6話 思い出残す?そんならプリっしょ!
「……ねえ」
りなはふと首を傾げた。
「はい?」
エミリアが紅茶を置きながら答える。
「この世界って、写真なくね?」
「しゃしん……?」
「思い出残すやつ」
エミリアは困った顔をした。
「ええと……肖像画ならございますが」
「いやもっと気軽なやつ!」
りなは身を乗り出す。
「友達と撮ったり〜、変顔したり〜、ラクガキしたり〜」
「らく……?」
「え、しないの?」
「そのような文化は……」
りなは絶句した。
(マジで人生損してるじゃん……)
思い出。
青春。
友達。
その瞬間を残す文化がない。
これは由々しき事態だった。
「……よし」
その瞬間。
――ブワッ。
「来ましたね……」
エミリアが悟った顔になる。
黄金の光。
神々しい紋様。
最近では使用人たちも、
「また新しい“盛り”だな」
くらいの認識になってきていた。
『創造神スキル起動』
『“思い出を盛りたい”という欲求を確認』
「もうなんでも盛るじゃん」
『新規創造候補を解放』
『プリクラ機』
『落書き機能』
『小顔補正』
「小顔補正まであるの!?」
空間が歪む。
現れたのは、
巨大な箱型の機械。
ピカピカ光る画面。
カーテン。
意味不明な派手さ。
「……完成。プリ機」
「ぷり……き?」
「思い出盛る機械」
「思い出を……盛る……?」
エミリアの理解が追いついていない。
だがりなは気にしない。
「とりま入って」
「は、はい!?」
半ば押し込まれるように、
エミリアがプリ機へ入る。
「え、もっと寄って」
「こ、こうですか……?」
「硬っ!」
りなは笑った。
「もっと笑ってよ〜」
「わ、笑う……?」
「はい、ピース」
「ぴーす……?」
パシャッ!!
「きゃっ!?」
強烈な光。
数秒後。
ウィィン……と音を立て、
紙が出てくる。
「おお〜!」
りなはテンションを上げる。
「見て見て!」
そこには、
りなとエミリアの姿。
しかも。
「えっ……」
エミリアが固まった。
「私……こんな風に笑って……」
楽しそうだった。
本当に。
今この瞬間が、
そのまま残っている。
「……すごい」
「っしょ?」
さらにりなはペンを取り出す。
「ここにラクガキするんよ」
「らくがき……」
「はい、“マジアゲ〜”っと」
写真にハートや文字を書き込んでいく。
エミリアは、
まるで宝物を見るみたいに写真を見つめていた。
◇◇◇
その日の夜。
屋敷の一角で、
妙な行列ができていた。
「つ、次……私です……!」
「もっと右から撮った方が盛れるらしいわ!」
「“小顔補正”とは何なのです!?」
完全にプリ機待機列だった。
◇◇◇
さらに翌日。
「レティシア」
珍しく、
公爵が自らりなの部屋を訪れた。
「お父様?」
「……その、“ぷり”とやらは」
「うん」
「家族でも……撮れるのか」
りなは数秒固まった後、
ニヤァ……と笑った。
「え、お父様プリ撮りたいの?」
「違う」
「絶対撮りたいじゃん」
「違う」
背後では、
執事長ベルモンドが静かに視線を逸らしていた。
数分後。
「近っ、お父様顔硬っ!」
「これでいいだろう!」
「ベルモンドさんももっと寄って!」
「……失礼します」
パシャ。
写真が出てくる。
そこには、
少しだけ困った顔をした公爵と、
無表情な執事長、
そして満面の笑みのりなが写っていた。
「……」
公爵は無言で写真を見る。
そして。
本当に少しだけ。
口元を緩めた。
「……悪くない」
「お父様、今笑った?」
「笑っていない」
「いや絶対笑ったし」
その日の夜。
公爵家では密かに、
『旦那様が“ぷり”を机の引き出しに保管している』
という噂が広まり始めていた。




