同好会始動
「……」
昼休み、校舎三階廊下側の窓から顔を出して、
「……はぁ」
ため息をついた。
蛍奈が部長をする部活、いや、まだ同好会か。その同好会で、何故か私は副部長にさせられてしまったからだ。
名前を貸す程度に考えていたら、副部長。誰が予測出来ただろうか。
……いや、蛍奈ならばそれも考えの中にあると考えて行動するべきだった。
「何故なら……アイツはマッドサイエンティストだから……か」
蛍奈なら絶対こう言っただろう。
でも今さら断れないし、誰か言える相手もいないし……
「あ、あの……センパイ?」
「?」
誰かに呼ばれた気がした。窓から顔を戻すと、一人の生徒が私のことを見ていた。
髪をおさげにして、黒ぶちの眼鏡をかけている、女の子。
「何か……あったんですか? ため息、ついてたみたいですけど?」
「あぁ、大丈夫よ、鏡香ちゃん」
心配かけまいと、笑って応えた。
桐沢鏡香ちゃん。私を先輩と呼んだことから分かるように、一年生で、私の後輩だ。
同じ委員会で出会ってから、妙に好かれている。
「そ、そうですか……」
「えぇ、心配かけてゴメンね」
安心させるように、鏡香ちゃんの頭をぽんぽんと撫でる。
「ふわっ、……セ、センパイ?」
「それじゃあね」
手をひらひらと振って、私はその場を離れた。
「センパイ……」
放課後になり、いやいやながらも私は部室へと向かった。
発明同好会。その名前から内容は想像出来ないだろうが、まさか内容が依頼を解決しているというものだと誰が想像できるだろう。
「……はぁ」
やっぱり、帰ろうかしら。呼ばれた時だけ行けば何も言われないだろうし、実際依頼が来てなければ活動内容が無いわけだ。それはつまりただ話してるだけになって、蛍奈の言葉を聞き続けることになるわけで……
「……はぁ」
「竹鳥? お前何してんだ?」
「!?」
急に声を掛けられたのに驚いて振り向けば、そこには佳子が立っていた。
「扉の前で立ち止まっちゃ邪魔だろ」
「大丈夫よ、どうせ私達しか入らないんだし」
「あ、そりゃそうか」
仕方なく、私は扉を開けて部屋の中へ。
「おーす」
私は無言で入っていった。
「来たわね、二人とも」
蛍奈はいつもの席で座って何かを見ていた。
「なんだそれ?」
「まずは二人とも座りなさい。それから話すわ」
私達はいつもの席に付くと、蛍奈は見ていた一枚の紙を机の真ん中に見えるように置いた。
「まず伝えることは、本日、発明同好会になってから初めての依頼が来たわ」
私はその紙を取って中を見る。
「……勝負してくれ?」
「勝負?」
紙にはそれと、差出人のクラスと名前が書かれているだけ。とりあえず、依頼を受けると聞いて出してみた、という感じの内容だ。
「あのさ、コレ」
「えぇ、色々と間違えてるわね」
紙を返すと、蛍奈は内容がこちらに見えるように向けてから語りだす。
「まず、ここは人の悩みを解決するところで、勝負を受けるような場所ではないわ。まぁ内容によっては、いい勝負が出来るでしょうけど」
自慢っぽいが、確かだ。運動神経の良い佳子と、頭の良い蛍奈がいる。専門的知識の不要なものなら、そう簡単には負けないだろう。
「次に、その勝負の内容を書いてないのは、おかしいじゃない?」
「あ、ホントだ。これ出した奴何考えてるんだ?」
「もしかしたら、こちらが承諾してから教えるつもりかしらね。こちらが不利になりそうだから」
不利と分かっていて受けはしない。そういう事か。けど、
「……違うと思うわ」
私はそうじゃないと思った。
「どういう意味? 取説?」
「その差出人。私達のクラスよ」
「あら、そうなの? いたかしらこんな名前」
「アンタが覚えてないだけよ。どうせ周りのクラスメイトに興味は無いんでしょ?」
「えぇ、分かってるじゃない」
蛍奈はニヤリと笑った。まったくコイツは……
「それで? どうしてワタシ達のクラスだと違うと言えるの?」
「……ソイツ、いわゆる佳子みたいな奴なの」
「は? アタシ?」
「なるほどね。理解したわ」
納得した蛍奈の横で、佳子は理解できていないように首をかしげる。
「どういうことだよ竹鳥、アタシみたいな奴って」
「ここぞって時に、重大なことを忘れるのよ」
「あー、なるほど……って、おぉい!」
ガタン! 佳子が机を叩いて立ちあがる。
「どういう意味だよそれ!?」
「そのままの意味よ。覚えてないとは言わせないわ、私と勝負した時を」
バスケ部の佳子は、私との勝負を必ず勝てるであろうバスケではなく、野球で挑んできて、負けた。何故野球かと言えば、まぁ勝負の理由を作ったからではあるけど。
「ぐぬぬ……」
「つまり純粋に勝負内容を書き忘れているだけ、と言いたいのね?」
「考えられるわ。それは明日にでも本人に直接訊いてみればいいわよ」
「そうね。ただ、ワタシはこの人の顔と名前が一致しないのだけど」
……コイツは……
「はぁ……私が声かけるわ。隣にいて覚えなさい」
「えぇ、そうさせてもらうわ」