第2話 偽りの革命家 <7th 水の剣士>
2人の女性が消えた事で剣の間にはハヤトとルタクスしかいない。
足元には革命兵の死骸が転がっている。
臓物がないとはいえ首が転がっている光景は居心地の良いモノではない。
「見た所、君はエーゲ出身者ではないなー。何故、エーゲの軍人に?」
「さぁな。俺に勝ったら教えてやるよ」
ハヤトは剣を鞘に収めルタクスを見つめている。
ルタクスはやれやれという仕草をすると剣を抜いた。
「はぁ…… 君の戦いには美しさがないなー。
戦いというのは相手を殺す事が目的じゃない。
いかに美しく、優雅に振る舞うかが重要なんだ」
ルタクスは剣を掲げた。すると、剣に水が集まり剣を覆いつくす。
「では見せてあげよう。私の芸術を」
ルタクスは身体をハヤトに向けたまま、剣を右の柱へと向けた。
「ブレッシュウォーター!」
剣から放たれた水は蛇のような形を成し、石の柱に拳程の穴を開けた。
ルタクスは勝気な顔でハヤトに顔を向ける。
「どうだい? 素晴らしいだろう?」
――どこらへんが?
ハヤトは呆れていた。彼はもっと大きな技が見られると期待していた。
しかし、予想外にルタクスの技がショボかったのである。
ルタクスの右手首には腕輪が付けられている。ハヤトはそれに目を向けていた。
――ありゃ天装だな。なるほどね、コイツは水の天装使いか。
腕輪は水の天装具でルタクスは天装使い。
彼のように剣を用いる者は『天装剣士』とも呼ばれている。
「アンタ、天装使いか?」
「その通り。良いねー天装は。力の無い者に勇気と知恵を与えてくれる。
素晴らしい芸術品だよ、全く」
「……勇気と知恵だけかよ」
ハヤトはボソっと小さい声で独り言を言った。
ルタクスはつくづぐ人を飽きさせる男のようだ。
――これを見ても動じないとは、大した剣士だ。
ルタクスはハヤトの態度を強者のよゆうだと勘違いする。彼はハヤトに剣を向けた。
「さぁ、私の芸術を避けてみろ!」
ルタクスは剣から水蛇を放った。水蛇は真っ直ぐハヤトへと襲いかかる。
――どーせ、さっきと同じだ。
ハヤトは少し油断していた。彼は水の方向を予測し身体を動かす。
ハヤトは水蛇をかわす事ができた。しかし、後から2つの水蛇が放たれている。
水蛇の1つはハヤトの左太ももをかすった。黒い生地が破れ出血している。
血が流れているというのにハヤトは平然としている。
彼からはどこか余裕が感じられた。
「へぇ、1つ以上出せるんだー」
ハヤトの口調は少しルタクスを馬鹿にしている。
「勿論だ。しかし、よくアレを避ける事が出来たねー」
――まっ、当たってたら面白くないけど。
ルタクスはハヤトが避ける事を予期していた。彼はハヤトの腕を認めている。
それは床に転がっている兵士達を1人で倒したという実力があるからだ。
突然、ハヤトはルタクスに向かって走り出す。
「愚かな。走りながら攻撃を避けられるとでも思っているのか?」
剣から放たれた水蛇はハヤトに襲いかかる。
彼は水蛇の軌道を身体で感じ取り自然に攻撃を避けていく。
その動作を見て、ルタクスは焦った。
――当たらない? この男、実力を隠していたか!
ルタクスはとっさに剣の水に流れを引き起こした。
水は渦を巻き剣の周りを回っている。
走りながらハヤトはルタクスに向けて抜刀した。
――斬り抜け、水流星!
一撃を放つとハヤトはルタクスの左後ろへと駆け抜けた。
ハヤトが放ったのは『斬り抜け』と呼ばれる剣術。
斬り抜けは、移動しながら抜刀術を放つ事を言う。
「浅かったか……」
ハヤトの一撃はルタクスの剣に阻まれた。
一撃はルタクスの左腕に命中している。しかし、致命傷にはならなかった。
ルタクスの剣から水しぶきが舞っている。彼が使ったのは『水刃』と呼ばれる技だ。
水刃は剣の周りに高速で回転する水を付加する強化技である。
水の異能者にとってはポピュラーな技で、壁を軽く破壊できる威力を持っている。
ルタクスは水刃を使う事でハヤトの斬り抜けを防いだのだ。
ルタクスの左腕からは血が流れている。
彼は怪我など気にせず後ろにいるハヤトに剣を振った。
だが、ハヤトは既に移動しておりルタクスの攻撃は空振りに終わる。
ハヤトは先程の位置に戻り様子を伺っている。
「水流星が効かないか……」
攻撃を防がれた事でハヤトは一撃で倒すという考えを改めた。
――水の出力を上げれば、彼は避ける事ができない。
ルタクスはハヤトに身体を向けると再び剣から水蛇を放つ。
「ジェットウォーター!」
水蛇は先程より大きく威力が増している。当たればひとたまりもない。
「馬鹿の1つ覚えかよ」
ハヤトは水蛇の変化に気付き、右の柱へ移動して水蛇を避ける。
水蛇はハヤトを追いかけるように柱の方へと軌道を変えた。
水蛇は甲冑の像を破壊しハヤトへと迫る。
左から水蛇が迫る中ハヤトはルタクスに向かって走り出した。
――反刀、小波!
ハヤトは水蛇の側面に剣を密着させ、水をルタクスの方へと跳ね返した。
ハヤトが放ったのは『反刀』と呼ばれる剣術。
反刀は相手の技を跳ね返す技で、いわばカウンターである。
跳ね返った水を受けてルタクスの剣が折れる。
水はそのままルタクスを襲い彼の腹部に傷を負わせた。
剣を捨てルタクスはその場に座り込んだ。
元々、真っ赤だった上着は血によって黒く淀んでいる。
彼は完全に戦意を失っていた。
「どうした? ご自慢の水鉄砲なんだろう?」
剣を鞘にしまうとハヤトはルタクスの元に寄った。
彼は上からルタクスを見下ろしている。
「たく、何がトラキアの解放だぁ。やっている事はテロリストと変わらねーじゃねーか」
ルタクスは手で腹の傷を抑えている。傷は致命傷で出血が多い。
彼は口から血を流しながらハヤトに返答する。
「私のやっている事はトラキア民の総意だ。テロなんかではない!」
「兵隊を操り、町人・旅人から金を巻き上げる事のどこが総意だ!
寝ボケるんじゃねぇ!」
ハヤトが一喝するとルタクスはすくんだ。
ハヤトに顔を合わせるとルタクスは再び威勢を放つ。
「だっ、黙れ! お前のような流れ者に、私の計画が邪魔されてなるか!」
ルタクスは折れた剣を杖代わりにして立ち上がる。彼は剣に水を宿し始めた。
「私の大義を理解しないとは、この無能者が!」
ハヤトは腕を組んだままルタクスを睨みつけた。
「万人の意見も聞かないで何が大義だ! 自分が正義だと思ってんじゃねーぞ!」
ハヤトは抜刀した。ルタクスの手からは剣が落ちる。
ルタクスは何が起きたか分からないまま床に倒れた。
ハヤトが放った抜刀術は技ではない。ただ、剣を抜いただけの動作だった。
剣はルタクスの胴を横に斬り裂いた。
ルタクスは沈黙している。口からは依然血を流し目は柱の方を向いている。
彼はまもなく絶命した。
侍は剣を鞘にしまい指導者だった男に目を向ける。
「努力もしないで強くなった奴に、俺が負けるかよ」
捨て台詞を吐くとハヤトは中央のテーブルに座りこんだ。
「これで終わりか…… 呆気なかったなぁ」
ハヤトはカクンと首を下げ大きく息を吐いた。顔を上げると入口にクラウスがいる。
「おっ! 無事なようだね」
クラウスはハヤトに近付きながら足元に転がっている兵士達に目を向ける。
――凄い惨状だ…… 見た所、兵士に余計な傷は無い。
首や心臓など、急所ばかりが斬られている。
抜かりないなぁ、まるで暗殺者のような戦い方だ。
クラウスは死骸を見ながら頷いている。ハヤトはクラウスに尋ねた。
「そっちは片付いたのか?」
「うむ。殺めてしまったが致し方のない事だ。君の方は?」
「片付いたよ。そこの緑髪がルタクスだ」
ハヤトは顎でルタクスを示した。それを見てクラウスが納得する。
「おー! 1人で倒すとは、さすがハヤト君。私の目に、狂いは無かったね、うんうん。
あれっ? そういえばセーラ君は?」
――あっ、すっかり忘れていた。
ハヤトは戦いが終わり拍子抜けしている。そのため、セーラの事を忘れていた。
「やべっ、アイツ今頃どうなっているんだろう」
「何かマズイのかね?」
「ああ。セーラが追いかけに行った異能者が兵士を操っているんだ。
もしかしたら、やられているかもしれない……」
「本当かね! ならば急ぎ、セーラ君の元に向かわねば!」
ハヤトとクラウスは剣の間を後にし急ぎ足でセーラの元へ向かう。
一方、セーラは通路を走り回っていた。彼女は走るのに疲れ足を止める。
「もう、何ここ…… 迷路みたいで全然さっきの場所に戻れない」
セーラは方向音痴。だが、それは建物の中でも有効であった。
当初の予定では、セルディカの話を強盗団討伐の回にするはずでした。
しかし、セーラやクラウスの戦闘描写が欲しかったので
わざわざ革命軍を作り、長い話となってしまいました。




