第2話 偽りの革命家 <6th 青い狼>
総督府の中。広い通路を2人の女性が走っている。
リーシャは水晶を大事そうに掲げ前方を走っている。
セーラはその後ろを走りリーシャを追っている
――あの女。何で私を追いかけてくる?
リーシャは自分が追いかけられている理由を知らない。
――あの子を止めれば、街の兵士が正気に戻る。絶対逃がしちゃダメだ。
セーラの目的は街の兵士に掛けられている暗示を解く事。
そのため、元凶であるリーシャを追っているのだ。
セーラの足は速く既に棒が届く範囲になっていた。
リーシャは逃げられないと判断し、近くの部屋に逃げ込む。
セーラも彼女に続いて部屋に入った。
2人が入ったのは資料室。部屋は若干広く左右の壁に本棚が置かれてある。
奥に窓が設けられているが陽の光が弱いため部屋は少し暗い。
リーシャは窓際に身体を寄せていた。
彼女は走った疲れとセーラに狙われている恐怖感でイライラしていた。
窓に追い詰められリーシャは入口の方へと身体を向ける。
「私に何の用だ!」
セーラは棒の底をドンと強く地面に叩きつけた。
「皆を解放しなさい! 貴方が街の兵士を操っているのは解っているんだから!」
セーラの顔は強張っている。普段の彼女からは想像もできない顔だ。
リーシャは顔を下げ鼻笑をする。顔を上げると、ずる賢い表情をしていた。
「イヤよ。せっかく手に入れた手駒、簡単に無くすもんですか」
――やっぱ説得なんか効かないか。あの水晶さえ壊す事で出来れば……
水晶を壊せばリーシャの技は解ける。
セーラは棒を構え水晶に狙いを定めた。すると突然、セーラの身体が重くなる。
先程と同じで身体の自由が効かない。彼女は地面に跪いた。
「2人は無理でも、アンタだけなら操れる」
あろう事か、セーラは再びリーシャの技に掛ってしまった。
リーシャは笑みを浮かべたままセーラに近寄る。
「ふーん、見た所相当の手練れのようね」
黒い服の女性はセーラの身体を舐め回すように見ている。
セーラは顔を引きつらせ女性を睨んでいる。
――コイツ、どれくらいあるんだろう。
何を思ったのか、リーシャは突然セーラの胸を触り始めた。
「ひゃっ! いきなり何するのさ!」
セーラは顔を赤くし激しく動揺している。
無理もない、見知らぬ女性に胸を触られるなど誰も考え付かない事だ。
胸から手を離すとリーシャは沈黙した。
「……大きい」
無表情のままリーシャは後ろに下がった。
リーシャは嫉妬した。
セーラの胸が大きいのに対し彼女の胸は小さい。
リーシャの表情は怒りの形相へと変貌した。
「どうやったらそんな大きくなるのよ! このメス牛!」
ムカッ、セーラの頭に血が昇っていく。
「いきなり人の胸触っておいてメス牛って何さ! 私は牛じゃありません!」
セーラは目を真っ白にして怒っている。メス牛と呼ばれたのが効いたのだろう。
そんな豊満な身体をしている彼女を見て、リーシャは悪巧みを始める。
――そうだ、良い事思いついた。
リーシャは急に冷静になり水晶を撫で始めた。
水晶は紫の光以外に赤の光も放っている。それを見てセーラが不安になる。
「何する気?」
リーシャは何も答えず笑っている。
すると、部屋の入り口から足音が聞こえてきた。
――人?
突然、セーラの後ろに2人の男が現れた。彼等はエーゲの軍服を着ている。
感情が無い所を見ると彼等もリーシャに操られている。
男達はセーラの両脇に移動した。
「私の下僕よ。どうせだから、彼等に遊んでもらうといいわ」
リーシャが水晶を撫でると男達はそれに反応して身体を動かす。
男達はセーラのコートに手を掛け、コートを脱がし始めた。
――やめて! もう何で動かないのよ!
セーラは動揺していた。どう足掻いても身体は動かない。
これから自分が何をされるのかと思うと涙が出そうになった。
男達はコートに付いているボタンを外し、中の赤い上着にも手をかける。
「何もできず、ただ凌辱される光景を見るって面白いものね」
凌辱という言葉を聞いて、セーラの脳裏に昔の光景が蘇った。
暗い部屋。部屋には何も置かれておらず薄布の女性達がいる。
女性達は薄汚れやつれている。目は虚ろで顔には正気が感じられない。
皆身体をすくめていた。
入口には1人の狼がいた。女性達は狼に対し全く反応を示さない。
目の前の光景を見て狼は怒りに震え、槍を持つ右手を強めた。
唇を強く噛んでいるせいで狼の口からは血が流れている。
――何をやっているんだ私は!
セーラは唇を強く噛んだ。
彼女は立ち上がると顔を下に向けたまま両脇の男を棒でなぎ倒した。
男達は左右の本棚にぶつかり、そのまま気を失う。
リーシャは動揺している。無理もない、自分の技が破られたのだから。
「何故動ける!?」
「それなりに経験しているからね」
セーラの口からは血が流れている。それは唇を噛んだ時に出たものだ。
彼女は唇を噛む事で身体の自由を取り戻したのである。
「凌辱ってさ、そんなに面白い事なのかな」
セーラの顔は冷酷なモノとなっていた。
強張っている顔と違い、無表情で恐ろしい目をしている。
まるでゴミを見るような目だ。
――なんだコイツ。すごく怖い……
セーラの雰囲気を感じるとリーシャは震えが止まらなくなった。
恐怖で言葉が出ない。出来れば手に持っている水晶を手離したい気分だ。
「ねぇ、答えてよ」
青い狼はリーシャに近寄る。
リーシャは足を後ろに下げ、やがて床に座り込んだ。
上から狼が睨んでいる。リーシャは恐怖で一杯だった。
――やばい…… このままじゃ殺される!
リーシャは狼を見つめている。
口は半開きで目からは涙が流れている。
だが、水晶だけは両手でちゃんと持っていた。
「今、貴方がやろうとした事は死んでも許されない事なんだよ。
分かりました?」
口を開きながら呆然とリーシャは頷いた。
「よし。それならまず、謝ろうか」
セーラは普通の顔に戻った。しかし、リーシャは依然恐怖したままだ。
リーシャは声が出なかった。
出そうと思えば出せたが、まともに言葉を話せないと思ったのである。
セーラは膝を抱えて座り込むとリーシャの顔を見つめた。
「ごめんなさいは?」
雰囲気が戻ったとはいえセーラの言葉には重圧のようなモノを感じる。
――もうイヤだ。
リーシャは恐怖で頭がおかしくなりそうだった。謝ろうにも口は正常に動かない。
――私が喋るまで、コイツは話し掛けてくる。
セーラの気迫に屈しリーシャは仕方なく謝る事にした。
「ごめんなじゃい……」
言葉を発した後リーシャは鼻水を流した。案の定、言葉は正常ではなかった。
「よし、良い子」
口元をニヤっとさせるとセーラは立ち上がった。
彼女は両手で棒を持つと、それをリーシャの頭上に出す。
――何で? 謝ったでしょ!
リーシャは訳が分からないまま、ただセーラを見ている。
セーラは「フンッ」と意気込むと、棒を下に振り降ろした。
ガシャーン、セーラの棒は水晶に当たった。水晶は真っ二つに割れ床に転がる。
リーシャは気絶していた。
彼女は殺されるという恐怖と水晶が壊れたショックで意識が飛んでしまったのだ。
「ありゃ、気失っているよ」
セーラは恍けた顔をしている。彼女は水晶の破壊を確認し頷いた。
「これで皆元通りになるはず。早くハヤトの所に戻らなくちゃ」
セーラはコートのボタンを開けたまま部屋を飛び出した。
昔の狼は槍を持っていたのに、何で今は棒を持っているんでしょうかねー




