22話 盛ればいいってもんじゃねぇ!
「……なんか王都、うるさくね?」
馬車の窓から外を見た瞬間。
「キャーーーー!!」
「それ盛れてるぅぅぅ!!」
「デカ盛りヘアこそ正義!!」
「…………」
レティシアは静かに固まった。
街を歩く女性達。
異常な高さまで盛られた髪。
顔面を埋め尽くすラメ。
腕には大量のブレスレット。
鞄にはジャラジャラした大量のキーホルダー。
もはや歩く装飾棚。
「……え、なにこれ」
隣でエミリアが遠い目をする。
「レティシア様の文化が進化した結果かと」
「いや退化してない!?」
◇ ◇ ◇
王都は今、
空前の“盛りブーム”だった。
レティシア・アルヴェイン。
公爵令嬢にして、
流行の発信源。
彼女が生み出した、
* つけま
* 香水
* メイク
* メンズ美容
それらは貴族社会を超え、
ついに王都全体へ広がっていた。
……のだが。
「レティシア様! 見てくださいませ!」
女性が誇らしげに振り向く。
頭には。
異常な高さまで盛られた髪。
「……でっか」
縦に長い。
もはや建築物。
「今、王都で大流行中の“デカ盛りヘア”ですわ!」
「いや倒れそうじゃん」
「高さこそ正義!」
「違う違う違う」
◇ ◇ ◇
「こちらもどうぞ!」
別の女性が現れる。
顔がキラッキラだった。
「まぶしっ」
「ラメを全体に塗りましたの!」
「全体!?」
「光れば光るほど“映え”ると聞きまして!」
「誰だそんなこと言ったやつ!」
すると。
「レティシア様ぁー!」
今度は男性達が集まってきた。
「俺達も盛ってますぜ!」
ジャラジャラ。
大量のチェーン。
ワックスでガチガチに固められた髪。
謎に開いた胸元。
「……チャラっ」
しかも全員、
妙にポーズ決めてる。
「最近は“チャラ盛り”が最先端で!」
「いや誰が教えたの!?」
「女性にモテると聞きまして!」
「間違ってはないけど違う!」
その時だった。
「ウェ〜イ!!」
謎に横移動しながら現れた男を見て、
レティシアは固まった。
「……誰?」
「レオン・エルドラドだ」
「王子ぃぃぃ!?」
第一王子だった。
髪は異様に盛られ、
胸元は開き、
無駄にキラキラしている。
あとポーズが腹立つ。
「何してんの!?」
「今、王都で流行っていると聞いた」
「なんで試したの!?」
「民を知るのも王族の務めだ」
「その顔でウェーイすんな!!」
エミリアが吹き出した。
「似合ってるのが余計腹立ちますね」
「それな!」
◇ ◇ ◇
「いい加減にしろーーーっ!!」
レティシアの怒声が王都へ響いた。
全員ビクッと震える。
「“盛る”ってのは!」
ビシィッ!!
レティシアがデカ盛りヘアを指差す。
「高くすればいいワケじゃない!」
「は、はい……!」
「ラメ塗ればいいワケでもない!」
「うぅ……!」
「キーホルダー百個もいらん!!」
「減らせないんですか!?」
「重いだろ絶対!!」
女性達がしゅんとなる。
レティシアは今度は男性陣を睨んだ。
「あと男子!!」
「うぇーい!」
「ウェーイじゃねぇ!!」
レティシアがキレた。
「なんで全員チャラくなってんの!?」
「モテると聞いて……」
「“清潔感”を学ばせたんだよウチは!!」
「せ、清潔感……?」
「なんで胸元開け始めた!?」
男性達がざわつく。
「あと香水十種類混ぜんな!!」
「強い方が効くかと……!」
「くっっっさいのよ!!」
エミリアが静かに鼻を押さえた。
「ちょっと涙出てきました」
◇ ◇ ◇
「……つまり」
フィリア様が首を傾げる。
「“バランス”ですの?」
「せやね」
「おお……」
王都民達が感心したような声を漏らす。
「あと“引き算”も大事!」
「引き算……!」
「盛りすぎると怖くなるから!」
その瞬間。
フィリア様がスッと目を逸らした。
「…………」
「いやフィリア様のことじゃないからね?」
「昨日のこと思い出しましたわ……」
エミリアが吹き出す。
「騎士様、完全に引いてましたもんね」
「やめてぇぇぇ!!」
◇ ◇ ◇
「つまり!」
レティシアは胸を張る。
「本物のオシャレってのは!」
一歩前へ出る。
「“自分をもっと好きになるため”にやるモンなの!」
王都が静まり返った。
「誰かに勝つためじゃない」
「無理して派手にするためでもない」
「自分が“かわいい!”って思えるのが一番!」
その瞬間だった。
「「「おおおおお……!!」」」
王都民達が感動したようにざわめく。
エミリアが小さく笑った。
「なんだかんだ、ちゃんと考えてたんですね」
「当たり前じゃん」
レティシアはニヤッと笑う。
「ギャル、ナメんなって」




