20話 恋のキューピットなら任せろっしょ!
「――む、無理ですわぁぁぁ!!」
今日もアルヴェイン公爵家に、
フィリア様の悲鳴が響いた。
「声でっか」
私は紅茶を飲みながらため息をつく。
最近、
フィリア・エルドラド王女が普通に公爵家へ入り浸っていた。
最初こそ、
『王女様が!?』
と屋敷中が大騒ぎだったのだが。
今では。
「あ、フィリア様いらっしゃってたんですね」
「本日もお泊まりでしょうか?」
使用人達も完全に慣れている。
いや順応早くない?
◇ ◇ ◇
「話しかけるだけで心臓が爆発しそうですわ……!」
フィリア様が顔を真っ赤にして震える。
「いや昨日ちゃんと喋れてたやん」
「れ、レティシア様がいたからです!」
後ろでエミリアがため息をつく。
「完全に恋する乙女ですね」
「〜〜〜っ!!」
フィリア様が顔を覆った。
うん。
めちゃくちゃ分かりやすい。
◇ ◇ ◇
昨日。
騎士様と少し話せただけで、
フィリア様は一晩眠れなかったらしい。
「青春かよ」
「笑い事ではありませんわ……!」
「で?」
私はニヤニヤしながら身を乗り出す。
「もっと仲良くなりたい?」
「っ……!」
フィリア様の顔がさらに赤くなる。
「な、なりたい……ですわ……」
声ちっさ。
かわい。
「よし」
私は立ち上がった。
「恋のキューピットなら任せろっしょ!」
「きゅーぴっと……?」
「恋を応援する人って意味!」
「お、おお……!」
フィリア様が少し目を輝かせる。
私はニヤッと笑った。
「恋に必要なのは、“視線を奪う力”!」
「視線を……奪う……」
「つまり盛る」
「急に怖いですわ!?」
「大丈夫大丈夫」
私は手を突き出した。
「作るか」
「え?」
「恋愛用最終兵器」
その瞬間。
――ブワッ。
「また始まった……」
エミリアが遠い目をする。
黄金の光。
空中へ浮かび上がる神々しい紋様。
部屋全体が震え始めた。
「きゃっ!?」
フィリア様が目を見開く。
『創造神スキル起動』
『所有者:星宮りな』
『“好きな人にかわいく見られたい”という強い意志を確認』
「えっ」
フィリア様が固まる。
『新規創造候補を解放』
『グロス』
『チーク』
『アイシャドウ』
『ラメ』
「恋愛特化だぁ……」
思わずちょっと引いた。
『メイク道具一式を創造します』
次の瞬間。
光が一気に収束する。
キラキラした粒子が集まり、
私の目の前へ“何か”が形成されていく。
小さな瓶。
細い筆。
キラキラした箱。
そして――
「……メイク道具じゃん」
机の上へ、
見たこともない道具達が並んでいた。
「こ、これが創造神の力……」
フィリア様が呆然と呟く。
私はドヤ顔で笑った。
「恋愛用最終兵器ね」
◇ ◇ ◇
「いい? フィリア様」
私はグロスを手に取る。
「恋ってのは“見惚れさせたモン勝ち”なの」
「み、見惚れ……」
「つまり盛れ」
「やっぱり雑ですわ!?」
「大丈夫だって。ウチがやるから」
私はフィリア様へメイクを始めた。
薄くチーク。
自然なラメ。
目元に少しだけ煌めき。
盛る。
でも盛りすぎない。
「……うん」
私は満足げに頷いた。
「はい完成」
フィリア様が恐る恐る鏡を見る。
そして固まった。
「……え?」
頬がほんのり色づき、
唇には自然な艶。
元々の上品さを残したまま、
圧倒的にかわいくなっていた。
「わ、私ではないみたいですわ……!」
「いや元がいいんよ」
すると。
「フィリア様」
声。
例の騎士だった。
フィリア様の身体がビクッと跳ねる。
騎士は一瞬、
言葉を失ったように目を見開いた。
「……っ」
お。
見惚れてる見惚れてる。
「その……本日は、いつも以上にお綺麗です」
「〜〜〜っ!!」
フィリア様、限界化。
顔真っ赤にしてしゃがみ込んだ。
私はガッツポーズ。
「っしゃ!!」
「レティシア様うるさいです」
◇ ◇ ◇
翌日。
「――レティシア様ぁぁぁぁぁっ!!」
またフィリア様が公爵家へ飛び込んできた。
「いや来るの早っ」
私は紅茶を吹きそうになる。
そしてフィリア様の顔を見て固まった。
「誰!?」
ラメ盛りすぎ。
チーク濃すぎ。
涙袋バキバキ。
唇テカテカ。
昨日の儚げ美少女どこいった。
「れ、レティシア様を参考に自分でやってみましたの……!」
「なんでそうなった!?」
エミリアが真顔で呟く。
「強いですね」
「強いとかじゃないって!」
フィリア様は涙目だった。
「だ、だってレティシア様みたいに盛れば……!」
「いや“盛ればいい”じゃないの!」
私は立ち上がる。
「大事なのは“似合う盛り”!」
「に、似合う……」
「あと引き算!」
「引き算……!?」
フィリア様が完全に混乱していた。
そこへ。
「フィリア様、おはよ――」
例の騎士が現れる。
そして止まった。
「…………」
空気が凍る。
フィリア様が期待の目を向ける。
騎士、後ずさる。
「えっ」
「ほ、本日は……」
騎士がめちゃくちゃ困っていた。
「すごく……その……」
「はい……!」
「眩しいです」
「眩しい!?」
「あとちょっと怖いです」
「怖いぃぃぃぃ!!」
フィリア様が崩れ落ちた。
私は腹抱えて笑う。
「だから言ったじゃん! 盛ればいいってモンじゃないって!」
「レティシア様は完璧でしたのにぃぃぃ!!」
「それはウチがギャルだから!」
エミリアが静かに頷く。
「結局、レティシア様しか勝たんということですね」
「せやね」
「認めたくありませんわぁぁぁ!!」
アルヴェイン公爵家に、
今日も悲鳴が響いていた。




