは紅茶を飲んだ。
――熱! 少し熱いなコレ。
「ふむ。エーゲとドラクロは、友好国ではないからねぇ……
そのせいか、先の戦争でもエーゲ軍は参加していなかったなぁ」
クラウスは後半の内容を独り言のように語った。彼はカップに手をかける。
「先の戦争?」
「いや、何でもない。それで、交渉を有利に進める秘策はあるのかね?」
「……あまり。俺も、自分が外交官になるなんて思わなかったからな。
そこまで用意出来なかったんだよ」
「なるほど。それは良くないな。外交は行き当たりばったりで行うモノではない。
もし間違いを起こすと、戦争にだって成りかねないんだ」
クラウスは紅茶を飲んだ。
――むっ? この紅茶にも薔薇の香りがするな。
カップを置くとクラウスは話を続けた。
「まぁ、今はドラクロに行ってみないと何も出来ないか。
交渉については、現地に着いてから考えるとしよう」
「分かった。悪いな、色々考えさせちゃって」
「構わんよ! 私の浅知恵が君等の役に立つといいがね」
ハヤトとクラウスが話している最中、セーラはずっと新聞を見ていた。
さすがに気になったハヤトはセーラに話し掛ける。
「セーラさんはさっきから何の記事を見ているんだ?」
「ちょっと、スーリエの記事をね」
「俺等の話聞いてたのか?」
「聞いてたよ。行き当たりばったりなんでしょう?」
「……そうだよ」
ハヤトがゲンナリしているのを他所にセーラは新聞の記事を注視している。
『氷の女王。連邦解散発言で、スーリエ内に動揺広がる』
――カーリン様…… 何で解散なんか……
セーラは悲しい顔をしている。彼女は顔を横に振った。
新聞を畳むとセーラは紅茶を一気飲みする。
「ひぃぃ、熱い!」
その光景を見てハヤトとクラウスは笑った。
翌日。3人はセルディカを出発していた。
総督の計らいでハヤト達は馬車に送ってもらえる事になった。
馬車には御者が付いており3人は客室の中に入っている。
馬車は割と豪華で先頭に馬が2頭繋がれている。
客室は6人乗りで前と後ろに席が分かれている。
ハヤトは後ろの右に、セーラは左に、クラウスは前の席に座っていた。
馬車とはいえ王都ブクレシティに到着するまでは時間が掛る。
ハヤトはすぐに暇になりクラウスに話を持ち掛ける。
「クラウスはどうやってゼストになったんだ?」
「私かい? うーん……」
クラウスは少し考えた後口を開いた。
「まず、推薦を受けたのは第7期アルプス戦役の後だね。
認定数を超えたのはルミノスとスーリエの領土問題を解決した後だ」
「スーリエって、確かセーラの故郷だよな?」
「うん。だから、クラウスの事は皆知っているよ。
両国が揉めていたゴトランドを独立都市にして
バルト海の貿易を自由化したからね。
おかげでスーリエが前より豊かになったんだよ」
「まぁ私は問題解決に尽力した1人に過ぎないよ」
クラウスは照れくさそうに頭に手を当てた。
彼はヨーロッパで知らぬ者はいないという程の有名人なのだ。
「それで、クラウスはどこの国に属しているんだ?」
「ルミノス同盟さ。ハヤト君は同盟をご存じかな?」
「……」
ハヤトは沈黙している。何故なら彼は国については全く知識がないのである。
「ハヤトはね、国についてはプーなんだってぇ」
「酷い事言うなよ!」
「ならばご解説しよう。ルミノス同盟はゲルミア地方を中心とした都市同盟なんだ。
西のパリ共和国や、北のバルト諸国も加盟している」
ゲルミア地方は中央ヨーロッパの北部の地域である。
かつてはドイツとも呼ばれ強大な軍事国家を持っていた。
「ふーん、ゼストは何人いるんだ?」
「7人だ。欧州においてはバルディアに次いで人数が多いねぇ」
ヤマト王国の四天王は全員がゼストである。
そのため、ルミノスの7人という数はヤマトを凌ぐ強さの象徴でもあった。
「7人かぁ…… バルディア並みに恐ろしいな」
「そうでもないよ。私みたいなボンクラがゼストになっている国だからねぇ」
ハヤトは言葉を選んでクラウスに尋ねる。
「クラウスから見て、誰が一番強いと思う?」
「そうだねぇ…… ルッツ君かなぁ。
彼は建築家で、私と同じく欧州を転々としている。
機会があれば会えるかもしれないね」
「そうか、それは楽しみだ」
――建築家でも、ゼストになれんのか。
ハヤトは胸に期待を膨らませ長い道のりを馬車の中で過ごした。




