5話 その爪、地味じゃね?
「……ねえ」
りなは、ふとエミリアの手を見た。
「はい?」
「その爪さ」
エミリアは自分の手を見る。
綺麗に整えられている。
傷一つない。
公爵家のメイドとして、
常に清潔を意識している証拠だ。
だが。
「地味すぎない?」
「……えっ」
エミリアが固まった。
「え、でも爪ですよ……?」
「いやだから」
りなは真顔で言う。
「爪こそ盛るんじゃん」
「つ、爪を……盛る……?」
また理解不能な言葉が飛び出した。
だが、りなは止まらない。
「手元って結構見られるし」
「そ、そうなのですか……?」
「あと可愛い爪見るだけでマジアゲ」
「まじあげ……」
エミリアが遠い目をする。
最近ようやく、
“マジアゲ”は褒め言葉らしいと理解してきた。
「……よし」
その瞬間。
――ブワッ。
「来ましたね……」
エミリアが悟った顔になる。
黄金の光。
神々しい紋様。
最近では使用人たちも、
「また新しい“盛り”だ」
くらいの反応になっていた。
『創造神スキル起動』
『“指先も盛りたい”という欲求を確認』
「ほんと欲求で動くなこのスキル」
『新規創造候補を解放』
『ネイル』
『ラメ』
『ネイルパーツ』
「ラメ来た!!」
空中に現れる小瓶。
鮮やかな色。
キラキラ輝く粉。
小さな宝石。
完全にネイルセットだった。
「……異世界に早すぎる」
「レ、レティシア様。それは一体……」
「ネイル」
「ねいる……」
「爪を盛る文化」
「文化なんですね……」
りなはエミリアの手を掴む。
「貸して」
「は、はいっ」
細く白い指。
これは盛りがいがある。
「エミリアは〜……ピンク系かな」
「ぴんく……?」
「優しい顔してるし」
りなは筆を動かす。
塗る。
重ねる。
ラメを乗せる。
そして――
「よし、完成」
エミリアは恐る恐る指先を見る。
「…………っ」
固まった。
爪が、
きらきら光っていた。
ただ色がついただけじゃない。
指先を見るたび、
少しだけ気分が上がる。
なんだか、
自分が少し素敵になった気がする。
「か、可愛い……」
「っしょ?」
りながニヤリと笑う。
「これが“指先まで盛る”ってこと」
エミリアは、
何度も自分の爪を見つめた。
嬉しそうに。
大切そうに。
まるで宝物を見るみたいに。
◇◇◇
その日の午後。
「……見た?」
「ええ……」
「エミリアの指先……」
使用人たちが、
ひそひそと話し始める。
「“ねいる”って言うらしいわ」
「なにそれ……可愛い……」
少しずつ。
本当に少しずつ。
“盛る”という文化は、
屋敷に侵食していた。
◇◇◇
――翌朝。
「レティシア様!!」
バン!! と扉が開いた。
「うるさっ」
飛び込んできたメイド長は、
完全に疲れ切った顔をしていた。
「使用人たちが、“仕事中でも許される範囲のネイル”について議論しています!!」
「もうルール作り始めたの!?」
「さらに、“ラメは二つまで”という派閥と、“もっと盛るべき”という派閥で対立が……!」
「なんで戦争起きてんの!?」
りなは頭を抱えた。
この世界、
“盛り”への適応が早すぎる。




