7話 マジもんのプリンセスじゃん!
最近、
少しだけ。
この世界が“マジサゲ”なだけじゃなくなってきていた。
「レティシア様〜! ラメ追加で届きました〜!」
「待って、それ絶対アゲじゃん!」
屋敷の空気も変わった。
前は静かで、
張り詰めてて、
誰も笑わなかったのに。
今では使用人たちが、
普通に“盛り”について会話している。
(……慣れって怖)
りなは紅茶を飲みながら思う。
そんな時だった。
「レティシア様」
メイド長が部屋へ入ってくる。
その表情は、
いつもよりさらに真面目だった。
「本日は王城での社交会となります」
「うへぇ……」
「さらに今回は――」
メイド長が一度息を吸う。
「王女殿下もご出席されます」
「……王女?」
「はい。この国で唯一の姫君でございます」
りなは数秒固まった後、
目を輝かせた。
「え、マジもんのプリンセスじゃん!」
「ま、まじ……?」
メイド長がいつもの顔になる。
“また知らない言葉だ”という顔だ。
◇◇◇
王城。
豪華なシャンデリア。
大量の貴族。
静かな音楽。
そして。
(……空気重っ)
りなはげんなりした。
誰もが笑顔を貼り付けている。
でも本当に楽しそうな人は、
ほとんどいない。
(やっぱこの社交界、下げなんだよな〜)
そんなことを考えていると。
会場がざわついた。
「王女殿下のおなりです」
一斉に頭を下げる貴族たち。
りなもなんとなく視線を向けて――
「……え」
思わず声が漏れた。
綺麗だった。
透き通るような銀髪。
宝石みたいな青い瞳。
小柄で可愛らしい雰囲気。
まるで絵本から出てきたみたいな、
本物のお姫様。
(いや待って)
りなの脳内で、
別の感情が爆発する。
(素材、強すぎん???)
絶対盛ったらヤバい。
そう確信した。
王女――フィリアは、
周囲の貴族たちに囲まれながら、
困ったように笑っている。
「本日もお美しいです、王女殿下」
「そのドレス、とてもお似合いで……」
だが全員、
距離が遠い。
まるで“王女”という存在を扱っているみたいだった。
そんな中。
フィリアと、
りなの目が合った。
「……!」
王女が少し驚いた顔をする。
理由は簡単だった。
りなの格好が、
この社交界で明らかに浮いていたからだ。
キラキラしたネイル。
少し盛った目元。
そして堂々とした態度。
完全に異物。
だが。
フィリアは、
なぜか目を逸らさなかった。
むしろ。
じっと見ていた。
「……?」
りなが首を傾げる。
すると。
王女が小さな声で言った。
「あ、あの……」
「ん?」
「その爪……すごく可愛いです」
周囲が凍った。
だがりなは笑う。
「っしょ?」
そして。
王女フィリアは、
生まれて初めて。
“友達になれそうな相手”を見つけた。




